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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第334話 剣王試験編ー終章 空を翔ける箒星 ⑤ ロザレナVSキリシュタット


《ロザレナ 視点》





「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!! わたくし、【剣王】に……ついに【剣王】に、なりましたわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 空を仰ぎ見て、咆哮を上げるルナティエ。


 その瞬間、観客席が、沸き立った。


「ほ、本当に、異端審問官の隊長様を倒してしまいやがったぞ、あの嬢ちゃん!?」


「流石はフランシア本家の娘だぜ! というか、本家の娘なのに何で今まで無名だったんだ?」


「見ているだけで、何か……気迫、ていうものを感じたよな。さっき勝利したグレイレウスって奴に比べたらあまり派手な戦いではなかったけど、地道ながらにも着実と勝利へ向かって進んで行く強さがあったというか……応援したくなる生き様っていうのを、あの子は持っていたよな」


「箒星とかいうよく分からない流派の門下生二人が、剣王二人をぶっ倒してしまいやがった……! すげーぜ! 本当に時代が変わるぜ、こりゃあ……!」


 盛り上がりを見せる観客席。


 あたしはそんな彼らを見つめて、フフッと笑みを溢す。


「今頃、あの二人の凄さに気付いたの? 当たり前じゃない。グレイレウスとルナティエは、あたしと同じく、あの子に剣を教わった剣士なのよ。それに……あの二人は、あたしが誰よりも認める剣士だもの。剣王如き相手に、簡単に敗けるはずがないじゃない。あの二人は……いずれあたしと頂点を争う剣士になるのだから」


 そう言ってあたしは、観客席から、ルナティエへと視線を戻す。


「グレイレウス、ルナティエ。貴方たちも、剣聖を目指す決意をしたのね。分かっていたわ。貴方たちが、剣神なんかでは満足できないということは。正直……貴方たちが敵になると考えると、かなりの脅威を感じるわ。でも、同時に、ワクワクもする」


 あたしはそう口にして、短く息を吐いた後、再度、開口した。


「さて……次は、あたしの番ね」


 あたしの視線の先にいるのは、初めて驚いた様子を見せるキリシュタットの姿。


 あたしはそんな彼に向けてフフッと笑みを浮かべた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ぬ、ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! ついに!! ついに、我が娘が【剣王】になったぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 見ていたか、セイアッドぉぉぉぉぉ!!!! 見ていたか、我が娘の栄光なる姿をぉぉぉぉぉ!!!!」


 観客席に座っていたルーベンスは、バシバシと、隣の席に座っているセイアッドの背中を叩いた。


 セイアッドは苦悶の表情を浮かべ、父親に抗議する。


「ちょ、ち、父上!! 痛いです!! ちゃんと私も見ていましたって!!」


「この光景を、我が妻……エリーゼにも見せてやりたかった……!」


「お母様にも、ですか? 確か、私とルナティエの母は、平民の出、だったのですよね? 私が四歳の頃……ルナティエが産まれた直後に亡くなったと聞いていたので、私はよく知らないのですが……」


「我が妻、エリーゼは、誰であろうとも救おうとする、天使のような性格の修道女だった。そして、誰よりも美しかった。今のルナティエを見ていると、エリーゼのことを思い出し……思い出し……ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「こ、今度は泣かないでください、父上~~!!」


「エリーゼは、ルナティエのこの勇姿を見たかったに違いない!! あやつは結婚前、平民が貴族に嫁ぐことに不安を抱いていたのだ!! 剣の才覚もなく、魔法因子もない自分がフランシアに嫁いで、果たして将来産まれてくる子供は苦労しないかと……!! だから私は言ってやったのだ!! 我らの子供に、不可能はないと!!

