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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第325話 剣王試験編ー㊸ ヒルデガルトVSアルファルド

《ヒルデガルト 視点》





「―――闘技場にヒビが入っていて、この先の試合は大丈夫なのかと観客席から声が聞こえてきますが、私も分かりません! こんなこと初めてのことですので!」


 司会者の言葉に、観客席から笑い声が漏れる。


 続いて司会者はオーバーリアクション気味に手を広げて、開口した。


「ですが、闘技場が壊れているわけではありませんので……試合を続行します! さぁ、激闘続くトーナメントですが、次は第四試合! 奇しくも同じ血族同士の戦いとなりました! ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリンVSアルファルド・ギース・ダースウェリンー!!!!」


 司会者の言葉を聞いて、あーしは頬をパチンと叩くと、闘技場の上に立った。


 しかし、いつまで経っても、向かい側からアルファルドはやってこなかった。


 司会者も不思議そうな顔をして、あーしの向かい側を見つめている。


「えーと、アルファルド選手……?」


 よく目を凝らし見ると……アルファルドの奴、闘技場の壁にもたれかかって、眠っていた。


 その姿を見て、あーしは思わず眉間に皺を寄せてしまう。


「なによ、それ……」


 こっちは本気で剣王を目指しているっていうのに……よくもこんな状況で眠れるね。あーしのこと、敵でもないとか思っているカンジ? ムカツク!


「コホン」


 その時。ルナティエが咳払いをして、アルファルドの元へと向かって歩いて行った。


 そして彼女は……包帯が巻かれているアルファルドの腹部へと、強烈な蹴りを放った。


「起きなさい!! このお馬鹿さん!!!!」


「ぐふぉあ!? テ、テメェ……き、傷口が……殺す気か、クソドリル……!」


「貴方……まさか、試合を棄権する気なんですの? そんなこと、このわたくしが許しませんわよ。わたしくが何のために貴方に肩を貸して、山を登ったと思っているんですの。貴方はわたくしの従者ですわ。惨めな真似は、絶対に許しませんわ」


「あぁ? 試合だぁ?」


 アルファルドが、チラリと、あーしと闘技場に視線を向けてきた。


 するとあいつは「ハン」と鼻を鳴らして、腹部を撫でながら、立ち上がった。


「んだよ、もうそんな時間かよ。体力を回復する暇もねぇとは、ざまぁねぇなオイ」


「……傷口。痛むようならば、治癒魔法で治しますわよ?」


「何度も言ってんだろ。いらねぇよ。むしろちょうど良い眠気覚ましになったぜ」


 アルファルドは掲示板に貼られているトーナメント表を見て、笑みを浮かべる。


「やっぱり、ロザレナは勝ち残ったみてぇだな。クソドリル、テメェは力を温存しとけ。全力であいつにぶつかって……倒して来い。テメェの力を、世に刻んで来い」


「貴方、馬鹿ですの? 貴方がヒルデガルトさんに勝てば、わたくしの対戦相手は貴方になりますのよ」


「あぁ? テメ、この俺が今の状態であの女に勝てるとでも――――――」


 ルナティエは無表情で、アルファルドを見つめる。


 そんな彼女の目を見たアルファルドは、口を閉ざした。


 そしてアルファルドはチッと舌打ちをすると、ボリボリと後頭部を掻く。


「はぁ。分かっているぜ。諦めるな、だろ。ったく、人使いの荒いご主人様だぜ」


「アルファルド。挑むからには、貴方も本気で剣王を目指しなさい。ヒルデガルトさんに勝ち、本気でわたくしと戦いなさい。別に、主人のために身を引く、だなんて、健気な従者愛なんて見せなくて良いですのよ。そんなの気持ち悪いですもの。わたくしたちは―――――」


「お互いに利用し合い、時には敵同士にもなる、か。キヒャヒャヒャヒャ!!!! オレ様がテメェに剣王の座を譲るとでも思ってんのかぁ? 気色悪い。テメェこそ手を組んだだけで仲良しこよしになったなんて、思わねぇことだな。テメェがオレ様の意に反して、圧政を敷くフランシアの当主になった時は、オレ様は容赦なくテメェをブチ殺してやるぜ。覚えとけ」


