第10章 二学期 第310話 剣王試験編ー㉘ あたしは、ここで貴方たちを超えていく
《ロザレナ 視点》
「――――――【覇剣】!!!!」
あたしは跳躍して、崖の上にいるアグニス、メリア、ジェシカへと上段を振り降ろし、斬撃を放つ。
すると3人は、それぞれ別の方向へと飛び退き、あたしの【覇剣】を避けようとした。
だけど――――――甘いわ。
あたしの【覇剣】は小高い丘を真っ二つに斬ってみせた。
ゴゴゴゴゴと音が鳴り響き、斬り裂かれた丘が、左右に割れて倒れて行く。
ドシャァァァンと森に丘が沈んでいくのを見届けた後。
あたしは地面に着地して、ブンと大剣を振ってみせた。
「…………え?……は?」
背後に視線を向けると、そこには、双剣を構えたまま固まるアイリスの姿があった。
彼女は口を大きく開け、目を見開き、間抜けな表情を浮かべている。
その隣に立っているキールケは……熊のぬいぐるみを腕に抱きながら、眉間に皺を寄せ、あたしのことを鋭く睨んでいた。
「お前……私と戦ったあの時よりも、闘気の量が……増えている……!?」
「当然でしょう? あんたと戦った時は、あたし、ベルゼブブと戦って消耗していた時だったんだし」
「……」
「それに……あたしたち箒星の門下生は、この日のために、全力で剣を磨いてきたのだから。特別任務の時のあたしと同じだと思ってもらっては困るわね」
「化け物め……!」
「誉め言葉と受け取っておくわ。それよりも、戦闘態勢は解かないことね。あの程度の攻撃で……多分、あいつらは止まらないわ。いいえ、あたしのこの剣技を知っているあの3人が、ここで簡単にやられるとは思えない、って言った方が正しいかしら」
「はぁ? あんなわけのわからないでたらめな斬撃を、避けられるわけが……ん?」
キールケは気配に気付いたのか、森の中へと視線を向ける。
するとそこから、衣服をボロボロにしたアグニスが、手斧を持って駆け抜けてきた。
「フハハハハハハハハハハ!! 相変わらずお前のその上段の剣は、尋常ではない力だな!! また一段と強くなったわけか、ロザレナ!!」
手斧に闘気を纏い、アグニスがあたしに斬りかかってくる。
あたしはアグニスと同じように笑みを浮かべ、 大剣を思いっきり振り、アグニスの手斧へとぶつけた。
大剣と手斧がぶつかった瞬間、キィィィィィンと金属音が鳴り響き、辺りに凄まじい衝撃波が巻き起こる。
ギリギリと大剣と手斧で鍔競り合いをするあたしとアグニス。
すると背後の林から、メリアが戦斧を持って、飛び出してきた。
「……ロザレナを倒すのは、私。先に一対一で戦わせてくれる契約で、私は、貴方たちのチームに入ったはず。その約束を、破る気? アグニス」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! このような凄まじい闘気を見せられて、我慢できるわけがないだろう!! ロザレナを殺りたくば、俺よりも先にロザレナを倒せ!! 無論、俺から倒してくれても構わぬぞ? 龍人族の娘よ!!!!!」
「……ロザレナの闘気を見たら、そうなるのも頷ける。仕方ない。多対一は好みじゃないけど、君よりも先にロザレナを倒す」
メリアが戦斧に闘気を纏い、背後から、あたしに目掛け戦斧を振ってきた。
「……【龍閃】」
あたしはアグニスの手斧を弾くと、即座にしゃがみ込む。
すると、あたしの頭上を、龍の爪のような三つの斬撃が飛んでいった。
アグニスへと飛んでいく斬撃。アグニスは左手に持っていた手斧で、その斬撃を弾いてみせたが……手斧は真っ二つになって、斬り裂かれていった。
「む」
「また手斧が壊れちゃったのかしら? あんた、安物の武器使ってんじゃないわよ」
「今回は、安物ではなく、ミスリル製の斧だったのだがな……」
「メリアの闘気をあまく見ないことね!」
あたしはそのまま、隙だらけのアグニスに向けて大剣を振り降ろす。
アグニスは壊れた手斧を放り投げると、腰から、新しい手斧を取り出した。
……なるほど。同じ轍は踏んでいないというわけね。
アグニスはあたしの剣を手斧で弾くと、その威力に、片目を閉じ苦悶の表情を浮かべる。
「ぬぅ……! 一撃を受ける度に、骨が響く威力だ……!」
「あはははははははははは!!!!」
あたしは笑い声を上げながら、連続して大剣を振っていく。
それを、アグニスは懸命に手斧で防いでいく。
剣速はあたしの方が僅かに上ね。闘気石を身に付けている状態でも、アグニスなら各個撃破は可能――――――!!
