第10章 二学期 第333話 剣王試験編ー終章 空を翔ける箒星④ わたくしは、才能がなくとも夢は叶えられると証明してみせますわ
《ルナティエ 視点》
「構えなさい、ルクス・アークライト・メリリアナ。わたくしはどんな手を使ってでも、貴方を倒しますわ。貴方のような、自分の考えで剣を持たない三流などに、剣王の座は相応しくはない。その席を、わたくしに明け渡していただきます。わたくしは、お婆様の考えなど興味はない。己の道は、己で切り拓く!!!! それこそが、わたくしの信じる騎士道ッッ!!!! 剣神キュリエールを妄信する貴方に、正しさなどはないッッ!!!!」
「ルナティエェェェェェッッッ!!!!!!」
わたくしのその言葉に、ルクスは憤怒の表情を浮かべる。
そして彼は、目を血走らせると、眼前の前に手を掲げて、口を開いた。
「お前は、私と御婆様の理想を否定する怨敵だ!! 真の聖騎士とは、セレーネ教の教えに準じ、正しさを追求した者を差し示す!! お前ではなく私がフランシアの嫡子であったのなら……!! 私が、フランシアを正しき道へと導けたものを……!! 邪道を歩む貴様は、騎士の血の恥だ!!」
わたくしは【縮地】を発動させて、ルクスの背後へと回る。
「貴方の御託は聞き飽きましたわ。それに、貴方もわたくしも立場に変わりはなくってよ。わたくしたちは、同じお婆様に見限られた元弟子、なのですから」
わたくしは、足に闘気を纏い、ルクスの背に向けて回し蹴りを放つ。
するとルクスは寸前で振り返り、腕の籠手で防いでみせた。
「くっ……!?」
しかし、彼は魔法剣型。何とか籠手でダメージは抑えられたとしても、わたくしの闘気を纏った蹴りの威力は、殺すことができていない様子でした。
彼は苦悶の表情を浮かべたまま、ザザザーッと、後ろへと下がっていきます。
「またしても、不意打ちか! お前はとことん、地に落ちたようだな! どうやらお前の新たな師というのは、騎士道に反する者のようだ! 程度が知れる!」
「貴方、お話、長いですわよ? そんな挑発に、わたくしが律儀に乗るとでも思いまして?」
わたくしは再び地面をつま先で叩くと、【縮地】を発動させる。
そしてルクスへと駆けながら、レイピアの刃に、闘気を纏いました。
「先手必勝。魔法剣型には、これが一番、ベストな戦い方ですわ。詠唱の隙など、与えませんわよ」
「舐めるな!! 【聖盾】!!」
ルクスへと向け、レイピアの切っ先を突いた、その時。
ルクスがまっすぐと、わたくしに向けて盾を構えてきた。
その盾には、光のオーラが宿っていた。
(あれは、いったい……!?)
見たところ、ただの銀の盾。闘気を纏ったレイピアならば、何度か攻撃を放てば、貫くことはできる。
しかし、あの光は、いったい……?
ルクスが詠唱を唱えた隙は無かったはず。彼は最初、剣に魔法を宿そうとしていた。ならば、詠唱破棄の加護を持っている可能性も低いはずですわ。
だったら……加護の力? 彼の加護の力は、いったい何ですの……?
能力不明の者に無暗に攻撃を打ち込むのは悪手。
ですが、わたくしは既に、剣を突き出してしまっている。
もう、退くことはできない―――――――――!!
――――――――――――――――――ザシュ。
肉に剣が刺さる音が聞こえてくる。
ですが、ルクスの盾は無傷。逆に、わたくしがレイピアを持っている手が、ズキズキと痛み始める。
手の甲に視線を向けてみると、そこには……レイピアで貫いたような穴が空いていた。
「なっ……!」
わたくしは、後ろへと後退し、手の甲に空いた穴を見つめる。
「ルクスの盾を刺したはずなのに、何故、わたくしがダメージを負っているんですの……?」
わたくしがそう声を溢すと、前方から、「フフフ」と馬鹿にするような笑い声が聞こえてきた。
「これが、フランシアに代々伝わる加護の力のひとつ……【聖盾】だ」
その言葉に前を見ると、ルクスの盾が光に覆われ―――神々しく光を放っていた。
あんな光の盾、彼は持っていなかったですわ。
彼が持っていたのは銀の盾だったはず。
まさか、あれが、あの武器を覆う光が、加護の力なんですの……?
