第10章 二学期 第341話 剣王試験編ー終章 空を翔ける箒星⑫ フランエッテVSアルザード
《アネット 視点》
「もうすぐ……日も暮れる、か」
俺は紅くなりつつある空を見つめながら、足早に、廃墟の中を進んで行く。
すると、倒壊寸前の、ある古い小屋の前に辿り着く。
そこは、幼少期の俺がシエルと暮らしていた家だった。
確か、俺はこの小屋の敷地に、シエルの墓を建てたんだったな。
けれど、その下に、シエルの死体はない。
幼少の頃、奈落の民の命を使ってショーをしていた貴族を殺し、シエルを殺した――――あの夜。
あの後、屋敷にバルトシュタイン家の聖騎士たちがやってきて、幼少の頃の俺は聖騎士たちとも戦ったのだが、体力が持たず……俺は、なくなくその場から逃げたんだ。
今思い返すと、どうせだったらシエルも連れて帰りたかったが、今更たらればを言っても仕方がない。
彼女の死体は王国の暗部と共に、闇の中へと消えた。
それは仕方のないことだった。そう飲み込む他ない。
(あの小屋を出て80年近く、か。今は別の奈落の民が住んでいて、あの墓も……ただの庭石になっているだろう。下手をしたら、何処かに捨てられていてもおかしくないな)
物見遊山的な感覚で、通り過ぎる間際に小屋の庭を覗いた―――――その時。
俺が建てた苔むした墓石の前に、一人の女剣士が立っているのを、俺は発見した。
この国では珍しい、着物を着用した黒髪の少女。
何となく、物陰に潜み、彼女を凝視してしまう。
「……帝国にいる災厄級の…………早く剣士を……集めなければ……」
そう言って、着物の少女は振り返り、物陰に潜む俺の横を通って、去って行った。
「何だったんだ、あいつ。奈落の民にしては、随分とこ綺麗な恰好をしていたが……?」
俺は短く息を吐いた後、「まぁ、今はどうでも良いか」と口にして、物陰から出て、その場を去ろうとする。
すると、その時。背後から、声を掛けられた。
「どこ行くのか知らないけど……この西区に留まっていた方が良いかもよ? メイドのおねーさん」
振り返ると、そこには、見るからに奈落育ちといった風貌の……首元にバンダナを撒いた、赤い髪の少女の姿があった。
盗賊風の格好をした彼女は、去って行った着物の少女へチラリと視線を向けると、ため息を吐く。
「あの子にも今見て回るのはやめといた方が良いって言ったんだけどね。今、奈落の南地区は、結構やばいことになってるから、下手に歩き回らない方が良いって。でも、素直に言うこと聞いてくれた感じじゃないんだよねー」
「南地区がやばいというのは……?」
「知らないの? 今、南地区は、アンデッドだらけになっていて、やばいらしいよ?」
「は……? アンデッド……?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《フランエッテ 視点》
―――――――ようやくアルザードを見つけたので、思わずかっこよく登場してみたのじゃが……何じゃろう、この状況は?
妾は10メートル先にいるアルザードと、その横で倒れている老人を抱く少女を見て、目をパチパチと瞬かせる。
まるで状況が理解できぬが……まぁ恐らく、あの少女もあの馬蝙蝠男の被害者であることは間違いあるまい。
さて……………ここからどうしよう…………?
意気揚々と登場してみたものの……何も考えていなかったのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「フハハハハハハハハハハハハ!! ようこそいらした、偽りの姫君、フランエッテ・フォン・ブラックアリアよ!!!! 貴様がこの場に来ることは、最初から分かっていたこと!! 我輩は貴様を狩るために、敢えて、この場に現れたのだからなッ!!!! ここにいる人間どもは貴様を誘き出すための餌だ!!!!」
な、なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?