「いいぞ、ロザレナ!! 貴様はやはり、俺が想像した以上の猛者だ!! 試験の仕組み上、徒党を組んでの撃破が理に適っているとみて挑んだが……やはり貴様とは、一対一で仕合いたいところだァ!! これほど心躍る斬り合いはなかなかにない!!!!」
「そうね!! あたしも楽しいわ!! あはははははははははは!!」
「フハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「……背中、がら空き」
あたしがアグニスと笑いながら斬り合っていると、背後にいたメリアが戦斧を地面に突き刺し、回転し始めた。
そして彼女は尻尾に闘気を纏い、あたしに目掛け振り放ってくる。
「【龍槌尾】」
「抜け駆けは許さんぞ、龍人族の娘!! その女の御印は、俺のものだ!!!!」
アグニスは両手の手斧にとてつもない闘気を纏うと、勢いよく、あたしの脳天目掛け叩き込んでくる。
「【猛追撃】!!」
左右から襲い掛かってくる、メリアとアグニス。
あたしは笑みを浮かべると、左手に闘気を纏い……メリアの尻尾を掴んでみせた。
「……え?」
続いてあたしは大剣に闘気を纏い、難なく、手斧を防いでみせる。
「なんだと!?」
「舐めんじゃないわよ」
あたしは片手で尻尾を握ると、そのままメリアをこちらへと引き寄せた。
そして――――――メリアの顔面に一発、闘気を纏った肘鉄を叩き込んだ。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「ッ!!」
するとメリアは吹き飛ばされていき……森の木々を何本も薙ぎ倒し、奥にある大岩に当たり、岩を破壊して尚、転がっていった。
次に、あたしは、剣と斧をぶつけ合っているアグニスに向け、足払いをかける。
「ぬ!?」
態勢を崩すアグニス。あたしはそんなアグニスに向け―――闘気を纏った足で、回し蹴りを叩き込んだ。
「とりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
アグニスは、そのまま吹き飛んでいき、先ほど崩壊させた丘の残骸へと直撃し、ドシャァァァンと土煙を巻き上げた。
あたしは地面に大剣を突き刺し、パンパンと手の埃を払う。
「ざっとこんなものかしら!」
「う……うそ……」
そう声を発したのは、遠くでこちらを見つめているジェシカだった。
ジェシカは信じられないものでも見るような顔で、あたしの顔を見つめていた。
「ほ、本当に……ロザレナ、なの……? 一か月前……私が特別任務で見たロザレナとは、全然、違う……実力も、雰囲気も……」
「言ったでしょ、ジェシカ。あたしは……本気で【剣聖】を目指しているの。今回の剣王試験は、ただの通過点としか認識していないわ。あたしはこの一か月、剣王試験に参加している受験者に勝つために修行していたんじゃないの。あたしは……あの時、ジェシカのお爺ちゃんの道場で戦ったリトリシアに勝てるように、剣を磨いていたのよ」
「た、たった一か月で、こんなに、変わるものなの……? 一か月前のロザレナは、メリアとそう変わらない実力だったのに……!」
驚くジェシカに向かって、あたしは大剣を構える。
「さぁ、ジェシカ。驚くのは後で良いから、さっさとかかってきなさい!」
「え……?」
「え?じゃないわよ。これで、あたしに罪悪感はなくなったでしょう? 【剣王】になりたいなら……あたしからネックレスを奪いたいなら、力づくで来なさい!!」
「……!」
ジェシカはあたしの言葉に、困惑した様子を見せる。
まったく。いつまでためらっているのかしら、あの子は。
剣士の世界には、正々堂々と戦う以外の道もあるでしょうに。
まぁ……あたしも、ルナティエみたいに策略だの卑怯な手だのは、性に合っていないけどね。頭動かすよりも、真っ向から正面同士ぶつかり合った方が、分かりやすくて良いわ。
「……」
その時。森の中から、メリアがこちらへと向かって歩いて来た。
メリアは全身ボロボロになってはいたが……額から血を流しているだけで、特に目立った致命傷は見当たらなかった。
続いて、瓦礫をどかして、アグニスが首をコキコキと鳴らしながら近付いて来る。
彼も、全身痣だらけにはなっているが、目立った怪我は見当たらない。
やっぱり、そう簡単にはいかない、か。
相手も剛剣型の剣士。闘気を操作できる分、通常の剣士よりも、防御力という面は特化している。特に、龍人族であるメリアは、鱗が生えているから、他のどの種族よりも頑強だ。彼女にダメージを与えるには、上段の一撃……【覇剣】以外に、道はない。
