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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第11章 強欲の狂剣

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第11章 二学期 第364話 巡礼の儀―① 旅の始まり


「……では、これにて、開会式を終えます。第一王子ジュリアン、第三王女エステリアル、第三王子ジークハルト、第四王女フレーチェル、第六王女ミレーナ。月の女神アルテミスの庇護の元、聖王を目指し、王の器を満たすために旅立ちなさい」


 聖女はそう言って、側支えの女騎士に腕を支えられて、王城へと引き返して行った。

 

 するとその直後。ゴーヴェンが動き出した。


「民たちよ! 道を作るのだ! 我らがジュリアン陣営の出陣である!」


 ゴーヴェンの言葉と共に、群衆が左右に割れて、道を作る。


 その光景を確認した後。ゴーヴェンは漆黒のマントを翻し、威風堂々とした姿で歩いて行く。


 そんな彼の後ろをついて行く、リーゼロッテ、フォルター、ゴーヴェンの両腕二人。


 そして遅れて、聖騎士に支えられて歩くジュリアン。


 その後を、大勢の聖騎士たちが列を成して続いて歩いて行く。


 分かってはいたことだが、圧巻だ。人員という面で言えば、聖騎士団という武力を持つゴーヴェンは最大の力を持っていると言えるだろう。

 

 道の側に立っていた俺の目の前を、ゴーヴェンが通り過ぎて行く。


 その目には、迷いは見てとれない。不適な笑みを浮かべたまま、まっすぐと目の前を睨みつけている。


 贄を必要としない、真の強者だけが住む国。選民思想。


 それが、ゴーヴェンの求める理想。


 ゴーヴェンが通り過ぎた後。


 俺は、王城前へと再び視線を向ける。


 するとそこには、アイリスとキリシュタットが向かい合っている姿があった。


「……兄さん。何故、剣王をやめたのですか?」


「はぁ? お前も知ってるだろ。俺は、ロザレナの奴に負けたのさ」


「嘘です!! 兄さんの実力ならば、またロザレナから剣王の座を取り戻せたはずですし、他の剣王にも遅れを取らなかったはずです!! なのに何故……表舞台に戻って来ないのですか!! あの女に、何か卑怯なことをされたのですか!!」 


「うぜぇ。お前の知ったこっちゃねぇだろ、アイリス。俺はもうオルベルフ家の人間じゃねぇし、お前に指図される謂れはない。とっとと家に帰って貴族ごっこでもしてるんだな」


「……やはり、あの女のせいなんですね。ロザレナ・ウェス・レティキュラータス……あいつさえいなければ……兄さんはまだ剣王最強のままだったというのに……!!」


「はぁぁぁ?」


 キリシュタットは訳がわからないと言った様子で、首を傾げる。


 そんな彼を無視して、アイリスは背を向けて、ゴーヴェンたちの列に続いて、歩いて行った。


「待っていてください、兄さん。私が……あの女を倒して、兄さんの剣王の座を取り戻しますから」


「何言ってんだ、お前。それよりも、ゴーヴェンに付く気なら、こっちも容赦しねぇぞ? 分かったなら、さっさとレティキュラータス領に帰れ。テメェじゃ俺には勝てねぇよ」


「帰りません。兄さんは、何か、あの女に弱みを握られている。なら……災厄級の因子であり、全ての元凶であるロザレナは、私が倒します。正当なるレティキュラータスの血を引く者として……間違ったものは、全て、私が排除します」


「……オルベルフの洗脳教育を真に受けやがって。思い込みが激しすぎるんだよ、馬鹿が」


 チッと舌打ちをするキリシュタット。


 そして、アイリスを最後尾に連れたゴーヴェン陣営は、城門前へと進んで去って行った。


「さぁ――――――僕たちも行こうか」


 ゴーヴェン一行を見送った後。


 エステルはそう言って、前へと歩みを進めた。


 すると、その瞬間。


 エステルの背後に青白い光が奔り……一瞬にして【迅雷剣】ジェネディクト・バルトシュタインが姿を現した。


 漆黒の外套を揺らめかせたジェネディクトは、立ち上がると、サングラスのブリッジに中指を当てて位置を調整する。


「フフフ。ついに……全力を持ってゴーヴェンを狩る時が来たのね」


 そう口にして、エステルの後をついていくジェネディクト。


 次に、民家の屋根の上から、笑い声が聞こえてきた。


「キャハハハハハハハ!! ようやく、暴れることができるみたいねぇ!! もぉー、いつまで待たせるのって感じぃ。アタシぃ、欲求不満でもう大変だったんだからぁ〜キャハハハハハハ!!」