 それが……それが……見ているかぁぁぁぁエリーゼぇぇぇぇ!!!! 私の言った通り、ルナティエはやってのけたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!! やはり私たちの娘は天才だったぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ルーベンスの言葉に、セイアッドは涙を拭い、闘技場の上に立つルナティエへと視線を向ける。 


「ルナティエ……よくやったな……!」


「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! ……ん?」


 ルーベンスは泣くのを止め、観客席の奥へと視線を向ける。


「あれは……」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「すごいですね……あれが、アルファルドさんがお仕えしている、フランシアのご息女様の御力、ですか……」


 クリスティーナはそう言って、闘技場の上で咆哮を上げるルナティエを見つめる。


 呆けた表情を浮かべているクリスティーナに対して、背後から、声が掛けられる。


「クリスティーナ。アルファルドさんはどうなりましたか?」


「え? お、お婆様!?」


 杖をついて現れたクリスティーナの祖母、マリアンナに、クリスティーナは立ち上がり、慌てて彼女の背を支える。


「お婆様、動いて大丈夫なのですか!? マリーランドの教会に残っていたはずでは!?」


「平気ですよ。お友達のマグレットさんにいつも会いに行っていますしね。それに、アルファルドさんと……もう一人、見ておきたい方がいましたから」


「え?」


「何でもありません。それで、アルファルドさんは?」


「一回戦で敗退してしまいました……」


「そうですか……ですが、負けたからと言って、次がないわけではありません。マリーランドを救おうとしてくださったアルファルドさんなら必ず、もう一度、挑戦するはずでしょう」


 そう口にして、マリアンナは、闘技場の上に立つルナティエを見つめる。


「……エリーゼ。貴方の不安は、どうやら杞憂に終わったみたいね」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……本当に、やってしまうとは……」


 観客席に座っていたルキウス……もとい、ヘロンは、指に嵌めている指輪をギュッと片手で握りしめる。


 そして、目を滲ませ、口を開いた。


「ルナティエさん、ありがとうございます……! きっと、これからは……時代が変わる……!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《ルナティエ 視点》




「あのわたくしが……駄目駄目だったわたくしが……【剣王】に……なることができた……っ!」


 わたくしは瞳の端に涙を貯めて、ギュッと、血だらけの拳を握りしめる。


 剣王は通過点、とは言いましたが、正直に言うと……わたくしは、グレイレウスやロザレナさんのように自分が剣王になれるだなんて本気で思っていませんでした。


 だってわたくしここに至るまで、何度失敗して、何度敗北してきたことか分かりませんもの。


 勿論、本気でルクスには勝つつもりでいましたわ。


 ルキウスに託されましたから。必ず彼を倒すと。


 でも……改めてルクスを倒し、剣王になったと考えると、体が震えてきますわね。


 だって、わたくし、特別な力も加護の力も何も持っていないのに、フランシアの加護を持つルクスを倒すことができたのですから。


 ……これで、証明することができましたわ。


 才能のないわたくしだって、剣士として、上を目指せるということが。


 ここが終わりではない。むしろ、ここから本番。


 ここから先にいるのは、本物の怪物ばかり。


 剣聖・剣神という本物の怪物相手に、わたくしの力がどこまで通用するのか。


 ……弱気になっては駄目ですわ。


 わたくしは決めたのです。本気で頂点を目指すと。


 剣聖・剣神を倒し、ロザレナさんやグレイレウスを倒し、自分の夢を掴むと。


「……そうですわ。称号……ルクスから剣王の称号を奪わなければ……」


 わたくしは、倒れ伏すルクスの元へと近付いて行く。


 そして、彼の首元にある、双剣と王冠の紋様が描かれている称号へと、手を伸ばした。


「ルクス。貴方は、お婆様に狂わせられた被害者ですわ。ですがわたくしは……貴方のやり方は認めません。わたくしはお婆様の考えではなく、自分の目で物事を見て判断する。亜人が全員悪人とは思いませんし、メリアさんに毒を飲ませたのは正直、どうかと思います。彼女は真剣に剣王になろうとしていた。わたくしは、人の夢に泥を塗る貴方を軽蔑致します。夢は、誰もが人種に関係なく目指せる世界でなくてはいけない。願わくば……貴方が自分だけの『騎士道』を見つけられるよう、祈っていますわ」

