第11章 二学期 第365話 巡礼の儀―② 一行は、レティキュラータス領へと向かう
ルナティエと共に城門の前へと戻ると、ジークハルトの馬車の前に、ジークハルト、そしてヴィンセントとフレーチェルの姿があった。
俺とルナティエが三人の元へ合流すると、フードを被った俺の顔を見て、ヴィンセントとフレーチェルが笑みを浮かべる。
「アネット。やはり、無事だったか」
「アネット様!」
俺も笑みを浮かべ、二人の元に向かう。
「ヴィンセント様、フレーチェル様こそ。よくぞご無事で!」
二人の元に足を運び、無事を喜び合う。
するとジークハルトが、俺に、怪訝な顔を見せてきた。
「アネット・オフィアーヌ。この二人は敵ではないのか?」
「はい。遅れましたが、このお二人……ミレーナ陣営とフレーチェル陣営は、ゴーヴェンの考えに反し、お嬢様を助けるべく私たちを奈落から逃がしてくださった方々です。両陣営とも異なった思想を持ってはいますが、平和を求めているのは私たちと変わりありません」
「なるほど。お互いに聖王の座を目指し競いはするが、ゴーヴェンやエステリアルほど正面から争う気はないということか」
「そういうことです」
俺がジークハルトにそう説明すると、フレーチェルがジーッとジークハルトを見つめた。
その視線に、ジークハルトは眉間に皺を寄せる。
「何だ」
「あ、いえ。ジークハルトお兄様がアネット様に協力するとは、少し意外なものでして。貴方は……聖王になる気は無かったのではないのですか?」
「それはこちらの台詞だ。何故、お前が聖王の座を目指して巡礼の儀に参加している、フレーチェル。お前は、ジュリアンの腰巾着だったはずだろう? その変わりようは何だ? 私をお兄様だと? 気色が悪い」
「でしたら、以前と同じくジークハルトと呼ばせていただきます。私は、兄ジュリアンとは袂を分かちました。一度奈落に堕ち、ゾーランドを亡くし、この世界を見つめ直して……私は、自身の考えを改めたのです。この世界には、民を正しく導く王が必要であると。私が目指すのは、弱者のための聖王です」
「ほう」
面白そうに微笑を浮かべるジークハルト。
そんな彼に、フレーチェルは問いを投げる。
「ジークハルト。貴方は以前、正しい法を作り直す聖王となると、そう言っていましたよね? ですが途中で聖王を目指す気配が薄れ、貴方は城に姿を現さなくなった。なのに、今、貴方はここにいる。何故ですか?」
「……私自身には元から目的など無かった。あいつの真似をして、それらしきものを抱いてはみたが……やはりそれらも虚像にすぎなかった。私は、お前が少し羨ましいよ、フレーチェル」
「え?」
「何でも無い。なるほど。お前たちがこちらの陣営に来たのは、出発前に同盟を結ぶためというわけか。恐らく、そろそろゴーヴェンやエステリアルの馬車が出発するだろう。会談は手早く済ませた方が良い」
ジークハルトのその言葉に、ヴィンセントが頷く。
「お互いに最初に向かう祠は分散させておいた方が良いと思うが?」
「同意する。私たちはレティキュラータス領に向かうつもりだが、そちらは?」
「ちょうど良い。こちらには、レティキュラータスの人間はいないからな。俺たちはフランシアに向かおうと考えている」
「でしたら、私たちはバルトシュタインに向かいましょう」
「了解した。しかし、ひとつ疑問がある。そちらの陣営には四大騎士公の血族が少ないと思われるが、ゴーヴェンやエステリアルに勝利する腹積りはあるのか?」
ジークハルトのその問いに、ヴィンセントは不適な笑みを浮かべる。
「無論、相手陣営を祠に近付けさせないよう邪魔立てする策もあるにはあるが……それ以外にも、同じ血族の祠は、各地、各諸外国に点在しているという話もある。実際、俺たちにはどこに祠があるのか分かっていないのが現状だが、器を満たすことは十分可能だ」
「私の陣営にいるキールケさんやキリシュタットさんは好戦的なので……出会い次第敵陣営は叩いて戦力を削ぐとか言っているんですけどね、あははは……」
それぞれの陣営で、戦い方は異なるようだ。