わたくしは数秒程思案した後に、口を開く。
「……察しますに、その光の盾……自分に向けられた攻撃を相手に反射するんですのね?」
「正解だ。お前にしては頭が回るではないか、ルナティエ。良い機会だ、教えてやろう。フランシアの加護は他家と比べて特殊なものでな。二対に一つ、なのだ」
「二対……?」
「当初、お前相手にはこの力を使わずに、魔法剣だけで仕留めようと思っていたのだが……お前は詠唱の隙を狙って卑怯な不意打ちをしてくるからな。仕方あるまい。良いか、ルナティエ。私は、フランシアの末裔でありながら、聖騎士を愚弄した貴様を断じて許してはおけない。お婆様を貶したこと、深く後悔させてやろう! ―――――【聖剣】!!」
その時。ルクスが右手に持っている剣に、眩い光が宿った。
光り輝く剣と盾を持つ聖騎士。その姿は、見る者に神々しい何かを連想させる出で立ちをしていた。
「我が【聖剣】は相手を斬るのと同時に自身をダメージ分回復させ、我が【聖盾】は受けた攻撃を相手へと反射する。まさに、最強の矛と盾! これこそが、真なる聖騎士に授けられし女神の力だ!!」
……フランシアの加護。それは、防御と治癒に特化した力であることは、聞いたことがあった。
キュリエールお婆様も、お父様も、受け継ぐことがなかった……ルクスまで、百年間、継承者が現れなかった力。
あれが、バルトシュタイン家に伝わる【怪力の加護】と並ぶ、四大騎士公の加護ですの。【聖剣】と【聖盾】……もし、フランシア家の正当後継者であるわたくしにあの力があれば……。
(……なんて、無い物ねだりしていても仕方ないですわね)
わたくしには産まれもった特別な力などありませんわ。最初は、平凡な自分に嫌気が差したこともありました。ですが、今はそうは思わない。
今ある能力だけで、相手を倒す。それがわたくしの戦い方。
ルナティエ・アルトリウス・フランシアには、特別な力も才能もない。だからこそ、この身をもって証明してやるんです。
こんなわたくしでも……才能という壁を乗り越えることができるのだということを。
「恐れ慄いたか、ルナティエ。既に分かっただろう。聖なるフランシアの加護に守られている私は、無敵だ。何人たりとも、我が身を傷付けることは叶わない。騎士の矜持と我が師を愚弄したことを詫び、敗北を認めろ。でなければ―――――」
「聖なる光よ、我が身を癒したまえ――――【ヒーリング】」
信仰系低三級治癒魔法【ヒーリング】を唱えた瞬間、わたくしの身体が淡い光に包まれて……右手の甲に空いた穴がゆっくりと塞がって行った。
そして完治し終わった後、わたくしは左手にレイピアを持ち直すと、右手をグーパーグーパーと開いては閉じてみる。
「この程度の傷でしたら、わたくしが唯一使用できる信仰系魔法……低級治癒魔法【ヒーリング】でも十分、完治できますわね。問題ないですわ」
「……傷を治して、いったい、何をしている?」
「何を、とは? 気持ちよさそうにお話していらっしゃるから、その隙に回復しただけですわよ? ヒルデガルトさんだったら、このような隙を与えることはありませんでしたわね。舐め腐ってくださり、大感謝、ですわ」
「お前……私の話を聞いていなかったのか?」
「聞いていますわよ。で? だからなんですの? 自分はフランシアの加護に選ばれた。だから、わたくしに退けとでも言いたいおつもり? 笑止。その程度の覚悟で、わたくし、この場には立っていませんわよ。攻撃したら自身を回復し、攻撃を受けたら反射する。なるほど、確かに無敵の能力ですわね。ですが……その能力は、剣と盾に依存している限り、隙を突く、穴がある」
「はっ、ふざけたことを言うな。まさか……【縮地】を使用できるから、私よりも早く動けるとでも思っているのか? 悪いが、剣王上位勢ならば【縮地】など使えて当たり前の技術だ!!」
そう口にして、ルクスは【縮地】を発動させて、わたくしに向かって駆けて来る。
なるほど。それくらいはできますのね。
彼はわたくしの前に姿を現すと、光の剣を横薙ぎに振ってきた。
「【聖剣】!」
わたくしはその剣を、胸を逸らして、難なく避けてみせる。
見たところ、剣速はそうでもありませんわね。アネット師匠との訓練で見せていただいた剣王想定の上段の剣の方が、確実に速い。【縮地】を使えるとはいえ、恐らく彼は純粋な魔法剣士なのでしょう。だとするならば、闘気による攻撃が一番通りやすい。
ですが……そう簡単にはいかなそうですわね。気を付けるべきは、やはり、盾の方でしょうか。
闘気を放った拳を盾に当てればこちらに大ダメージは免れませんし、無数の斬撃を放つ【烈風裂波斬】が万が一にでも盾に触れれば、わたくしの身に連続してダメージが降りかかってしまいますわ。
