001
魔王「……かように、生産性の向上と言ってもやり方はその場その場にあったものを適用しえなければ、逆効果になることもあるわけだな。諸君らが今生活している冬の国は、従来の農業に適さない土地ではあるが、適した作物と環境の準備を行うことで……」
ちりーん、ちりーん、ちりーん
メイド長「お嬢様、授業終了のお時間です」
魔王「今日はこんな所か。では、本日はここまでとする。
明日は剣士様が朝の鍛錬をするそうだ。早めの時間に来るようにな」
軍人子弟「剣士殿の授業でござるか!待っておったでござる!」
貴族子弟「明日はたいくつしなさそうだ」
メイド姉(……土の話は退屈なのでしょうか。でも私も軍事の話は苦手です…)
商人子弟「メイド姉さんっ」
メイド姉「はっ、はい!」
商人子弟「この前実家からトッローネを送ってもらったんだ。
もし暇な時間があれば一緒にお茶をしながら頂かないか?」
メイド姉「トッローネ…ですか?食べ物でしょうか?」
(大丈夫…かな?)ホッ
商人子弟「お姫様なんかが食べるお菓子さ。
メイド姉は食べたことないかい?」
メイド妹「お菓子!?お姉ちゃんお菓子だって!」
軍人子弟「商人子弟!抜け駆けはいかんでござるよ!
何を三人でコソコソ話しているでござるか!」
貴族子弟「まったくだ。この僕を差し置いてレディに声をかけるなんて、
順番をわきまえるべきじゃないかい?」
商人子弟「いやいや、抜け駆けだなんてそんなつもりはないですよ!
もちろん皆さんも誘うつもりでしたって」
魔王「茶会も良いが、復習も忘れぬようにな。
あまりメイド姉を困らせるようなことはするなよ?」
メイド姉「当主様!」
メイド妹「おねーちゃん!じゅぎょうの時は先生って呼ぶんだよ?」
メイド姉「あっ、すみません失礼しました…」
魔王「よい、今日の授業はもう終わったのだからな。
メイド姉とメイド妹も、たまには学友と交流を深めると良かろう。
仕事に追われて今までそのような機会もなかっただろう?
メイド長には私から伝えておく」
メイド姉「え?」
メイド妹「やったー!お菓子っ!お菓子っ!」
商人子弟「ありがとうございます!
先生にも後でトッローネを届けさせて頂きますね!」
魔王「それでは私がメイド姉をダシに賄賂を要求したみたいではないかっ。」
「トッローネはまた別の機会に皆でいただこう。
今日のところはみんなで楽しんできてくれ。
すぐに腐るようなものではないのだろう?」
商人子弟「はい!ありがとうございます!」
軍人子弟「先生は話のわかる御仁でござる!」
貴族子弟「そうだね。今は僕も君たちも同じ学友だ。
たまには一緒にお茶をするのも悪くないさ。
あまり粗相をして僕をがっかりさせないでくれよ?」
メイド姉(なんだかなし崩しに一緒にお茶をすることになってしまいました…)
メイド妹「お姉ちゃん困ってる?」 こそっ
メイド姉「いえ、大丈夫よ。
いっしょにお菓子を食べに行きましょう?」
メイド姉「商人子弟様、お招きいただきましてありがとうございます。
皆さんと一緒にお茶をするのは恐れ多く感じますが、
今は同じ学友として参加させて頂きますね」ニコッ
商人子弟「…」
貴族子弟「…」
軍人子弟「…」ハッ
(商人子弟!返事するでござるよ!)
商人子弟「あ!ああ! ありがとうメイド姉さん!」
貴族子弟「この近くの丘にお茶会用に用意させた四阿があるんだ。
よければそこで頂かないかい?」
軍人子弟「…えらく用意がいいでござるな」
貴族子弟「いつ何時レディーに誘われるかわからないからね。
紳士として当然のことさ」フッ
メイド姉「フフッ」
商人子弟「あはははは」
軍人子弟「普段の態度は気に入らんでござるが、面白い男でござるな!」
貴族子弟「ええっ?笑うところかい?
