運命との再会
「悠、そろそろ起きなさい。」
「……うーん、おはよ。もうついたの?」
お母さんに肩を揺すられ目を覚ました僕ははやる気持ちを抑え、窓の外に目をやりながら尋ねた。
「あと三十分くらいかかるけど、近くのお店がここだけだから買い物してから向かおうと思ってな」
「お義母さんお醤油切らしてるみたい。買うついでに悠もお菓子とか好きなだけ選びなさいな」
「やった!」
小さなスーパーの駐車場に入り車を止め三人で店に入る。
両親から離れてお菓子棚でお菓子を物色しながらさっきの夢の中で見た前世のことを考えていた。多分おばあちゃんの住んでいる所が前世の僕が暮らして悲しい最期を迎えたあの村があった場所なのだろう。近づくにつれて魂が反応した結果思い出すに至ったのかもしれない。すべてを思い出した今無性に暁月様に逢いたい気持ちでいっぱいだった。あの人は僕の魂から惹かれあった運命の人なのだ。それは生まれ変わった今でも変わらない。きっとあの場所で約束通り僕の帰りをずっと待っているはずのあの人に、ただいまと待たせてごめんとありったけの愛を伝えよう。今度は僕から求婚するのもいいかもしれない、少なくともあと八年は無理だけど早く大人になりたい。
考え事をしながらもお菓子をかごに詰めもう十分かなとその場を離れようとしたらちょうどお母さんたちが迎えに来た。
「悠、決まった?」
「うん!ちょうど選び終わったとこ」
レジに向かいお菓子でパンパンになったレジ袋を持って車に乗り込みおばあちゃん家に向かうのだった。
橋を渡ってしばらく進むと集落が見えてきた。
「ほら、あの奥の山の麓にあるお家がおばあちゃん家よ。着いたらちゃんと挨拶するのよ、お母さんたちは挨拶済ませたらすぐに帰るけどおばあちゃんの言う事聞いて良い子にしてるのよ」
「わかってるよ」
僕は窓の外の景色に思わず目を奪われた。山に囲まれているだけあって緑が生い茂り、畑や田んぼの中に家が点々と並んでいるのどかな風景が広がっている。もうこの地にはひとりしか住人がいないのはどこかもの悲しさを覚えた。前世のころから結構な年数が経っているはずなのに懐かしさがこみあげてきて涙ぐみそうなのを両親に察せられないよう必死に堪えた。
おばあちゃんの家に近づいていくにつれて確かここはお社に続く道じゃなかったかなとか考えているとやがて家に着いておばあちゃんの白い軽自動車の隣にキキっと車を停めた。
「よーし、到着!」
車から降りて荷物を下ろしていると先に降りていた父さんがチャイムを鳴らした。パタパタと家の中から足音がしてガラガラと扉が開きエプロン姿のおばあちゃんが顔を出す。
「はーい、待ってたわよいらっしゃい」
「ただいま、母さん」
「こんにちは、お義母さんお世話になります。」
「おばあちゃん!こんにちは」
「はい、こんにちは。久しぶりねぇ、遠かったでしょう?少しだけでもお茶でもどうかしら?」
「それじゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します」
◇
昔ながらの日本家屋というものが物珍しくキョロキョロと見回しながら皆の後を追いかけた。リビングに通されて座って待ってると母さん達は氷の入った麦茶、僕にはオレンジジュースを出してくれた。
母さん達はおばあちゃんと少し話してお茶を飲んだらもう帰らないといけないからと忙しなく帰っていった。
「全く忙しないわねぇ。さて、悠くんお腹空いてない?お素麺なら冷蔵庫に冷やしてあるからすぐに出せるんだけど」
「そうめん嬉しい!ちょうど僕お腹空いてたんだ手伝うこととかある?」
「それじゃあ、お皿とお箸出してもらおうかしら。そこの食器棚にあるから適当に取ってきてくれる?おばあちゃんお素麺用意するから」
「はーい!」
テーブルに素麺と汁の入ったお椀、箸を並べおばあちゃんを向かいあって食べた。