 

 わたくしはそう言って、ルクスの首元に手を伸ばす。


 するとルクスが、パシッと、手を振り払ってきた。


「これは私のものだッッ!!!!」


 ルクスは起き上がると、わたくしから距離を取り、ゼェゼェと荒く息を吐く。


 その目は血走り、瞳孔が開いていた。


 そんな彼に、闘技場の上に上がってきたヨーゼフが声を上げる。


「ルクス殿、勝敗は決しました。貴方の剣は折られ、盾は粉々に打ち砕かれた。決闘の礼儀に則り、剣王の称号をルナティエ殿へ――――――」


「ふざけるなッッ!!!! 何故、フランシアの加護を引き継ぐこの私が剣王の座から降り、あの落ちこぼれが剣王になるのだ!!!! こんな馬鹿なことがあって良いはずがないだろう!!!! こんな展開、我らが神がお選びになるはずが……くっ」


 ルクスはよろめき、地面に膝を突く。


 無理もないですわ。彼はわたくしの剣で、肩から胸にかけて大きな斬り傷を負っているのですから。動いているのもやっとの状態でしょう。


 わたくしはため息を吐き、ルクスへと声を掛ける。


「ルクス・アークライト・メリリアナ。貴方も騎士であるのならば、敗北は潔く認めなさい。って…………あれ?」


 その時。ルクスの裂けた鎧の先に見えるインナーに……二つの大きなふくらみがあるのが、わたくしの視界に入った。


 わたくしはその光景を見て、思わず首を傾げる。


「ルクス、貴方、もしかして女性―――――――」


 わたくしがそう、言いかけた、その時だった。


 突如、ルクスの背後に―――キリシュタットが姿を現した。


 【縮地】でも使ったのだろうか? 彼の接近に、わたくしは、気付くことができなかった。


「ルクス。俺は言ったよな? 無様な真似をしたら、お前を殺すと」


「キリシュタット―――――?」


 ルクスが振り向きかけた、その瞬間。


 キリシュタットが、片手に持っていた剣を上段に構え、振り降ろした。


「まっ――――――!」


 わたくしは【縮地】を発動させてキリシュタットのその凶行を止めようと動きましたが……血を失いすぎたせいか、上手く動くことができませんでした。


 確かにルクスは酷い行いをしたかもしれませんが、わたくしは、彼を殺すことには同意しませんわ。


 だって、わたくしは、自分やアルファルドのように……人は変われるものだと、信じていますから。


 悪人を殺すという行為は、わたくしの騎士道に反します。


「待ちなさい、キリシュタット!!」


 わたくしはそう叫び、走り出す。


 ですが、もう既に、キリシュタットが振り降ろした剣が、ルクスの頭部へと近付いていました。


 その光景を見て、目を見開き、絶望した表情を浮かべるルクス。


 もう駄目かと思った……その瞬間。


 わたくしの横をひとつの影が通り過ぎて行き―――――キリシュタットの剣を、止めました。


 キィィィィィンと剣と剣がぶつかり合う音が、周囲に鳴り響く。


 キリシュタットの前に立っていたのは……長い青紫の髪の少女。


 そこには、ロザレナさんが立っていました。


「……ほう?」


 ルクスを庇ったロザレナさんに対して、キリシュタットは目を細める。


「驚いたな。お前が止めるのか。お前はてっきり、俺と同じで……他人の生き死には興味がないと思っていたがな。お前もルナティエやグレイレウスと同じ、おりこうさん側か?」


「いいえ。どちらかというと、あたしも、こんなやつは死んでいいと思っているわ」


「だったら、何故……そいつを庇う?」


「このルクスとかいう奴は、ルナティエの獲物よ。こいつの生殺与奪は、ルナティエにある。あんたを止めたのは……ルナティエが最後まで決着を付けるところを邪魔するな、って、文句を言いに来た感じかしら。せっかくルナティエがそいつから称号を奪うところだったのに、しゃしゃり出てきてんじゃないわよ。黙って見ていなさい。キリ……キリなんとか!」