「……勝ちなさい、アルファルド。わたくしはロザレナさんだけでなく、貴方とも、全力で戦いたいのですから」


「既に満身創痍の身だ。もう、恥なんてねぇよ。命令通り、派手に暴れてやるよ、クソドリル」


 そう言って、アルファルドは剣を持って、闘技場へと登って来た。


 あいつの言う通り、今のアルファルドは全身包帯グルグルの、満身創痍の身。


 どこを突いても倒れそうな見た目をしていた。


 だけど……その目は、ギラギラと、鈍い光を放っている。


 まるで、手負いの獣のよう。一矢報いてやるという気配が、プンプンと漂っていた。


「両者揃ったところで、試合開始のカウントダウンを始めます! 30! 28! 29――」


「よう、クソ分家の女。いや、元分家か? 棚から牡丹餅で降ってきたダースウェリン家の名は美味しいかぁ? ヒルデガルト。貴族でも何でもなくなった今のオレ様を見て、相当、気分が良いんだろうなぁ」


「だから、あーしたちは、分家の分家って言っているでしょ。……って、前も同じような話をした気が……まぁ、いいや。分かってると思うけど、あーし、あんたのこと許してないから。というか、マジで大嫌いだから。顔も見たくないくらい」


「キヒャヒャヒャヒャ!!!! んなこと、言われなくても分かってんだよ!! ベアトリックスのことで、オレ様のことを許せねぇんだろ? まさか、バルトシュタインやダースウェリンの血を引いている奴に、こんな、友達のため~って言って剣王を目指す奴がいるとは思わなかったぜ。知っての通り、オレ様の親父殿はクソドブカスのろくでなしだ。うちのクソドブカス程じゃねぇが、テメェのとこの親父も、金とメンツに汚いカスだってのはよく聞くぜ。よくもまぁ、このクソみてぇな血族の中で、お友達ごっこができる綺麗な奴が産まれたもんだ」


「あーしだって……別に、聖人なんかじゃないし。貴族の位に甘えて、今まで適当に生きて来れたらそれでいいとか思ってたし。大事な友達の隠れた悲鳴にも……気付かなかったし。でもね、あんたたちみたいに、友達ごっこ、とか言って友情を馬鹿にしている奴よりは、まともだと思ってるよ。本当、キールケを含めて、バルトシュタインやダースウェリンの連中って大嫌い。自分本位で、誰かを傷付けても良いと思っている。大事な人が傷付けられる痛みを……まるで分かっていない」


「……」


 あーしの言葉に、突如アルファルドは無表情になり黙り込む。


 そんなあいつの顔を見て、あーしは思わず不愉快げに眉を顰めた。


「何、その顔。自分だって、それくらいの痛みは知っているつもりとでも言いたいわけ?」


「さぁて、なァ」


「気に入らない。あんたはそんな顔する資格なんてない」


「――――――12! 11! 10――――――」


「キヒャヒャヒャヒャ! 何だァ? もしオレ様に大事な人間がいるって言ったら、テメェは怒るのか? そりゃそうだよなァ! オレ様はテメェの大事なモンを傷付けているからなァ!! 許せねぇのは当然だ!!」


「そう、だよ!! あんたは大事な人なんていちゃいけないんだよ!! だって、あんたは……ベアトリっちゃんを泣かせたんだから!! あの子を地獄に落とした張本人なんだから!! あんたは純然な悪じゃなきゃいけないんだ……!!」


「5! 4! 3……」


「お前の怒りはもっともだ、ヒルデガルト。だが……オレ様にも、譲れないものはある。あとは剣士として、お互いに剣でぶつかり合うしかねぇよな。悪ぃな……思う存分テメェにボコボコにされても良いとも思ったが……どうやらオレ様には、それはできないらしい」


「……は?」


「テメェを斬るぜ、ヒルデガルト」


 悲し気な、微笑み。申し訳無さそうな、微笑み。

 

 なんで、こいつが……そんな表情をできるの?


 だって、こいつ、あのアルファルドだよ?


 ベアトリっちゃんのお母さんを人質に、ベアトリっちゃんをスパイにして、アネットっちの杖を折らせた、あの極悪人の……アルファルドだよ?