……とは勿論、言わぬ。
相手に隙を見せるなと、師匠も言っておった。
妾は顔に手を当てて、いつものポーズを取り、不敵に笑みを浮かべる。
「無論、貴様の考えなど妾には最初から理解できておったわ。妾を誰と心得る? 不遜者めが。妾の方こそ……敢えて、この場に現れたのじゃよ」
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
ば、馬鹿か、あやつは……そんなわけないじゃろう!
いや、騙されやすくて助かったと言えるかの。
妾がアルザードの様子に引いていると、奴の背後に座り込んでいた少女が、声を張り上げた。
「お願いします! この男を……この奈落に地獄を創り出した元凶であるアルザードを……どうか、倒してください!! お願いします!! お願いします!! お願いします―――――ッッッ!!!!」
ピンク色の髪の少女はボロボロと涙を流しながら、そう、妾に訴えてきた。
彼女の腕に抱かれている老人は、胸に無数の穴を開けて、死に絶えている。
彼女の背後にある関所を見てみると、屋上に集まった人々が、悲鳴を上げながらアンデッドと戦っていた。
その光景を見て、妾は、過去の……エルルゥが災厄級となり、処刑場にいた人間たちを惨殺した光景を思い出す。
妾は、人を笑わせるために、旅芸人になった。
そして今度は、人を笑顔にさせるために、剣を持った。
このような世界―――認めるわけにはいかぬ。
『―――――――――あんな奴、やっつけちゃおう、フランエッテ』
何処かで、そんな、エルルゥの声が聞こえてきた。
妾はコクリと頷くと、傘を閉じ、構える。
「無論じゃ。任せよ! この男……アルザードは、妾が仕留める! 『箒星』門下生、四番弟子、【剣神】フランエッテ・フォン・ブラックアリアが、人々から笑顔を奪いしあやつに誅を降す!! 妾が目指す世界に……お主はいらぬ! アルザードよ!!!!」
アルザードは口をあんぐりと開けて驚きの表情を浮かべた後、すぐに冷静さを取り戻し、笑みを浮かべた。
「我輩の考えすら読んでいたとは、流石は、我が姫君の名を騙るだけある偽物といえる。だが、お前は下等生物どもを守るのが目的なのだろう? で、あるのならば……お前がこれから我輩と戦っている間にも、どんどんと、関所の人間どもはアンデッドに喰われていくだろうな。もし奇跡的に我輩を倒せたとしても? 残るのはもぬけの殻となった関所のみとなるのだ!! フハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「……どういうことじゃ?」
妾の疑問に、少女が答える。
「関所の中で、次々と、避難した人々がアンデッド化してしまっているのです!!」
「アルザードが中に入ったのか?」
「入っていません! 噛まれた者も、中にはいなかったはずなのに……!」
アルザード本人が中に入ってもいないのに、関所の中の人々がアンデッド化しだした、か。
考えろ……考えろ……!!
このままでは妾がこやつを倒したところで、誰も救えない事態になってしまう!!
妾は奈落の人々を救うために、勇気を振り絞ってこの奈落にやってきたのじゃ!!
でなかったら、あんな不気味な男、誰が好き好んで追うというのじゃ!! 正直、今も怖くて仕方ないのじゃ!!