 そう口にして、エステルの背後に、フードを深く被り巨大な鎌を背負う小柄な少女が降り立った。


 少女……【首狩り】の何とかテンマさんことメリッサ・ベルは、嗜虐の笑みを浮かべ、べろべろばぁと、左右に別れた街人たちに舌を出して嘲笑する。


「な、なぁ、あれって……」


「あ、あぁ。8年前に僅か14歳で剣神に上り詰めた、天才児……元剣神メリッサ・ベルじゃ……」


「でも確かメリッサって連続殺人がバレて、指名手配犯になっていたんじゃ……」


 ザワザワと困惑した様子を見せる民衆。


 俺はテンマさんを見つめ、目を細める。


(ベルゼブブの騒動以降、どこに行ったのかと気になっていたが……まさか、エステル陣営に加入していたとは……はっきり言って、戦力的にはエステル陣営がトップクラスかもしれないな)


 民衆と共に、俺も驚きの表情を浮かべる。


 だが……さらなる驚きの人物が、民衆を掻き分け、エステルの背後へと現れた。


「さて……久しぶりに、表舞台へと戻ってきましたね。バドランディス」


「はい、リューヌ様」


「え……?」


 エステルの背後に現れたのは、修道服を身に纏う金色の髪の少女。


 そんな彼女の後をついて行くのは、長身で長い前髪の陰気な男。

  

 元天馬クラス級長、そして元セレーネ教の司教……リューヌとバドランディスの主従だった。


 リューヌの顔はまだ広まっていないせいか「誰だ?」と困惑している人も多かったが、セレーネ教関係者の人間はひどく動揺している様子を見せていた。


「なっ……何故リューヌがエステリアル王女と共に……!?」


「まさか……王女はリューヌや首狩りといった犯罪者を配下にしたというのか……!?」


 民たちのその言葉に、エステルは笑みを浮かべ、開口した。


「僕は、使える人材は何でも使う。安心して良い。僕の下に付いている以上、彼女たちを暴走させはしないさ」


 そう呟いた直後。群衆から出てきた仮面を被った青年……ギルフォードがエステルの背後へ並んだ。


 他に、エステルの背後へ並ぶ人間はいない。


 これで――――――――エステル陣営は全員揃ったのだろう。


 仮面の騎士、ギルフォード・フォン・オフィアーヌ


 剣神・迅雷剣、ジェネディクト・バルトシュタイン


 死に化粧の根(マンドラゴラ)に愛されし修道士、リューヌ・メルトキス・フランシア


 その配下、バドランディス


 元剣神・首狩りのキ……なん……フォステンマ


 この五人が、エステル陣営か。


 ジュリアン陣営……ゴーヴェン陣営に比べて、人員は少ないが、その代わり一人一人が強力な力を持っている。


 全員並んで歩いているその姿に、エステルに心酔している支持者たちが、ワーッと声を上げた。


 エステルは元々、盲信的な支持者も多い。


 ゴーヴェン陣営と並び、有力な陣営と言えるだろう。


 戦争を仕掛け、大陸を一つの国にまとめることで、恒久的な平和を手に入れる。


 破壊と復讐の王女。それが、エステリアルの求める理想。


「私たちも、参りましょう」


 エステルたちの後に続いて、フレーチェル陣営も、群衆が左右に別れた道を進んで行く。


 堂々とした佇まいで道を歩いて行くフレーチェル。


 その後を、グリウス、キールケ、キリシュタットがついて行く。


 フレーチェルの姿を見て、民たちは、微妙な反応を見せる。


「ジュリアン王子の腰巾着だったフレーチェル王女に、いったい、何ができるって言うんだ?」


「洗礼の時に、奈落の掃き溜めを無くすって言っていたみたいだが……そんなことをして何の意味があるっていうんだよ? 奈落があるからこそ、犯罪者どもはあそこに集まり、俺たち上層民の治安は保たれているというのに……」


