第11章 二学期 第370話 巡礼の儀―⑦ レティキュラータスの戦うメイドさんたち
「さて……もう一度命令する。今すぐに監禁部屋へと戻れ、人質たちよ」
そう言って、ウィクトルは杖をつきながら、俺たちに声を掛けてくる。
そんな彼に、メアリーは声を荒げた。
「ヴィクトル! 貴方が恨んでいるのは、私だけのはず……! 他の一族や使用人たち、村の子供たちは即座に解放しなさい! それでも貴方は騎士公の血を引く貴族なのですか! 騎士道精神はどこにいったのです!」
「お前は何を言っている? 我らオルベルフは、長年レティキュラータスを排斥してきたバルトシュタインに魂を売ってでも、お前たちに復讐を果たすことを決めたのだ。私は……もう、老先が短い。自分が存命の間に、何としてでも我が手にレティキュラータスを取り戻さなければならぬのだ」
暗い瞳。妄執に囚われた老貴族、か。
この世代の人間……まぁ一応俺もそうなんだが……俺が生きていた時代の人間は、どうしても、今を生きる者たちよりもたちが悪いように感じられる。
ゴルドヴァークやキュリエールのように、自分の中に確固たる曲げない野心や信念を抱いている。こういう連中は、話し合いで止めることなどできるはずがない。
「ヴィクトル、貴方たちは今、バルトシュタインに良いように利用されているだけです! 今のレティキュラータスがどうなっているのか知っているのですか!? 領民たちを虐げてまで、何を求めるというのです!! この先に残されているのは、疲弊した土地と労働力として生かされ選別された領民たちだけですよ! そんなレティキュラータスを支配して、何となるのです!!」
「黙れ、メアリー。この先に残されるものなど、知ったことではない。どうせオズワルドが領主となった時点で、この地は終わりだ」
「だったら……!!」
「私は、私が生きている間にこの土地を取り戻すことができれば、それで良いのだ。手塩に掛けて育てた孫娘も、結局はロザレナに敗北し、剣王になることができなかった。ならば、後に残されたのは、より強大なものの手を借りてこの地を支配するのみ。ロザレナが災厄級の因子として狙われているこの状況は、千載一遇の好機と言わざるを得ない状況。今我らが本家を乗っ取れば、世間の目もクーデターには映らないだろう。故に、今、我らオルベルフは動いたのだ。今この時しかないのだ」
「狂っている……!!」
「狂わせたのはお前だ、メアリー。対抗馬だった姉を倒し、あともう少しでレティキュラータス家の家督を手に入れられたという状況で、騎士学校を卒業したお前は突如頭角を現した。まさか、一番敵として見られていなかった末妹であるお前に、全てを奪われるとは思いもしなかったぞ。あれから六十年。私は、ずっと、騎士公の地位を追い求め続けているのだ」
ヴィクトルが手を上げた瞬間、彼の背後にいる聖騎士たちが剣を抜く。
「大人しく監禁されていた部屋に戻るのならば良し。戻らぬのならば……自ら戻るまで、子供を一人ずつ殺していく。お前は領民が大事なのであろう? お前の息子もそうだったからな」
「外道め……!!」
メアリーがそう口にした瞬間、ぞろぞろと、聖騎士たちがこちらに近寄って来る。
するとクラリスが前に出て、声を張り上げた。
「私が身代わりになります!! 我が存在を認識する者よ、我を見よ――――――【アトラクトアテンション】!!」
何かの魔法を詠唱するクラリス。
その瞬間、聖騎士たちの顔が、一斉にクラリスへと向いた。
「な、なんだ、これは……!」
「あの甲冑を着たメイドにしか、視線を向けられないぞ……!」
聖騎士たちがクラリスを見つめながら、驚きの声を上げる。
俺は咄嗟に、隣に立つクラリスへ声を掛けた。
「クラリスさん、今の魔法は……」
「妨害属性魔法です、アネット先輩。この中三級妨害属性魔法【アトラクトアテンション】は、私と目が合った人間に対して、私以外に視線を向けることを禁じる魔法です。これで、私が倒れるまでは、いくらかの時間稼ぎはできるはず……今のうちです、アネット先輩! みなさんを連れて、村へ行ってください!」
「……自分を犠牲なさるおつもりなのですか」
俺がそう問いを投げると、クラリスは申し訳なさそうに微笑を浮かべる。
