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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第11章 強欲の狂剣

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第11章 二学期 第363話 開会式


 ―――――――12月1日。開会式。


 王城の前に立っているのは、エステル、ジークハルト、ゴーヴェン、そして宰相セオドア。


 そんな彼らの前には、王都に住むほとんどの国民が押し寄せ、群衆を作っていた。


 民衆の顔には明確な不安の色が残っている。恐らく、二週間以上もロザレナを捜索して、尻尾を掴むことすらできていないからだろう。


 こんな状況の中で、巡礼の儀を強行しても良いのかという思いが、民たちの表情から言葉にしなくてもひしひしと伝わってくる。


 俺は群衆に混じりながら、そんな彼らの様子を伺った後。深く被ったフードの中から再び、王城の前に立つ王族たちへと視線を戻した。


「……やっぱり、ヴィンセントやフレーチェルの姿はない、か……」


 巡礼の儀に参加するのは、エステル陣営、ゴーヴェン陣営、ジークハルト陣営のみで確定か。


 どちらが勝利してもロザレナを守ることができる、安心して同盟を組めるような味方はできる限り多い方が良かったのだが……現状、俺たちは俺たちの力だけで巡礼の儀に望むしかないようだ。


 ゴーヴェンもエステルも、剣神クラスの強者を配下に従えている。


 ロザレナやグレイ、ルナティエがいくら成長が著しい若きホープとはいえ、ジェネディクトやリーゼロッテクラスと戦うにはまだ早いだろう。


 あと3、4年あれば箒星の弟子たちもそのレベルに追いつくことができたかもしれないが……既に賽は投げられた。現状、奴らを抑えることができるのは、俺しかいない。俺が戦うしか、ない。


(……まさか、こんな形で再び表舞台に上がることになるなんてな……)

 

 ここから先は、この国に住まう全てが敵となる。


 いくらかつて最強と謳われた俺でも、自分の限界は知っている。


 俺の手はひとつだけだ。剣聖・剣神クラスの剣士で徒党を組んで襲い掛かられたら、仲間たちを全員守ることも難しくなってくるだろう。


 だけど……絶対に、誰も死なせはしない。


 俺たちは再びこの地に戻って、みんなで満月亭に帰るんだ。


 平和を掲げる、真の聖王を連れ帰って。


「……コホン。王国に住まう者たちよ! よくぞ集まってくれた! 我が名はセオドア・アリンヒル・フレグガルト。今日これより執り行う、巡礼の儀の開会式進行を務める、セレーネ教第二位の力を持つ祭司である! 皆の者も知っているとは思うが、巡礼の儀とは、次代の大事な聖王を決める儀式である! 王位継承権を持つ王子王女が、各地にある四大騎士公に縁のある祠を巡り、いち早くこの王都に戻ってくるかを競う催しが、この儀式だ。この儀式において、転移の魔道具などは使用禁止とされている。己の足で巡る者にだけ、王たる資質が宿るのだ」


 静まり返る民衆たち。


 そんな彼らを一瞥した後、宰相セオドアは、後方へと手を指し示す。


「今日は、この開会式のために、第276代目の聖女様がおいでになってくださった。聖女様は、セレーネ教を統括なされ、神のお声を元にこの国の未来を見てくださる大事な御方。皆、深く感謝をして、お声を拝聴するように」


 セオドアがそう口にするのと同時に、カツカツと靴の音を鳴らして、城へと続く長い階段から……従者と思しき騎士の手を借りて、一人の女性が降りてきた。


 純白のドレスに、真っ白な髪。閉じた瞳。エステルに似た風貌の妙齢の女性。


 目を閉じているのは、魔眼の加護が勝手に発動しないようにするためだろうか?