涼しげな透明な器に氷と共に盛りつけられた素麵はなんと色つきのも混ざっており歓迎してくれているのかなと嬉しさが込み上げてきたと同時に、初めて見る色付きの素麺はテンションがあがる。
にこにこと見守られあっという間に食べ終わり麦茶を流し込む。
「ごちそうさまでした!お昼ありがとう、おばあちゃん」
「いいえ、簡単なのでごめんなさいね。もうずっと一人で寂しかったから、やっぱり誰かと一緒にご飯食べるっていいわね。悠くんがこの夏休みに来てくれるってなってうれしいわ」
「これからはずっと一緒に食べられるよ。楽しみだね」
「ええ、そうね。それにしても悠くん、テレビ電話はしてたけれど本当に久しぶりねぇ。なんかすごく見違えたわ大人っぽく見える――何かあった?」
そう言ってすべて見透かすような目で優しく問いかけてきた。
おばあちゃんになら話してもいいかもしれない、きっと笑わずに信じてくれるそんな気がした。
「おばあちゃんは前世って信じる?実は来る途中に夢で――」
おばあちゃんは僕の長い話を真剣に聞いてくれていた。
すべて話し終えた僕はどんな反応が返ってくるのか少し不安な気持ちを麦茶で流し込んだ。
「そう……、すべて思い出したのね」
「え?どういうこと?」
「これはあなたのお父さんにも話していない夏代家の代々受け継がれてきた話――」
夏代家はこの地で神の住処を守ってきていた家系なのだそうだ。
何かに導かれるかのようにこの地に流れ着き、透き通るような美しい泉に住む白い大きな美しい蛇を見つけ神聖なものだと悟った祖先が泉の畔にお社を建てて神様を祀り良き隣人として関わっていた。
純粋な信仰を捧げ神の住処を綺麗に保ち決して見返りを求めずを代々徹底して守ってきた。
神様を祀ったことによりいつしかこの地は作物がよく育つすごく豊かな土地となり外から人が移り住みそこそこ大きな集落となった。
ある時何日も日照りが続き作物の育たない年があり集落の長が神に生贄を捧げれば雨を降らせてくれるかもしれないと若い娘を生贄として捧げたら次の日待ちわびていた雨が降った。
それから不作の年には生贄を捧げれば助けてもらえるなどという間違った認識が蔓延した。
定期的に清掃をしている夏代家の者だけが泉に漂う穢れがあることに気付いた。
生贄として捧げられた者は神様がこっそりと外に逃がしていたが、たいていが無理矢理生贄として連れて来られるためその負の感情が穢れとしてその場に残り続けているのだと悟った正義感の強かった次男が長に生贄をやめるよう長に楯突いた。
結果生贄を辞めさせることには成功したが楯突いたことに怒った長によって本家に戻ることも泉に近づくことも結婚して子孫を残すことも禁じられた次男は集落の外れで一人細々と暮らすことになった、この男が後に前世の悠を拾ったおじいさんね。
関わることを禁じられていたものだから記録がなくてね、ある日他所から来た子供を匿っているっていう噂を聞いた数日後過激な村人達によって家に火をつけられ死んだことを神様から聞かされたと伝わってるの。
最愛を殺され怒り狂った神様はそれから三日三晩その地は闇に包まれ、豪雨に見舞われたが神様になんとか怒りを収めてくれるよう乞い願ったことにより事態がおさまったの。
「――それから100年は経つのよね神様からこの家系にきっと生まれ変わってくるのだと伝わってたけど、まさか本当に悠がそうだなんてねえ……」
「え、うそ……」
「あなたが生まれた日、珍しく夢渡で最愛の生まれ変わりが戻ってきたとそれはもう嬉しそうに伝えに来てね神様はお社を離れられないから、私が代わりに様子を見て伝えてきたけれど前世を思い出す素振りがなかったから……でもやっぱりこの地がトリガーになったみたいね」
「……そうだったんだ」
「それで?前世を思い出した今、悠くんはこれからどうしたいかしら?どんな選択をしたとしてもおばあちゃんはその気持ちを尊重するわよ」
「僕は、暁月様と今度こそ結婚して一生一緒に幸せになりたい!