「0!」


 その瞬間、アルファルドが地面を蹴り上げ、あーしに向かって突進してきた。


「キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!」


「ッッ!!!!」


 あーしは即座に腰の剣を抜いて、構える。


 アルファルドは上段で剣を振ると、あーしの剣に当ててきた。


 キィィィンと音が鳴り響き、交差する剣と剣。


 剣の向こうで、アルファルドは嗤い声を上げた。


「ヒャッハァー!! さぁて、悪いがここはオレ様が勝たせてもらうぜ、ヒルデガルト!! オレ様は……ぐはっ!?」


 突如血を吐き出し、よろめくアルファルド。


 あーしはその隙に、アルファルドの腹部へと向けて蹴りを放つ。


 するとアルファルドは長身の見た目とは裏腹に、簡単に後ろへと倒れて行った。


「……は?」


 ドシンと盛大に音を立てて倒れ伏すアルファルド。その背中からは、大量の血液が流れ落ちていった。


 その光景を見て、あーしは思わず、呆けた声を漏らしてしまう。


 確かに、見た目からして満身創痍だとは思っていたけど、もしかして、思ったよりも傷が深刻……だったの……?


「カ、カウントを開始します! 10! 9……」


 倒れ伏したアルファルドを見て、司会者が慌ててカウントを開始する。


 さっきのロザレナVSジェシカの白熱した試合の後だからだろうか。呆気なくやられたアルファルドに対して、観客席からはブーイングが上がっていた。


「7! 6! 5!」


「こんな……呆気なく……」


 あーしにとって、アルファルドは、一番恨むべき相手だった。それなのに、もう、既に誰かにやられていたなんて……。


「4! 3! 2!」


「こんなの、あーし、認められ……」


「ふぅ。良い眠気覚ましになったぜ」


 アルファルドは剣を杖替わりにして立ち上がると、額から流れる血を拭った。


「おーっと、アルファルド選手、立ち上がりましたー!」


「いちいちうるせぇ司会者だな。クソ観客ども、ブーイングなんて、ムカツクぜ。まぁ、オレ様らしいっちゃらしいか」


「あんた……もう、限界なんじゃないの? なんでそんな状態で試合に出てるの? 馬鹿なの?」


「だから言ってんだろ。こっちにも譲れねぇもんがあるってよ」


「だからって――――――――!!」


「お前だって同じだろ。譲れないもんがあるからここまで来てんだろうが。あーくそ、頭がフラつきやがる……オラ、何ボサッと見てんだ。さっさとやるぞ」


「……」


 こいつにも、成し遂げたい想いがあるっていうの?


 身体がボロボロになってまで……限界を超えてまで、ここに立たなければならない理由があるっていうの……?


「そんなの……認められない。許せない」


 確かに、今のアルファルドとあーしが知るアルファルドは、全然違うような気がする。前にルナティエがアルファルドは無害になったと言っていたのも頷ける。


 でも、もし仮に本当にアルファルドが更生してたとしても……あーしは、彼を許せるの?


 よく、セレーネ教の教えに、咎人を許しなさいってあるけど……だったら、傷付けられた人はどうなるの?


 悪人が更生したからって、傷付けられた人の傷口が消えるわけじゃない。


 更生したから許しなさい? そんなの……第三者の勝手な言い分だ! だっておかしいもん!! おかしいに決まってる!! こいつは過去に一度、罪の無い人を傷付けたんだ!! あーしの友達を泣かしたんだ!!


「アルファルド。あんたに、剣王になる資格なんてない。更生したとか言いたいわけ? ふざけないでよ……! 病気で苦しむ母親とその娘を利用した癖に……!! クソ野郎!!!!」


 あーしは一歩前に踏み出すと、剣に雷を纏い、アルファルドを斬りつけた。


「【雷鳴斬り】!」


 アルファルドは避けることもできずに、肩から胸にかけてバッサリと斬られ……地面に倒れ伏した。


 雷によるダメージも付与されたのか、彼は地面に倒れ伏した後、ビクビクと身体を震わせていた。その後、身体は全身焼け焦げ、煙が上がっていた。


「おーっと! アルファルド選手、またしてもダウンです! 10! 9!」


「あーしはね! 今までダースウェリンがしてきたことを詫びるために、剣王試験に勝って……賞金を貰って、ベアトリっちゃんのお母さんの治療費に当てたいって考えているの!! そして剣王になって、もう二度と王国に『死に化粧の根(マンドラゴラ)』が蔓延しないように努める!! この理由に勝るものがあんたにあるわけ!? ないでしょ!! どうせあんたは私利私欲のために剣王を目指しているに決まってる!! どうせ称号と賞金を手にして、ダースウェリンの家督を取り戻そうとか考えているんでしょ!!」