まぁ、いいさ。僕は心が広いからね。
さっそく向かうとしようじゃないか。時間が惜しいよ」
商人子弟(本当は自分が一番最初に誘いたかったんだろうなぁ) ニヤニヤ
――学舎の外
小さな村人「おんや、学舎の坊ちゃん達、今日も外でかけっこかい?」
商人子弟「いえいえ、今日の授業はもう終わりました。
皆さんをお茶会にお誘いして、これから裏の丘に向かうところなんですよ」
痩せた村人「ほーぉ、お茶会なんて洒落たものは見たことないだよ。
やっぱりお茶を飲むのかい?」
貴族子弟「お茶ももちろん出るが、メインは紳士淑女同士の雅な語らいさ。
菓子なども出るが、あくまでメインに華を添える脇役だよ」フフン
商人子弟「…」
痩せた村人「へーぇ、そうなのかい。
おらだったら菓子に夢中になって話しどころじゃなくなりそうなもんだなや」
小さな村人「いっつもつまみ食いしちゃ母ちゃんにどやされてるおめえさんらしいだなや」
痩せた村人「へっへっへ。聞かれてちゃしかたねぇや。
坊ちゃんたち、今は日が落ちるのが早いから暖かい格好して行ったほうがええだよ。
気をつけてな」
メイド姉「ありがとうございます。みなさんもお気をつけて」ぺこり
商人子弟「ああ、そうだ。このお菓子を持って行ってください。おすそわけです」
小さな村人「おんや、これはありがたいことだなや」
痩せた村人「ほんとだな。ありがとうございますだ。
正直に言えば、さっきから甘い匂いが気になってただよ」
小さな村人「ほんとにいいんですかい?高いものでねえのか?」
商人子弟「いいんですよ。
皆さんに味を知って頂ければ、この村で僕が商いができるようになりますし」ドヤッ
小さな村人「そうかい?それならありがたく頂くだよ」
メイド姉(どうやって商いをするつもりなのでしょうか…)
小さな村人「母ちゃんに渡す前に食うでねえよ?」
痩せた村人「あぁ、こいつは娘に食べさせてやるだよ。
最近元気がねえみてえだからな」
メイド姉(小作農や職人が多いといっても、それほどお金があるわけでは…)
軍人子弟「話を聞いたらこちらまで腹が減ってきたでござる。
日が落ちぬうちに早くむかうでござるよ」
貴族子弟「そうだね、レディーを道の真中で待ちぼうけさせるものではないよ。
商人子弟、お茶の準備はこちらでさせておくけど問題はないかい?」
商人子弟「わかった。それなら準備はそちらにお任せするよ」
メイド姉(私にはわからないだけで、ちゃんと商いする方法があるのでしょうか。
後で当主様に聞いてみよう…)
軍人子弟「メイド姉殿、どうしたでござるか!
メイド妹殿が待ちくたびれているでござるよ」
メイド姉「あ、すみません!」
貴族子弟・商人子弟((それはお前だろ!))
――学舎裏の丘
商人子弟「へぇ、綺麗なものですね。
四阿というから、もっと小さな物を想像していましたが」
軍人子弟「まるで小さな教会といった趣きでござるな」
貴族子弟「レディーをお迎えする場所だからね。
わざわざ氷の国から職人を呼びよせて作らせたのさ。
ちなみに設計は僕だ」ドヤッ
軍人子弟「男らしさにかけるでござる」フンッ
メイド妹「お姉ちゃん!ここから見ると景色すごいよお!
村が全部見える!
ああ!猟師のおじちゃんだ!おおーーい!」
メイド姉「あまり身を乗り出したら落ちるわよ!
すみません、はしゃいでしまって…」
貴族子弟「なーに、あれぐらいが元気があっていいというものだよ」
ガタッ
軍人子弟「おおっと!」
メイド妹「あわわっ、お兄ちゃんありがとー!」
軍人子弟「なんのこれしきでござるよ」ドヤッ
グラッグラッ
軍人子弟「手すりが傾いたでござるか。
やはり見かけどおり軟弱な造りでござる」
貴族子弟「軟弱ではなく繊細といってほしいね」
軍人子弟「何が違うでござるか!」
貴族子弟「風情の違いだよ」フッ
商人子弟「まぁまぁ、せっかくお茶しに来たんですから。
こんなところで喧嘩するなんてもったいないですよ」
軍人子弟「そうでござった。
喧嘩はお茶会の後にするでござるよ」
貴族子弟「フッ、いいだろう」
商人子弟(そんなに早く食べたかったのか…)
――四阿
カチャッカチャッ
コトンッ
商人子弟「お茶とお菓子は皆揃ったかな。」
貴族子弟「商人子弟、皆を誘ったのは君だ。
かっこいい挨拶を頼むよ」
軍人子弟「早くするでござる。メイド妹殿が待ち切れないでござるよ!」
貴族子弟・商人子弟((だからそれはお前だろ!))