「お前はルクスの命を守りたいのではなく、ただ単に、自分が納得いかないからこの場に出てきたというわけか?」


「ルナティエがそいつを殺すのなら文句はないわ。だけど、あんたがそいつを殺すのは違う。ただ、それだけのこと」


「クッ……ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」


 キリシュタットは突如、笑い声を上げると……剣を退いた。


 そして彼は額に手を当てると、紅い瞳で、ロザレナさんを見つめる。


「なるほど。お前、面白いな。箒星の連中は良い子ちゃん揃いのようだが……やはりお前だけは違うようだ。ひとつ問おう。お前は本気で、自分の身内以外の他者の命には興味がないのか? 目の前で人が殺されても、可哀想だという感情は湧かないのか?」


「ただ理不尽に人が殺される現場を見たら、そりゃあ可哀想だとは思うわよ? でも、そいつは、メリアの覚悟に泥を塗って、ルナティエを落ちこぼれと罵った。そんな奴がどうなろうとも、あたしは知ったことではないわ。一応、そいつも、剣士として決闘を受けた身でしょう? 殺されることも覚悟していなきゃ、嘘なんじゃないかしら」


「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! お前、すこし頭のネジが外れているな!!!! もしかして、あれか? お前がもし、ルナティエの代わりにルクスの相手をしていたら……お前は、こいつを殺していたのか?」


「好きで人殺しなんかしないわよ。でも、殺す気で剣を振っていたとは思うわ。まぁ、それって当然のことだと思うけど。だって、決闘ってそういうものでしょ? 殺し合う覚悟のない奴なんかに……この場に立つ資格なんてない」