「いらねぇよ、そんなもん」


 アルファルドは立ち上がると、ドバドバと血を地面に流しながら……首をコキコキと鳴らした。


「あー、くそ、信じられねぇくらいの激痛だぜ。怪我人になんつーもんを放ちやがる、クソギャル女。容赦ねぇなぁ、オイ」


「嘘……何で、また、立つわけ……?」


「だから言ってんだろ。こっちにも、譲れねぇもんがあるってよ」


 そう言ってアルファルドは剣を構えて、あーしの元へと走って来る。


 雷を纏った剣で斬ったはずなのに……それでも動けるとか……なんなわけ?


「何で立ってんの!? そんな状態で勝てるわけないじゃん!! さっさと寝てろよ!!」


「キヒャヒャヒャヒャ!! 勝てるわけがねぇだぁ? んなもん、テメェに決められてたまるかよ!!」


 アルファルドは、あーしに向けて剣を振ってくる。


 その剣の速度は鈍かった。


 あーしは横に逸れることで、難なくそれを避けて、アルファルドの頬を殴り付ける。


 だけどアルファルドはよろめくだけで……今度は倒れなかった。


「なんで……!!」


「テメェと同じだよ。オレ様にも、守りてぇもんがあるからだよ」


 その時。「さっさとリタイアしろー」というブーイングが舞う観客席から、女性と子供の応援する声が聞こえてきた。


「―――――――アルファルドさーん!! 頑張ってー!!」

「アルファルド兄ちゃーん!!」

「お兄ちゃん、頑張ってー!!」

「お兄ちゃーん、敗けないでー!!」


 そこには、修道服を着た金髪の女性と、その連れらしき三人の子供の姿があった。


 その光景を見つめた顔中血だらけのアルファルドは……泣きそうな顔をぐっとこらえて……小さな笑みを浮かべていた。


「あいつら……貧乏な癖して、何、マリーランドからこっちに来てんだよ。オレ様のためだけに少ない金使いやがって……馬鹿じゃねぇの、本当……そんな金あるんだったら、壊れかけのオンボロ教会なんとかしろよ、クソどもが」


 そう口にした後、アルファルドは目元を拭い……不敵な笑みを浮かべた。


「まぁ、そういうワケだよ。あとは、そうだな。後ろでこっちを見てるクソドリルが、棄権なんて真似したら闘技場に上がってトドメを刺してきそうだからな。オレ様がみっともなく足掻いているのは、ざっとそういう理由だ」


「なん……なのよ……!」


 あーしはグッと歯を噛み締め、咆哮を上げた。


「あーしにあんたを許せとでも言いたいわけ!? 今は大事なものもあって更生したからって!? ふざけるな!! あんたがやったことは一生消えない!!」


「馬鹿か、お前は。誰もそんなこと言ってねーよ。お前とベアトリックスは、オレ様のことを好きなだけ恨めば良いぜ。オレ様がしてきたことは、一生恨まれて当然のことだ。テメェらにはその権利がある」


「……ああああああああああ!!!!」


 あーしは叫び声を上げると、アルファルドを連続で殴り付けた。


 10発程殴り終え、アルファルドの顔がグチャグチャになる。


 だけど彼は倒れはしない。血を吐き出し、腫れたおでこの下から、ギラギラとした目を向けてくる。


「オラ、何、ビビッてんだ。テメェ、剣士だろ。拳じゃなく剣使って来い。何、オレ様は死にはしねぇーよ。身体だけは打たれ強いみたいだからなァ! キヒッ!」


「ふざ……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 あーしは上段に剣を構え、振り降ろす。


 その瞬間……アルファルドの剣とあーしの剣が再び交差した。


 剣の向こう側で、アルファルドが口を開く。


「ハッ……面白ぇな、ヒルデガルト。同じダースウェリンの血族でも、オレ様とお前は異なった道を生きてきた。適当に生きた後、仲間を信じる道を選んだお前と、野心を胸に抱えたまま、仲間を駒としか見てなかったオレ様。もう少し……早く……変わることができていたら……オレ様も……箒星のあいつらみたいに……まっすぐ生きられたら……そしたら……違う人生があったのかもなァ……」