 こうして見るのは、初めてだ。


 あれが……この国の聖女様、か。


 いや、確か体の方はアレスの幼馴染の少女、アリアだったっけな。


 あの聖女は、転生の儀を使って、何人もの人間を器として寿命を繋いできている。


 聖女は、神の代弁者などではない。得体の知れない何かだ。


 宰相が甲斐甲斐しく道を譲ると、聖女は前に進み出て、国民たちの前に立った。


「皆さん、お久しぶりです。中には、初めましての方もいるかもしれませんね。私は、第276代目の聖女、アリアと申します」


 目を閉じたままニコリと微笑みを浮かべる、白髪の美女。


 その風貌は、エステルよりも、アレスに似ているように感じられた。


 アレスと同じ方法でホムンクルスとして生み出された少女がアリアなのだから、当然の話なのかもしれないが。


 聖女アリアは胸に手を当てると、悲しそうな表情を浮かべる。


「開会式を執り行う前に、まずは、皆様に謝罪しなければなりません。本来であれば、災厄級の芽という存在を皆様にお伝えして王国に混乱を招くのは、私の本意ではありませんでした。不甲斐ない話なのですが……私の未来視で、強欲の災厄級と思しき存在を感じ取ったのですが……とても曖昧な予兆だったのです」


「曖昧……?」


 困惑し、どよめく民たち。その姿を見て、聖女はコクリと頷く。


「本来、私は、確定した危険な未来を剣聖や剣神、聖騎士団に告げ、危険因子の排除を要請いたします。ですが、今回の未来視は姿形が曖昧で、どのような者が王国に災厄を振り撒くのかが、把握することができませんでした。私が感じたのは、禍々しい闇の気配。そして、紅き刀。それだけです。それが何を示しているのか、私には予測できませんでした。ですが……ゴーヴェン騎士団長には、思い当たる節があったようです」


 そう言って聖女は、ゴーヴェンの方へと顔を向ける。


 するとゴーヴェンは微笑を浮かべ、前へと出た。


「諸君も知っての通り、私は、災厄級の因子と思しき存在を知っていた。そう、闇属性魔法の因子を持つ存在のことだ。この国では遥か昔から、闇属性魔法は危険因子とされていた風潮がある。そして、古い文献には、災厄の魔物はいずれも闇属性魔法の因子を持っていた生物が転化した存在だと、記載されている。故に……闇の力を持つ存在が、一番、強欲の災厄級に近しい存在であると判断し、ロザレナ・ウェス・レティキュラータスを討伐対象として定めたのだ」


 ゴーヴェンのその言葉に、聖女は眉を顰める。


「今回、私は、確定した未来を把握するまでは、国民の皆様を無闇に混乱させたくはなかったのですが……ゴーヴェン団長の仰りたいことも分かります。聖王亡き今、私たちがすべきことは、国民の皆様がたの不安を払拭すること。皆様、ご安心ください! 私の未来視と聖騎士団、そして、この国の守り手である剣聖がいれば、恐るものは何もありません! 必ずや、ロザレナを討伐してみせましょう!」


 聖女の微笑みとその宣言に、国民たちの表情が落ち着いていく。


 そして国民たちは、ワーッと歓声を上げ、手を挙げた。


 確定した未来ではないというのに……ロザレナが災厄級だってまだ決まっていないというのに。


 この国は、お嬢様を殺そうとしている。


 今、はっきりと分かった。やはり、聖女は俺の敵だ。


 俺は、お嬢様を守る。お嬢様を害す者は、全て敵だ。


 俺はもう剣聖じゃない。今の俺は、お嬢様のメイドなのだから。


「さて……それではさっそく、巡礼の儀に挑む王子王女たちの洗礼を始めましょう。この洗礼を受けることにより、参加者たちは、王の器の欠片を集める資格を得ることができます。では……第三王女、エステリアル・ヴィタレス・フォーメル・グレクシア。前へ」


 エステルは前へと出て、聖女の前に立つ。


 すると聖女は、エステルに声を掛けた。


「貴方は、どのような聖王を目指し、どのような世界を求めるのですか?」


「世界に恒久的な平和をもたらす、知と力を持つ聖王になりましょう。そして、争いの果てに、唯一の王となりましょう」


「分かりました。では、手をこちらへ」


「はい」


 エステルは聖女の前へ、手を伸ばした。


 聖女はその手の甲に自身の手をかざし……詠唱を唱える。


「我が祖たる女神よ。彼の者に、聖なる光の加護を与えたまえ」


 すると、エステルの手の甲に、二本の剣と月の紋章……王家の紋章が浮かび上がった。


 エステルは、自分の手に浮かび上がった紋章を、ジッと見つめる。


 そんな彼女に、聖女は微笑みを浮かべた。


「その紋章は、王家の器の欠片を回収するものとなります」


「王家の器とは?」


「各地の祠にある、魔術の残滓のようなものです。祠の最奥にある像に紋章が宿った手をかざすことで、魔術の残滓が手に宿り、紋章に光が満ちていきます。全ての祠を巡り、紋章を得たその時に、王家の器は完成となり、紋章の光を全て満たすことができます。どの王位継承者よりも王家の器を完成させ、一番早くこの王都に戻った者が、次代の聖王となるのです」