剣で攻撃されれば回復され、盾で攻撃を防がれれば反射される。
治癒と防御を兼ね備えた、耐久力の高い能力。
厚手の鎧を着込み、防御力が高く、タンク役に向いているとされる剣士……パラディンと呼ばれる職種に近い能力と言えますわね。
(ひとつ……試してみましょうか)
わたくしは、前に踏み込むと、拳に闘気を纏う。
「馬鹿め!」
すると、ルクスは予想通り、盾を構えてきた。
能力は強いですけれど、頭の方は単純馬鹿……失礼。正直な方で助かりますわ。
わたくしは放とうとした拳を寸前で止めると、フェイントをかけ、ルクスの横へとスライドする。
「なっ……!」
そして、彼の横っ腹に目掛け、闘気を纏ったレイピアを横薙ぎに振り放った。
「ぐがぁ!?」
「駆け引きなら、負けなくってよ」
「小癪な真似を! その程度の攻撃で、このルクスが倒せると思っているのか!」
再びルクスが、剣を振ってくる。
わたくしは跳躍すると、バク転をして、後方へと下がった。
そして着地と同時に、近場にあった……先ほどグレイレウスとクローディアの戦いで回収されずに残った残留物……の、壊れた鉄製のベンチを、闘気を纏った足で蹴り上げる。
ルクスに目掛けて飛んで行くベンチ。
ルクスは苛立った様子で、自分に向かって飛んできたベンチを、光の剣で斬り裂いた。
「小賢しい!」
彼の視界がベンチで覆われたその隙に、わたくしは小声で、詠唱を唱える。
「我が身の幻影を創り出せ……【幻影体】」
わたくしの前に、幻影のわたくしを配置する。
そしてそれと同時にわたくしは【縮地】を発動させ、姿を掻き消し、ルクスの背後へと回った。
ベンチを切り裂いた後、ルクスは、目の前に立つ幻影へと声を荒げる。
「ルナティエ!! 戦うのならば、騎士の末裔らしく、正々堂々と戦ったらどうだ!! 今の貴様は不意打ちなどという、姑息な真似しかしていないぞ!! 高潔な聖騎士であられるお婆様の名に泥を塗る気か!!」
幻影のわたくしは、無言でルクスの元へと走って行く。
そんなわたくしに対して、ルクスはニヤリと笑みを浮かべた。
「ようやく、正々堂々と戦う気になったか! 良いだろう! このルクスが貴様に天罰を――――――」
「【水流・烈風裂波斬】!」
わたくしは、ルクスの背中に目掛け、背後から無数の水の斬撃を放っていく。
「3,4,5―――6,7,8―――――!」
「ぐっ、あがぁ!? ぐぅぅ!? ぐはぁっ!? ……ふざ……けるなぁぁぁぁ!!!!」
突如ルクスが振り返り、盾を構える。
盾に斬撃が当たった瞬間、わたくしの肩が切り裂かれた。
わたくしは即座に剣を振る手を止め、ルクスを睨み付ける。
「本当に……厄介な盾ですわね。距離など関係なく、盾に当たった攻撃は問答無用で相手に跳ね返ってくるなんて。チートすぎなんじゃありませんの?」
「はぁはぁ……! 貴様ぁ! 真面目に戦う気はないのか!!」
「真面目に戦っていますわよ。先ほど言ったではありませんの。貴方の能力は、その剣と盾に依存しているって。であるなら、その守りの穴を衝かなければ貴方にはダメージが通りませんわ。わたくし、さっきから貴方の正面以外から攻撃しているんですのよ。お分かりになって? 貴方の弱点は……視野の外からの攻撃、ですわ」
「不意打ちでしか私を倒せないだと? ハハハハハハ! とことん地に落ちたようだな、ルナティエ!!!!」
「ですから……わたくしは最初から、勝つためならば何だってやると言っているでしょうが。わざわざ相手の土俵に乗って、正面から貴方を倒して、わたくしに何かメリットはありまして?」
「騎士の矜持が―――」
「聞き飽きましたわ」
わたくしは【縮地】で姿を掻き消す。
ルクスも【縮地】で、姿を掻き消そうとした。
だが、その時、ルクスの背後から、幻影のわたくしが剣を構えて迫ってきた。
「なっ……!」
一瞬、逡巡した様子を見せるルクス。
だが、彼は即座に、幻影のわたくしを光の剣で斬り裂いた。
そんな彼の背後に現れたわたくしは、静かに口を開く。
「お馬鹿さん。それは幻影ですわよ」
「ルナ――――――」
ルクスが何か言い終える前に、背中をレイピアで斬り裂いた。
「ぐはっ」と、血を吐き出し、地面に膝をつくルクス。
「な……何故だ……何故、私は……あの落ちこぼれにいいようにやられている……! 私は、選ばれし者のはずだ……! そ、それが、何故……!」
そんな彼を見つめて、わたくしは短く息を吐く。
「何となく……貴方がお婆様に見限られた理由が、分かりましたわ」
わたくしは単純に剣の才能がなくて、あの御方に見捨てられた。
ルクスは……恐らく、加護の力はあっても、それを上手く使いこなす頭が足りていなかったから、見限られたんですわね。
多分、【聖剣】と【聖盾】の加護は、駆け引きを前提とした能力と言えます。