 そう言い切ったロザレナさんの目は、ひとつの迷いもなかった。


 ルクスはそんな彼女の姿を見て、「ヒッ」とか細い声を上げる。


 気持ちは……分からなくもありませんわ。


 時折ロザレナさんが見せるあの目は、わたくしでも恐怖を覚えますから。


 最初にあの目を見たのは、《騎士たちの夜典(ナイト・オブ・ナイツ)》で決闘したあの夜。


 わたくしに対して上段の剣で猛追するロザレナさんの目は、確実に目の前の獲物を屠ろうとする、強い意志が見えていた。


 二回目に見たのは、学級対抗戦の時。シュゼットの指を噛み千切ったロザレナさんは、ギラギラとあの目を輝かせていた。


 わたくしは当初、あの子の姿を、血に飢えた獣と例えたことがありました。


 剣聖という頂に届くまで、その道を阻む者がいたのなら、嬉々として噛みついて行く獣。敵を踏破する度にそれを糧として、さらに上へと……()へと向かって登っていく狼。


 きっと、自身の夢のためならば、彼女にとって他者の命など安いものなのでしょう。


 分かってはいたことですわ。ロザレナさんには、平気で一線を飛び越えていかねない、危うさがあることは。


「……いいぜ。ここは退いてやるよ、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス」


 そう言って、キリシュタットは剣を腰の鞘に納めると、踵を返す。


 そして彼は、ルクスに向けて言葉をかけた。


「1回目は許してやる。だが……次、無様な真似を晒してみろ。必ずお前を追い詰めて殺してやるぞ、ルクス」


「……ッ!!」


 ルクスは身体を震わせると、首元にある称号を取り、わたくしの足元へと投げてきた。


 その俯いている顔からは……ポタポタと涙が零れ落ちていた。


「確かに……頂戴致しましたわ」


 わたくしは剣王の称号を拾い上げ、制服の胸元へと付ける。


 そして、ロザレナさんの横を通り過ぎ、髪を靡きました。


「お先に失礼致しますわ」


「ええ」


「……敗けるんじゃないですわよ」


「当然」


「何度も言っておきますが、アレ(・・)は使わないように。あと、むやみやたらに突っ込むんじゃないですわよ。貴方は猪突猛進も良いところなのですから」


「あーもう、分かってるわよ! あんたはあたしのお母さんか!」


 わたくしは通り過ぎる間際にロザレナさんにバトンタッチをして、離れていく。


 あの子なら……きっと、大丈夫でしょう。


 何故だか、ロザレナさんが敗ける姿は想像できませんわね。


 どんな相手だろうとも、一刀の元叩き伏せる。そんな予感がします。


「フン。随分と血だらけじゃないか、クズ女」


 剣王たちの席に向かうと、偉そうに足を組んで座っている上裸の男がそう声を掛けてきました。


 わたくしは眉を顰め、そんな彼の横にある、ルクスが座っていた席へと着席します。


「うるっさいですわね、変態マフラー男。これは名誉の負傷ですわよ。というか、戦闘後に服が無い方がどうかしてるんじゃありませんの?」


「フハハハハハ! 怪我の度合いを見るに、どうやらオレの方がスマートに剣王を倒すことができたようだな! これは師匠(せんせい)に報告せねばなるまい! ルナティエよりもオレの方が無傷であったと!」


「貴方、手の甲に釘が刺さっていますわよ」


「む。オレとしたことが、クローディアとの戦いで喰らったこの釘をうっかり抜くのを忘れていた。……おい、クズ女。オレの手の甲からこの釘を引き抜け」


「嫌ですわよ!? 何でわたくしがやるんですの!?」


「……自分で釘を抜くと、たくさん血が出て、躊躇するかもしれないだろ」


「散々斬り合いしといて、今更何ビビッてんですのよ、この変態は!! ……うぅ。ちょっと出血しすぎて眩暈がしますわ。というか、わたくし、全身傷だらけ、穴だらけでしたわ……医務室で治療してきた方が良いですわね……殆ど反射された自分の剣のダメージとはいえ、酷いものですわ…‥」


 わたくしは額に手を当て、フルフルと首を横に振る。


 すると、その時。すこし離れた場所でこちらを見ていたアレフレッドとロドリゲスの会話が聞こえてきた。


「ロドリゲス……今度はルナティエさんが、ルクスを倒し、新たな剣王になったぞ……? 今までこんなことがあったか? 連続して、二人の剣王が誕生するなど……?」


「いや、私も驚いているよ、アレフレッドボーイ。というか……私たちの座も危ういかもしれないな。準決勝に進出した剣王候補の剣士たちは、皆、粒揃いであった。本当に、時代が一新されるかもしれない」