ただいまとずっと待たせてごめんって言わないと、僕が待っててって言ったせいであそこに縛り付けてしまってるんだろうから早く解放してあげないと」
「そう、心は決まっているのね。家の裏山が泉よ。ずっと待ってるはずだから、いってらっしゃい」
「ありがとう、おばあちゃん。いってきます!」
◇
おばあちゃんに送り出され家の裏山にあるお社までの参道を歩く。
爽やかな風が吹き周りの木々をざあっと揺らす。澄んだ空気に包まれてやっと帰って来られたと安心感に包まれた。待ってくれてるってばあちゃんは言ってたけど死んじゃった僕に幻滅してたりしないだろうかと少し恐怖を感じながらも歩みを進める。
泉とお社が見えてきた。少し寂れてはいるけれど変わらずの美しい風景に息を呑む。お社の前でこちらに背を向けている暁月を見つけると少し迷いながらもその背に駆け寄り抱き着いた。暁月はビクッと驚いた後こちらを振り返り泣きそうな表情で優しく抱きしめてくれた。
「暁月様、ただいま。沢山待たせてごめんなさい」
「ああ、おかえり。悠……この100年ずっとお前のことを想って待っていた。……愛しいお前に再び逢えたことが、私はとても嬉しい」
「……僕、暁月様に伝えたいことがあるんだ」
「なんだい?」
「僕この町にくる途中やっと前世の事を思い出したんだけれど、思い出したからとかじゃなく、僕自身もこの身に宿る魂も貴方が愛しくてたまらない。僕が結婚できる歳になったら僕と結婚してほしい。今度こそ一生貴方のそばに居たい」
「……!ああ、今度こそ必ず」
僕の言葉を聞いて暁月は大きく目を見開いたかと思うとぽろぽろと大粒の涙を流し何度も頷き約束をしてくれた。約束が交わされた音なのだろう、リンッと辺りに澄んだ清らかな音が鳴り響く。
キラキラと光に反射して輝いていてまるで宝石のように見えるその雫に手を伸ばして拭いながら僕も涙が込み上げてきた。
魂が惹かれあい結ばれた矢先災難に見舞われ引き裂かれた2人が今ようやく再会できたのだ。祝福するかのように降り注ぐ光のなかでしばらく2人は抱き合って歓喜の涙を流していたのだった。
しばらく経ち涙が引いてきた2人は泉のそばに横たわる丸太に腰掛け言葉を交わす。出逢って結ばれてすぐに離れ離れになったものだから僕は暁月について知らないことも多い。でもそれはこの先一生側にいることを誓った手前些細なことで知らないことはこれから知っていけばいいのだ。
今は愛する人のそばにいられるて言葉を交わせるということがただただ嬉しくてこの時間がずっと続けばいいのにそう願うも、楽しい時間というのはすぐに過ぎ去ってしまうもので空は夕焼けで赤く染まりカラスがカァカァと鳴いている。
「……もうそろそろ帰らないと」
「そう寂しそうな顔をせずともまた明日もここに来れば会えるだろう?名残惜しいが今日はもう暗くなる前にお帰り」
寂しくなって暗い顔をしてた僕の頭を撫でて宥めた暁月は額に口づけを落として送り出してくれた。
家に帰るとおばあちゃんが優しく出迎えてくれた。
すべてお見通しなおばあちゃんは赤飯炊いて待ってくれていたみたいで用意してくれた夕飯を食べてお風呂に入ったら疲れが出たのかそのまま早めに就寝した。