「……」
妾は数秒程思案した後、口を開いた。
「そう、か……」
「フフフ、どうしたのだ、偽りの姫君よ。絶望のあまり、正気でも失ったかね?」
「アルザード、お主……胸に小さな穴が……空いておるな?」
「は?」
「娘よ! 今すぐ関所へと戻り、蝙蝠……いや、小さな鼠……小動物を探してくるのじゃ!! 奴は変化魔法で自身の一部を切り取り、関所の中に潜ませておる!! その小動物が人間を噛んだことで……アンデッドが生成されておるのじゃ!!」
妾の言葉に、アルザードと少女は唖然として、硬直する。
妾は再度、少女に声を掛けた。
「何をやっておる!! 早く行け!! さっきも言った通り……こやつは妾に任せよ!!」
「は、はいっ!!」
少女はそう返事をすると、逡巡した後、その場に老人を置いて、関所の中へと向かって走って行った。
アルザードは振り返り、少女の背中に向けて魔法を放とうとする。
「ま、待て! 我が血を槍へと変えよ! 【ブラッドリー――」
「させると思うておるのか?」
妾は袖からナイフを取り出すと、それをアルザードへ向けて投擲する。
アルザードは初撃の変化魔法を思い出し、即座に後方へと下がり、そのナイフを避けてみせた。
地面に突き刺さるナイフを見つめた後、アルザードは、憤怒の表情を浮かべる。
「き……貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!! 我輩の治癒の供給を邪魔しおってぇぇぇ!!!!! 許し難しィイイイ!!!!!」
アルザードは隣に立っていたアンデッドの頭を掴む。
するとその瞬間、アンデッドは体液を吸われたかのようにシワシワとなり、骨と皮だけに成り果てた。
それをポイと地面に投げ捨てると、アルザードは「フン」と力み、失ったはずの右腕が元通りに再生した。
な……なんじゃそれはぁぁぁぁぁ!? そんなの、アリなのかのぉぉぉぉぉ!?
「アンデッドどもォ! 奴を喰い殺せェェ!!」
「うぁぁぁ……」
「ヒィィィィ!?」
周囲にいたアンデッドの大群が、妾に向かってゆっくりと歩いて来る。
妾は傘を構えながら、何度も深呼吸をした。
(お、落ち着くのじゃ……! 見たところ、アンデッドどもに機動力はない! 奴らはただ大群で押し寄せてくるだけのでくの坊じゃ……!)
妾は、脳裏に、過去の師匠との修行風景を思いだした。
『――――良いですか、フランエッテ。貴方は、正直、弟子たちの中でも……一番実力と経験が足りていません』
満月亭の裏山にある稽古場。
魔力のコントロールを終えた妾に待っていたのは、師匠の容赦の無い言葉だった。
妾は汗をダラダラと流し、両手の人差し指を合わせて、視線を横に逸らす。
『じゃ、じゃが、師匠。妾は、この中で誰よりも長く生きておってのう……』
『実は、そうでもないかもしれませんよ』
『え?』
『……何でもありません。とにかく、フランエッテ、貴方はただ長く生きてきただけです。現時点では、貴方は、まだ剣士とは言えません。剣の実力がありませんから』
『じゃ、じゃが、妾はこれでも、剣王として長く君臨してきた実績が……何度もピンチを乗り越えてきた実績が……!』
『運です』
『……ほへ?』
『貴方がピンチを乗り越えることができたのは、全部、運です』
『……大昔に、旧・剣神たちと共にベルゼブブの巣に行って帰って来ることができたのも?』
『運です』
『龍に襲われて、剣神ジャストラムに助けてもらえたのも?』
『運です』
『特別任務の時、リューヌに手を組まないかと勧誘されて、威嚇のつもりで適当に剣を振ったら何か柱が落ちてきたのも?』
『柱が落ちてきた? あー、それはもしかしたら運じゃなくて、例の次元斬のせいかも?』
『ベルゼブブ・クイーンに挑もうとして巣の中を進んでいる時に、ベルゼブブに遭わず、師匠とテンマさんに出会えたのも?」
『あ、それはものっすごい運ですね』
『妾……ただの運だけ人間じゃないかのう……? 酷いのじゃあ~こんなのあんまりなのじゃあ~!!』
