思いがけない拾い物
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この世界は奇妙だ。
ここには、矛盾したものが多すぎる。金のために平気で欲をさらけ出す人間。社会にはびこる偽善。そして何よりも厄介なのが——「システム」だ。
そもそも、仕組みそのものは悪くない。混沌を抑え、流れを管理し、誰もが理解できるルールを定める。それによって社会は秩序を保っている。
だが、そんな枠組みを作り上げたのは、ほかでもない人間だ。
だからこそ、そこには融通の利かない部分があまりにも多い。どれほど清廉潔白な人間でも、一度でも任務の規定を誤れば、その瞬間に居場所を失う。
運が良ければ、やり直すチャンスをもらえる。
運が悪ければ、仕事だろうが学業だろうが、容赦なく切り捨てられる。そして「能力不足の参加者」という烙印を押されるのだ。
この外側で生きていくなんて、どうせ無理な話だ。
ならば、流れに身を任せ、大勢の中に埋もれて生きていくしかない。
ありきたりな生き方だが、そのほうがずっと楽だ。
俺はもう、この仕組みにすっかり溶け込んでしまっている。
大学には通っている。だが、卒業証書が欲しいわけでも、特別な目標があるわけでもない。
ただ、この巨大な構造体の中で最も発展している場所——つまり都市で、学業以外に俺ができることなど、今のところ何もないからだ。
こんな端役同然の俺が、どうして大学に合格できたのか。
自分でもさっぱり分からない。
もっとも、Gemini AIがその理由を実に分かりやすく説明してくれた。
コズィバエフ記念北カザフスタン大学は、平均的に見れば、首都の大学よりも合格ラインが低いらしい。
まあ、別にいいじゃないか。
俺のЕНТの得点は86点。それだけあれば、奨学金枠に滑り込むには十分だった。
今日は月曜日。朝だ。
いつものグレーのハーフジップスウェットに、ダークカラーのジーンズ、スニーカー。身支度を済ませ、コンパクトな黒いリュックを背負うと、重い足取りでキッチンへ向かった。
出発前の恒例行事。
熱いお茶に、バウルサクを二つ。それから、できたてのマンティ。
テーブルには母さんが座っていた。お気に入りのターコイズ色のセーターを着ている。
「はぁ……アウルで暮らすのも楽じゃないな」
寝起きの掠れた声で、俺はぼやいた。
「そうねえ」
母さんは微笑んだ。
「十八歳にもなれば、私たちのベスコリも、あなたには少し窮屈に感じるのかしらね」
母さんはいつだって俺の幸せを願ってくれている。
俺の好みだって分かってくれている。まあ、時々は母さんなりの解釈で判断することもあるけれど。
「いや、母さん。そういうことじゃなくて、純粋に経済の話だよ。街までの交通費がもう200テンゲなんだ」
「ふふっ、はいはい。経済学者さん、よく分かりました。それじゃ、早く行きなさい。バスに乗り遅れるわよ」
母さんの笑顔を見ると、胸の奥がじんわりと温かくなる。
こういう瞬間があるからこそ、自分らしく生きていく価値があるのだ。
「はーい、行ってきます!」
そう言い残して、俺はアパートを出た。
「まあ、ベスコリももう村とは呼べないよな。何だかんだで郡の中心地だし」
階段を駆け下りながら、俺は小声で呟いた。
外に出ると、冷たい秋風が吹きつけ、髪を一瞬で乱した。
五階建ての集合住宅沿いを、車が次々と走り抜けていく。
はぁ……俺もいつか、車を一台くらい買えたらな……。
七分後、俺はすでにバス停のベンチに腰を下ろしていた。
「コロナ」商店の近くに住んでいる最大の利点。それは、ここが集落で最初の停留所だということだ。
ほぼ確実に座れる。
ほどなくして、見慣れた乗り合いバスがやってきた。
車内に乗り込むと、俺はいつものように一番後ろの座席へと潜り込んだ。
あそこには、年配の乗客はあまり近寄らない。
バスが動き出し、ペトロパヴロフスクへと向かう。
もっとも、その前にベスコリを一周するのが恒例なのだが。
同じような家々と、まばらに生えた木々。
そんな景色を眺めていても、何の意味もない。
だから俺は、ただ目を閉じて意識を手放した……。
◇
【異次元】
薄暗く、圧迫感のある空間。
高い天井では、LEDネオンパネルが低い唸り声を上げていた。
内装は、まるで無菌状態の研究所のようだった。
だが、滑らかな密閉型装甲と外骨格を身につけた警備兵、そして移民局の職員たちの姿が、ここが国家機関であることをはっきりと物語っている。
未来的で、冷酷で、容赦のない国家機関。
高品質の金属合金で覆われた廊下を、二人の武装兵士が大勢の生命体を連行していた。
爬虫類型、ヒューマノイド型、昆虫型——その姿も服装も、実にさまざまだった。
兵士たちは厳格に列を管理している。
列の先には、重厚な気密扉があった。
その向こうから、青い光が規則的に明滅しながら漏れ出している。
列は急速に短くなっていった。
五十四体いた生命体のうち、最後に残ったのは一人。
青く澄んだ瞳と、青白い肌を持つ若い男だった。
(早くあそこへ行きたい……。約束された新天地へ。
この巨大な地獄から、永遠におさらばするんだ)
青年は、ゆっくりと開いていく扉を見つめながら思った。
「次!」
スピーカーから、低く合成された声が響いた。
金髪の青年は乾いた唾を飲み込み、敷居をまたいだ。
室内の中央には、円形の転送プラットフォームが設置されていた。
透明なパイプを通じて、結晶からエネルギーが流れ込んでいる。
頑丈な作業台の向こうでは、同じような防護服を着た職員たちが慌ただしく動き回っていた。
「番号21673。転送センターの中央に立ってください」
声が命じた。
プラットフォームのガラス製ドームが開く。
青年は一歩前に踏み出した。
次の瞬間、ガラスは轟音とともに閉じ、急速に縮まって、彼の身体を完全に固定した。
「起動。身体構造および精神の再構築プロセスを開始せよ」
科学者の一人が、冷淡に命じた。
金髪の青年の心臓が激しく鼓動する。
まさか、自分が再プログラムされようとしているなど、夢にも思わなかった!