「私……レティキュラータスのお屋敷に来たのは、ロザレナお嬢様に近付いて付き人になって、騎士学校に行くためでした。でも、今はちょっと違います。レティキュラータス家の皆さんの温かさに触れて、このお屋敷の皆さんのことが大好きになったんです。私が目指すのは、高潔な騎士です。あのような紛い物たちとは、違います」
そう言って、聖騎士たちを睨みつけるクラリス。
そんな彼女に、聖騎士たちは馬鹿にするように笑い声を上げた。
「高潔な騎士だと? 今時そんなもの、御伽話の中だけの存在だろ」
「俺たち元犯罪者上がりの黒獅子隊には、関係のない話だな。騎士学校上がりの新人聖騎士は、そういう青臭い奴も多いが……全員、現実を知って、そんな理想なんて語らなくなっているぜ? 今の聖騎士団っていうのは、力こそが全ての組織だ。お前みたいな騎士道を重んじる奴なんて、最早いねぇんだよ!!」
ギリツと悔しそうに奥歯を噛み締めるクラリス。
俺はそんな彼女を一瞥した後、背後に立っているコルルシュカへ、ナイフを手渡した。
「コルルシュカ。前に教えた暗歩は、忘れていませんね?」
「はい、アネットお嬢様」
「良し。ならば、一掃します」
俺はそう言って、箒丸を肩に乗せて前へと出る。
コルルシュカも同様に、前へと出た。
その姿を見て、クラリスは驚きの表情を浮かべる。
「ア、アネット先輩!? コルルシュカ先輩!?」
「水臭いですよ、クラリスさん。私たちは、同じ、レティキュラータス家のメイドでしょう? みんなを救うのに、貴方を犠牲になんてさせませんよ」
「アネット様の言う通りです。一番新人メイドの癖して、貴方は少し格好つけすぎですよ、クラリス」
隣に並んだ俺とコルルシュカの姿を見て、クラリスは目を潤ませる。
だが、すぐに目元を袖で拭うと、拳を握り、戦闘態勢を取った。
「私は……貴方がたのような尊敬に値する先輩を持てて、幸せです。はいっ! 一緒に行きましょう、先輩っ!」
迎え撃とうとしている3人のメイドに対して、聖騎士たちはニヤニヤと笑みを浮かべながら歩いて来る。
俺は、手前に立つ斧を持った聖騎士を見て、静かに口を開いた。
「……まずはクラリスの武器を調達するか。コルルシュカ、あの斧を奪えますか?」
「はい。クラリスの魔法のおかげで、こちらに意識が向いていない分、近寄るのは簡単そうです。―――――【暗歩】」
コルルシュカは背後へと下がると、気配を薄くさせる。
そして、手前の騎士の側へと現れると、手首にナイフの柄を当てて、斧を落とさせた。
「なっ……!? こいつ……いつの間に!?」
コルルシュカは完全に落ちる前に斧を拾うと、それを、クラリスへと投げた。
「クラリス、これ」
「え、あ、はい!」
自身に向かって投擲された斧を、クラリスは見事にキャッチする。
「くっ、あの鎧甲冑のメイドにしか顔を向けられないが……お前如きただのメイドを斬るのだったら、勘でも大丈夫だろ!!」
斧を取られた騎士の近くにいたもう一人の聖騎士が、コルルシュカへと剣で斬りかかる。
「クラリスさん。あの騎士の攻撃からコルルシュカを守ってください」
「え?」
「ほら、早く」
「は、はい!」
俺の掛け声でクラリスは前に出ると、コルルシュカを守るようにして彼女の前に立ち、斧を横にする。
大の男が放った上段の剣だったが……クラリスは難なく斧の刃で受け止める。身体は、びくともしていなかった。その身体からは、まだコントロールはできていなそうだが、薄らと闘気の気配が見て取れる。
(やはり、クラリスには、前線に立って味方を守る……剛剣型重戦士タイプの剣士の才能があるな)
元々、アステリオス家は、重戦士型の剣士を排出していた御家だと聞く。
ルーファスはどう見ても前線に立つタイプには見えなかったが、クラリスの方は見たところゴリゴリの前衛タイプのようだな。
「こ、この、たかがメイドどもがぁ……!!」
「視線誘導の魔法も、大元を辿ればあの鎧甲冑のメイドの仕業だ! 全員で先にあいつを叩くぞ!」
ヘイトが集まっているクラリスに対して、騎士たちは徒党を組んで向かって行く。
流石に、あの未熟な二人ではまだ多数の敵を処理するのは荷が重い、か。
俺は箒丸を手に握って、前へと出る。