「箒星門下生、か……蒼焔剣の門下生としても、うかうかしていられないな……」


 確かに、貴方たちの師匠であるハインラインも、伝説級の剣士ですわね。


 ですが……わたくしたちの師匠も、負けず劣らずの伝説級の剣士ですわ。


 まぁ、その正体を知っているのは、現状、わたくししかいないみたいですけど。


 「……け、怪我……しているのなら、わ、私が、治療、します……」


 蒼焔剣門下生たちの会話を聞いていた、その時。


 わたくしとグレイレウスの前に、紙袋を被った謎のシスターが姿を現した。


 彼女はわたくしの前でしゃがみ込むと、治癒魔法を唱え始める。


「主よ、汝の奇跡で彼の者の傷を癒したまえ―――――【ハイヒーリング】」


 上一級信仰系治癒魔法【ハイヒーリング】を唱えたシスター。


 その瞬間、わたくしの身体に付いた傷跡が、全て、塞がっていた。


 完治した身体を見つめた後、わたくしは、シスターに声を掛ける。


「あ、ありがとうございますわ。貴方は、いったい……」


「――――――クローディア。お前、何故、ここにいる」


「え?」


 わたくしは思わず、素っ頓狂な声を溢してしまう。


 すると、目の前にいた頭に紙袋を被ったシスターは、立ち上がり、グレイレウスに向けて頭を下げた。


「グ、グレイレウスさん。あ、ありがとうございました。もう一人の私を倒してくださって……私もあの子の暴走には、そ、その、困っていましたから……」


「フン。表と裏の性格が違いすぎて気持ちが悪いな、お前」


「ひぅ!? す、すみません、すみません!! 死んでお詫びしますからぁ……!!」


「チッ。死ななくて良い。それで? お前、何でここに来たんだ?」


「……グレイレウスさんのお怪我を治療しようかと。そ、その、お詫びも兼ねて……」


「お前……信仰系魔法を使えたのか? というか、お前の怪我の方が酷かったはずだが?」


「医務室に運ばれた時……あの子が意識を失ったおかげで、私が、この身体の主導権を握ることができたんです。怪我の方は、自分で治しました。主人格であるこっちの私は、裏のあの子とは違って、戦闘タイプというよりはヒーラータイプなので……表の私は魔法剣型と速剣型で、裏の私は剛剣型と速剣型なんです。表の私は裏の私ほど加護の力も引きだせていないので……戦闘力はほぼ皆無と言って良い存在です……」


「なるほど。ひとつ気になったが、お前たちは入れ替わっている間、記憶を共有をしていたりするのか?」


「は、はい。お互いに見聞きしたものは全て、共有しています……す、すごかったですね、グレイレウスさんの【瞬閃脚】。剣王で【瞬閃脚】を使える人なんて、滅多にいませんよ? というか、今の剣王では、貴方だけです。ほ、本当に、すごかったです……」


 そう言ってクローディア(?)は、グレイレウスに向けて手をかざし、治癒魔法を発動させた。


「主よ、汝の奇跡で彼の者の傷を癒したまえ―――――【ハイヒーリング】」


 その瞬間、グレイレウスの手の甲かたネジが抜けて、傷が塞がり……身体中にあった浅い傷も、塞がっていった。


 グレイレウスはグーパーグーパーと手を開いては閉じを繰り返し、クローディアへと目を向ける。


「お前に礼を言うのもおかしな話だが……ありがとう。助かった。裏のお前は嫌いだが、表のお前は嫌いではない」


「……ッ!? あ、あぅあ……」


 クローディア(?)は何故か手をぶんぶんと振り回すと、アレフレッドの背中へと隠れる。


「お、おい、クローディア、何をしているんだ!?」


 困惑するアレフレッド。


 わたくしはそんな彼から目を外すと、グレイレウスへと声を掛ける。


「いや……どういうことですの? 彼女、さっき闘技場に立っていた時と性格が違いすぎません?」


「奴は、二重人格だそうだ。主人格は今のおどおどとしていた奴で、防衛本能によって誕生した人格が、さっき闘技場でオレと戦っていた奴だ」


「な、なるほど……」


 よく分からないですけれど、彼女にはそういったものがあるんですわね。


 わたくしは納得した後、闘技場へと視線を向けます。


 そこにいるのは、腕を組んで仁王立ちしているロザレナさんの姿。


 まだ試合開始前のインターバルだというのに、あの子は待ちきれないのか、わたくしと別れてからずっとあそこに立っている。


 わたくしが呆れたため息を溢していると、隣の席に座っているグレイレウスが口を開いた。


「さて……最後はあいつだな。ルナティエ、お前はどう考える? 剣王最強と呼ばれているキリシュタットの実力を」


 グレイレウスはそう言って、チラリと、前方に立つキリシュタットの背中へと視線を向ける。


 わたくしもキリシュタットの背中を見つめながら、小声で言葉を返した。


「未知数ですわね。ですが、ここまで戦ってきて、ひとつ、分かったことがありますわ。それは、剣王上位勢は皆、破格の加護の力を持っているということ。磁力の加護、聖剣・聖盾の加護。攻略法が無ければ、まともに戦うことができない力と言えるでしょう。マリーランド時点でのわたくしたちの実力だったら……呆気なく敗けていた可能性もあると思います」


「そうだな。磁力は【瞬閃脚】でなければ突破できなかっただろうし、聖剣・聖盾も、お前のように多種多様な能力と剣速を見切れる目、駆け引き力が無ければ難しかっただろう」


