13話 晩酌 1
夕食とお酒を買い、私たちが宿屋『ジェルブ・ドール』に辿り着いた頃には、時刻は二〇時となっていた。
もう、完全に夜だ。
「コハク」
「なんですか?」
「コハクって、ジェルブ・ドールに泊まってるのか?」
「そうですけど?」
ノクサラさんは難しい表情を浮かべており、なんだか大変そうだ。
「ジェルブ・ドールって、スフル・デュ・クラージュの本拠地じゃねえか…」
「はい。スフル・デュ・クラージュの皆さんには、親切にしてもらっていまして、面接には落とされちゃいましたが、頭が上がらないです」
「ヒッポフォロスって同族に対する情が厚いって聞いたが、エラフォロスも同族扱いなのか…?…まあいいや、とりあえず部外者であるアタシたちが、コハクの部屋に泊まっていいかどうかを聞いてきてくれ。クランの本拠地ってのは、大事な場所なんだよ」
「そうなんですね、わかりました」
納得した私が大急ぎで宿に戻り、女将さんに許可を取ってみると、即決での快諾がもらえた。
そのことをノクサラさんに伝えてみると困惑していたが、改めて三人で女将さんと話し、納得できたようだ。
「コハクちゃんのパーティメンバーなら大歓迎よ。一応だけど、私たちヒッポフォロスを侮辱しないことが条件だけどね」
「承知しました」
ノクサラさんは丁寧な言葉で女将さんと話をし、食堂の席に着いた。
「そうそう、二足種族用の椅子の用意はなくって、ごめんなさいね」
「座れないわけじゃないんで大丈夫です。お腹が大きく大変だと思いますので、ワタシたちのことは気にせず、お休みください」
「ふふっ、そうさせてもらうわね。コハクちゃん、食器はいつも通りお願いしてもいいかしら?」
「はーい、任せてください」
女将さんを見送ってから、私とアザレアさんは顔を見合わせ、ノクサラさんに視線を向ける。
「…なんだよ」
「私たちにも、丁寧な言葉遣いで喋ってほしいなって思いまして!」
「身なりをしっかりと整えて、ちゃんとした口調になったら随分と印象が変わるのではありませんか?」
「うっさ、二人ともダルすぎ」
不機嫌そうなノクサラさんに謝りつつ、私たちは三人で食事をした。
「そういえば、ヴァン・フェールのメインメンバーはいないのか?」
「この前からボス級討伐に挑戦中のはずです。ワールドノーアーっていう大きなヘビだったような」
「ワールドノーアーか…」
「ワールドノーアーですか…」
「ご存知なんですか?」
「まぁ…有名どころというかなんというか」
「今現在、未討伐のユニーク種ボスの一体でして、討伐したとなれば多方面で話題となりますね」
「配信業界は大盛り上がり間違いなしだ。ヴァン・フェールってリアルタイム系じゃないから、アップロードを待たないといけないんだよなぁ。成功しようとしまいと、配信が気になる」
どうやら、ヴァン・フェールの皆さんはすごいことをしているらしい。
「コハクさんって、ヴァン・フェールのフォロワーなのですか?」
「ふぉろわー…?」
「配信者パーティを応援している人のことをフォロワーと呼びましてね」
「コハクはそういうの全く知らないんだ。配信も観たことないらしい」
「え?!」
「恥ずかしながら、パラデイソポリスに来てから忙しくって、ほとんどの魔導具の使い方も分からないんです」
「えっ!??!」
私が恥ずかしがっていると、アザレアさんは僅かばかり考え込み、ノクサラさんに耳打ちをしてから頷く。
「今度、わたしとノクサラで配信を見れる環境を用意いたしますから、楽しみにしていてくださいね」
「そ、そんなことまでしてもらうわけにはいきませんよ」
「大丈夫ですよ、わたしとノクサラのお古を使えば、簡単な環境くらい整いますから。娯楽もなしに生きるなんて悲しすぎますよ」
「娯楽云々はともかく、配信者ってのがどういうものなのか知らなけりゃ、いくら実績を積もうが、勉強をしようが意味がない。…前に使い方を教えてやるって言ったし、その延長だ」
「その、ご親切にありがとうございます」
「どういたしまして」
「気にすんな」
そこまでしてもらっていいのかという疑問は残った。
しかし、今後を見据えて必要だというのなら、お二人の言葉に甘んじるのも選択肢なのかもしれない。
いずれ、しっかりと恩を返せるようにならないと。
「それで情報の精査ってどんなことをするんですか?」
「できることが分かればそれでいい」
「それでは新参であるわたしから」
アザレアさんは上品に食事をしながら、腰に着けていた赤黄青のアーケイン・プロキシを机の上に置く。
「わたしアザレア・セルヴィーノはプロキシ・キャスターという、魔導具『アーケイン・プロキシ』を使用する魔法使いです。この三種は、赤は炎の広範囲魔法、黄色は雷の単体高威力魔法、青は氷の妨害魔法となっております」
「色によって違う魔法が使えるんですね」
「…あれこれ聞く気はないが、とんでもなくマイナーな魔導具だよな。そもそも流通してるのか?」
「まあ…一部の魔導具店でのみ」
「なにか特殊なんですか?」
魔導具のことは詳しくない。何がマイナーなのか、何が特殊なのかとか、そういうものを理解するのが難しい。
「詳細は長くなってしまうので省きますが、魔導具というのは一つの魔法を使うのが精々。…分かりやすいものでいうと、厨房にある火を起こす魔導具です」
「でも黄色いアーケイン・プロキシでいくつかの魔法を使ってましたよね?」
「はい。アーケイン・プロキシというのは、魔導具に設定された魔法を使用するだけのものではなく、離れた地点から安全に魔法を使える魔導具です」
私にも分かるような説明だと、アーケイン・プロキシ内に魔力を溜めておき、詠唱をすることでアーケイン・プロキシから魔法が放たれるらしい。
アーケイン・プロキシそのものの操作と、魔力を練るための集中力が必要で扱いが難しく、使用者が限られているとのこと。
離れた地点から魔法を使えるトリッキーな魔法使い。
アザレアさんは心強い方のようだ。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