正面きって戦えば、最強の加護の力。ですが、誰もが、その穴に気付く。相手の虚を突き、背後から斬れば良いだけのことだと。
それを防ぐために、【聖剣】と【聖盾】の加護の継承者は、相手の手を読み、一手先をいく必要がある。この能力は……先を読む力……頭が良くないと、ただの宝の持ち腐れとなる。
ロザレナさんやクローディアのような、真っ向から戦うタイプの剣士には、正面きって戦うだけで無類の強さを誇るかもしれませんわ。受けたダメージを相手にそのまま反射できるのですから。
ですが……わたくしのような考えて戦うタイプの剣士に対して、ルクスの性格では……壊滅的に相性が悪い。騎士の矜持を掲げ、正面から戦うことだけに拘っているルクスでは、わたくしのような剣士には勝てることができない。
こういうことも……あるんですわね。加護の継承者が、その加護と性格的に相性が悪いということが。使い手に相応しくないということが。
加護の力に全面の信頼を置いて頼り切った結果、敗北したクローディアとは、ある意味では近く、ある意味では真逆の立場かもしれませんわね、ルクスは。
彼は、加護の力を誇りに思って使っていますが、加護の力を十全に使いこなせていないのですから。
「なんだ……その目は……貴様、この私を哀れんでいるのか!!!! 落ちこぼれが!!!! この私を!!!!」
ルクスは地面に膝をつけたまま、わたくしのことを見上げ、睨み付けてくる。
わたくしは無表情で、彼に対して声を掛けた。
「ルクス。これは、貴方のことを思っての言葉ですわ。貴方……もう、キュリエールお婆様のことは忘れなさい」
「……何を言っている?」
「自分の剣の道を歩みなさいと言っているんですわ。お婆様の言葉は忘れ、加護の力のことも忘れ……自分自身の剣を見つめ直した方が、貴方のためだと思います。貴方は―――――」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ―――――ッッッ!!!!! 私は託されたのだ、お婆様に!! セレーネ教の教えに準じ、亜人どもを滅ぼし、聖騎士団団長になれと!! 私がフランシアを正しき騎士の家に戻すと!!」
「本当に、お婆様は自分の理想を貴方に託したのですか? お婆様は、結局、リューヌのことしか後継者として認めていなかっ……」
「落ちこぼれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ルクスは立ち上がると、わたくしに向かって、ブンブンと、無造作に剣を振ってくる。
わたくしはその剣を……全て、最小限の動きで避けてみせた。
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《ルクス 視点》
――――私は、ルクス・アークライト・メリリアナは、産まれた直後から、過酷な運命の中にあった。
『……ルクス!! お前は男なのだぞ!! 男ならば、泣き言を言わずに、剣の稽古に励まないか!!!! それでも騎士の家に産まれた男児か、貴様はッッ!!』
『ご、ごめんなさい、お父様……!』
『ごめんなさいではない、お父様、ではない!! 何だ、その軟弱な答え方は!!』
『は、はい!! 申し訳ございませんでした、父上!!』
10歳の頃。中庭で剣の稽古をしていた私は、父に頭を下げ、再び、剣の素振りを再開する。
私は……父に、男として生きるよう、育てられてきた。
そう――――――私は本当は、女、なのだ。
私がフランシアの加護の力を持って産まれてきたことに、父は強く喜んだ。
何故なら、本家のルーベンスの子供、セイアッドとルナティエには加護の力が継承されなかったからだ。
だから、兄ルーベンスとの家督争いに敗れそのことを長年根に持っていた父上は、私を立派な騎士に育て上げようと、厳しい稽古を課してきた。
軟弱なものは避け、自身を男だと思い込み、弱さを捨てろと。
父は、そう、私に教えを説いてきた。
全ては……分家であるメリリアナ家が、フランシア家の家督を奪えるように。
『これはチャンスなのだ、ルクス。兄君は何を血迷ったのか、平民の出の修道女を妻に迎えた。結果、加護の力は、本家フランシア家ではなく我がメリリアナ家に授けられた。過去の傾向を見るに、代々家督を得る者は加護の継承者だと決まっている。これは、女神アルテミス様が、我らに上に立てと御示しになられた結果であろう』
『は、はい! 父上!』