すると、その時。角笛の音が鳴り響き、ひとつの馬車が出発した。
城門の外へと目を向けると、そこには、角笛を鳴らして出発を激励する聖騎士団と走り出す漆黒の馬車の姿があった。
その光景を見て、ヴィンセントはマントを翻し、自分たちの馬車へと向かって行く。
「む。そろそろ行かねばな。もし各地でゴーヴェンやエステリアルと接敵することがあったら、情報を共有するために念話を飛ばそう。では……お互いの武運を祈る。我ら三陣営のうちひとつが勝利してここに戻って来ることを願おう」
そう口にして、去って行くヴィンセント。
そんな彼に続いて、フレーチェルも俺に会釈して、背中を見せる。
「では、私もそろそろ出発致します。ゴーヴェンやエステリアルに勝ち、必ずやこの国を平和に導きましょう」
フレーチェルも、自分の馬車へと向かって歩いて行った。
その姿を見送った直後、エステルの馬車も出発して行った。
「では、わたくしたちも行きましょうか」
ルナティエのその言葉にジークハルトは頷くと、御者台に座る男に声をかけ、馬車の乗車口へと足を掛ける。
「では……行くぞ」
「ええ」「はい」
そうして――――――俺たちは、乗車台の扉を開き、中へと入って行った。
「アネット!」
馬車の中に入ると、奥のソファーに座っていたロザレナが立ち上がり、俺に抱きついて来る。
「この馬車、すっごく快適なのよ! まるでひとつの家みたいなの!」
「お嬢様、落ち着いてください」
「そうですわよ。旅行じゃないんですわよ、お馬鹿さん」
背後から入ってきたルナティエの小突かれ、ロザレナは額を抑えて頰を膨らませる。
馬車の中は、ロザレナの言う通り、まるでホテルの客室のような様相となっていた。
ソファーやテーブルなどの家具も充実しており、天井には魔法石で作られた照明器具の姿もある。
キョロキョロと馬車の中を見渡していた、その時。
部屋の中で、上裸で指立て伏せをしている変態を見つける。
「124! 125! 126!」
「……見なかったことにしておこう」
何でグレイは、馬車の中でトレーニングしてるんだ……。
しかも何故服を脱ぐ、服を。
暑苦しいグレイの姿に引き攣った笑みを浮かべていた、その時。
奥にある台所から異臭が漂ってきた。
まさかと思うのと同時に、そこから、レードルを手に持ったピンク色のエプロンを身につけたオリヴィアが顔を見せる。
「あ、アネットちゃん! 来てたんですね!」
「オ、オリヴィア、まさか、ここでも料理を……?」
「はい! みんなの健康は私が支えますよ! アネットちゃんに教わって私だって少しは上手くなったんですからっ!」
そう言って腰に手を当ててえっへんと胸を張るオリヴィア。
その姿を見て、ロザレナは肩を竦めて大きくため息を吐く。
「はぁ……逆にあたしたち、オリヴィアさんにトドメを刺されかねないんじゃないかしら」
「そ、そうですね。そういえば……フランはどこにいるのですか?」
「馬鹿は高いところが好きって言うわよね」
「というと……」
俺は馬車の窓を開け、上を見上げる。
すると馬車の2階の屋根に……日傘を差してポージングを取るフランの姿があった。何してんの、あの子。
「フハハハハハハハ!! さぁ!! 行くが良い、冥府へと向かう闇の馬車よ!! 今こそ!! 我らが旅の道を開かん!!」
「……フランちゃんー、そんなところに立ってると、危ないぞー」
「何を言うておる、師匠。妾はこの陣営において最強の魔法剣士であり、最強の守護者。この場に立って皆を守るのが妾の責務……」
その時。突如ガタッと馬車が揺れ、ロザレナが俺の身体に寄りかかってくる。
俺はお嬢様の肩を支えると、窓の外に再び顔を出した。
ゆっくりと、風景が過ぎて行く。
ついに―――――――――――俺たちの馬車が、動き出したんだ。
「ぬぉわぁ!?」
屋根から落ちたフランエッテが、目の前を落下して行く。
地面に落ちたフランは、すぐに立ち上がると、俺たちの馬車を追いかけ始めた。
「ま、待つのじゃぁ〜!! 妾、落ちてしまったのじゃぁ〜!!」