「あんたにそんなことを言う資格なんてない!! あんたは、あんたは……!!」


「テメェの言う通りだ。オレ様にそんなことを言う資格なんざない。どこまでいっても、悪人は悪人、善人は善人だ。だがな……オレ様だって、本気で剣王になりてぇんだよ……! やられ役のオレ様も、本物(・・)が、欲しいんだ……!! あいつらみたいに……!」


「あーしの友達を傷付けた奴が、ふざけたことを言うなぁぁぁぁぁ!!!!」


 あーしは剣を弾くと、アルファルドに向けて剣を横薙ぎに放つ。


 その瞬間、アルファルドの胸から、鮮血が舞う。


 もう、立っていられないはず。身体中はボロボロ、血も大量に失った。


 それなのに……あいつは……倒れることをしなかった。


 後ろによろめいた身体を、強く踏ん張って、足に力込めて立っていた。


「なんで、よ……!」


「ゼェゼェ……負けられねぇ、からよ……!!」


「なんで……なんで、そこまでの覚悟のある奴が……あんなことしたのよ……! 誰かのために戦えるあんたが、何で、ベアトリっちゃんを傷付けたのよ……!」


「その問いに……意味は、あるのか……? オレ様たちは……剣王の座を賭けた……剣士、だろうが……! 剣士なら、言葉じゃなく、剣で語れや、ヒルデガルト……!」


「……!」


 あーしは眉間に皺を寄せると、アルファルドの元へと駆けて行く。


 そして再び、剣を振り放った。


「あーしは、絶対に剣王になる!! 友達が泣かなくても良い世界を創るために!!」


 ―――――――————―———————————ザシュ。


 勝敗は、決した。再三に渡って斬られたアルファルドは、ゆっくりと地面に倒れ伏していく。


 それを見て、司会者はカウントを開始した。


「ダウン! 10、9、8―———」


 会場はブーイングに包まれる。


 あーしは鞘に剣を仕舞い、踵を返した。どう見ても、アルファルドがもう、起きれないことは分かっていたから。


 だが…………。


「はぁはぁ……待てや、コラ。何、勝手に終わらせてんだ、クソギャル」


 その時。あーしの足が、何者かに捕まれる。


 振り返ると、そこには、ズルズルと這いつくばって来たのか、倒れながらあーしの足を掴むアルファルドの姿があった。


「なん……なのよ、あんた……!!」


「オレ様はまだ諦めてねぇぞ、この野郎」


「どう見ても、勝てるわけないでしょ!! どんだけ諦めが悪いわけ!?」


 あーしはアルファルドの手を蹴り飛ばしす。


 するとアルファルドは身体をガクガクと震わせながら、1カウントの前に、立ち上がった。


 その姿を見て、観客席のブーイングはさらに激しさを増す。


「さっさと退場しろー! 怪我人ー!」

「つまらねー試合見せてんじゃねー!」

「しつこいぞ、負け犬ー!」


 どんな野次が飛んで来ようが、アルファルドはギラついた目を輝かせ、あーしを睨み付けている。彼の中にある闘志は、まだ、潰えていなかった。


「……黙りなさい!!!!」


 その時。観客席に向けて、アルファルドの背後、闘技場の外に立つルナティエが、叫び声を上げた。


 その恫喝に、会場内は一気に静まり返る。


 ルナティエはまっすぐとアルファルドの背中を見つめながら、続けて口を開いた。


「アルファルド、まだ、やれますわね?」


「当たり前だろ、クソドリル」


 アルファルドは血がべっとりついた手で髪の毛をオールバックにして、よろよろと動きながら、剣を構えた。


「オレ様たち主従は、諦めが悪くてよ……どんな惨めな姿になろうが、どんなに馬鹿にされようが、知ったこっちゃねぇんだよ。残念だったな、ヒルデガルト。オレ様はまだ……食らいつくぜ?」


「意味、分かんない……!」


 アルファルドのその言葉に、あーしは思わず下唇を噛んでしまった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《アネット 視点》