『私は、何としてでも、ルーベンスに勝たなければならない。あの男は……同じ兄弟だというのに、私とは違い、圧倒的な才能に恵まれていたからな……! 全て、あやつのせいだ! 私が騎士学校で騎士位を取れなかったのも、家督を取れず分家当主を押し付けられたのも……! それに、元々、先にあの女を見初めていたのは私だったというのに……いや、平民の女のことなどどうでもいい。その件は抜きにしても、全部、全部、あいつが……悪いのだ!! ルクス!! 絶対にセイアッドとルナティエには敗けるでないぞッッ!!!! 敗けたら私は貴様を一生許さんぞ!!!!』
父のフランシア本家への恨み、執念は、凄まじいものがあった。
幼少ながらに、気付いていた。父は、フランシア家当主ルーベンスに、一矢報いてやりたいのだと。
『―――――クリューゲル。貴方では、その娘を上手く育てられることはできません。私に預けなさい』
そんなある日。先代当主である、キュリエールお婆様が御屋敷にやってきた。
お婆様の言葉に、父は逡巡するも、頷いた。
先代当主であるキュリエールお婆様は、フランシア家において、一番の権力を以っていたからだ。
『ルクス。貴方、加護の力を発現したそうですね?』
『は、はい! お婆様!』
『素晴らしい。これより貴方の師は、私です。いいですね』
『はいっ!』
先代当主であるお婆様は、私の加護の力を見て、当主候補に選んでくださったようだった。
私は喜んだ。私の今までの努力が、無駄ではないと、分かったから。
お婆様と共に、フランシアの御屋敷に向かい、そこで本家息女であるルナティエと共に半年間、お婆様から剣を教わった。
ルナティエは……幼い私から見ても、まったく、剣の才能の無い少女だった。
剣を振っても身体ごと振り回されてしまっていたし、どんなトレーニングをしても息が上がり、すぐに転んでしまう。
だけど、あの子は何度転倒しても、ニコニコと笑みを浮かべて、立ち上がった。
けっして、泣くことはしなかった。
半年間、同じ稽古をしていた私はメキメキと成長していたのに、あの子は……まるで何の成長も見られなかった。
その姿を見て――――――私は、惨めだな、と、そう思った。
恐らく私とは異なり、本家の息女として甘やかされて育ったのだろう。
その結果、自分に才能があると思い込み、いつかはきっと……と甘えた考えを持ち、あのような無様な姿を見せるようになってしまった。
これなら、私が家督を得るのも時間の問題だなと、思った。
何故なら、私は、フランシアの加護【聖剣】と【聖盾】の継承者なのだから。
私は、女神アルテミスに選ばれし、真の騎士なのだから。あのような紛い物とは違うのだから。
『……やはり、ルナティエでは駄目ですね。どう足掻いても、あの子では、剣士として上に立てはしない。フランシアの騎士として、相応しくない』
そう小声で呟き、御婆様は、ルナティエの前に立つ。
ルナティエは汗だらけになり、過呼吸になりながら、剣を手に地面に倒れ伏していた。
『ルナティエ。もう休みなさい。稽古は終わりです』
『……ッ!!』
ルナティエは歯を食いしばり、立ち上がる。
だが、すぐに、バタリと倒れ伏してしまった。
これが、神に選ばれていない者の末路、か。
残酷だが、これが運命だ。
才能無き者はどう足掻いても、地に這いつくばるしか道はない。
『御婆様。よろしいでしょうか?』
『何ですか、ルクス』
『御覧の通り、私は、フランシアの加護を受け継いでいます。御婆様の稽古にも、難なくついていけています。自分で言うのも何ですが、現状、私が……フランシア家当主に最も相応しい存在だと思うのですが、どうでしょうか?』
『……』
お婆様は数秒黙った後、静かに口を開いた。
『……どちらも、不合格、ですね』
『え……?』
『何でもありません。そうですね。もし万が一、貴方が【剣神】の座に到達することができたのなら……私の名を以って、貴方を次代の当主に任命してさしあげても良いしょう』
『ほ、本当ですか!?』
『ええ。ですから……今後はメリリアナの屋敷に戻り、自主訓練に励むように』
『はい!』
お婆様は、私にとって最も憧れているお人だ。
女性の身でありながら剣神、そしてフランシアの当主にまで上り詰め、セレーネ教の教えを深く敬愛した、聖騎士の中の聖騎士。
最強の世代と謳われた時代に産まれなければ、きっとあの御方が剣聖となり、バルトシュタイン家から聖騎士団を取り戻していたであろう。
私も、あの御方のようになりたかった。
あの御方のような高潔な聖騎士になりたかった。
だから、必死になって、剣の稽古に励んでいった。
いずれ私が、フランシアの当主になって、聖騎士の誇りを取り返すために。
お婆様と稽古を終えてから――――……一か月後。
ある事件が起こった。
それは、王国に叛意を示す、闇組織……『闇に蠢く蟲』の『百足』の頭領、ロシュタールが、分家メリリアナの屋敷を襲った事件だ。
ロシュタールは部下の亜人たちに命じて、私の父と母を目の前で殺した。
私は血だらけになって横たわる父と母の亡骸に縋り、ロシュタールに向けて、叫び声を上げる。