「な、何をやってるんだ、あいつは……」
「本当にあの手品師は馬鹿ね。あれを剣神だってみんな信じ込んでいるんだから、世も末だわ」
「まぁ、お馬鹿なところもありますが、悪い子ではないですよ」
独裁国家宣言をしたミレーナよりは、人々のために嘘を吐いているフランの方がよっぽど善人だろう。うん。
俺は振り返って、グレイに声を掛ける。
「グレイ。【瞬閃脚】でフランを回収してきていただいてもよろしいですか?」
「別によろしいですが……あいつ、鳩になって自分で戻ることできるんじゃないですか?」
「あぁ、確かに」
俺は窓から顔を出し、懸命に走るフランに声を掛ける。
「フラン! 鳩になって窓から入って来てください!」
「おぉ、確かに! その手があったのじゃ!」
鳩に姿を変えたフランを見届けた後、俺は窓を開けっぱなしにして、窓から距離を取る。
すると、開いた窓から、大量の鳩が室内に入ってきた。
激しく鳩が室内で鳩が羽ばたいたため、周囲には抜けた羽と埃が舞っていく。
「げほっ、ごほっ! フ、フラン、何をやって……」
「けほっ! うぅー、手品師ぃ!! さっさと元に戻りなさいよぉ!!」
「何で旅立った瞬間からこんなことになってるんですの!? げほっ!!」
「フン。マフラーで鼻を隠すことができて良かった。132! 133!」
「グ、グレイくん、こんな時くらい、トレーニングはやめたら……げほっ! うぅ、せっかく作った私のお料理が、鳩の羽だらけにぃ〜!!」
「げほっ! ごほっ! ……チッ。何だこの馬鹿集団は! 私も別働隊に乗れば良かったか……!」
全員で咳き込んでいると、無数の鳩たちはフランの形を型取り始める。
そして、一箇所に集まった鳩は合体し、フランへとなったのであった。
「妾、参上なのじゃ! 我が闇の波動にひれ伏し、崇め奉ると良い! フハハハハハハハハ!!」
片目に手を当ててポーズを取るフランエッテ。だからそのポーズは何なんだ。
「はぁ……とりあえず、馬車の中をお掃除した方が良さそうですね……」
俺はロッカーからモップを取り出すと、そう、全員に声を掛ける。
「そうね……はぁ。まさか、巡礼の儀に出発してすぐに、馬車の中を掃除することになるとは思いもしなかったわ」
「まったく。フランエッテは何か良いことをやらかすか悪いことをやらかすかのどちらかですわね。ほら! そこの上裸マフラー変態男も手伝いなさい!」
「チッ。馬鹿手品女が」
「お料理……ぐすっ」
「ひぃぃ!! 何かよく分からぬが、妾が責められているのじゃ!!」
怯えるフラン。そんな彼女の顔を見つめ、ジークが口を開く。
「お前……何か変わったか?」
「ほへ?」
「以前はもう少し、取っ付き難いというか……鷲獅子クラスでは他人と関わることを嫌っている様子があったが……今のお前は様子が少し違う。満月亭の寮生たちとうち解け合っている。私と同時期に寮に入ったというのに、私が知らない間に何かあったのか?」
「あ、え、えっと、それは、じゃなぁ〜」
「周囲も周囲だ。こいつは、孤高を好む剣神だったはず。それなのに、ロザレナもグレイレウスもルナティエも、こいつを目上と扱うどころか、まるで末の妹を扱うような素振りを見せている。いったいどういうことだ?」
ジークハルトは、フランの秘密、裏の顔を今まで知らなかったわけだしな。
これから一緒に旅を続ける上で、ジークハルトやオリヴィアには、フランの秘密を説明しておいた方が良いのかもしれない。
「ジークハルト、それは―――――――――」
俺が何かを言う前に、ルナティエがパチンと手を鳴らした。
「まずは全員でお掃除をしますわよ。その後、テーブルを囲んで、今後の作戦会議。その時に、フランエッテのことを説明すれば良いですわ」
ルナティエのその言葉を聞いた全員は、掃除用具を手に取って、清掃を開始する。
ジークハルトも不本意ながらも、掃除を手伝っていた。
(これから共に旅をする仲間になる以上、ジークハルトやオリヴィアには、俺の実力のことも話しておいた方が良いのかもしれないな)
俺はそんなことを考えながら、モップで床を拭いていった。