商人子弟「えーっと、それじゃ僕らの初めてなお茶会なわけだけど、
実は僕は皆のことをそれほど知らないんだ。
だから、お茶をしながらそれぞれの身の上話なんかどうかな、と思うんだけど」
貴族子弟「そうだね。
僕のエレガントな身の上を聞きたくなるのは無理もないさ」
メイド妹「まるいお兄ちゃん!」
商人子弟「なんだい?」
(まるい…)どよ~ん
メイド妹「食べていいの!?」
商人子弟「ああ、待たせてごめんね。どうぞめs…」
軍人子弟「甘いでござる!何でござるかこの甘さは!
蜂蜜だけではないでござるか!?」
貴族子弟・商人子弟((そこまでかよ!))
メイド妹「あああ~っ!しかくのお兄ちゃんずるい!
わたしも!」ぱくっ
商人子弟(あっちは四角なんだ…)
貴族子弟「ふふっ、こちらのレディーは腹ペコのようだね。
僕の分も分けてあげるよ」
メイド妹「ありがとう!さんかくのお兄ちゃん!」
商人子弟(そして三角と…)プッ
メイド姉「どうされたんですか?」
商人子弟「いや、僕らは意外といい友だちになれるんじゃないかと思って。
あはははっ」
メイド姉「私も… ですか?」
軍人子弟「当たり前でござる!
我らは先生に教えを請う同じ弟子同士!
拙者いつでもメイド姉殿の力になるでござるよ!」
貴族子弟「やれやれ、メイド姉にそんな汗臭い力を見せつけないでくれたまえよ」
軍人子弟「何を言うでござる!拙者毎朝水で体を清めているでござる!」
貴族子弟「今のは皮肉というんだ…
いや、やめよう。こんなことで突っかかるなんて僕らしくない。
すまなかったね」
軍人子弟「別に気にしてなどいないでござる。
男たるもの少々のことは笑って受け入れるものでござる」
貴族子弟「レディーを助ける騎士としては見苦しいところを見せてしまったかな。
僕だっていつでも力になるよ」
メイド姉「えぇっと、その…
ありがとうございます。でも、なんで年下の私なんかにそんな…」
軍人子弟「なんかではないでござる」
貴族子弟「この中の誰より先生の授業を理解しているじゃないか」
メイド姉「私も授業中は追いつくのが精一杯で、答えも間違えてばかりですよ?
そんなこと…。」
商人子弟「あるさ。メイド姉を見る先生の顔を見ればわかるよ。」
「僕達は今まで教わってきたことに縛られていて、
時々先生に何を教わっているのかさえわからないこともある」
貴族子弟「宮廷でも聞いたことのない知識ばかりさ。
聖王都の進学院の学舎の姫君だというが、それにしても広すぎる」
軍人子弟「およそ伝説でも聞いたことのないような戦術まであるでござる」
商人子弟「そんな先生の授業についていける人なんて、
それこそ、この大陸でも数えるほどしかいないんじゃないかな」
メイド姉「ほめすぎです! そんなのじゃないんです!そんなのじゃ…」
ギュッ
メイド姉「私は… 何も知らなかっただけなんです」じわっ
メイド妹「お姉ちゃん、お菓子おいしいよ?」ニコッ
貴族子弟「……プッ。くくっ」
商人子弟「あはははっ」
軍人子弟「はははははっ」
貴族子弟「一番すごいのはこの小さなレディーかもしれないね」
商人子弟「ええっ、全く」
軍人子弟「拙者よりも食い意地が張っているでござる」
商人子弟・貴族子弟((それはどうだろう))
メイド姉「ええ、そうです。私なんかより全然すごいんですよ。
妹は人を幸せにする天才なんです!」
メイド妹「この白いところ何かなぁ?