妾が両目に手を当ててわんわんと泣いていると、アネット師匠はコホンと咳払いをした。
『いいえ。幸運も武器ですよ。きっと、ルナティエあたりは……羨ましがるんじゃないかと思います。あの子、どっちかというと不幸体質な気がしますので』
『あぁ……確かに。何かいつもロザレナの尻拭いをさせられたりして、幸薄そうなのじゃ、あのドリル娘は』
『ただ、幸運だけでこの先やっていくのはあまりにも無謀な行いです。【剣神】に見合った実力を目指すのならば……剣士としての基本的な技術が必要です』
『じゃが、妾、魔法剣士になりたいのじゃぞ、師匠?』
『魔法剣士が魔法だけを使って戦うのならば、それはただの魔術師です。魔法剣士とは、文字通り、魔法と剣を使って戦う者のこと。遠距離戦では魔法を使用し、時には魔法で身体を強化して、剣を使って白兵戦に挑む。勿論、大の苦手としている剛剣型相手に白兵戦を挑む魔法剣士は、殆どいません。ですが、時と場合に応じて魔法と剣を使い分けることができるのが、魔法剣士の強みです。何度も言いますが、魔法と剣、両方鍛えるのが、魔法剣士です』
『な、なるほどなのじゃ……!』
『まずは貴方に、八つの攻撃の型を教えます。唐竹、袈裟斬り、左薙、左切上げ、逆風、右切り上げ、右薙ぎ、逆袈裟。これが、剣士が剣を振る時の基本的な振り方です。フランエッテにはこれを習得してもらいます』
『わ、分かったのじゃ』
『あとは、攻撃の避け方。それと、剣の持ち方もですかね』
『わ、分かったのじゃ』
『あとは……』
『ま、まだあるのかのう!?』
『勿論です。動けない魔法剣士など、ただの援護のない遠距離砲台です。貴方にはこの一か月で基本的な技術を身に付けて、半人前の剣士になっていただきます』
『それ全部覚えても半人前なのかのう!?』
『勿論。剣士とは……実践を経て、ようやく一人前になれるのですから。フランエッテ、貴方、勿論人を斬ったことは……』
『な、ないのじゃ』
『ですよね。良いですか、フランエッテ。普通の人間は、剣を手に持ったとしても、容赦なく誰かを斬るなんてことはできません。皆、間違いなく躊躇を覚えます。稀に、そのブレーキが壊れた天性の剣士がいますが……見たところ、フランエッテはそのタイプではない。グレイやルナティエと同じく、善性を持った、剣士には向いていない人種です』
『む、向いていないのか……』
『残念がることはありません。むしろ、それで良いのです。己が持つ武器に恐れを抱かない者というのは、総じて道を踏み外しやすいことが多いですから。誰かを殺すために作られた武器を、誰かを守るために使える剣士は、剣の恐ろしさを知ってこそ産まれてくるもの。ですが、そういったタイプの剣士は、初めて人を斬る時に、覚悟が必要になるものです』
『覚悟……』
『フランエッテ。貴方は……誰かを殺してまで、叶えたい夢というものがありますか?』
『わ……妾は……』
回想を終え、目を開ける。
目の前にいるのは、悲痛な表情でこちらへと向かってくる、動く死体……アンデッド。
彼らは元は人間であった。人間の形をした者を、妾は、今から初めて斬る。
正直に言えば……怖い。何処かに逃げてしまいたい。
だけど、今ここに、人々を救うことができる者は妾だけ。
師匠も、ロザレナも、グレイレウスも、ルナティエも、ここにはいない。
ここからは覚悟が必要じゃ。人を斬ってでも己の信念を貫かねばならない、覚悟が!
妾は、フランエッテ・フォン・ブラックアリア! エルルゥのような者が産まれない世界を創るべく、旅芸人として、人々に笑顔を取り戻す魔法剣士じゃ! ……いや、違った。冥界の邪姫様として、人々に笑顔を取り戻す魔法剣士じゃ!
「――――――すまぬ。お主らを救う方法は、妾には無い。故に……ここは通らせてもらう!!」
妾は傘から仕込み剣を引き抜き、襲い掛かろうとしてきた前方のアンデッドの首を刎ねた。
「右薙!」
青い血しぶきを上げながら、ゴロリと、地面に頭が落ちていく。
青い血、か。アルザードもそうであったが、吸血鬼に属する者は血が青いのかの?