全員で10分ほど掃除をした後。
俺たちは地図が載った丸いテーブルを囲み、作戦会議を開始した。
「まず、わたくしたちはこれからレティキュラータス領へと向かい、巡礼の儀の祠を捜索致しますわ。レティキュラータス領にある村、アルフを目指します。レティキュラータスは元々、小さい土地故に、祠を探す手間はそこまでないと考えます」
「……ねぇ、ルナティエ。ちょっといい?」
「何ですの、ロザレナさん?」
「あたし……ちょっとだけでも良いんだけど……レティキュラータスのお屋敷を見てきても良いかな?」
ロザレナの言葉に、ルナティエは数秒ほど逡巡した様子を見せると、首を横に振った。
「今の貴方は、指名手配犯と同じようなものですわ。確実にレティキュラータスの屋敷には、バルトシュタインの者がいるはずです。下手に動いて見つかれば、貴方を守るために巡礼の儀に参加したわたくしたちの行動が全てご破算になる。貴方は……絶対に連中には捕まってはいけないんですわよ」
「で、でも……」
「ロザレナ。妾も同じ思いじゃ。実はのう、妾も昔、ロザレナのように魔物の手先だと呼ばれた友人が、聖騎士に奪われたことがある。その後、我が友人に待っていた運命は悲惨なものじゃった……じゃから、妾は絶対にもう二度と、同じ過ちは繰り返さぬのじゃ。ロザレナを、奴らに渡すわけにはいかぬ」
「フランエッテ……」
ロザレナはフランの顔を見つめ、悩ましげな様子を見せる。
ロザレナは、両親や祖父母、ルイスが心配なのだろう。
俺も気持ちは同じだ。マグレットやコルルシュカ、クラリスが無事なのか気になっている。
(コルルシュカに何度か念話を飛ばしてみて、応答が無かったのも気になる。忙しくて応答できる暇がないか、念話の魔道具をどこかに無くした、であれば良いのだが……)
念話を遮断する魔道具もあると聞く。そのようなものを屋敷に配置され、心配になって見に来たロザレナを捕縛する……といった、聖騎士団の罠でなければ良いのだが……。
「とにかく。レティキュラータス領に着いたら、ロザレナさんは祠の攻略以外でこの馬車の外には出てはいけませんわ。どうしても屋敷の様子が気になるのでしたら、アネットさんやグレイレウス、わたくしのいずれかで、偵察に行きますから。それで納得して……いただけますか?」
「……うん。分かったわ」
頷くロザレナ。その姿をジッと見つめた後、ルナティエは地図に黄色い馬を模した駒を置く。
「わたくしたちは今、王都を出て、レティキュラータス領を目指しています。この黄色い駒が、わたくしたちジークハルト陣営。そして、フランシアを目指すこっちの青い駒がミレーナ陣営、バルトシュタインを目指すこちらのピンクの駒がフレーチェル陣営。今分かっている情報はこれくらいですわ。ジュリアン陣営とエステリアル陣営の行先は分かってはいません。下手したら、レティキュラータスで会う可能性も捨てきれませんわ」
ルナティエはそう言った後、ジークハルトに目を向ける。
「ジークハルト。先ほどの開会式で分かった情報を、わたくしに教えてくださる? 他の陣営がどれほどの人材を集めていたのか、知りたいんですの」
「あぁ、分かった」
その後、ルナティエはジークハルトから、各陣営の話を聞いていった。
そして全てを聞き終えると、ルナティエは眉間に皺を寄せる。
「リューヌが……エステリアル陣営にいた、ですか……」
「あぁ。まったく、可笑しな話だな。学園の級長たちの殆どが巡礼の儀に参加しているなんてな。ゴーヴェンが今年の新入生たちは才能を持った者が多い、類稀な年だと言っていたのも頷ける」
「リューヌ自身は大して強くはありませんが、あの子には【支配の加護】という強力な能力がある。自分よりも格上の力を持つ人間を操ることはできませんが、もし、あの子が、わたくしたちの身内を操り人質にしてきたらどうでしょう? はっきり言ってアレは悪魔のような力ですわ。わたくしは……特別任務で、クラスメイトたちを人間爆弾にしたあの子を見ていますから……」