蜂蜜の味がするけど、ふわっふわだよ~」
商人子弟「ああ、それは卵と蜂蜜を使うそうだよ。
詳しい作り方は僕も知らないな」
メイド妹「卵の白いところを泡立てて使うのかなっ
なんだかいくらでも食べられそう!」
商人子弟「ははっ、じゃあ僕のも少し分けるよ」
メイド妹「うわぁ、いっぱいだ!ありがとうー!」
軍人子弟「拙者もう全て食べてしまったでござる…」
メイド姉「ふふっ、じゃあ私のをどうぞ」
軍人子弟「これはかたじけない。恩に着るでござるよ!」
商人子弟・貴族子弟((ちょまっ))
軍人子弟「メイド姉殿のトッローネは格別でござるな」ドヤァァァ
商人子弟・貴族子弟((イツカコロス!))
――村はずれの館、当主の部屋
メイド長「お疲れ様です。まおー様。メイド姉と妹は一緒ではなかったのですか?」
魔王「ああ、二人に他の生徒達と親睦を深めてもらおうと思ってな。
商人子弟のお茶会に参加させてきた」
メイド長「お茶会‥‥‥ですか?」ぴきっ
魔王「どうした?何か二人に用事でもあったのか?」
メイド長「いえ。この場合問題なのは二人ではなくまおー様の方かと」
魔王「? なにかまずいことをしたか?」
メイド長「はぁ‥‥‥」
メイド長「よろしいですか?まおー様。
年頃の男女がお茶会と言ったら目的は一つしかありえません」
魔王「何!?そんな話は聞いてないぞ!」
メイド長「二人の主であるまおー様が止めなかったというのが、更に問題なのです。
これでは野獣の群れに向かって生贄を捧げたようなものではないですか!」
魔王「そ、そこまでは酷くないだろう‥‥‥?
勇者と二人でお茶を飲んだことなどいくらでもあるが、
襲われたことなど一度もないぞ?」
メイド長「嘆かわしい‥‥‥。
そこで膝枕の一つでもして勢い余ってキスの1つや2つでもしたらよろしいものを‥‥‥」
魔王「見ていたなんてひどいぞメイド長!それにキスまでは‥‥‥」
メイド長「‥‥‥」はぁ
魔王「あれ?」
メイド長「とにかく、あの二人にはお茶会なんてまだ時期尚早です!
襲われないにしても、どんな粗相をするかわかったものではありません。
早くメイドゴーストに様子をうかがわせないと‥‥‥」はらはら
魔王「フフッ」
メイド長「笑い事ではありませんよ?まおー様!」
魔王「いや、大丈夫だよ。メイド長。
これでも少なくない間生徒たちを見てきたのだ。
あの二人を傷つけるような事にはならないさ。
私はあの五人がどんな世界を見せてくれるのか知りたいんだ」
メイド長「まおー様‥‥‥」
魔王「メイドゴーストも今は控えさせておいてくれ。
帰ってきた二人から話を聞く楽しみが減ってしまうだろう?」
メイド長「まおー様がそうおっしゃるのでしたら、仕方ありません‥‥‥
ただし、一つ条件があります」
魔王「条件?」
メイド長「あの三子弟に、メイドとの正しい関係の築き方を教育する為、
メイド道の授業を担当させて頂きます。」キリッ
魔王「いや、他の授業もいろいろあってだな‥‥‥」
メイド長「メイド道より重要な学問など存在しません」
魔王「はい‥」
メイド長「二人にはメイド暗殺術も教えないと」
魔王「はい?」
メイド長「楽しくなってきました」にこっ
魔王(すまない、我が生徒達よ‥‥‥)
ーー学舎裏の丘、四阿
商人子弟「とまぁ、僕達の自己紹介はこんな所かな?」
メイド姉「皆さん天然痘でご兄弟をなくされているんですね‥‥」
貴族子弟「病は雅を解さないからね。
珍しいことでもないさ」
軍人子弟「戦の中で倒れたのでござる。立派な最期でござるよ」
貴族子弟「やれやれ‥‥‥」
商人子弟「次はメイド姉さんの番だね。よろしくお願いするよ」
メイド姉(‥どうしよう‥皆さんの話を聞いておいて話さないわけには‥
でも、話せば当主様にご迷惑が‥)
軍人子弟「どうしたでござる?