まぁ、今はそんなことはどうでも良い。
「次!」
妾は横に逸れて、背後から飛んできた腕を避ける。
そして、軽やかに、背後にいたアンデッドの肩を切り裂いた。
「袈裟斬り!」
妾は、次々と、襲い掛かってくるアンデッドたちを倒して行く。
その光景を見て、アルザードは地団太を踏んだ。
「何故だ……何故、貴様は、アンデッドどもに喰い殺されなィイ!!!! 剣術だとォ!? 貴様……我輩と同じ魔術師ではなかったのかァァァァァ!!!!」
「妾、何度も魔法剣士と名乗ったような気がするがのう。妾は魔法が使用できる、剣士じゃ。ま、まぁ……剣士としては些かヒヨッコかもしれぬが……じゃが、この程度のアンデッドどもならば造作もない! フハハハハハハハハハハハハ!」
「くっ……!」
「フハハハハハハハハハハハハ――――――ぐはっ!? 痛いのじゃ!?」
その時。妾の肩に、激痛が走る。
振り返ってみると、そこには……妾の肩に噛みついているアンデッドの姿があった。
「ぎょえええええええええええええ!?!? か、噛まれたのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ハーッハハハハハハハハハハハハハハハ!! 良い気になって注意を怠ったな、間抜けめ!! これで貴様は、アンデッドの仲間入りだ!!!!」
「い、いつまで噛んでるのじゃああああ!!!!」
妾は肩を噛んでいるアンデッドの頭に剣を突き刺し、ボギリと首をへし折り、身体から引き離す。
するとアンデッドの身体から首がもぎ取れ、剣には、カタカタと口だけを動かす頭部のみが突き刺さっていた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! グロいのじゃぁぁぁぁぁぁ!! ごめんなさいなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「実に呆気ないものだったなぁ、偽物!! お前にはお似合いの顛末だ」
「はっ! そうじゃった! 妾、アンデッドに噛まれたのじゃったぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁぁぁん!! もうおしまいなのじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「ハハハハハハハハハハ!! 絶望しろ! 泣き喚け!! そして、吸血鬼の姫君の名を騙ったことを詫びて、悔いながら死んでゆけ!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 死にたくないのじゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! こんな終わり方、嫌なのじゃぁぁぁぁ!!」
「……」
「エルルゥ、師匠、ごめんなのじゃ~~!! 妾、ここでお終いなのじゃぁ~~!! 不甲斐ない弟子でごめんなさいなのじゃ~~!!」
「いや……お前……何故、アンデッド化しない……? 本来ならば、噛まれたら即、アンデッド化するはずなのだが……?」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!! ―――――――――え? あれ、本当だ。なんじゃこれ」
「……」
「……」
無表情、無言で見つめ合う妾とアルザード。
妾はコホンと咳払いをすると、剣を振り、死体の頭をアルザードへ向けて飛ばした。
「あの、本当に、すまんのじゃ!! 罰当たりアタック!!!!」
「ぬぅ!?」
アルザードは一瞬驚いた表情で硬直したが、すぐさま、自分に向かって飛んできた頭を横薙ぎに手を振って、払いのけた。
「小賢しい!」
それと同時に妾はアンデッドたちを斬り裂きながら進み――――アルザードの前へと躍り出る。
そして手に持っていた剣を傘の鞘へと納めると……傘を開き、アルザードの視界を塞いだ。
「何の真似だ! 我が爪よ、剣と化せ―――【血爪】!」
傘に長く伸びた五本の爪が突き刺さる。
だが、もう、傘の裏に妾はいない。
妾は傘を囮にして……既に、アルザードの背後へと回っていた。
「なっ……!」
「お主の御首、いただかせてもらうぞ、アルザード!」
「人間風情が……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アルザードの首に目掛け剣を振り放った瞬間、五本の長い爪によって、剣が防がれた。
妾とアルザードは剣と爪によって鍔迫り合いをし、お互いに睨み合う。
「貴様ァァァァ!! 何故、アンデッド化しないィィィイ!! 何故、変化属性魔法を使えるゥゥゥゥゥゥ!! それではまるで……我ら吸血鬼と同じではないかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! はっ! まさか、貴様……最初から、分かっていたのか? アンデッドに噛まれても自分が平気なことを? だから登場時、こちらの手を理解していると、そう言ったのか……?」
「そんなバカな……いや、ようやく分かったのか? そうじゃ。さっき驚いたふりをしたのも、全部お主の油断を誘うための演技じゃ!!」
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?」
そんなわけがあるか。全部偶然じゃ。
前から思っていたが……この男、結構……馬鹿なんじゃないのかのう?