「待って。じゃあ、あたしのお父様やお母様が……人質にされる可能性だってあるの? アネットのお婆ちゃんも?」
「可能性としては、十分にあると思いますわ。ですから……リューヌには警戒しておくに越したことはありません。エステリアルが制御できるような人間じゃありませんわよ、あれは」
確かに、な。エステリアル陣営は凶悪な連中ばかりだが、ジェネディクトもギルフォードも、まぁ、テンマさんも。一応話は通じるからな。
リューヌは……説得など通じる人間ではないと思える。
初めて会った、マリーランドへと向かう列車の中。
俺は本能的に、あの少女は何かやばいと感じたんだ。
純粋な武力とは関係のない危険な気配。あんなことは、初めてのことだった。
リューヌには、人一倍警戒しておいた方が良さそうだ。
「フン。オレは搦手を使う奴は苦手だからな。そこのあたりは、ルナティエ、お前に任せるぞ。親戚なんだから、お前が何とかしろ」
「この上裸変態男は……! はぁ、分かっていますわよ。もしリューヌが攻撃を仕掛けてくるようならば、わたくしが相手をしますわ。とにかく、操られているような人間を見たら、あの子の仕業だと思ってくださいましね」
ルナティエのその言葉を聞いているのか聞いていないのか。
グレイレウスは不適な笑みを浮かべ、腕を組んだ。
「フ……フハハハハハ!! 首狩りがついに尻尾を出した、か。良いか、お前たち。奴はオレの獲物だ。あの女は、オレが狩る」
「良いですけど……グレイレウス。暴走だけはしないでくださいましね。今回の作戦の指揮官は、わたくしなのですから」
「良いだろう」
テンマさんの登場で、グレイはやる気を見せている。
ついに尻尾を出したかとグレイは言っているが……俺は結構あの人と遭遇しているんだけどな……今回も別に会いたくないのに会いそうな気配を感じるのは何故。ご当地テンマさんと化しているよ、あの人。
「あたしは……ジェネディクトと戦いたいわ……!! あいつには一度、子供の頃に借りがあるの。あたしはあいつを倒して、剣神になりたい!!」
「ちょっと! 誰が誰を倒すかの予約をしているんじゃないんですのよ! とにかく! 今は、レティキュラータス領の祠を突破した後、次はどこの祠を目指すのか会議を……」
その時だった。ルナティエは念話を受け取ったのか、耳元に手を当てる。
そして、彼女は慌てた様子で口を開いた。
「皆さん! 別働隊からの報告です! 敵襲ですわ!」
その報告と同時に、馬を操っていた御者が悲鳴を上げた。
何事かと思い、俺は急いで窓を開けて外を見る。
するとそこには―――――――――馬に乗った集団の姿があった。
一瞬盗賊か何かかと思ったが、その先頭に立っていたのは、見覚えのある顔……。
牛頭魔人クラス級長、ルーファスだった。
ルーファスは馬に跨ったまま懐から拳銃を取り出すと、御者に狙いを定める。
(まずい……!)
俺は即座に壁に立てかけてあった箒丸を手に取ると、馬車の扉を開けて、梯子を伝い……馬車の屋根へと登った。
「アネット……!?」
「あれは……牛頭魔人クラス級長ルーファスと……そのクラスメイトたちですの……!? 何故、彼らがここに……!?」
窓の外に広がるその光景に驚きの声を上げるルナティエ。
俺は屋根の上に立って箒丸を手に持ちながら、ルーファスの銃口の先を追う。
ルーファスは突如外に出てきた俺に驚いている様子だったが、迷いなく御者に照準を定める。
こちらに敵意があるのは明白。
「悪いが……ジークハルト陣営!! お前たちの紋章を奪い、この俺が……世界の王になるぜ!! 俺はこの時をずっと待っていたんだ!! 食らいやがれ!! ―――――――【|全てを貫きし呪いの弾丸】!!」
銃口から銃弾が発射される。
俺はその瞬間、同時に走り出し、御者台へと降り立つと、馬を操る御者を庇うように前に立った。
目の前に向かって来る弾丸。この程度だったら、腕に闘気を纏い払いのけることも可能だが―――――――――――――――。
(いや……これは生身で受けては不味い……【死閃】と同じ効果を持つ銃弾だ……!!)