拙者、メイド姉殿がどこぞの姫君と聞いた所で驚いたりはしないでござるよ?」
貴族子弟「やれやれ、そんなせっついたら緊張してしまうじゃないか。
お茶も時間もまだまだある。ゆっくりで構わないよ、メイド姉」
商人子弟「えーっと、生まれは冬の国でいいのかな?」
メイド姉(どうしよう。妹っ‥‥‥)
メイド妹「‥もう食べられないよお‥」
メイド姉(寝てる‥)
メイド姉「はい、生まれは冬の国になります。
皆さんのお話を聞いておいて大変申し訳無いのですが、訳あって家を明かすことはできないのです。
本当にっごめんなさい!」
商人子弟「謝ることなんかなにもない!
今回はみんなメイド姉と親睦を深めたいって言ってたから無理に誘ったんだ。
頭を下げさせたりなんかしたら誘った僕達のほうが申し訳ないよ!」
軍人子弟「商人子弟!それは秘密といったでござるよ!」
貴族子弟「軍人子弟。それを言ったらおしまいだ」
しーん
メイド妹「‥おっきいお兄ちゃん‥一緒に食べよう?‥」むにゃむにゃぐすん
メイド姉「妹‥」
メイド姉「すみません、私達なんかのためにこんな立派なお茶会を開いていただいて。
家のことは話せませんが、私達の兄弟の話を代わりにさせて頂いて構わないですか?
余り楽しい話ではないかもしれませんが」にこっ
商人子弟「あ、ああ!もちろんだよ!」
貴族子弟「何を話しても喜劇になるのは軍人子弟ぐらいのものさ」
軍人子弟「拙者話をしてほめられたのは初めてでござる」
メイド姉「ふふっ、じゃあ一番上の兄の話から。
口数の少ない人でしたが、とても優しい兄でした‥‥‥」
ーー夕暮れの四阿
軍人子弟「うおおおおーーーっ、あんまりでござる!
なぜ兄上殿がそのような死に方をしなければならないでござるか!
街道の見回りは何をしていたでござる!」ウォォォン
貴族子弟「舞踏会は楽しい思い出を家に持ち帰ってもらうまでが
ホストの役目じゃないか!信じられない!
格上の家だろうがなんだろうが、そんなことをしてのうのうと貴族を名乗るなんて!」
商人子弟「メイド姉さんもご兄弟を天然痘で亡くされているんですか‥
ということは、みんな同じ経験をしてるわけだね」
軍人子弟「できれば帰ってきて欲しかったでござるよ‥」
貴族子弟「妹にはつらい思いをさせてしまったな‥
今ならもっとリュートの音で安心させてやれたろうに」
商人子弟「皆さん楽しくて素敵な方たちだったんですね。
気は優しくて力持ちのお兄さん。
流行りもの好きで歌が好きだったお姉さん。
お互いを世話して最期まで一緒だった妹さん達。
ひなたぼっこするのが好きだった我慢強い弟さん」
メイド姉「はいっ」
貴族子弟「精霊様は心清らかなものからお召になるそうだ。
きっと今頃精霊様のもとで楽しげな歌声が響いているんだろうね」
軍人子弟「兄上殿はきっと宿敵の岩を締めあげて土に返している所でござる」
商人子弟「岩は精霊様に呼ばれるのかなぁ」
メイド姉「どうでしょうね。ふふっ。
でも、あの頃みたいでなんだか楽しそうです」
メイド妹「きっと、またいつか会えるから。
だから今はさびしくないんだよ!お母さん言ってたもん!」
貴族子弟「そうさ、みんな精霊の子だ。今生の別れは一時の別れ。
僕の妹も、軍人子弟の兄上も、商人子弟の姉君も一緒によろしくやっているさ」
軍人子弟「拙者思ったのでござるが」
商人子弟「どうしたんです?軍人子弟さん」
軍人子弟「我らここで兄弟の契りを交わすというのはどうでござろう。
我ら兄弟をなくしたもの同士、
側にいる兄弟のありがたさを一番知っているでござる」
貴族子弟「‥‥‥」
商人子弟「‥‥‥」
メイド姉「‥‥‥」
軍人子弟「軍人の兄弟など、駄目‥‥でござるか?」
貴族子弟「そんなこと関係あるものか!