すると、マグレットが慌てた様子で俺に声を掛けてきた。
「ア、アネット! いったい何をする気だい!?」
「お婆様。このお屋敷を汚したあのゴミたちは……レティキュラータスのメイドとして、私が責任を持ってお掃除致します」
「待つんだ! お前さんを危険な目に合わせるわけにはいかないよ! 私は、アリサと約束したんだよ! この身を引き換えにしても、お前さんを守ると……!! だから……!!」
「お婆様。覚えておいでですか。幼い頃、中庭で箒を振り回していた、あの時。貴方に捕まった私は、いつも貴方にこう言っていましたよね」
―――――――――――俺は、世界最強の剣聖だ、と。
「だから、安心してください。私は、大丈夫です」
俺は地面を蹴り上げ、騎士たちの集団へと向かって駆け抜ける。
そんな俺の姿を見て、聖騎士たちは笑い声を上げた。
「おい、三人のメイドの内の一匹が、こっちに向かって来るぞ!」
「ハハハハハ! あっちの二人よりか弱そうな見た目の奴だな!」
「俺らと遊んでくれよ、巨乳メイドちゃーん」
下卑た笑い声を上げる聖騎士たち。
あいつらごときに、歩法を使用する必要もない。
悪いが……いつも汗水垂らしてピカピカにロビーの床を雑巾掛けしているメイドの一人として、この一刀に、恨みを込めさせてもらおう。
マグレットやコルルシュカやクラリス、俺たちメイドの恨みを思いしれ。
煙草のポイ捨ては、絶対に許さねぇぞ、この野郎!!!!
そして、俺は、聖騎士たちに向けて一気に箒丸を横に振り放った。
「【旋風剣】」
突如巻き起こった風圧に、聖騎士たちは立つことすらできず。彼らの殆どは、空中へと舞い上がった。
「なっ、なんだ、これはぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「い、いったい、どこから、風がぁぁぁ……!?」
7人の聖騎士たちは、為す術もなく。そのまま、ヴィクトルの横を飛んで行き、後方にある壁へと叩きつけられた。
「…………は?」
ドシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
ヴィクトルが声を溢すと同時に、背後で、土煙が巻き上がる。
棒立ちしていたヴィクトルは、先ほどまでのシリアスな様子とは一変、意味が分からないと言った様子で背後を振り返ると、壁にめり込んで気絶している騎士たちを見て、呆然となる。
背後にいるマグレットたちも目を点にして、あんぐりと口を開けて驚いていた。
「……す、すごすぎます」「な、なに、これ……」
いつも無表情だったコルルシュカも驚きの表情を浮かべ、二人の聖騎士と交戦中だったクラリスも、思わず硬直していた。
俺は箒丸でヒュンと空を切ると、構えを解く。
そして、背後の二人へと、肩越しに振り返って言葉を投げた。
「接敵中に気を抜かないでください。クラリス! 貴方は、敵の攻撃を防ぎつつ、敵兵のヘイトを集め続けなさい! けっして、コルルシュカに剣が向けられないように!! 貴方と違って、コルルシュカは紙装甲です!! 彼女は貴方が守るのです。良いですね!!」
「は、はい!!」
「コルルシュカ!! 貴方は、クラリスが敵の隙を作った時に、【暗歩】を使って敵の背後へと忍び寄り、敵の足にナイフを突き立てなさい!! 足さえ奪えば、機動力は無くなります!! クラリスが防衛している間、コルルシュカが攻め手になるのです!!」
「わ、分かりました!!」
「レティキュラータス家のメイドとして……奮闘しなさい!! 良いですね!!」
「「はい!! メイド長!!」」
いや、俺はまだ次期メイド長なのだが……。
二人はさっそく、残った二人の聖騎士と戦闘を開始する。
「く、くそぉ!! なんなんだ、あのメイドはぁ!!!! 仲間の聖騎士たちが、箒を持ったたかがメイド一匹にやられるなんて……そんなふざけた話、あるわけないだろうがぁ!!!!」
「こ、こいつら二人を倒して、人質にするぞ!! そ、それしか、あの箒を持ったメイドを止める手段はねぇ!!」
クラリスに向けて、連続して剣を振る聖騎士二人。
クラリスは器用に斧を使って、その猛攻を何とかギリギリ耐えていった。
「くっ……! 二人がかりは流石に、少しきつい……!!」