「……やっぱり、流石はロザレナ、だね。これは……本気を出さないといけないみたい。――――――【半・龍化】」
そう言って彼女は、【半・龍化】を発動させる。
爪が鋭くなり、尻尾が太くなり、鱗が増え……目が爬虫類のように鋭くなるメリア。
あれは、メリアの切り札。マリーランドで見た、身体強化の秘術。
【半・龍化】することで彼女の基礎能力……腕力、俊敏性、防御力は桁違いに跳ね上がり、恐らくだが、【剣王】と同格の強さへと至る。
あたしは、マリーランドで、【半・龍化】したメリアに手も足も出なかった。
上段の剣の完成……【覇剣】の完成が間に合っていなかったら、あたしはあのまま彼女にやられていたことだろう。それほどまでに、【半・龍化】したメリアは、恐ろしい存在だった。
「俺も、本気を出そう。以前話したが、獣人族という種族は満月を見ることで、先祖返りすることができる。理性を失うことと引き換えに、絶大な攻撃力と俊敏性を得ることが叶う。普段は、ルーファスの奴に止められている力だが……今宵、奴はここにいない。フフ……簡単に壊れてくれるなよ、ロザレナ。――――――――――【獣化】!!」
そう口にした瞬間、アグニスの筋肉が膨れ上がり、上半身のシャツが破れ、額の角が伸びていった。
変化を終えて、そこにいたのは……両手に手斧を持った漆黒の猛牛、牛頭魔人だった。
人外と化した二人に挟まれたあたしは、頬から、汗を流す。
「これは……ちょっと、まずいかも?」
肌で感じる程の、闘気の圧。直感が告げている。あの二人は、危険だと。
「ウグルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
先に動いたのは、メリアだった。
メリアは戦斧をまるで紙細工のように、ブンブンと軽く振り回して、あたしに襲い掛かってくる。
(速い……!)
あたしは即座に屈んで避けてみせた。
頭上を斧が通っていくが……あたしの顔に目掛け、メリアは蹴りを飛ばしてくる。
その動きに一歩反応が遅れたあたしは、右腕を前に出して、その蹴りを防いだ。
メリアの蹴りに当たった腕は、内出血が起こったのか、ズキズキと痛む。
「……!! さっきとは威力が全然違う…わね…!!」
「ウゴォォォォォォォォォォォォ!!!!」
続いて、アグニスがあたしの脳天に目掛け、手斧を振り降ろしてくる。
あたしは身体を横に逸らしてその攻撃を避けたが……動くのが遅かったのか、あたしの頬に浅い傷が産まれ、血が噴き出していた。
「あたしの闘気を貫通してきた!?」
まったく。先祖返りだか何だか知らないけれど、種族が違うってだけで特別に強くなれる術があるなんて、ずるいったらありゃしないわね。
まぁ……どっちも凶暴化するっているデメリットがあるんでしょうけど。
「ガァァァァァァァァァ!!!!」
アグニスが、両手の手斧を使って、あたしに連続で斬撃を放ってくる。
あたしはそれを全て紙一重で大剣に当て防いでいくが……その隙に、メリアが、あたしの背中に戦斧を振ってきた。
「しまっ……!」
慌てて背中に闘気を纏ってガードしてみせるが……メリアの放った戦斧の威力に為す術もなく、あたしはそのまま吹っ飛んでいき、倒壊した丘で作られた岩山に激突した。
「ロザレナ!」
ジェシカが、心配そうな声を上げる。
あの子は、どっちの味方なのよ。笑っちゃうわね。
あたしはフラフラとよろめきながら、立ち上がる。
そしてペッと、口の中に溜まっていた血を吐き出した。
(あの二人はもう、あたしの闘気を貫通してダメージを与えられるようになっている。二人とも、実力的には同等。いや、今のあたしよりも闘気の量は多そうね。恐らく、【覇剣】を当てることができれば、勝てるでしょうけど……上段に構える隙を作れば、どちらかが襲い掛かってくる。多対一だと、無暗に【覇剣】は撃てない、か)
「アウグルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
咆哮を上げ、二匹の龍と獣がこちらへと向かって走って来る。
その光景を見てあたしはふぅと息を吐くと、大剣を地面に突き刺した。
本当だったら、ここで使いたくはなかった。
だけど、今のあたしでは……多分、あの二人には勝てない。
あの二人は、相当強い。他の受験者なんか、目に無いくらいにね。
だからこそ、ここで無駄なダメージを負うわけにはいかないわ。
治癒魔法を使用できないあたしは、グレイレウスやルナティエと戦うまでに、余計な怪我を負うわけにはいかない……!