『何故、父上と母上を殺したのだ!! 私たちがいったい何をしたというのだ!! ふざけるな!!』
すると、フードを深く被った小鬼族の老人、ロシュタールは、杖をカンと鳴らして口を開いた。
『何をした、だと? カカカカ! 貴様ら王国の人間が我ら亜人に対して何を成してきたのか、よもや知らぬわけではあるまい? フランシアの末裔よ』
『貴様らの言っている意味が分からない!! 貴様ら亜人は、セレーネ教において魔物の祖とされる存在だ!! 排斥されるのは、当然のことだ!!』
『そうだ。お前たちはそう言って、神の意向だと、当然のことだと、我らを虐げてきた。お互いに理解できぬのは道理。ならば……殺し合う他あるまいて』
そう言ってカカカと笑い声を上げると、ロシュタールは、背後にいる部下へと声を掛ける。
『そやつは生きて持ち帰り、人質とする。メリリアナ家当主夫妻の死体はワシが活用するから放置しておけ。恐らく、この件で出てくるのは剣神キュリエールであろうな……奴の相手はワシがする。さてはて……動く骸と化した息子夫妻を斬れるかな、【黄金剣】よ』
そうして、両腕を縛られた私は、亜人たちによって百足のアジトへと連れ去られのだった。
それからの日々は……酷いものだった。
朝昼晩、私は、亜人たちに殴る蹴るの暴行を加えられた。
亜人どもは皆、口々に、こう言葉を発した。
『お前たちフランシアの人間のせいで、俺の住処は奪われ、妻や息子が殺されたんだ!』
『あの人を返してよ!! 優しい人だったのに!!』
『突然やってきた異端審問官たちに、私の村は滅ぼされたのよ!!』
『俺たちは何もしていないのに、ひっそりと暮らしていただけなのに……セレーネ教の教徒たちに家を燃やされたんだ!!』
亜人どもは、人間へ抱いている恨みを、全て、サンドバック代わりの私へとぶつけてきた。
両腕さえ縛られていたなかったら、剣と盾がこの手にあったのなら、【聖剣】と【聖盾】で、あの悪しき者たちに罰を与えることができたというのに……私には、何も、できなかった。
ただ無防備な身体に、奴らから殴る蹴るの暴行を加えられるだけ。
そんな地獄の日々の中、確信に至った。
奴らはやはり、全員、討滅しなければならない存在なのだと。
亜人は一人残らず、殺し尽くさなければならないのだと。
アジトに捕まって、三日後。突如、私の前に、光が差した。
そこから現れたのは……老婆とは思えない、ピンと背筋が伸びた女騎士……キュリエールお婆様だった。
神々しいその御姿に、私は確信する。やはりお婆様こそが、正義の騎士なのだと。
だが、お婆様は……ボロボロになって横たわっている私を見て、一言、言葉を溢した。
『……聖なる剣と盾の加護の力を持っていたとしても、何もできず、そのような姿になってしまうとは……まったく。女神アルテミス様も、困ったことをなされる』
『お婆、様……?』
『ルクス。私は、新たな後継者を見つけました。その名はリューヌ。私はフランシアの未来を、彼女に託すことに決めました』
『何を……仰っているのです? だって、私は、フランシアの加護を継承する、真の聖騎士の末裔ですよ? そんな、何処の誰かも分からない者を当主にするなど……』
『安心なさい。私とリューヌは『強制契約の魔法紙』で契約を交わしました。彼女がフランシア家の当主となった時は、必ず、私の理想通りに御家を再興させると。彼女の才能であれば問題はない。貴方はこれからは分家当主としてフランシア本家を支えるよう、励むのです』
『何を仰っているのですか、お婆様ッ!!!! 私……私こそが、選ばれし者なのです!!!! そうだ、私が剣神となった時は、フランシアの当主にしてくださると言っていましたよね!? あの話はどうなったのですか!?』
『無論、貴方が剣神になることができれば、その約束は守りましょう。なることができれば、ですが』
そう言って、私の手足を縛っているロープを外すと、踵を返して去って行くお婆様。
これは……恐らく、お婆様が私に課した試練なのだろう。
お婆様が私を見捨てるはずがない。フランシアの加護を継承したこの私を。
ならばこそ、何処の者とも知れぬリューヌにフランシアを渡すわけにはいかない。
私はメリリアナ家の当主となり、剣神となって――――お婆様との約束を守り、フランシア家当主となるのだ!!!!
私が、お婆様の意志を継ぎ、ルーベンスが腐らせたフランシアを再興させるのだから!!!! 何たって私は……神に選ばれし騎士の末裔なのだから!!!!
回想を終え、今に戻る。
私は、ルナティエに向けてブンブンと剣を振っていく。
だが私の聖剣は、奴の身体に当たらない。
剣が当たりさえすれば、私が受けたダメージは回復するというのに……!!