君がそんなことを言い出すなんて夢にも思わなかったから、驚いただけだよ」
商人子弟「私も‥構わないのですか?
商人の知り合いがいると言っただけでも嫌う方がいる位ですよ?
軍人の方などは特にそういう人が多いと聞きます」
軍人子弟「男同士の話に商人がどうとか軍人がどうとか関係ないでござる。
そんなことをいうものはたとえ上官だろうと切り伏せてみせるでござる」
貴族子弟「そいつは物騒だな。レディがいることも忘れないでくれよ?
でも、僕も賛成だ。
二人が失った兄弟の代わりにはなれないだろうけど、
また会った時に自慢してもらえるだけの自信はある」
メイド姉「皆さん‥‥‥」
(私だけ、身の上も話さず‥身分を気にして‥)
メイド妹「お兄ちゃんいっぱいだねぇ」
軍人子弟「ふはははっ 拙者兄上殿に力では負けるかもしれんでござるが、
食いっぷりなら負けないでござるよ!」
メイド姉「私だけ、身の上を話していないのに‥。本当に構わないのですか?」
貴族子弟「兄弟の話で十分さ」
商人子弟「人を見るには兄弟を見よ、ですね。
あれ、違ったかな?」ははっ
メイド姉「ありがとうございます。貴族子弟様、軍人子弟様、商人子弟様。
私も皆さんのご兄弟にお会いした時に、胸を張って妹と名乗れるように頑張りますね」
にこっ
貴族子弟・軍人子弟・商人子弟(((よっしゃーーーーーーー!)))
メイド妹「またみんな一緒だねぇ、お姉ちゃん!」
貴族子弟「よろしく頼むよメイド姉。僕の妹は口うるさいところがあったからね」
軍人子弟「兄上は女性には気むずかしいでござるが、
メイド姉殿なら心配要らないでござるよ」
商人子弟「姉さんはどうだろうなぁ。
僕の側の女性を尽く蹴散らしてたから、
辛く当たったりしないように言い含めておかないと」
貴族子弟・軍人子弟((‥‥‥こいつもしかして意外とモテるのか?‥‥‥))
商人子弟「そろそろ日も落ちかけてるし、
今日のところはこれでお開きとしようか。
これからも、週に一回ここでいろいろ話でもしようよ」
メイド妹「またお菓子食べられるの!?」
メイド姉「こら、妹!
どうも、すみません‥‥‥」
商人子弟「ははっ、もう僕の妹でもあるんだから。
構わないよ。トッローネもまだまだ用意できるし」
貴族子弟・軍人子弟((さらっと次のアポを取った上に経済力をアピールだと!))
商人子弟「みんなもそれでいいかい?」
貴族子弟「あ、ああ。もちろんさ。
ここなら毎日だって使ってもらって構わないよ」
軍人子弟「丘の上までならちょうどいい運動でござる」
商人子弟「よかった。それじゃあみんなで二人を送って行こうか」
ーー学舎裏の丘、館への道
メイド妹「しかくのお兄ちゃん!肩車してほしいな!」
軍人子弟「よしきたでござる!」
メイド姉「商人子弟様」こそっ
商人子弟「なんだい?」
メイド姉「本当によろしいのでしょうか?
今日だってたくさん頂いてしまったのに‥‥‥」
商人子弟「あー、構わないよ。
タネを言うとね、あれは殆どお金がかかってないんだ。
初めて学士様の所に来る道すがらで、
ブルーベリーがよくなっている場所を見つけたからね」
メイド姉「ブルーベリー?
トッローネには入っていないようでしたが‥‥‥」
商人子弟「僕は甘いモノが好きで蜂蜜の仕入れを手伝っていてね、
ミツバチがどういう種類の花を好むか、とか色々教えてもらったことがあるんだ。
この辺りは果物と言ったらブルーベリーとか野いちごくらいだろう?