「本当だよ。いない連中のことなんかよりも、俺たち王都の民を守ってくれよ」


 その言葉を聞いたキリシュタットは、馬鹿にするように口笛を吹いた。


「ヒュー。やっぱり上層の連中は、奈落なんてどうでも良い連中ばかりだな。恐らく、今一番支持を集めていないのがお前だぜ、フレーチェル。お前は本当に、自分の理想を貫くことができるのか?」


 フレーチェルは、ギュッと拳を握る。


「これが、今の王国に根付いている間違った常識です。彼らは奈落に見たくないものを押し付けて、見てみぬふりをしている。私はこれから……この国の間違った常識と戦うんです。全ての民を正しい道に導ける、聖王として。ゾーランド……見守っていてください」


「姫さん……」


 グリウスは、フレーチェルを見つめて、穏やかな微笑を浮かべる。


 逆にキールケはフレーチェルを見て、呆れたようにため息を吐いた。


「はぁ。お前はさ、多少成長したとはいえ、元はただの箱入りお姫様なんだからさ。あんまりはりきりすぎない方が良いんじゃないのー? 大きなミスでもして、キールケちゃんに無駄な仕事させられても困るし」


「ありがとうございます、キールケさん。私に、あまり気負いすぎるなと、そう言いたいんですよね」


「はぁぁぁぁぁ!? お前、どういう脳みそしてたら、そんなポジティブな解釈するわけぇ!? あのさ、お前のそういうところ、すごくうざいんだけど? おめでたいのは顔だけにしてくれる?」


「キリシュタットさんは奈落の仲間たちを守るため。キールケさんはフレイヤさんを守るため。それぞれ、弱き人々を守るために戦っている。私たちは、虐げられる者たちを助けるために戦う同志です。頑張りましょう、皆さん」


「ハハハハハ! 俺がいつ、仲間を助けるためにお前に手を貸したって言ったんだ? 俺は聖騎士団団長になりたいから、お前に手を貸したんだぜ? 俺が求めるものは常に飢えを満たす何かだ。この国の最高武力を手に入れれば、俺の乾きも満たされるからなぁ!!」


「お前……このキールケちゃんが、奴隷を守りたいから手を貸してるだなんて、勝手な思い違いしないでくれる? 不愉快。あんまり生意気なこと言ってると、殺すよ?」


 背後からキリシュタットとキールケに睨まれるが、フレーチェルは気にせず歩いて行く。


 すると、群衆の最後尾に……他の人々とは異なり、見窄らしい服装の人々の群衆の姿があった。


 そこにいるのは、何と、奈落の民たちだった。


 奈落の民たちは、上層民たちとは異なり、フレーチェルに精一杯の歓声を送っていた。


「フレーチェル様!! 頑張ってくださーい!!」


「フレーチェル!! 絶対に聖王になりなさいよー!!」


 そう言って率先して叫ぶのは、リーリヤとシェリーの娼婦二人。


 それに続いて、奈落の民たちは声を張り上げる。


「フレーチェル王女殿下ー! 奈落の民を守ろうと戦ってくださった貴方様を、私たちは常に応援しておりますぞー!」


「あのアルザードという怪物が奈落を襲ったあの時、王国は、奈落を完全に見捨てました!! ですが、フレーチェル王女殿下と剣神フランエッテ様は違った!! 俺たちを助けてくれたのは、あの二人だけだった!!」