「許し難し……許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難しィイイイイイイイイイイイイイツッッッ!!!!」
ぐいぐいと押されて、妾は後退する。
魔術師だからと白兵戦を挑んでみたが……どうやら、妾よりもアルザードの方が力がある様子だった。
アルザードはその光景を見て、ニヤリと、笑みを浮かべた。
「フハハハハハハハハハハ!! 近距離戦ならば勝てるとでも思ったのか? 間抜けめ! どうやら、我輩の方が貴様よりも力があるようだ! このまま串刺しにしてくれる!!」
「……保険を打っておいて良かったのじゃ」
「何だと? いったい、何を言って―――――」
「お主からはこの力の……色々な戦い方を学ぶことができた。礼を言う」
その時。アルザードが、妾の左腕を見てハッとする。
「お、お前……その手を、いったい、どこへやった……?」
手首から先が無くなっている腕を見て、アルザードは硬直する。
妾は、顎でくいっと、上を指した。
「ぽっぽっぽーっ!!」
上空には、一羽の鳩が飛んでいた。
その鳩が咥えていたのは、一輪の薔薇。
その薔薇を……鳩は、アルザードの頭上へと向けて落とした。
「なっ……ま、まさか……」
「チェックメイトじゃ」
妾はアルザードの剣を弾き、後方へと下がる。
そして妾は剣を落とすと……上空から舞い落ちてくる薔薇に手を伸ばし、詠唱を唱えた。
「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放】」
薔薇は巨大な模造剣へと姿を現す。
市場で盗……いや、拝借しておいた模造剣。
斬ることができない重いだけのレプリカだが、上空から落とせば、それなりの威力となる。
「二度も同じ手にやられるとはの。お主を騙すことなど……造作もないことよ」
「き、貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
ドシャァァァァァァァァァァァンと、巨大な模造剣が、アルザードへと落ちていき……妾の前は、土煙で覆われた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《フレーチェル 視点》
「早く……小動物を探さないと……!」
関所に戻った私は、剣神フランエッテの指示に従い、関所の中にいる小動物を探していた。
生憎、アンデッドたちは今、屋上に避難した人々を追いかけており、この一階にはいない。
今は屋上で聖騎士たちが中にいるアンデッドを何とか抑え込んでくれているけれど……いずれ門が破壊されて、外にいる大勢のアンデッドたちがここへ押し寄せてくる。
猶予はあまり残されていない。
(アルザードは、私の身柄を求めていました。あれは……)
何故かアンデッドたちは私を襲って来ない。だから、私は、関所まで近づくことができた。
恐らくアルザードは、私を生かして持ち帰りたいのでしょう。むしろそれはこちらにとってもチャンス。
この好機に……必ず関所でアンデッドを生成している小動物を見つけてみせます……!
「小動物……小動物……」
キョロキョロと関所の中を見渡していた……その時。
私は、紅い目をしている鼠を見つけた。
その鼠は、私と目が合うと、一目散に逃げ去って行く。
「あ、待って! 待ちなさい!」
あれが、関所の中でアンデッドを増やしている元凶……!
必ず捕まえて、倒さなきゃ……!