「何故だ!! 何故、最強の矛と盾が、あの出来損ないには通用しない!!」
「リューヌは才能、ルクスは加護の力……確かに、貴方の言う通り、わたくしには何もありませんわ。わたくしは何も受け継いでいない。出来損ないと言われても反論できないでしょう。ですが―――【心月無刀流】!」
その時。上段で剣を振ろうとした私の腕を、ルナティエが掌底で払いのけてきた。
「わたくしには……諦めずにここまで培ってきた努力、経験がある。そして、貴方とは違い、わたくしはお婆様を否定し、自分のことを本当に見つめてくれる師の元で剣の稽古に励んできた。いつまでも過去に囚われ、停滞している貴方に……敗けるはずがない。わたくしは前しか見ていないのですから」
「ふざ……けるなァァァァァァァァ!!!! 光の矢よ! 我が敵へと降り注げ、【ホーリーアロー】!!」
私は手を伸ばし、背後から、無数の光線を、ルナティエに目掛けて放つ。
だがそれを、ルナティエは背後に飛び退くと、器用にレイピアで弾いていった。
「そんな……馬鹿なことが……」
ルナティエは全ての魔法を弾き終えると、恐れず、私の元へと駆け抜けて来る。
そして、私が振った剣を屈んで難なく避けると、懐へと入り――――私の顎に目掛けて、掌底を放ってくるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《ルナティエ 視点》
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
わたくしの掌底がダイレクトに入り、ルクスはよろめく。
だが彼は鼻血を流しながらも、わたくしに、鋭い目を向けてきた。
「なん、だ、これは……なんだこれはなんだこれはなんだこれァァァァァァァァ!!!!!!!!」
「ルクスッッッッ!!!!!」
その時。剣王たちが座る席から、とてつもなく大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
視線を向けると、そこには、腕を組んで立ち、苛立った様子でルクスを睨み付けるキリシュタットの姿があった。
「何だ、その無様な姿はッッッ!!!! お前……剣王の名に泥を塗るつもりか!? 言ったよな……無様な醜態を晒せば、俺がお前を殺すと!!!!」
キリシュタットのその声に、ルクスはビクリと肩を震わせる。
そしてルクスは……懐から、紫色の液体が入っている、謎の小瓶を取り出した。
その姿を見て、キリシュタットは笑みを浮かべる。
「そうだ。俺がくれてやったそいつを飲め、ルクス。お前も腹を括れ。負けたくなかったらな」
ルクスは手を震わせ、逡巡した様子を見せた後、その小瓶を一気に呷った。
そして瓶を落とすと、身体を震わせた。
「そうだ……私は……勝たなければならない……勝たなければならないのだぁぁぁぁ!!!! 剣神になり、お婆様との約束を果たすためにィ!!!!」
先程とは異なった、猛スピードでわたくしの元へと一気に間合いを詰めてくるルクス。
わたくしは一歩反応が遅れ、後方へと退却するが……腕を斬られてしまった。
「くっ……!」
その瞬間、わたくしが最初に放ったルクスの腹部へ向けて放った打撃痕が……鎧の凹みが元に戻り、治癒していった。
「そんな……!」
「私が落ちこぼれに敗けるはずなど、ないのだぁぁぁぁぁ!!!!」
次々に剣を振ってくるルクス。
小瓶を飲んだ途端、剣速が上がり、わたくしは防戦一方を強いられる。
胸部が斬られた、足が斬られた、腰が斬られた。
その度に、ルクスの籠手、横腹、背中など……わたくしが今まで付けてきたダメージが、一斉に治癒されていった。
その光景を見て、わたくしは声を張り上げる。
「キリシュタット!! 一体、ルクスに何を飲ませたんですの!?」
「少しの間、脳のリミッターを外して能力を引き上げる【狂化剤】というものを飲ませた。別に、ルール違反じゃねぇぜ? 本人が元から持っていたアイテムの使用は、武装の一部だからな。そうだろう、ヨーゼフ?」
「は、はい。ですが、これは……」
困惑するヨーゼフ。無理もない。ルクスの目は焦点が合わず、明らかに、様子がおかしくなっているからだ。
「こんの……ッ!!」
わたくしは剣の嵐の中、前に進み、レイピアを振り放つ。
だが……そのレイピアは、盾によって防がれてしまった。
それと同時に、わたくしの肩から胸がバッサリと斬り裂かれる。
(強い……!!)
動体視力や反応速度が上がるだけで、こんなにも強くなるとは……!!
これが、フランシアの加護の真の力……!!