「はっはっはっ!! 防戦一方だな!!」
煽られたクラリスは、斧を使って、右側にいた聖騎士に斬りかかる。
だが、その攻撃は簡単に避けられてしまった。
「残念。お前、防御は上手いが、攻撃はてんで下手だな」
攻撃の動作を取ってしまったせいで隙だらけとなったクラリスの胴体に、剣が放たれる。
鎧甲冑に剣を受けて、後方へとよろめくが……クラリスにダメージを負った気配はなかった。
「チッ。硬いな。闘気使いか?」
「だが、この鎧メイドに攻撃力はない。これだったら、お前の体力が切れるのを待った方が良さそうだ!!」
「……ッ!!」
苦悶の表情を受けながら、二人の騎士の攻撃を捌くクラリス。
確かに、防衛しかできない剣士に、持久戦はもっとも効果的な戦略と言えるだろう。
だが―――――――――。
(俺は、お前たち二人が、この窮地を乗り越えられる器を持っていると信じている。もし、俺がこの屋敷にいない時……レティキュラータスを守ることができる力を持っているのは、お前たちだけだ。だから、強くなれ、クラリス!! コルルシュカ!!)
「ですが……諦めません!! 私は、このお屋敷のメイド、そして、今は無きアステリオス家の末裔なのですから!! うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
クラリスはそう叫ぶと、斧を強く横薙ぎに振り、聖騎士二人の剣を弾いて体勢を崩してみせた。
「今です!! コルルシュカ先輩!!」
「了解、クラリス」
コルルシュカは聖騎士たちの背後に現れると、通り過ぎる間際に、足の関節をナイフで瞬時に切り裂いていく。
足の腱を切られた騎士二人は、その場に崩れ落ちていった。
「あ、足が……!! こ、こいつら、動きはてんで素人の癖に、とてつもなくコンビネーションが良いぞ……!!」
「た、たった三人のメイドに負けたのか? 俺たちは……!!」
地面に倒れ伏した騎士たちは、足が動かなくなったことで戦闘意欲を無くしたのか……地面に剣を捨てる。
クラリスはその姿を見て、ゼェゼェと荒く息を吐きながら、パチパチと目を瞬かせた。
「防御するしか脳のなかった私が……聖騎士を、倒すことが、できた……!! アネット先輩の指示とコルルシュカ先輩のおかげだけど、私……初めて戦いに参加して、勝つことができたんだ……!!」
そう呟くクラリスの前に、コルルシュカが現れる。
二人はお互いに笑みを浮かべると、パシンと、ハイタッチした。
「やるじゃん、後輩」
「コルルシュカ先輩こそ!!」
お互いを労う二人を見て、俺は笑みを浮かべる。
「やりましたね、二人とも」
そう声を掛けると、マグレットが俺に向けて口を開いた。
「アネット……お前さん……いったい、その剣の腕は、いつ……」
「お婆様。説明は後です」
俺は振り返り、最後に残ったヴィクトルへと目を向ける。
「貴方の手勢は、既に壊滅。最早、オルベルフに勝機はない。降伏してください」
「……ッ!! ふ、ふざけたことを言うなよ、小娘!! な、何なんだ、お前は……!! お前さえいなければ……!! 私は……!!」
「降伏してください。我が主人が、貴方を殺す前に」
俺はヴィクトルの前に立つと、彼を見下ろし、そう、声を掛ける。
俺の冷たい瞳を見てヴィクトルは一瞬顔を引き攣らせるが、即座に懐から黒い液体が入った小瓶を取り出した。
「か、かくなる上は……!!」
「何をする気か知りませんが、無駄です」
俺は箒丸を振り、ヴィクトルの手から小瓶を叩き落とす。
床に落ち転がって行く小瓶を見つめるヴィクトルは、膝をついた。
「そんな……60年余りの我が野望が……こんな、呆気なく……」
「その小瓶は何ですか? 貴方は、今、何をしようとしたのですか?」
「……それは……ゴーヴェンから渡されたものだ……これは奴が作った、人を魔物に変える力を持つ、秘薬だ……」
「なっ!? 人を、魔物に……!?」
俺は、思わず、驚きの声を上げてしまう。
人が魔物になるなど、エルルゥがベルゼブブになった件しか知らないからだ。
「ゴーヴェンは、いったい、何のためにそのような液体を作ったのですか!?」