「そこから編み出される答えとしては、キリシュタットにも何らかの加護があるのではないか、という点です」


「レティキュラータスの加護は、いったいどういう力だ? 奴は分家オルベルフの人間だろう? 加護を持っているとしたら、レティキュラータスの加護の可能性が最も高いはずだが?」


「わたくしは知りませんわ。というか……レティキュラータスの加護は、長らく発現者がいなくて、情報が殆ど開示されていないんですの。きっと、今の当主も知りませんわよ」


「そうか……だったら、ロザレナも知る由もないか」


「まぁ、四大騎士公の加護で大々的に公表されているのなんて、バルトシュタインの【怪力の加護】くらいですけどね。加護は能力がバレればその時点で対策を探られるもの。そのため、殆どの騎士公が秘密にしていますわ。フランシアでさえ、キュリエールお婆様の考えで、加護の文献を処分したくらいですもの」


 もしかしたら、文献を処分したのは、ルクスのため……ということもあったのかもしれませんわね。


 まぁ、今となっては、お婆様のお考えなど知る由もありませんが。


「いずれにしても……キリシュタットの実力は、クローディア、ルクス以上であるということは間違いないわけか」


「そうですわね」


 わたくしとグレイレウスは同時に、キリシュタットの背中へと視線を向ける。


 すると、その時、闘技場の上へと上がったヨーゼフが、口を開いた。


「さぁ、皆様、お待たせいたしました! これより、最後の決闘を開始致します!! 果たして、このまま箒星が三つの座を奪い取り新時代の幕開けとなるのか……! それとも、剣王キリシュタットが防衛し、剣王最強の座が揺るがないことを示すのか……! 挑戦者ロザレナ、防衛者キリシュタット! 闘技場の上へと上がってくださ――――――」


「もう立ってるわ!!!!」


 ロザレナさんはそう言って、腕を組んだままふふんと鼻を鳴らす。


 まるで防衛者側かのような傲慢な態度の彼女に、わたくしとグレイレウスは同時に口を開く。


「馬鹿丸出しですわね」

「馬鹿丸出しだな」


 そう口にした後、わたくしたちは同時にため息を吐く。


 「まったく。剣王に挑む場だというのに、あのゴリラ女には緊張感の欠片も感じられませんわね。分かってるんですの? 最強の剣王に無名の剣士が挑むという状況が、いかに無謀な挑戦であるということを……この場がいかに、アウェーであるかということを、まるで把握していないようですわ」


「フン。まぁ、あいつが緊張してたりする方が却って不気味だろう。あの女は、どんな相手だろうが、自分の道を阻む敵は総じて叩き伏せる。ロザレナ・ウェス・レティキュラータスという剣士は、そういう奴だ」


「……そうですわね。わたくしたちは、あの子のああいう姿に、励まされることもありましたからね」


 わたくしは、不敵に笑みを浮かべて仁王立ちをするロザレナさんを見つめ、笑みを浮かべる。


「絶対に勝ちなさい。勝って、今度こそわたくしとどちらが上か……雌雄を決しなさい、ロザレナさん」



 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《ロザレナ 視点》




 ―――――――ついに、この日がやってきた。


 【剣王】。それは、【剣神】【剣聖】へと続く中間地点。


 【剣王】の座を獲れば、ついに、【剣聖】の座が見えてくる。


 何だか、ワクワクしてくるわね。だって、アネットとの約束の日が、段々と近付いてきているのだから!


 あたしは、ジェネディクトを倒したあの日のアネットの背中に憧れて、そして入学初日の夜にアネットと交わした約束を果たすためだけに、今まで剣を振ってきた。


 全ては、剣聖になって、アネットと全力で戦うために。


 そのために、たくさんの強敵たちを倒してきた。


 ルナティエを倒し、シュゼットを倒し、メリアを倒し、キールケを倒し、ジェシカを倒し。


 そして……ついに―――――――ここまでやってきた。


 剣聖へと続く最初の関門、剣王の座の前へと!