「私は、【黄金剣】キュリエール・アルトリウス・フランシアの後継者だァァァァ!!!!! 【剣神】になり、フランシア家の当主になるのは、私だァァァァ!!!!! 落ちこぼれなどに、負けるはずがないのだァァァァァァ!!!!」
発狂し、剣を無造作に振ってくるルクス。
だが、その剣速も、反応速度も、先程とは別人のように異なっている。
試しに横に逸れて死角からの攻撃を試みてみますが、即座にこちらを振り返り、ルクスは剣を振ってきました。
スピードはわたくしと同等かやや上。不意打ちをするのは困難。
わたくしは、ルクスの剣を寸前で躱しながら、ふぅと短くため息を吐く。
「そう簡単には、その席、明け渡してはくれませんか。ならば……わたくしも……覚悟を決めなければいけませんわね」
わたくしはルクスをまっすぐと睨み付けると、一歩、前に足を踏み出す。
そして、ルクスが剣を振った直後の隙を狙って、レイピアを、横薙ぎに放った。
だが当然、そのレイピアは、光の盾によって防がれる。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 馬鹿か、お前は!!!!」
痛みが奔るのと同時に、その箇所に、闘気を纏う。
すると、バッサリと左腕が切り裂かれ、鮮血が宙を舞った。
闘気を纏っていたとしても、反射ダメージは避けられなかった。
なるほど。であるのならば――――――仕方ありませんわね。
このようなやり方は、わたくしらしくないのですが……勝つためには、手段など選んではいられませんわ。
わたくしは構わず、剣を振り続ける。再び、ルクスの盾によって斬撃が防がれた。
身体中が斬り裂かれ、血だらけとなっていく。
その光景を見て、ルクスは、笑い声を上げた。
「ハハハハハハハハハハハハ!!!! 万策尽きたか、落ちこぼれ!!!! お前の攻撃は聖盾によって防がれ、ダメージが反射される!! だが私は、聖剣でお前を攻撃する度に、身体を治癒していく!! 加護の力も才能もないお前では、この難攻不落の剣と盾を乗り越えることは不可能だ、ルナティエ!!!!」
「不可能、ですか。わたくし、その言葉、嫌いですの。だって、わたくしの師匠は―――――この世に不可能はないと、そう、仰ったのですから」
わたくしは、レイピアに闘気纏い―――――先ほどから狙い続けていたある一点を衝く。
その瞬間……ルクスの盾に、巨大な穴が空いた。
「なっ……!」
驚くルクス。
同時に、わたくしの手の甲にも巨大な穴が空きますが、関係ない。
「貴方のその加護は、武器に【聖剣】と【聖盾】の効果を宿す力ですわ。ですから、耐久性は元の武器に依存しているはず。貴方の使っている盾は、銀の盾。最硬級のフレイダイヤ鉱石ではない。ならば―――――わたくしの闘気でも、突破できるということ!! わたくしはずっと、武器破壊だけを、狙っていたのですわ!!!!」
「そ、そんな、馬鹿なことが……自身に返ってくる痛みに、恐怖が湧かないのか!? 抵抗できず、手も足も出ない状況で……それでも反抗する意志が沸いてくるというのか!?」
「こんな痛み、剣王になれるのだったら、何とも無いですわ。わたくしは、そんな生半可な覚悟でここに立っているわけではありませんのよ。フランシアの英雄たちが使っていた、加護の力を乗り越えて……この聖なる盾を自分の力だけで乗り越えて、わたくしは――――――【剣王】となる覚悟で、ここにいますッ!!!!」
穴が空いた銀の盾は、ビシビシと、ヒビが入り……砕け散った。
光を失い、崩壊して落ちて行く自身の盾を見つめて、ルクスは発狂する。
「わ……私の聖盾がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「次!!」
わたくしは額から流れ落ちる血を拭うと、血だらけの腕でレイピアを構え、ルクスの元へと走って行く。
そして、わたくしはレイピアに闘気を纏うと、ルクスへ向かって斬りかかった。
それを、ルクスは剣を構えて、寸前で受け止める。
鍔迫り合いとなり、お互いに剣をぶつけながら、わたくしは咆哮を上げる。
「わたくしはここで、貴方を超えていく!! 託されたのです、わたくしは!! ルキウスにも、アルファルドにも、ヒルデガルトさんにも……!! わたくしは【剣王】となり、誰も泣かなくて良い世界を創る!! そして――――――才能がない者でも夢を叶えられるのだと証明するために、剣聖を目指す!!!! わたくしを拾ってくださった、師匠に報いるためにッ!!!!」
「お前が剣聖になどなれるわけがないだろう!!!! お前は落ちこぼれだ、ルナティエ!!!!! お婆様は言っていた!! お前が剣士の上に立てるはずがないと!!!! お前は私よりも才能がなく、加護にも恵まれなかった剣士のはずだ!!!! そうだろう!!!!」
「ええ、そうですわね!! ですが……わたくしは……諦めない!!!! 誰に何と言われようとも、足掻いて足掻いて足掻き続ける!! だって、わたくしは―――――――――――――『努力の天才』、なのですからっ!!!!」
わたくしは、ルクスのロングソードを、斬り裂いた。
落ちて行く剣を見て、ルクスは、恐怖で顔を青ざめる。
「やめろ……やめてくれ……もう少しで、剣神の座が見えていたんだ……私は、剣王二番手の座に君臨して、もう少しで……お婆様との約束を―――――」
「キュリエールお婆様は死んだ。もう、いませんわ」
わたくしは、ルクスの身体をレイピアで斬り裂いた。
肩から胸を斬り裂かれたルクスは、「かはっ」と血を吐き出し……その場に倒れ伏す。
わたくしは、「ゼェゼェ」と荒く息を吐いた後、両手の拳を握りしめ、空に向かって声を張り上げた。
「よ…………よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! わたくし、【剣王】に……ついに【剣王】に、なりましたわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「勝者、ルナティエ・アルトリウス・フランシア!! 新たなる剣王、二人目の誕生です!!!!!」
ヨーゼフのその言葉に、観客席は、大きく歓声を上げるのだった。