「さぁな。私も知らない。だが、あの男は、人体実験で人から魔法石を抽出する技法を生み出している。恐らくは、その技法の派生として生み出された秘薬なのであろう」
俺は眉間に皺を寄せて、ヴィクトルを睨みつける。
そして、クラリスとコルルシュカに、声を掛けた。
「クラリス、ヴィクトルと聖騎士たちを縄で拘束してください。コルルシュカは、メアリー様とギュスターヴ様、ルイス様と、村の子供たちを……アルフの村へと避難させてください」
「アネット先輩は、どうなさるおつもりなのですか?」
「アイリスと接敵しているお嬢様が心配です。もしアイリスも、このような得体の知れないものを持っていた場合、お嬢様が危険ですから」
「……分かりました」
頷くコルルシュカ。その時、メアリーが、俺に声を掛けてくる。
「ちょっと待って、アネットちゃん」
「何でしょう、メアリー様」
「ナレッサも、どこかでオズワルドに捕まっていると思うの。あの子も助けてあげてくれないかしら」
「了解しました。奥様も必ずお助けして、村へと連れて帰りましょう」
俺はそう返事をすると、みんなと別れて、屋敷の中へと走って行った。
「す、すごぉーい!! あのメイドのお姉ちゃん、かっこいい〜!!」
「そうだろそうだろ!! アネットはすごいんだ!!」
「むー。ルイスくん、アネットお姉ちゃんのこと、好きなのー?」
「うん!」
「むー」
チラリと背後を見ると、ルイスが村の子供たちに俺のことを自慢していた。
いや、ルイス。その女の子、多分お前のこと好きだから、あんまり俺の自慢とかしない方が良いぞ?
というかもう既に村の少女を惚れさせているとか、5歳にして将来有望だな、あの子は。流石ルイス坊ちゃん。48歳童貞で現在63歳(年齢合算)処女の俺は何処で間違えていたのか、後で教えて欲しいまである。ふざけんな(逆ギレ)
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《ロザレナ 視点》
「ロザレナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突如、アイリスは、あたしに目掛け突進してきた。
その手に持っている禍々しいオーラは、先ほど見た時よりも質量が膨れ上がっていた。
(あれは恐らく、妖刀……? どこか、赤狼刀に似ているけれど、形状がちょっと違う……? 何なのかしら、あれ……)
アネットから聞いたことがある。妖刀は、強大な力を持つ分、使用する者にリスクが伴う武器なのだと。
あたしが今使っているこの大剣も、妖刀の類らしいけど、今のところ制御できているのか特にリスク面は感じられない。
だけど、見た感じ、あのアイリスは……剣の力に踊らされているように感じられる。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
アイリスはあたしに目掛け、連続して剣を振ってくる。
乱暴な太刀筋。グレイレウスやルナティエのような綺麗な太刀ではない。
先ほどよりも多少剣速が上がったように感じられるが、やはり、彼女の実力はあたしには脅威とは思えない。
「死ね、死ね、死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「何故、そこまであたしに恨みを抱いているの? あたしが貴方に何かした?」
「あんたがいるから、私は、ずっとずっと地獄の中で暮らしてきたんだ!! あんたのせいで、お兄ちゃんは剣王の座を剥奪された!! 全部全部、あんたのせいだ!!!!」
「貴方の家の事情など、知ったことではないわ。キリシュタットが負けたのは、単なる勝負の結果。貴方に恨まれる言われはないわ」
「は……はぁ!?」
「同情でもして欲しかったの? 不幸な自分を慰めて欲しかったの?」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「全てをレティキュラータス家のせい……いいえ。全てをあたしのせいにしているあんたに、このあたしが、負けるはずがない。憎悪を糧にして自分を保っているあんたは、前になんか進んでいない。過去を見ている人間は、強くなんてなれないわ」
キィンキィンと、金属音を鳴らしながら、アイリスの剣技を防いでいく。