あたしは、右脚へと手を伸ばした。
「仕方ない。ひとつ、外すか」
右足首に付けていたベルトを外し、あたしは、手のひらサイズの長方形の薄い石……闘気石を、取り上げる。
そして、それを、遠くへと放り投げた。
その瞬間――――――――――――ドシャアアァァァァァァァァァァァァァァァァンと、爆風が巻き起こった。
土煙が開けると、闘気石は……地面に亀裂を走らせ、深く、めり込んでいた。
それを見て、キールケとアイリスが、唖然とした様子を見せる。
「なっ……! お前、なんだ、それ……!?」
「まさか、今までそれを身に付けて……戦っていたというの……!?」
あたしは手首を伸ばし、屈伸して、準備体操をする。
そして大剣を手に取ると、こちらへと接近して来ている二人へ、不敵な笑みを浮かべた。
「よし」
地面を蹴り上げる。まるで、風になったかのように、速かった。
あと……ずっと封印していたはずの闘気の一部が解放されて、先ほどよりも腕に力が入るようになっていた。
「ルガッ!?」
「アガッ!?」
あたしは一瞬にして二人の間を通り抜けると、ブンと、大剣を振る。
そして二人の背後に低姿勢で着地したのと同時に、二人の身体から、鮮血が舞った。
その後、二人は、そのまま――――――何も言わずに、バタリと倒れ、気絶していった。
「…………は?」
素っ頓狂な声を上げたのは、ジェシカだった。
ジェシカはパチパチと目を瞬かせた後、首を傾げた。
「何、今の……ま、まさか、【縮地】……? ロザレナ、【縮地】を使えたの……?」
「いいえ。今のは、【縮地】を真似て走っただけの、失敗作よ。どうにも……【縮地】を上手く習得できないのよね、あたし。速剣型の技は、とてつもなく相性が悪いと言うか……魔法剣型は割とすんなり覚えられたのになんだこれ、って感じ。あたしが魔法剣使っても、魔力が無いから意味無いのにね。どうせだったら速剣型の才能が欲しかったわ」
あたしはそう言って、肩を竦める。
そんなあたしに向かって、ジェシカは剣を構えた。
「わ、私だって、その重い石を身に付ける修行はやってたよ! でも……そんな速度では動けなかった!!」
「あれは、ただの石じゃないわ。闘気石っていう……まぁ、いいわ。やっと、やる気が出てきたみたいね、ジェシカ。いいわよ、来なさい」
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ジェシカは叫び声を上げると、全身に闘気を纏い始める。
相変わらず、闘気を上手く操作できていないみたいね。
全身に無駄な闘気を纏っているその姿は、マリーランドであたしが闘気の修行を始めた時と同じだわ。
「いくよ! ロザレナ!!!!」
こちらへと向かって走って来るジェシカ。
彼女は青龍刀を振り上げると、あたしの脳天に目掛け振り降ろしてくる。
だが――――――あたしは大剣を横薙ぎに振り、ジェシカのその剣を、吹き飛ばした。
「あ……!!」
ジェシカの剣は、クルクルと弧を描いて空中を飛んでいくと、彼女の背後にある地面へと突き刺さる。
あたしは、大剣の切っ先を、ジェシカの首元へと突き付けた。
「なによ、それ」
「え……?」
「あの時見た貴方の闘気とは全然違うわ。あの時の貴方は、あたしよりも遥かに、すごい闘気を纏っていた。ムラっ気があるのは分かっていたけど……それって、貴方が本気で倒そうとしているからこそ、コンデションが整うのよね? ジェシカ……貴方、あたしのこと、本気で斬る意志がないのね?」
「そ、そんなことは……!」