「なるほど。了解致しました」


「王女エステリアル。女神アルテミスと王国の英霊たちに恥じぬよう、次代の聖王に相応しき戦いを」


「お任せを」


「では、次、第三王子、ジークハルト・ルゼルフ・グレクシア」


「はい」


 エステルと入れ替わりに、ジークハルトが前に出る。


 戻ろうとしているエステルとジークハルトがすれ違う、その時。


 ジークハルトはエステルに、何か声を掛けられていた。


 だが、ジークハルトはそれを無表情で無視して、聖女の前に立つ。


「貴方は、どのような聖王を目指し、どのような世界を求めるのですか?」


「間違いのない聖王を。王に相応しき者が王になれる世界を」


「では、手を」


「はい」


 手を前に出したジークハルトに対して、聖女はエステルと同じように詠唱を唱え、ジークハルトの手の甲に紋章を宿した。


 そして、ジークハルトが手の甲を見つめていると、聖女は彼に声をかける。


「王子ジークハルト。女神アルテミスと王国の英霊たちに恥じぬよう、次代の聖王に相応しき戦いを」 

 

「はい」


 そう言って、ジークハルトは後方に下がる。


 そして、聖女は、最後に残ったゴーヴェンに顔を向けた。


「ゴーヴェン団長。ジュリアン王子は……」


「今、こちらに」


 ゴーヴェンはそう言って、自身の背後へと目を向ける。


 するとそこには、聖騎士に支えられてこちらへと歩いて来るジュリアンの姿があった。


 ジュリアンは痩せ細り、頰がこけ、以前とはまるで姿が異なっていた。


 目に覇気はなく、唇は紫色。身体が小刻みに揺れ、自分一人で歩けるような状態ではなくなっていた。


 その姿を見て、動揺した様子を見せる宰相セオドア。


 そして彼は、ゴーヴェンに怒りの形相を見せた。


「ゴ、ゴーヴェン……!! いったい王子殿下に何を……!!」


「黙っていたまえ、宰相殿。王子殿下のお通りだ」


 ジュリアンは聖騎士に支えられて聖女の前へと立つ。


 そんな彼に、聖女は声をかけた。


「ジュリアン王子。ご病気だとは聞いていましたが……本当にそのような状態で、巡礼の儀に参加される気なのでしょうか?」


「あ……ぅ……」


「聖女様。ここは代理を務める私が、以前お聞きした王子のお言葉をお伝えしましょう」


 そう言ってゴーヴェンは、ジュリアンの横に並ぶ。


 そんな彼に、聖女は口を開いた。


「では、ゴーヴェン団長。ジュリアン王子は、どのような聖王を目指し、どのような世界を求めるつもりなのですか?」


「この世界に、贄のない、選ばれた強者だけが住むことを許される楽園を創り出す。王子は、そう仰られておりました」


 その言葉に、ジュリアンはガクガクと身体を震わせる。


 その様子を一瞥した後。聖女は、ジュリアンに声を掛ける。


「では、ジュリアン王子。手を」


 手を上げようとしないジュリアン。そんな彼に、ゴーヴェンは微笑を向ける。


「ククク。どうしたのですかな、殿下。手を上げなければ……巡礼の儀に参加できませんぞ?」


 その言葉にビクッと身体を震わせると、ジュリアンは諦めた表情で、手を上げた。


 そんな彼の手の甲に、聖女は、手をかざす。


 すると、ジュリアンの手の甲に紋章が浮かび上がった。


(ジュリアンは恐らく……ゴーヴェンによって拷問されて、完全な傀儡となってしまったな……)