俺は箒丸を前に出し、それで銃弾を受け止める。
箒丸の持ち手部分に当たった銃弾は、弾かれ、地面へと落ちて行った。
その光景を見て、ルーファスは、唖然とした表情を浮かべる。
「……は? え、は? う、嘘だろ? ベルゼブブの装甲をも撃ち抜いた弾丸なんだぞ!? というか、全てを撃ち抜く弾丸なんだが!?」
やはり、【死閃】と同じく、一撃必殺系の技だったか。
残念ながら【折れぬ剣の祈り】の前では、無価値な能力だ。
「グレイ!!」
「承知!」
馬車から飛び降りたグレイは、【瞬閃脚】を発動させ、馬と同じスピードで地面を駆け抜ける。
「なっ……!?」
小太刀を手に持ち、ルーファスと並行して走るグレイレウス。
その光景を見て目を丸くさせるルーファス。
「おいおいおいおい……生身の人間がお馬さんと同じスピードで走っちゃダメだろうが……」
「ルーファス!!」
馬に乗ったアグニスが、ルーファスを助けようと前に出て、斧を手に持ってグレイレウスに襲いかかる。
「――――――――遅い」
グレイは軽やかに身を動かし、その斧を寸前で回避する。
そしてグレイは跳躍をすると、ルーファスの馬の背に飛び乗り、彼の首元に向けて小太刀の切先を突きつけた。
「終わりだ」
「な……! 一番攻略しやすい陣営だと思って初手で襲ってみたんだが……こりゃあ、俺の計算ミスだったか。やれやれ。学園に入ったのも、この日のためだったんだけどなぁ」
そう言って両手を上げるルーファス。
そして彼は、俺に目を向けて、笑みを浮かべた。
「実際、黒狼クラスの躍進に裏で生徒を育成している奴はいると思っていたんだが……その裏で暗躍していた奴って、あんたなんだろ、アネット・イークウェス。まさか、マジでメイドがクラスを支配しているとはな。この目で見るまでは半信半疑だったぜ」
「……」
窓を開けたルナティエが、ルーファスに声を掛ける。
「ルーファス! 貴方、何故こんな真似をしたんですの!」
「わかりやすく説明するならば、俺はずっと、自分がこの国の王になる隙を窺っていたんだ。巡礼の儀が始まったら王族から紋章を奪い、自らが巡礼の儀に参加する。この国の歴史上、過去にも王の器を奪い、巡礼の儀に参加した外様の人間はいたという話だ。知ってたか? 紋章を受け継いだ人間を殺せば、殺した人間に紋章が引き継がれる……つまり王族以外も、この紋章は受け取ることができるんだぜ? 巡礼の儀で王の器を満たせば、誰でも聖王になれる。これがこの儀式の裏の仕組みって奴だ」
「……なるほど。だから貴方は、開会式でメンバーをお披露目していない、この陣営を狙ったということですわね」
「その通り。だけど、まぁ、しくじちっまったがな。ヒュー、こんなことなら、フレーチェル陣営を狙った方が良かったかねぇ。まぁ、キリシュタットを倒せるかどうかは俺の能力においても時と運に寄る可能性があるがな」
「……こいつをどうする? ルナティエ」
グレイの言葉に、ルナティエは顎に手を当てて考え込む。
そしてため息を吐くと、口を開いた。
「全員、わたくしたちジークハルト陣営に二度と攻撃しないと約束して、この場で武器を捨てるのならば……見逃してさしあげましょう。下手にルーファスを殺して、結束力の高い連中を敵に回すのも厄介ですからね」
「ヒュー! 悪くない選択だ。愛しているぜ、ルナティエ!」
ルーファスの軽口に、ルナティエは眉間に手を当てて、頭を横に振るのだった。




