テンパ城強襲作戦開始。第一オーマスーツ・ギガバーニアン
魔女の新聞紙の絨毯で飛ぶ俺はテンパの都市ゴールドキングダムの近隣街を破壊している。
まずはテンパの居城・ゴールドキャッスルを守るレーダーの役目がある魔力の結界を解く。それには近隣の街から発する六角形の陣形からなる結界の一つ、一つを破壊しないとならない。そうしないとレーダーで探知されてステルス潜入をするのもキツクなるしな。都市にはレーダー無効のミストジャマーは存在しないし。
そして、六角形の魔力結界を展開させていたポイントを破壊し、ゴールドキングダムが遠くに見える丘にある洞窟に身を隠し相手の出方を待つ。
もうすぐ時間は深夜零時――。
これは命を守るか、誇りを守るかの戦いじゃない。
自分の大義を貫く戦いだ。
そしてそれを貫けなかった者達へのレクイエムでもある。
「訳も分からぬまま殺されたムーンライト村の村人の復讐は果たす。俺のマジックウェポンでな」
俺は自分の装備を確認しつつ、ハンドガンをクルクルと指に引っ掛けて回す。
テンパ戦前の最後の補給としてムーンライト村にあったジャガイモを茹でて食べる魔女は俺のハンドガンを注視しつつ、
「……この世界ではない異世界の人間じゃないと、その魔術師に有効なマジックウェポンは使えない。だからこそ無理矢理にでもこの世界に転生させたの。あの死の商人からこの世界を救う為に」
「そうか……やけに素直に本当の事を言うな。俺に惚れたか?」
「惚れてるのはコウハイ君の方でしょ?」
「は? 違うし!」
「まぁ、それはいいとして、現代兵器というものは魔法を凌ぐの。訓練されてなくても使えるからね。あの死の商人は弾丸という火薬を使って放つガンという武器をすでに製造してるわ。コウハイ君と同じハンドガンって奴をね。まともな魔法なら溜めが必要だけどガンにはそれが不要。あれが量産されたらこの世界はアイツのものになって戦争社会になってしまうわ」
「確かに銃……ガンは恐ろしいが、そこまで警戒しなくてもいいだろ。ビビり過ぎるから身体が硬直して状況判断も出来なくなるんじゃないか? それに、お前は俺の弾丸を浴び続けてるんだからテンパの製造させた銃程度の代物なら弾丸の軌道を読んで回避できるだろ?」
「……確かに」
「ま、俺の復讐もお前の鍛錬になってたって事だ魔女。でも、魔王になる夢を持っていた俺を発見したのも凄いな」
「テンパが宝玉を利用して次元透視魔法で異世界を見たのよ。それでコウハイ君は私に連れて来られたの。そこでテンパは現代のガンという武器に興味を示した」
「流石は死の商人。抜け目が無いな。けど、銃は水を浴びせるか、電気ショックを与えればいい。水で火薬は湿気て使えなくなり、電気なら鉄砲そのものがイカレる。相手の武器の恐怖に怯えてないでちゃんと対処すれば魔法の方が強いだろ」
「……でも」
「俺の方が強いがな」
フッと魔女は優しく微笑む。
この笑みがあれば、俺はどこまででも戦えるだろう。
「この異世界において、俺の能力は異端という事だろう。もうそんなのは自分自身が一番良く知ってる。だから、全ての決着は俺がつけるさ」
そして、ゴールドキャッスルに侵入する作戦を話す。
相手はどうやら一切動かないようだからどんな陽動もムダだったようだ。
すでに宝玉を自在に使えるテンパからすれば、自国を守るレーダーなど無用の長物なんだろうさ。なら、こっちが先に王手をかければいい。
「今回はお前が囮だ魔女。とりあえず敵陣に侵入してから派手に暴れろ。そうすればお前は役に立ち、俺は影のように動ける。そこに勝機があるのさ」
「えー……それ私大変じゃん? あの都市の魔術師全員相手にするかもじゃん! 一万以上の大群を一人で相手すんのは無理だよ?」
と、そんな弱音を吐く魔女には現代のアイドルの話をしてやる。
コイツは絶対に現代のアイドルに興味があるからな。
何せ、自分を自分でカワイイなんて言う女はそんなもんだ。
「魔女よ。お前は能力でビーム魔法ってあったよな?」
「うん。私がコウハイ君のいる世界でアニメっていう映像の映る箱で女の子が使ってたからね。私も出来ると思ったの。確かアイドルっていう女の子もビーム使うね」