 あの様子を見るに、やはり、ジュリアン派閥であった宰相も取り込まれたか。


 完全にジュリアン派閥は機能を失い、ゴーヴェンによって支配されていることが、あの光景を見て理解することができる。


「さて……これで、全ての陣営の参加登録、洗礼を終えたわけですが……」


 聖女が、そう言いかけた……その時。


 王城の屋根の上から、何者かの叫び声が聞こえてきた。


「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 漆黒の騎士と、その騎士の脇に抱えられた、泣き叫ぶ水色の髪の少女が……空から降ってきた。


 騎士は盛大に聖女や王族たちの背後に着地すると、ゼェゼェと荒く息を吐き、ギロリと兜の隙間から赤い眼光を光らせる。


「な、何奴だ!!」


 聖騎士たちは一斉に、漆黒の騎士へと剣を構える。


 そんな彼らに、漆黒の騎士は、咆哮を上げた。


「クハハハハハハハ!!!! 誰に向かって剣を向けている!!!! ここにおわすは、未来の聖王である、ミレーナ王女殿下に在らせられるぞ!!!!」


「ヴィンセント!?」


 俺は思わず、驚きの声を溢してしまう。


 まさかこの場に、ヴィンセントが現れるとは思っていなかったからだ。


 彼の背後から、続いて、二人の人物が城の屋根から降りて来る。


 それは、コルネリアとセイアッドだった。


 二人は地面に着地すると、ヴィンセントとミレーナの背後に並び立つ。


 ヴィンセントはミレーナを地面に下ろすと、聖女に顔を向けた。


「クククク。さぁ、ミレーナ王女。貴方も、洗礼を受けると良い!」


「何なんですかぁ、このオッサンはぁぁ!!!! 急にいなくなって、やっと前の生活に戻ることができたのにぃぃぃぃぃぃ!!!! 今度は急に現れて、ミレーナさんを攫ってこんなところまで連れてきてぇ!! 腹が立ちますうぅぅぅぅぅ!!!! うちを何だと思っているですかぁぁぁぁ!!!!」


「何を言っているのかが分かりませんな。貴方は、この国を変えるべく立ち上がった王女ではありませんか」


 ヴィンセントはそう言って、ミレーナを無理矢理前に押し出した。


 すると、その時。群衆を掻き分け、新たな人物が姿を現した。


「お待ちください!」


 聖女の前に現れたのは、眼帯を付けた王女フレーチェルと、その配下、グリウス、キールケ、キリシュタットだった。


 フレーチェルは前に出ると、聖女へと宣言をする。


「私……第四王女、フレーチェル・リーシア・グレクシアも、巡礼の儀の参加を表明致します」


 ザワザワとざわめく民衆たち。その殆どが、「あれ、フレーチェル王女か?」と、驚いた様子を見せていた。


 無理も無い。彼女は以前とは異なり、服装がドレスではなく、動きやすい安っぽい服を着ていたからだ。


 その顔つきも、以前とは異なり、精悍なものとなっている。


 俺はヴィンセントとフレーチェルの登場に、思わず笑みを浮かべる。


「良かった……二人とも、無事だったんだな……!」


 フレーチェルもミレーナと並び、聖女の前へと出た。


 そんなフレーチェルに、エステルが、驚いた様子を見せる。


「君は……誰だ?」


「お久しぶりですね、エステリアル。今ままでの私の態度、貴方には思うところがあるでしょうが……今の私は、貴方と同じく、自分の理想を叶えるために聖王を目指す身。もう、逃げたりは致しません。私は、貴方とも戦います!」


「……驚いたな。まるで別人だ。この変化は僕も予想できていなかった。いつもべったり側にくっ付いていたゾーランドの姿が見当たらないが……ふぅん、なるほど。親代わりだった彼を失って、成長したということか。フフフ……面白い存在だ。けれど、果たして立ち上がるのが遅かった温室育ちの君に、僕を倒せるかな?」