「……よぉ、相変わらず青臭いツラをしているな、お前は」


 その時。闘技場の上へと、キリシュタットが上がってきた。


 あたしは腕を組みながら仁王立ちをして、キリシュタットに向けて不敵な笑みを浮かべる。


 そんなあたしに対して、キリシュタットは上着のポケットに手を突っ込み、股を開いて立った。


「まさか、まだ、本気で剣聖になれるとか思っているわけじゃねぇだろうな?」


「思っているわ!」


「馬鹿が。いいか? 剣王になる者は、今までこの俺が精査して選んで来たんだ。お前に、その理由が分かるか?」


「分からないわ!」


「いや、分からねぇのかよ」


 キリシュタットは後頭部を掻くと、再度、口を開く。


「俺が、剣王になる者をコントロールできるくらいに、他の剣王たちと実力が乖離していたからだよ。俺は、クローディアやルクスとは違うぜ? 剣鬼、剣候、剣王……下位から中位の称号を持つ、全ての剣士たちの頂点に立つ男だ。お前みたいな、剣聖を目指すだなんて大層な夢を吐く奴なんて大勢、ブッ飛ばしてきた。そういう青臭い連中程、最後は呆気ないもんだぜ」


「知ったことではないわ。結局あんたは、上にいけないから中間地点でお山の大将を決め込んでいるだけのことでしょう? あたしは違うわ。あたしは……絶対に剣聖になってみせる!! 中間地点で満足なんて絶対しない!!」


「ハッ。……ムカツクぜ。お前を見ていると……昔の自分を思い出す」


「何?」


「何でもねぇさ。俺も暇じゃねぇんだ、さっさと終わらせてもらうぜ。……お前の夢はここで終わりだ、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。どうしようもできない現実って奴を、ここで、お前に教えてやる」


 そう言って、キリシュタットは笑みを浮かべて、あたしを睨み付ける。


 あたしもそんな彼に対して、不敵に笑みを浮かべた。


 そんなあたしたちの間に立ったヨーゼフが、コホンと咳払いをして、開口した。


「さぁ……では、まずは、挑戦者から! 剣王試験の成績は二位! 四大騎士公レティキュラータス家の息女であり、比類なき圧倒的な力を持つ荒ぶる狂剣、【箒星】門下生、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス!!!!」


 観客席の半分くらいが、あたしに声援を送ってくる。


 これまでのグレイレウスとルナティエの戦いを見て、挑戦者側を応援してくれる人も増えたみたいね。


 あと、あたしがジェシカと戦った時も、応援してくれる人は結構いたっけ。


 戦いを通して、レティキュラータス家への誹謗中傷も……徐々に無くなりつつあるのかもしれないわ。


(剣聖になって、御家を復興させる、か……)


 着実に、子供のころにあたしが思い描いていた未来へと、あたしは進みつつある。


 だけど、まだ夢の途中。こんなところで満足などしてはいられない。


 あたしのゴールは――――【剣聖】になって、アネットと戦うことなのだからっ!


「続きまして、防衛者側。レティキュラータス家の分家、オルベルフ家の元嫡男―――――」


 ヨーゼフのその言葉に、キリシュタットが、ギロリと睨み付ける。


 その威圧に怯んだヨーゼフは、再度、口を開いた。


「え、えー、申し訳ございません。防衛者側……剣王の座に就いてから無敗であり、剣王最強の男――――――【餓狼剣】キリシュタット・フォン・オルベルフ――!!」


 ワーッと、あたしの時よりも、観客席から歓声が聞こえてくる。


 それと同時に、キリシュタットはオールバックの髪を撫で、笑い声を溢した。


「くだらねぇ青臭い夢物語はここでお終いだ。お前を喰らい、俺は……このまま【剣神】の座へと上り詰める」


「いいえ。あんたを倒して、あたしが、【剣王】になるわ。あんたの物語はここでお終いよ、キリシュタット。あたしはここで貴方を超えて――――【剣聖】への第一歩を進む!」


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