暖かい地方なら熟練の職人でも無ければわからないけど、
餌が限られているこの辺りなら蜜蜂の巣箱を置く場所も検討がつくってわけさ」
メイド姉「そんな秘密があったんですね‥‥‥」
商人子弟「働いてもらうのは蜂だから、値段も安くできると思う。
この村の人でも、毎日ってわけには行かないだろうけど食べられるはずさ」
メイド姉「よかったです。
甘いものは本当に貴重なんです。こういう村では特に。
冬の間に飢えた子供も、ひとさじの蜂蜜で救われることがあるくらいですから」
商人子弟「そんなに感心されると照れるな。
親父に言わせると僕は商才がないらしいんだけどね」
メイド姉「そうなのですか?厳しい方なのですね」
商人子弟「お前はいろいろ甘すぎる!だそうだよ。
そういうところも含めて学士様に叩きなおしてもらえってことなんだろうね」
メイド姉「妹は甘いもの大好きですよ?」ふふっ
軍人子弟「貴族子弟、さっきから大人しいでござるな」
貴族子弟「いや、ちょっと考え事をね‥‥‥」
貴族子弟(兄弟の契りって‥‥‥それって恋人には‥‥‥)
メイド妹「お姉ちゃん!お家が見えてきたよ!」
貴族子弟「なんとか日が落ちる前に着けそうだ。
先生も怒らないでくれるといいけど」
軍人子弟「結構遅くなってしまったでござるからな」
貴族子弟「商人子弟のトッローネに期待するとしようじゃないか」
商人子弟「ははっ、こんなに楽しい時間を過ごせたんですから。
いくらお礼をしても足りないくらいですよ」
メイド長「そうですか」ギラッ
軍人子弟「のわあああああ!」
貴族子弟「いつの間に背後に‥‥‥」
メイド妹「眼鏡のお姉ちゃんただいま!」
メイド姉「ただいま戻りました、メイド長様」
メイド長「話はお嬢様より伺っております。ご苦労様でした。
お嬢様がお話を楽しみにされているそうなので、
後でお食事を持って行ってあげてください」
メイド姉「はい、承りました」
メイド妹「へっくし!」
メイド長「風邪でもひいては大変です。
丁度湯を沸かした残りがありますから、暖まってからいきなさい」
メイド妹「はーい!」
メイド姉「ありがとうございます」
メイド長「‥‥湯が冷めてしまいますよ?」ツン
メイド姉「はい。
貴族子弟様、軍人子弟様、商人子弟様。今日はお招き頂きありがとうございました。
またお誘いいただければ嬉しく思います。
では、失礼致しますね」
貴族子弟「ああ、またよろしく頼むよ」
軍人子弟「また一緒に菓子を食べるでござる」
商人子弟「今度はメイド妹と一緒に遊べるものも用意したいね」
商人子弟「それでは、僕達もこれで宿舎の方に戻ります。
先生によろしくお伝えください」
軍人子弟「腹が空いたでござる」
貴族子弟「よく食うな‥君は‥」
メイド長「まだ話は終わってませんよ?」にこっ
軍人子弟(殺気!?)
メイド長「お嬢様より、皆さんの教育の一環として、
儀礼について指導するよう承りました。
授業終了後、宿舎にて指導させて頂きますのでよろしくお願いいたします」
貴族子弟「あ、ああ。
みんなはそういうことに疎いようだからね。よろしく頼むよ」
メイド長「はっ?」
貴族子弟「ひいいっ!」
メイド長「授業は明日からと考えておりましたが、
これは時間がいくらあっても足りないようですね。
今日はこれから特別授業とすることに致しましょう。」
商人子弟(そーっ‥‥‥と、)
メイド長「明日も無事にパンを喉に通したければ、逃げようなどと思わないことです。
私はお嬢様の鉄定規ほど甘くはありませんよ?」
三子弟(((俺たちの夢の学舎生活が‥‥‥今終わった‥‥‥)))
ということで、学舎の兄妹の1話終わりです!
まおゆうアニメの方を見てどうしても書き直したくなる箇所があり、最初に公開したものから大分変わってしまいました。
ごめんなさい。
一応続きも考えているので、もしよかったらお付き合いいただければ幸いです。