「おい! そんな話は聞いていないぞ! 何をするつもりだ!?」
彼は絶望的な叫び声を上げ、両手でガラスを激しく叩いた。
しかし、遮音性能のせいで、その叫び声は外に漏れることすらなかった。
「頭部の固定を確認」
技師が報告する。
「記憶の光学補正を開始せよ」
上部の照射装置から、眩いオレンジ色の光線が放たれた。
金髪の青年の目が焼けるように痛み、意識が揺らいでいく。
彼はすでに意識を失いかけていた。
その時——
凄まじい衝撃が建物全体を揺るがした。
エネルギー専門技師の一人が、その衝撃で主制御パネルへと倒れ込んだ。
【緊急障害発生。転送プロセスを開始します】
「くそっ! 忌々しい隕石群め!」
責任者が怒鳴った。
彼はカフェリア人——くすんだ灰色の鱗を持つ、人型の生物だった。
技術者たちは手動でプロセスを停止させようとした。
しかし、オペレーターの怠慢によって、キャンセル用タイマーは設定されていなかった。
そのうえ、次の隕石群が再び施設を激しく揺さぶった。
金髪の青年が、自らの身体が原子へと分解される直前に見た最後の光景。
それは、パニックに陥る職員たちと、緊急警報灯の閃光だった……。
◇
「次は——カザフスタン憲法通りです」
「ふぅ……よく寝たな……」
俺は目をこすりながら呟いた。
「くそっ、なんて素晴らしい夢だったんだ。女の子が出てくる夢なんて……」
バスが大学の前で停車した。
俺は運賃を払い、蒸し暑い車内から這い出るように降りた。
授業開始までは、まだ三十分ある。
ゆっくり一服するには最高の時間だ。
道路を渡り、熱供給管に沿って伸びる舗装された小道へと曲がる。
ここは何度も利用している場所だ。
静かな住宅街の通路。
俺はマッチを擦り、煙を吸い込んだ。
苦い煙がいつものように喉を焼き、わずかな解放感をもたらす。
五分後、吸い殻をゴミ箱に捨て、俺は並木道を歩き始めた。
黄色く色づいた葉が、歩くたびにカサカサと音を立てる。
曲がり角に差しかかった、その時だった。
視界の端に、奇妙な光が映り込んだ。
枯れた草の中で、何かが脈打つような緑色の光を放っている。
近づいてみる。
それはただの金属片ではなかった。
USBメモリと、小型パルサーデバイスを組み合わせたような、奇妙な未来的ガジェットだった。
周囲を見回し、誰もいないことを確認してから、俺は慎重にそれを拾い上げた。
その瞬間、装置の内部から、心地よいが冷たい女性の声が響いた。
【生命体を検出。DNAの取り込みを開始します】
その奇妙な物体は瞬時に極細のマイクロブレードを射出し、俺の手のひらを切り裂いた。
「痛っ! なんだよ、これ!?」
俺は叫び、反射的に手を引っ込めた。
痛みは鋭かったが、傷はそれほど深くなかった。
金属の表面に、俺の血が一滴残っている。
【同期プロセスが完了しました】
「何のプロセスだよ!?」
俺はパニックに陥り、誰もいない並木道に向かって叫んだ。
目を見開き、血の気が引いた。
一秒たりとも考えることなく、俺はその忌々しい金属片を全力で蹴り飛ばした。
装置は回転しながら、遠くの茂みの奥へと飛んでいった。
しかし、頭の中から——それとも、空気そのものから?——響く声は、冷淡に告げ続けていた。
【異次元転送を開始しました。2%……5%……12%……】
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