「あれは光のライトで攻撃じゃないけどな。ちなみにビームに興味があるって事は、現代にも興味があるんだな? お前、アイドルって意味はわかるのか?」
「アイドル? わかんないよ?」
「要は人気のある人間。スターの事だ」
「スター! でも私は魔女だからスターにはなれないね。魔女は憎まれ、恐れられる存在だから」
「なれるさ。要はこのテンパとの戦いで活躍すればいい。魔女という存在は今まで裏方にいて世界に直接的に関与する事は無かった。大いなる力は自分にも大いなる災いをもたらすからな。けど、その大いなる災いにあえて立ち向かう覚悟を持ち、そして打ち勝てば民衆とて魔女を憧れの存在として認めるだろう。つまり、スターとな」
「いいねそれ!私は世界のスター! 美少女魔女のスターだね!」
「そうだ。だから俺の手となり、足となれ。さすれば、お前は世界のスターになる」
「イェイ! 魔女はスター! ヒャー!」
……ったく、単純な奴だ。
これで魔女は懐柔した。
俺の突入作戦に組み込む事も容易だぜ。
「もう俺に頬を叩かせるなよ。俺だってお前をただ嫌いなわけじゃないからな」
「もしかしてセンパイに恋しちゃった? 恋しちゃったの? まぁセンパイはカワイイから仕方ないね」
「黙れ魔女」
「ヒャー! もうハンドガンは撃たないんじゃないの?」
「黙れ魔女。黙れ魔女。黙れ魔女」
一分近く魔女にハンドガンを発砲した。
この魔女こそ俺のアイドルかも知れん。
本人には言えないけどな。
弾丸を回避し続け少し疲れ気味の魔女は、
「テンパのゴールドキングダムまではハングライダーで飛んで強襲するの? それともお得意のゴミ袋ステルス?」
「ハングライダーじゃさしてスピードも無いからバレる。ステルス侵入したくても、ゴールドキングダムに入る前の城下街からやらないとならんから時間がかかり過ぎる」
「じゃあ、強襲用のマジックウェポンはないの? 確かあるよね?」
「ある。だが、第一オーマスーツ・ギガバーニアンモードは少しピーキーでな。あまりのスピードで俺も一直線にしか進めないんだ」
「それでいいんじゃない? 一気に侵入しないと、テンパの兵隊と戦うのも面倒だし」
三種類あるオーマスーツの一つ、ギガバーニアン。
これは現代兵器というよりも、フィクションのアニメを見て想像して生成した機動兵器だ。だから現代兵器と違い、扱いには少々手こずる。
「各マジックウェポンステムチェック。通信マジックウェポン。システムオンライン。火器管制マジックウェポン。システムオンライン。マジックマップシステムオンライン。脈拍、血圧、心拍数共に異常。マジックウェポンシステムオールレッド……よし、全てのパワーが三倍のような赤さ具合だぜ……って、本当に魔力量がいつもの三倍だぞ!」
この世界に来て初めての睡眠のおかげか……。
あの三種の神器とも言える三種の機動兵器を使えるぞ。
魔女の奴に感謝だな。
「これならオーマスーツの三種類を使っても問題無さそうだ。俺の魔力が光って唸るぜ!」
「……第一オーマスーツ・強襲用マジックウェポン展開。ギガバーニアンモード!」
シュパアァ!という光と共に両肩に大型の白いブースターポッドが展開した。このギガバーニアンモードはこの大型ブースターにより、現代の飛行機並みのスピードを出す事が出来る。そのおかげで、直進しかコントロールが効かないのが問題点であるがな。
クイッ、クイッとブースターポッドが俺の意思で動き、少しづつ宙に浮かぶ。
「さて……久しぶりのギガバーニアンだ。一気にテンパの居城、ゴールドキングダムへ侵入する。しっかりつかまってろよ魔女」
「あいよ!」
俺の腰の部分に魔女はつかまり、ロープで落ちないように身体を固定した。
ギガバーニアンのブースターポッドから出る魔力粒子が闇夜に煌く。
(……)
闇夜が、冷たい風を俺に浴びせて気持ちがいい。
決戦の始まりにしてはやけに心は落ち着いている。
仲間がいるせいかも知れんな。
魔女だけど。
そして、遠くに見えるゴールドキンガムの都市を見据え、俺は言う。
「……さて、死の商人。不老不死計画を企む千年伯爵・テンパを派手に散らしに行くぞ!」
シュパー! とギガバーニアンのブースターポッドの魔力粒子が、一直線の光線を夜空に描いた。