「そうだ!! 俺たち奈落の民は、恩は絶対に忘れない!!」


「頑張ってください、フレーチェル殿下ー!」


 フレーチェルに声援を送る奈落の民たち。


 その光景を見て、フレーチェルは瞳の端に涙を溜めて、手を振った。


 しかし、上層に住む王国民たちは、奈落の民たちを見て怪訝な表情を浮かべていた。


「何で、奈落の民がここに……!?」


「衛兵! あいつらを奈落の底に戻せー!」


「何で、あいつら、フレーチェル王女を支持してるんだ……? アルザードっていったい何のことだ……?」


 困惑する人々。そのうち、城仕えの聖騎士たちが、奈落の人たちをスラムに戻すために、取り押さえ始めた。


 その光景を見たフレーチェルは足を止め、聖騎士に何かを言おうとするが……リーリヤとシェリーがそれを止めた。


「行ってください!! フレーチェル様!!」


「そうよ!! 早く行きなさい!! ここであんたが何かを言ったところで、王国は変わらない……そうでしょう!?」


 フレーチェルはその言葉にハッとすると、覚悟を決めた表情を浮かべる。


「はい……!! 私は、この国を変えるために旅立ちます!! 皆さん、待っていてください……!! 必ずや、聖王となって戻って来ます……!!」


 フレーチェルはそう言って涙を拭うと、取り押さえられる奈落の民の横を通り過ぎて行き、城門前へと向かって行く。


 ――――――フレーチェル陣営。グリウス、キリシュタット、キールケと、人員は少ないが、奈落の民からの支持率は厚い。弱者のための王を目指すその姿勢は、虐げられる者たちにとっては希望と映るだろう。


 彼女の理想は、正しく民を導ける聖王となること。


「遅れを取るな。俺たちも行くぞ」


 フレーチェル陣営が去って行った後。


 ヴィンセントは不適な笑みを浮かべて、前を歩いて行く。


「ちょ、ちょちょちょー!? オッサン、何を前歩いているですか!? 普通そこは、王女であるミレーナさんが先陣切って歩くところでしょーがぁ!?」


 ミレーナは小走りでヴィンセントを追いかけると、彼の前に並ぶと、頬を膨らませる。


 そんな二人の後を、コルネリアとセイアッドがついて行った。


「……あの、ろくでなし。こんな大事な時までヴィンセント様の足を引っ張って……!!」


「コルネリア殿。ここは公衆の面前。あまり、ミレーナ王女のことを悪く言うのはやめた方が良いかと思いますよ」


「あら、私としたことが。失礼。セイアッド殿、ありがとうございます」


 ミレーナ陣営……ヴィンセント、コルネリア、セイアッド。


 人員は他陣営に比べ圧倒的に少ないが、剣神であるヴィンセントは強力な剣士といえる。コルネリアも、以前少し会話した感じ、参謀としてかなり優秀な人だと思えた。


(まさかルナティエの兄貴のセイアッドが、ヴィンセント陣営に加入するとはな)


 まぁ、よくよく考えれば、マリーランドでセイアッドはヴィンセントの本性を知って、彼に深い感謝を抱いていたからな。


 当然の流れと言えば、当然なのかもしれない。


 しかし、ここは、バルトシュタインとフランシアの血族だけなのか。


 そこはバルトシュタインとレティキュラータスの血族しかいないフレーチェル陣営と同じで、四大騎士公の血族は不足している陣営と言えるか。


 元々人手が少ないレティキュラータスは置いておいて、オフィアーヌ家は家族一丸となっているから、他陣営に付くことが無くなっているのか。


 コントロール不可能なシュゼット姉様はともかく、ブルーノとアレクセイには、フレーチェル陣営とミレーナ陣営に手を貸すように言っておいても良かったのかもしれないな。


 とにかく、俺としては、フレーチェルとヴィンセントには頑張って欲しいところだ。


 民の人気度に関しては……ミレーナ陣営はまちまちと言った様子だ。


 司教リューヌの罪を暴いたことでフレーチェル陣営ほど上層民の受けは悪くないようだが、先ほどのミレーナの発言からか、あまり大手を振って支持している人物も見受けられない。


 ……元々評判が悪いヴィンセントがいるということも、ありそうだが。


 そして……最後に残ったジークハルト。


 彼は民たちを見下ろすと、口を開いた。


「……国民たちよ。お前たちは、今のこの状況を……疑問には思わないのか?」


 ザワザワとしていた群衆たちが口を止め、ジークハルトを見つめる。


 ジークハルトは続いて、開口した。


「災厄級の因子と呼ばれたロザレナという少女を、王国民全員で狩ろうとしているこの状況。果たして……正しいと言えるのだろうか?」


 ジークハルトのその言葉に、一人の民が声を張り上げた。


「ベルゼブブが街を襲ったことを覚えていないのですか!! あの時、どれだけの人々が恐怖に陥ったか……!!」


「だとしても……己の足で立って、己の目で物事を見て判断するべきだ!! 私はすくなくとも、この状況が作為的なものに見えてしまう!! 果たして本当に、一人の少女を殺すことが、この国の平和に繋がるのか!? 今一度考えて欲しい!!」