「貴方の破壊を元とする理想は、私とは相反するもの。虐げられる者たちのため、戦いましょう。復讐の王女よ」


 睨み合うフレーチェルとエステル。そんな二人を、「あわわわ」と身体を震わせ、見つめるミレーナ。


 聖女はフレーチェルとヴィンセントを交互に見つめた後、口を開いた。


「洗礼を受けるのは構いませんが……何故、この二週間、フレーチェル殿下とヴィンセントさんは、姿を見せなかったのですか?」


「聖女様。私たちは、共に、ゴーヴェン騎士団長によって捕えられていたのです」


 フレーチェルはそう言って、背後に立つゴーヴェンを睨みつける。


 ゴーヴェンは気にも留めず微笑を浮かべていたが、民たちはその発言にざわざわと動揺した様子を見せた。


「……どういうことでしょうか? ゴーヴェン騎士団長?」


 聖女のその言葉に、ゴーヴェンはキールケを一瞥した後、首を横に振る。


「私は、災厄級の因子を庇い立てする我が息子と、奈落の掃き溜めの民を先導している指揮官と反乱分子を捕らえたのですが……部下がやったこと故。そこに、たまたまフレーチェル殿下が共に捕まっていたとしても、知らぬことです。王女が奈落にいるなどとは、思いもしませんからな」


「白々しいですね! 貴方は、私たちの牢の前に姿を見せ――――――」


「フレーチェル」


 キールケが前に出て、フレーチェルの口撃を止める。


 そしてキールケはゴーヴェンに不適な笑みを浮かべると、開口した。


「今ここで、お父様を吊し上げようとしても無駄。証拠も揃っていないし、何より、この場で言い争いをしても、既にジュリアンは紋章を貰ってしまっている。ゴーヴェンを退けさせるには、巡礼の儀で戦うしかない」


「そういうことだな」


 フレーチェルの前に立ったキールケと同じように、ミレーナの前に立つヴィンセント。


 その姿を見て、ゴーヴェンは目を伏せ、笑みを浮かべる。


「まさか、キールケも、ヴィンセントと同じように我が前に立ちはだかるとはな」


「キールケちゃんはねぇ、お父様に従っても、欲しいものが手に入らないと思ったの。欲しいものは、自分の手で手に入れる。どんな力を使ってでもね。それが―――――バルトシュタインの流儀でしょ?」


「ククク。あぁ、その通りだな」


「バルトシュタインの流儀などうんざりだ。お前たちにはこの国を任せてなどいられない。勝つのは、俺だ」


「あら、助けてあげたのに酷いのね、お兄様?」


 睨み合う、バルトシュタインの血を引く三人。


 そんな三人を緊張した面持ちで見つめた後、フレーチェルは、ゴーヴェンの背後に立つ痩せ細ったジュリアンを見つめる。


「お兄様……」


「……う、ぁ」


 ジュリアンは上手く喋れないのか、フレーチェルを見て何か言おうとしているが……上手く聞き取れなかった。


 そんな彼を見つめ、フレーチェルは静かに呟く。


「可哀想ですね。自分の理想も叶えられず、傀儡となってしまうなんて。ですが、私は同情などしません。私には私の戦う理由があるのです、お兄様。もう、私は……貴方の命令に従う従順な妹などではありません。私は、私の思いを持って、戦います」


「……」

 

 フレーチェルの言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、ジュリアンは顔を俯かせた。


 そしてフレーチェルは背後を振り返り、聖女の元へと向かって歩みを進めた。


 フレーチェルが前に立つと、聖女は声を掛ける。


「第四王女、フレーチェル・リーシア・グレクシア。貴方は、どのような聖王を目指し、どのような世界を求めるのですか?」


「虐げられる民のいない、腐敗を無くすことのできる、正しき聖王を。奈落の掃き溜めという地獄を生み出すことのない、平等な世界を」


「では、手を」


「はい」


 フレーチェルが手を上げると、手の甲に紋章が浮かび上がる。


「……ゾーランド。見守っていてください」


 そしてフレーチェルは背後を振り返り、グリウス、キールケ、キリシュタットの元へと戻って行った。


 そして、次に、聖女はミレーナへと目を向ける。


「第六王女、ミレーナ。前へ」


「え?」


 唖然とした様子で、首を傾げるミレーナ。


 そんな彼女の背を押し、ヴィンセントは催促する。


「行け」


「ぴぎゃあ!? ちょ、押さないでくださいですよぉう、もうっ!!」


 ミレーナは頰を膨らませた後、聖女の前に立つ。


 すると聖女は、今までと同じように、問いを投げた。


「第六王女、ミレーナ・ウェンディ・グレクシア。貴方は、どのような聖王を目指し、どのような世界を求めるのですか?」


「ミレーナさんは……」


 すぅぅぅぅと大きく息を吸い込むミレーナ。


 何か……嫌な予感がする……。


「ミレーナさんは……大金持ちになって、この国を私物化して……セレーネ教の女神もミレーナさんにして……ミレーナさんだけの、独裁国家にするですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!! ミレーナさんこそが、神ですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