「ゴーヴェンの暗殺……それは、本気で言っているのですか? ラピスさん?」


 俺のその言葉に、ラピスは舌をペロリと出す。


「アネットちゃんも当然知っていると思うけど、私たち亜人は、セレーネ教によって迫害を受けて、聖騎士団の異端審問官によって住処を追われているんだ。龍人族(ドラグニクル)小鬼族(インプ)夢魔族(サキュバス)牙猪族(オーク)。このままじゃ、亜人はどんどん数を減らして、滅亡の一途を辿ってしまう。大森林に還り、知性を失い魔と化してしまった、牙猪族(オーク)のようにね。中にはこのまま衰退して消えることを良しとした種族もいるんだよ。老人が多い小鬼族(インプ)とかは特にね」


「だから……ラピスさんは、ゴーヴェンを殺さなければいけないと?」


「本当は元凶である聖女を狙いたいところなんだけど、聖女は滅多に人前に出てこないし、ずっと聖堂の中だから……狙うのは難しいかなと思って。次点で聖騎士団団長であるゴーヴェンを狙おうって思ったわけ。本当は、話し合いで解決できたら良いんだけど、できないよね、もう。アネットちゃんも見たでしょ? 試験参加会場で、小鬼族の男の子が、ルクスに暴行を加えられているのを」


「……」


「人間にだって、亜人を差別しない人がいることは分かってる。でも……私は、このままじゃ分かり合えないと思っているの。何かを成さないことには……夢魔族(サキュバス)の姫として、私には、責任があるの」


 ラピスも、平和的に解決できたらそうしたいという思いがあるわけか。


 だが、追い詰められた結果、暗殺という手段を取るしかなかった、と。

 

 俺たちはメリアと知り合いになって、亜人たちが俺たちと変わらない普通に会話ができる種族だってことを知っている。


 だけど、セレーネ教の教えにどっぷり浸かったこの国の民にとって亜人は……人語を話せる魔物としか見られていないだろうからな……。


 話し合って和平を結ぶのは……暗殺という手段よりも難しい、か。


 だけど結局、亜人が国のトップを狙っても、何も変わらないのでは?


 結局、復讐の連鎖に陥ってしまうのでは?


 暴力という手段は、果たして正しいのだろうか。


「ね、アネットちゃん。ここのことは、黙っていてくれないかな? アネットちゃんだって、ゴーヴェンには恨みがあるはずだよね? 協力して欲しいというのは、私を見過ごして欲しい、ということなの。他のことは関わらなくても良いから」


「……何のために、ルクスさんの部屋を見ているのですか?」


「ルクスは異端審問隊の隊長。今、どこの亜人の村を狙っているのか、きっと、作戦の記録がどこかに残っているはず。それを調べて、亜人たちに教えてあげるの。そこから逃げなさいって」


「他の亜人を救おうとしていたのですね。では、ルクスさんの部屋に侵入していることは、ゴーヴェン暗殺とは無関係のことなのでしょうか?」


「うん」


 他人の命を救うために危険を冒しているというわけか。


 見たところ、彼女が嘘を吐いているようにも思えない。


 俺は数秒程思案した後、口を開いた。


「……分かりました。ここのことは、見なかったことにしておきます」


「やぁーん! 本当? ありがちょぉ~、アネットちゃ~ん! ちゅきちゅき~!」


 ラピスに抱き着かれ、俺はギョッとしてしまう。


 あの、何がとは言わないんですが、当たっています。あの。


 俺がラピスにドギマギしていた、その時。


 廊下の方から、騎士たちがガチャガチャと鎧の音を鳴らす音が聞こえてきた。

 

 続いて、何やら、騒がしい声が聞こえてくる。


「街の方で乱闘騒ぎが起こっているらしい! 至急、応援にかけつけるぞ!」


「フランエッテ様が何とか食い止めてくれているらしいが……街の中で何件かの家屋が倒壊したらしい! 早く行くぞ!」


 俺はその言葉を聞いて、急いでラピスを引き剥がす。


「ごめんなさい、ラピスさん! 私、行かなければ!」


「え? え? 何、どしたの?」


「あの子を助けないと……!」


 そう言って俺は部屋を飛び出し、廊下を走って行った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《ヒルデガルト 視点》