 ジークハルトはそう口にすると、一人、道を進んで行った。


(ジークハルト……)


 マイスの言う通り……ジークハルトは、優しい奴だ。


 きっとロザレナだけが命を狙われているこの現状に、違和感を抱いているんだ。


 だが、そんなジークハルトに対して、王国民の態度は不審なものだった。


「とはいっても……危険因子は排除しておくにこしたことはないだろ……」


「配下を一人も連れていないジークハルト王子に、偉そうに言われたくはないね」


「作為的って……じゃあ、聖女様とゴーヴェン団長が嘘を吐いているってことか? だったら真実はどこにあるんだよ」


 どよめく群衆の中を歩いて行くジークハルト。


 俺は群衆を掻き分け、ジークハルトと同じ歩幅で城門前へと進んで行く。


 仲間たちを下手にこの場に連れて来ることはせず、ジークハルトの護衛は俺が勤めている。


 その方が無駄な人員を割くこともなく、スムーズに城門前に集まることができるからだ。


 勿論、ジークハルトはまだ俺の実力を知らない。この場に俺がいることは、ルナティエとロザレナ、グレイ、フラン、マイスしか知らない。


 そうして、その後。何事もなくジークハルトは城門前へと進んでいくのだった。


 俺も彼に続いて城門前に進みながら……チラリと、ある民家の屋根の上へと目を向けた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「それで……どの陣営がロザレナを匿っていると思う? ルティカ」


 民家の屋根の上に立って群衆を見下ろす、フードを被った二人組。


 タバコを口に咥える男のその言葉に、小柄な女性と思しき人物は言葉を返した。


「本当に、王族の陣営にロザレナがいるのかよ?」


「これだけの期間ロザレナの目撃情報が無いんだ。状況的に見てロザレナを匿うことができるのは王族以外にあり得ないさ。それに、ロザレナが懇意にする王族が勝利すれば自分の身の安全も保証できるだろうからな。候補としては、エステリアル陣営、フレーチェル陣営、ミレーナ陣営、ジークハルト陣営のいずれかだろう。可能性が高いのは、奈落の掃き溜めでロザレナを庇った、フレーチェル陣営とミレーナ陣営と言えるが……」


 男はチラリと、道を進んでいくジークハルトに目を向ける。


「先ほど、ロザレナを庇ったと思しき発言をしたジークハルトは、かなり怪しいな」


「だったら、奴を襲って吐かせるか?」


「……ここではまずい。巡礼の儀が始まり、ジークハルトが王都を離れた時に隙を見て襲うのがセオリーだ。大丈夫さ、こっちには各地を転々としていても不審ではない、冒険者という目がある。行くぞ、ルティカ」


「チッ。指図してんじゃねぇよ、ディクソン」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

 城門前に辿り着くと、既にそこには、たくさんの馬車の姿があった。


 ゴーヴェンとジュリアンが乗る馬車は特注なのか、漆黒に金の装飾が施された巨大な乗車台を大量の黒馬が引く、威圧感がある大きな馬車となっていた。


 エステルが乗る馬車は、白銀の乗車台を白馬が引いている、美しい馬車。


 フレーチェル陣営の馬車は、コンパクトながらも、可愛らしいハートの装飾が施されたピンク色の乗車台となっている。やっぱりあの子、ピンクとハートが好きなんだな……。

 

 いや……フレーチェルがグリウスに何かを言っている様子を見るに、成長を遂げる前の以前の趣味の発注したものをグリウスがそのまま取り寄せたみたいだな。キリシュタットが、引き攣った顔で「これに乗るのか?」と、馬車を見つめている。キールケはむしろ「悪くないじゃない」と気に入った様子を見せていた。


