20話 でーと 1
廃城塞エリアの攻略を始めて七日。
今日は冒険者をお休みして、ノクサラさんとアザレアさんと私の三人で、デートをすることにした。
ルーシッド・エデンでの冒険が長く続き、私たちも疲労が溜まってしまったのも理由の一つだ。
加えて、廃城塞エリアはスコア収入の調子が良く、アップロードされた私たちの映像に支援金が贈られ、懐と生活に余裕が生まれ始めたことがきっかけだろう。
支援金の内訳は、パラデイソポリスに住まうヒッポフォロスの方々が多いらしく、ノクサラさんは『強ぇコミュニティだ』と語っていた。
クランに所属していない新人冒険者の映像には、ここまで支援金を贈ってもらえたり、視聴回数が伸びることがないらしい。
支援をしてくれるのは嬉しいし、この恩はいつか返せたらと、私は考えている。
支援者の中には、ノクサラさんの知り合いである、キンキラ男さんもいたらしく、三万カルタという高額の支援金を贈ってくれていた。
支援金には、コメントという伝言を付け加えることができるのだが。
『ファミリオグラフの品質と撮影の仕方が良くないし、編集技術も足りていない。主軸となっているであろう弓使いは、画角に映りきっていないことが多く、見せ方を考えた方がいい。それと陣形の要である徒手空拳の女をもっと映せ―――(以下略)』
と長文での指摘をいただいてしまった。
ノクサラさんは面倒くさそうな表情を露わにし、アザレアさんは口を尖らせていた。
私たち『アローズ』には、たくさんの課題があるらしい。
そんなこんなで、待ち合わせ場所に到着すると、待ち合わせ時間十五分前なのにも関わらず、ノクサラさんとアザレアさんが既に待っていた。
「お二人とも早いんですね。なんか、遅れちゃった気分です」
「ノクサラさんは私より前にいましたよ」
「…ちと早く着いちまっただけだよ、特に意味はねえっての」
「ノクサラさんもお茶目するんですね」
「…うっさ」
ノクサラさんはいつもとあまり変わらない服装だが、よく見るとところどころに装飾品が付けられていたり、髪型がいつも以上に整えられている。
クールというのはこういう格好なのだろう。
アザレアさんは落ち着いた大人の女性を思わせる服装で、赤い髪が波打っており、とてもお洒落な雰囲気だ。
ああいった服装が似合う姿は非常に憧れる。やはりスタイルの良さが樹異様なのだろうか。
「ノクサラさんの耳飾りって、ピアスっていうやつですか?」
「そうだけど、興味あんの?」
「はい。綺麗でカッコいいなって思いまして」
「へぇ。穴開けることになるけど、それでもいいのか?」
「えっ?!そのぉ……痛くないんですか?」
「チクッと…いや、そこそこに痛いぞ」
「そうなんですね…。ちょっと考えます」
「あっそ」
ノクサラさんの左耳には、二つのピアスが飾られており、それらを細いチェーンが繋がっている。
二箇所も穴を開けるなんて、すごい勇気だ。
「アザレアさんの波打つ素敵な髪って、どういう風にやっているんですか?」
「素敵…!…コホン、就寝前にカーラーで髪を巻くと、こういった髪型にできますよ。コハクさんもやってみますか?」
「私に似合いますか?」
「そうですねぇ。コハクさんなら…就寝前に二本ほどの三つ編みを作り、緩いカールにすると良いかもしれませんね」
「おぉ!今度、教えてください!」
「ええ、喜んで」
パラデイソポリスにはパラデイソポリスのお洒落があるのだから、そういったものも楽しんでいきたい。
「それにしても」
「えぇ」
「コハクって、こっちの服を持ってたんだ?」
「可愛らしい衣装ですけど、ヒッポフォロスのものですか?」
「ふふん。デートに行くとジェルブ・ドールの方々に話したら、お古の服を私向けに仕立て直してくれました。えへへ…似合ってますかね?」
子供向けの服を、ちょっと落ち着いた雰囲気に整えてもらった。
代金を支払おうと提案したものの、いつか寄付するものだから、必要ないと断られてしまったので、デート中にお礼のお菓子でも買って帰ろう。
「…まぁ、可愛いと思うぞ」
「うふふ、とっても新鮮ですし、ファミリオグラフで映像を残したいと思うほどの可愛さです。どこかで写真を撮りませんか?」
「おお、いいですね!初デート記念です!」
「初デート…ぐっ」と言ったアザレアさんは力強く握り拳を作り、「いいけど…」と呟いたノクサラさんは照れた表情で明後日の方を向いてしまう。
「ところで、デートってなんなんですか?」
「…知らんかったんかい」
「遊びにいくって感じは伝わってきたんですけど、ジェルブ・ドールの女性の方々に話したら、皆さんやる気を出していまして」
「アザレア…どうすんだよ。言い出したのはアザレアだろ?」
「デートというのはですね、事前に待ち合わせをして、その日一日を楽しむ行為のことです。異性とのことを指す文脈が多いですが、同性とすることも少なくありませんから、問題ありませんよ。いいですかコハクさん、前時代的な言葉に囚われてはいけません、一日を楽しむことに異性も同性も、二人だろうと複数人だろうと関係ないのです」
「な、なるほど。…とりあえず、誰かと遊ぶときはデートって言うんですね?」
「それは違う」
「それは違います」
どうやら難しい概念らしい。
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