20数撃の剣を防いだ後。あたしは、アイリスの腹に闘気を纏った蹴りを放った。
「かはぁ!?」
アイリスは血を吐き出し、食堂の壁に飾ってあった絵画へとぶつかり、絵画ごと床に落下する。
彼女は即座に起き上がるが、その左手は……あらぬ方向へと折れ曲がっていた。
自身の腕を見て、アイリスは、発狂したように叫び声を上げる。
「う、腕が……私の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「理解したわ。あんたは、ただの操り人形。自分の目的で剣を握っていない。あたしには、剣聖になるという夢があるの。上手くいかないからって世界に憎悪を振り撒いているだけの貴方に、負けるはずがない」
あたしはそう言って、アイリスの元へと歩いて行く。
すると、オズワルドが、声を張り上げた。
「う、動くな!! 化け物!!」
彼へと目を向けると、そこには、お母様の喉元に剣を突きつけているオズワルドの姿があった。
あたしはその光景を見て、鋭く、オズワルドを睨みつける。
「あんた……お母様を自分のものにしたかったんじゃなかったの?」
「ハハハハ!! あぁ、そうだ!! だが、こうなったら、家督を優先せざるを得ないからなぁ!! それに……お前たちは、誰かを殺すことができない、甘ちゃんなんだろう? メアリーも、エルジオも、領民を人質に取ったら身動きができない馬鹿どもだったからなぁ!! ハハハハハハハハハ!!!!」
「あんた……あたしが、人を殺せないとでも思ってるの?」
「うるせぇ!! ナレッサの命が惜しければ、大人しくしてろ、化け物―――」
あたしは【縮地】を発動させると、即座にオズワルドの側へと接近する。
そして……剣を持っているオズワルドの右腕を、切断した。
「は……?」
床に落ちていく腕を見て、顔を青白くさせるオズワルド。
そして、ボトリと地面に右腕が落ちた瞬間、オズワルドの斬られた腕の切り口から、大量に血飛沫が舞った。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! なんなんだよこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
発狂するオズワルドの前で、あたしはヒュンと剣に付いた血を振り払う。
すると、地面に膝をついたお母様が、怯えた様子で口を開いた。
「ロ……ロザレナ? あ、貴方、いったい、何をしているの……?」
「? お母様を助けんだけど? 少し待っててね。お父様をあんな風にしたこの男の首、すぐに斬り落としてやるから」
「ま、待ちなさい、ロザ―――――」
「ロザレナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
再び、アイリスが、あたしに向かって突進してくる。
あたしはため息を吐いて振り返ると、大剣を構えた。
「また、あんた? いい加減、実力差を認めて―――――」
あたしに目掛けて振り下ろされた上段の剣を大剣で防いだ、その時。
その威力に、あたしは思わず、後方へと吹き飛ばされてしまった。
「ロザレナ!?」
お母様の心配する声が聞こえてきたが、あたしは宙で旋回して、地面に着地する。
あたしはアイリスへと目を向けて……首を傾げた。
「あんた……さっきよりも闘気が増えている……? あんたって、速剣型……だったわよね? その闘気は、何?」
「ロザレナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
目が血走り、狼のような犬歯が伸びるアイリス。
その爪は伸びていて……何と、先ほど折ったはずの左腕が元通りに戻っていた。
「どういうこと……? 治癒魔法を使ったの? それにしては、詠唱が聞こえてこなかったような……? まさか、その剣の力……?」
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!」
獣のような咆哮を上げると、アイリスが、あたしに向かって突進して来る。
返り討ちにする度に力を増して襲いかかって来るアイリス。
その変化に、あたしは、戸惑ってしまった。