 反対にヴィンセント陣営は、落ち着いた雰囲気の青い乗車台となっている。


 ヴィンセントは乗車台の扉を開けると、何やら行きたく無いと叫んでいるミレーナの襟を掴み、そのまま馬車へと放り込んでいた。


 各陣営の馬車を確認した後。


 俺は、これから自分たちが乗る馬車の前へとたどり着いた。


「これが……ジークハルト陣営の馬車……」


 俺たちジークハルト陣営が乗る馬車も、とても立派なものになっていた。


 薄い黄色を基調とした乗車台は、何と、二階建て。まるで家のようだ。


 そんな大きな馬車を引くのは、十数頭からなる、大量の茶毛の馬たち。


 その立派な馬車を見つめていると、馬車から降りたルナティエが声を掛けてきた。


「お帰りなさいですわ、師匠」


「はい、ただいまです。ルナティエ。ジークハルトや、お嬢様……いえ、みんなはもう中に乗っていますね?」


「ええ。国民の目が開会式にいっている隙に、既に全員搭乗済みですわ。余計なアクシデントが起こらずに開会式を終えることができて、ホッとしています」


 そう言ってルナティエは、俺の隣に並んで、馬車を見上げた。


「わたくしたち……ついに、巡礼の儀に参加するんですわよね……」


「はい。味方は多いとはいえ、気を引き締めて行かなければいけませんね」


「そうですわね。……っと、今からわたくし、出発前に別働隊の馬車の様子を見に行くつもりなんですの。師匠も一緒に行きますか?」


「あ、はい。むしろ、私も一緒に行った方が良いですね。尾行されていたら、マイスにも危険が及ぶと思いますので」


 俺はチラリと背後を伺う。


 先ほど、こちらを屋根の上から見ていた二人組がいたが……今は、その姿はどこにもなかった。


 俺は周囲に監視者がいないことをさりげなく確認し終えると、ルナティエと共に歩みを進める。


「別働隊の馬車は街の外れに配置していますの。ジークハルト陣営にマイスがいたと知られたら、まずいですからね」


「素晴らしい采配です、ルナティエ。もうそろそろ、他の陣営も各地の祠を目指して出発する頃合いでしょう。急ぎましょうか」


 そうして俺たちは小走りに歩みを進め、城門の外から少し離れた場所へと向かって行った。





「マイス様……!! 行ってしまわれるのですねぇぇぇ!! 悲しいですぅぅぅぅ!!」


 ルナティエと共に別働隊の馬車が停まっている場所へと辿り着くと、そこには、ハンカチを手に持って号泣する少女と、そんな少女の前に立って白い歯を見せているマイスの姿があった。何だこの状況。


「はっはー! そう泣くことはないさ! これが今生の別れではない! またいつか、会うことができるさ……アリス嬢」


 マイスは少女の顎を掴み、微笑を浮かべる。


 そんなマイスの顔を見て、少女は「マイス様……」と、潤んだ瞳を見せた。


 というか、あの少女、何処かで見た覚えが……。


「何で貴方がこんなところにいるんですの……アリス・キェス・リテュエル……」


 ルナティエが見たく無いものを見てしまったという様子で、怪訝な目でアリスを見つめる。


 ルナティエの姿に気付いたアリスは、急いでマイスから離れると、服装を整え不適な笑みを浮かべた。


「あ、あら! ルナティエさん! こんなところで会うなんて偶然ね!」


 アリスという少女は、確か、初期の黒狼クラスでルナティエの取り巻きをやっていた少女だ。ロザレナとルナティエに敵対心を持っており、学級対抗戦の時はシュゼットに情報を売ろうとしたりと……まぁ、色々と二人に突っかかっていた、プライドの高い女子生徒だ。