ゾーランドの……ためにも……!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《フランエッテ 視点》
「これで……どうじゃ……!」
妾は足元に落としていた剣を拾うと、眼前に広がっている土煙を睨み付ける。
すると、その時。空から降りてきた鳩が、妾の肩に止まった。
「戻ってきたか……! 我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放】」
詠唱を唱えた瞬間、鳩は妾の左手へとくっついて、左手に戻っていった。
それと同時に、妾は「ゼェゼェ」と荒く息を吐いてしまう。
「どうやら……己の一部を他の動物へと変える魔法は……かなりの魔力を消耗するようじゃの……」
何となく、妾が魔法で変えられるものと変えられないものの差が、分かった気がする。
妾は……身近にある慣れ親しんだものしか、変化させることができないのじゃ。
薔薇、投げナイフ、鳩――――これらすべては、妾が旅芸人で芸をしていた時に使っていたもの。
つまり、手品の道具だったものたち。
恐らく妾は、手品で使用していた道具しか、魔法で変えることができない。
反対にアルザードは、多種多様なものを変化させてきた。
己の血、腕、爪、馬、蝙蝠。
変化属性魔法使いとしては、明らかに、妾よりもアルザードの方が格上。
妾は何とか虚を突くことであやつにダメージを与えることができておるが……真っ向から魔法で戦えば、恐らく、妾に勝ち目はないと思える。
今回は、運が良かっただけのこと。
「……日ももうすぐ、暮れる、か……」
妾は空を見上げる。
剣王試験は、どうなったんじゃろう。
ロザレナ、グレイレウス、ルナティエは、無事に、剣王になれたのじゃろうか。
奈落を照らしていた夕陽が、遠くの空へと沈み、辺りが暗くなった……その時。
妾は、あることを思い出す。
「……そういえば、あやつ……夜になったら無敵だとか、わけのわからないことを言って――――――」
「【ブラッドリーランス】」
詠唱破棄で行使された魔法。
妾は、即座に身体を横に逸らした。
すると、土煙の中から血の刃が飛んできて……妾の横腹を掠めて、関所へと飛んでいき、壁へと突き刺さった。
「な……何で、お主……生きておる……!? それに、何故、先ほどまで詠唱を唱えて放っていた魔法を、詠唱破棄で使えるようになっているのじゃ……!!」
土煙から現れたのは、首をコキコキと鳴らす、アルザードの姿。
彼の目は紅く光っており、その表情は……先ほどとは打って変わり、冷静な雰囲気が宿っていた。
足元に目をやると、そこには、折れた模造剣の姿があった。
あやつ……あの不意打ちで落とした模造剣を……折って、みせたのか……?
「……さて。さてさてさてさてさて。今までは無様な姿を見せてしまって、申し訳なかったな、偽物よ。そして、ついに、お前の命運もここで終わりを告げる。夜。闇。我らは闇から産まれいでし始祖。月、光から産まれいでし高位人族とは相反する種族なり。闇とは、原初である。闇の中でこそ、我ら吸血鬼は……真の力を取り戻す」
「もしや、夜だと、日中よりもパワーアップする……ということなのか!?」
「いかにも。我が肉体は、誰も、傷付けることはできない。そして我ら吸血鬼は、夜の闇の中であるならば、全ての魔法を詠唱破棄で使用することが可能だ。魔法とは……我ら吸血鬼が産み出せし奇跡、なのだからな。……信仰系以外は」
よく分からぬが……なんか強いということだけは分かった!
ようするに……妾、ピンチ、ということなのかのう!?
あわわわわわわ……どうすれば良いのじゃぁぁぁぁ~~~!!
「最早、貴様を下等な人間だと思って見下すのはやめよう。貴様は……我輩が倒すに相応しい、死者の領域に踏み出せし、逸脱者だ!! 貴様は、人の身でありながら吸血鬼に近い素養を持つ、半・吸血鬼!! 全力を以って……仕留めてやろう!!」
何か本気モードになっているのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
やめてほしいのじゃぁぁぁぁ!! 今までのは全部、運と策が上手く合致した結果だったのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!
助けて欲しいのじゃ、師匠~~~~!!!!!