 しーんと静まりかえる、民衆たち。


 やりやがったよ、あの女……。


 聖女も、今まで微笑を浮かべていたのに、ミレーナの発言で初めて表情を引き攣らせていた。そりゃあそうだ。ミレーナさん、今、セレーネ教のトップに堂々と喧嘩を売ったのだからな。


 静寂が広がっていた王都の広場だったが……次の瞬間、民たちが爆発した。


「ふざけるなぁぁぁぁ!!」


「あんな奴を聖王にしたらこの国の終わりだぁぁぁぁ!!」


「今すぐ巡礼の儀の参加を取り止めろ、馬鹿王女ぉぉぉぉ!!」


 ワーワーと騒ぐ国民たち。


 その光景を見て、ミレーナは涙目になりながら、下衆な笑みを浮かべた。


「う、うへへ! 言ってやったですぅ! 今までのオッサンの功績を全部無駄にしてやったですぅ!! これでミレーナさんは巡礼の儀なんてわけのわからないことに参加せずに、元の平和な生活に……」


「……」


 ヴィンセントは何も言わずにミレーナの元に向かうと、ミレーナの頭を、背後からガシッと掴んだ。


「申し訳ございません、聖女様。そして、国民の皆様がた。ミレーナ殿下は、人を試すことがお好きなお方で。今のは、聖女様に対しての軽いジョーク。見逃していただけたら幸いです」


「あ、え、ジョ、ジョーク……だったのですか? 今の?」


「はい」


「あぎぎぎぎ!! 頭が潰れるですぅ!! へるぷみぃですぅぅぅ!!!!」


 何あれ。ヴィンセントの陣営にだけ、味方に敵がいるんだが。


 水色の髪が珍しいからと言って、ミレーナを王女に仕立て上げたヴィンセントだったが……そもそも、あのミレーナを飼い慣らすのは、不可能だったのでは……。


「な、なるほど。では、国民に謝罪をして、ミレーナ王女の本当の考えをお聞かせください」


「では、代わりに自分が」


 ヴィンセントはそう言ってミレーナの頭から手を離すと、国民に向けて声を張り上げる。


「皆様がた! 先ほどの発言は、ミレーナ様が聖女様をお試しになろうとした、単なるジョークです! 本当の彼女の願いは、この国の最後の聖王となり、民が政治に関わることのできる民主制の国に導くこと! どうか、ミレーナ王女への応援を、よろしくお願い致します!」


 ヴィンセントがそう口にした後、聖女は、自分の頭を撫でるミレーナに声を掛ける。


「では、ミレーナ王女。手を」


「は、はいぃぃ」


 ミレーナは泣きそうな顔で、手を上げた。


 聖女はその手の甲に、手をかざし、詠唱を唱える。


 するとミレーナの手に、王家の紋章が浮かび上がった。


 あの紋章、王族でなくとも、付与されるんだな……。


 ……まぁ、とにかく。


 エステル、ジークハルト、フレーチェル、ジュリアン……そして、ミレーナ。


 五人の王位継承者たちは、紋章を獲得し、巡礼の儀の参加権を得ることが叶った。


 ここから、ついに、巡礼の儀が始まる。


 俺は拳を握りしめ、王子王女たちを見つめる。


(何としてでも、俺たちは……勝たなければいけない。とはいえ、現状、味方は多い。ジークハルト陣営、フレーチェル陣営、ミレーナ陣営のいずれかが勝利すれば、お嬢様の身の安全は守られるだろう。一見有利と見える状況。だが……ゴーヴェンとエステルは相対的に配下が多く、強力な剣士を従えている。こちらは、剣神以上の剣士は、俺とヴィンセントのみ。気を引き締めた方が……良さそうだ)


 この王都に戻って来る時。


 果たしていったい、どの王子が聖王となって帰って来るのか。


 今の俺にも、予想は付かない。

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