 ルナティエはマイスに目を向けると、呆れた様子を見せる。


「マイス。貴方、自分の立場を分かっていて? すぐそこにはエステリアルがいるんですわよ? アリスさんを口説いている暇なんてありまして?」


「はっはー! そう怒るものではないさ、フランシアの姫君。そもそも、アリス嬢が俺たちに馬車を贈呈してくださったのだぞ? 丁重にもてなさねばならんのも道理だろう」


「え゛。アリスさん、貴方……それは本当なんですの?」


 ルナティエの言葉に、アリスはフンと鼻を鳴らす。


「そうですが? 何か?」


「どういう風の吹き回しなんですの? 貴方、蝙蝠政治が好きな、風見鶏じゃありませんの。勝ち目の低いジークハルト陣営に貸しを作って、一体何が目的……」


「愛の前には!! 目的なんて、何もないんですよ……!! まぁ、恋なんてしたことがないルナティエさんに、そんな気持ちなど分かるわけないと思いますけどぉ? アハハハハハ!」


 高笑いを上げるアリス。そんな彼女を見て、ドン引きした様子を見せるルナティエ。


 まさか、マイスが言っていた馬車の伝がある貴族というのが……アリスだとは思わなかったな……。


 ルナティエは深いため息を吐いて、首を横に振った。


「元々、特別任務で得たトレード券で、アリスさんと他の生徒を交換する腹積りでしたが……最後には価値を見出しましたわね、貴方も」


「なっ……!! 貴方、私を黒狼クラスから追い出すつもりでしたの!?」


「当然でしょうが。貴方、学級対抗戦で、敵クラスの級長シュゼットに能力検査表を漏らしていたでしょう? そもそも、他クラスに入りたがっていたじゃありませんの、貴方。WINWINではなくって?」


「ぐぬぬぬぬ!! やっぱり、貴方、気に入らないわ!! 負け犬の癖して!!」


「自分本位の人間に何を言われても効きませんわよ。それよりも……黒狼クラスの様子はどうなんですの?」


「……私はどうでもいいんですけど、まぁ、ロザレナを慕っていた人も多いですから……クラスメイトたちはみんな意気消沈しているわ。まぁ、どうせすぐ戻ってくるんでしょ? あの子も」


 アリスのその発言に、ルナティエは驚いた表情を浮かべる。


 そんな彼女に、アリスはジト目を向けた。


「何よ」


「いえ……貴方が、ロザレナさんを心配しているのが、不思議で……」


「心配なんかしていないわよ。ただ、私たち黒狼クラスの人間は、ロザレナがどれほどの化け物なのかを誰よりも知っているってだけ。どうせ、何とかするつもりなんでしょ? ならさっさとクラスに戻って来いって伝えておいて。ヒルデガルトさんが級長面してるのも、なんかムカつくから」


 そう言って、アリスは去っていった。


 そんな彼女の背中を見て、マイスは微笑みを浮かべる。


「良い子じゃないか」


「そうでもないですわよ。ただ、今は恋に夢中になっていて、他のことに興味がないだけですわ。まぁ……以前よりは、悪くは無いですけど」


 そう言ってため息を吐いた後。


 ルナティエは、馬車の中へと声を掛ける。


「アルファルド! ジェシカさん!」


 すると馬車から、アルファルドとジェシカが出てきた。


 マイス、アルファルド、ジェシカに、ルナティエは再度、声を掛ける。


「貴方たちはこれから、別働隊として、遅れてわたくしたち本隊についてきていただきますわ! 状況判断をする指揮官は、マイス、貴方に一任します!」


「はっはー! 任せておきたまえ!」


「ジェシカさんは、戦闘員として、この馬車を守ってください!」


「うん! 任せて!」


「アルファルドは、馬を操りつつ、周囲を確認して、一時間ごとに念話でわたくしに報告を!」


「あぁ。分かっている」


「では、これより十分後、本隊を出発致しますわ! 貴方たちは五分後、遅れてついてくださいましね!」


「うん!」「了解だ!」「あぁ!」


 そうしてルナティエは深く頷くと、振り返り、本隊へと戻って行く。


 俺もそんな彼女の横に並び、本隊へと向かって歩いて行った。


「……師匠。大丈夫ですわよね。わたくしたち……ロザレナさんを救えますわよね……」


 拳を握り、肩を震わせるルナティエ。


 俺はそんな彼女の頭に優しく手を乗せ、口を開く。


「大丈夫です。みんなで、全員で、生きて戻るんです。あの、満月亭へ―――――」


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