「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 アルファルドは咆哮を上げ、血を吐きながら、剣を振ってくる。


 大したスピードもない、力任せに振った剣。

 

 あーしはその剣を弾いて、アルファルドの横を通り、肩を裂いてみせる。


 肩から鮮血が舞うが……アルファルドは無我夢中になって、あーしに襲い掛かってくる。


「オラアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


「何なのよ……何であんたみたいな奴が、そんな強い覚悟を持ってんの!?」


 あーしは手に雷の魔法を宿す。


「……雷よ……我が手に宿れ……【サンダーインパクト】!」


 その手で、向かってくるアルファルドの頭を掴み、全身に雷の一撃を与えた。


「ぐっ、ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ビリビリと身体を震わせた後、アルファルドは口から煙を吐きながら地面に倒れ、のたうち回った。


「あぐぁ!? ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ダ、ダウン! カウント開始です! 10、9、8―——」


 観客席から、「もう立ち上がるな!もう立ち上がるな!」とコールされる。


 だが……アルファルドは、すぐに立ち上がった。


「はぁはぁ……まだ、だ……!」


 彼はペッと血を吐き出し、震える手で、剣を構える。


 あいつの手から剣が落ちることは、ない。


「なん……なのよ……!」


 あーしは剣に青白い雷を纏う。今までで最大火力の魔力。


 ルナティエの時のために取っておこうと思ったけど……何をやっても、倒れないのなら……!


「アルファルド!! 宣告するよ!! さっさと敗けを認めて!! じゃないと……あーしはあんたに、最大の一撃を放つ!! どうなっても知らないよ!!」


「ハッ。上等だ。テメェの手の内をルナティエに明かせるんだ。これ以上ない働きだぜ。……何見てやがる。来いよ。それともテメェはこんなボロ雑巾すら屈服できねぇ雑魚剣士なのか? 友達を救うとか、口先だけかぁ? キヒャヒャヒャヒャ!」


「……っ!!」


 あーしはバチバチと雷が舞う剣を構え、アルファルドに向けて突進して行く。


「アルファルドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 だが、あーしが彼の前に到達するよりも先に、アルファルドは……バタリと地面に倒れ伏した。


「え?」


 そして彼は、意識を失う寸前、ボソリと呟いた。


「ベアトリックス……オレは、きっと、自分と同じ親に縛られて孤独の道を歩むお前が、学園で仲間に囲まれている姿を見て……嫉妬、してたんだろうな……本当……何やってたんだろうな……オレ、は……」


 そう言い残した後、アルファルドは目を伏せ、気絶した。


 あーしはゼェゼェと荒く息を吐き、アルファルドを見下ろす。


 別に、ダメージを負ったわけでも、体力を消費したわけでもない。


 ただ、許せないと思っていた奴が、勝手に改心していたのに、頭が追い付いていなかっただけ。


 あーしはギリッと奥歯を噛み、倒れ伏しているアルファルドに言葉を投げる。


「だったらあーしは……誰を、恨めば良いのよ……! この怒りを、どこにぶつければいいのよ……!」


 そう吐き捨てたのと同時に、パチパチと拍手が鳴り響く。


 拍手が聞こえてきた場所に視線を向けると、そこには、ルナティエの姿があった。


「見事な戦いでしたわ、アルファルド」


 つまらない試合だったと野次を飛ばす観客席の空気を払拭するように、拍手をする、ルナティエ。


 一頻り拍手を鳴らし終えると、ルナティエはあーしに鋭い目を向けてくる。


「ヒルデガルトさん。誰かを恨むことでご自分を納得させたいおつもりなら、アルファルドの想いも含めて、全てわたくしにぶつければ良いですわ。元はと言えば、わたくしがアルファルドを従者にして黒狼クラスに招き入れたのが事の発端。次の試合で……わたくしに怒りをぶつければ良い。悪役になるのは、わたくし、得意でしってよ」


「ルナティエ……!!」


 あーしは、闘技場の外にいるルナティエとお互い睨み合う。


 司会者はカウントを終えると、第四試合の勝利者の名を口にした。


「第四試合、勝ち残ったのは……ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリンです!!」


 泥仕合だったため、特に、歓声が上がることはなく。


 あーしとルナティエはただ静かに、お互い、睨み合っていた。


読んでくださってありがとうございました。

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