「自分を害したキールケとは本気で戦えるけど、友人であるあたしとは戦えないってわけね。本気を出せない貴方と戦う気はないわ。今の貴方は……あたしと【剣聖】を競う資格はない」
あたしはそう言って剣を引くと、踵を返し、背後で倒れているメリアとアグニスの元へと向かう。
そして二人の首からネックレスを引きちぎり、スカートのポケットへと仕舞った。
「正直、他の受験者たちよりも、この二人の方が第三次試験を受けるに相応しいと思うんだけど……まぁ、この二人ならネックレスを三つ回収するのもわけないでしょうね。勝者の特権として、遠慮なく、貰って行くわ」
これでネックレスは二つ。あと一つ獲得すれば、あたしは、第三次試験に進むことができる。
あたしは振り返ると、ジェシカへと向かって歩いて行った。
身構えるジェシカ。だけどあたしは、ジェシカの横を通り過ぎ、スルーする。
「な、何で……何で、私からネックレスを獲らないの? ロザレナ?」
「言ったでしょ。今の貴方とは戦うに値しないって」
本気のジェシカは、あたしたち箒星の門下生に通用する力を持っているのは間違いない。でも、こんなところで彼女からネックレスを奪ったら……ジェシカは、上に上がることができなくなってしまうような気がする。
だからあたしは、敢えて彼女を挑発した。覚悟を決めて、第三次試験に進んで来い、と。
元々、この試験、他人からネックレスを奪わなければならないという形式上、ジェシカには向いていないのよね。
恐らく1対1の状況だったら、ジェシカは本気を出せると思う。
でも、彼女は、自分が間違った行為をしていると認識すると、たちまち力を引き出せなくなってしまう。
徒党を組んで一人を叩くなんてもってのほか。しかも、それが自分の友人ときた。
アグニスは、その特性を認識せずに、ジェシカをチームに誘ってしまった。
その結果、彼女のコンデションを最悪にしてしまうとも知らずに。
(まぁ……良かったと言えば良かったのかもしれないわね。多分、ジェシカが本気を出したら……あたしも、全部の闘気石を外さなきゃいけなくなったと思うから)
才能という一点で言えば、あたしたち同世代の中でもジェシカはトップクラスだと思われる。
ただ、彼女は剛剣型でありながら、闘気操作を苦手としてしまっている。
そのため、テンションによって闘気の量が左右されるという呪いを背負ってしまっているのが、彼女の致命的な弱点。
あたしは……いつか、全力のジェシカと戦ってみたい。
あたしにとってジェシカは、ルナティエやグレイレウスと同じくらい、危険視しているライバルだから。
「……まさか、キールケちゃんのサポートなくあの3人を倒すなんてね」
そう言って、キールケは、近付いて来たあたしに対して拍手を送ってくる。
あたしはフンと鼻を鳴らして、大剣を肩に載せた。
「あんた、共倒れを狙ってたんじゃないの? あたしもここでリタイアしたら、一石二鳥だとか考えてたんでしょ?」
「まぁ、その考えもなくはなかったけど……そもそもキールケちゃんが介入したら、お前、一人で戦わせろって、怒ったでしょ?」
「まぁ、ね。邪魔はしてほしくなかったかな」
「そう思ったから、手を出さなかっただけ。そもそも、キールケちゃんの能力は、剛剣型には相性が悪いんだっての。初見の奴らを心臓一突きして殺すことは簡単だけど、この試験、他の受験者を殺しちゃいけないルールなんでしょ? だったらキールケちゃんができることって、チマチマ傷付けることくらいだし。そんなの、剛剣型の闘気を前にしたら、無意味だよねーって話」
「確かに。あんたの影の能力、この試験だと、剛剣型にはほぼほぼ意味なさないわね。せいぜい、足のアキレス腱を斬るくらいかしら? というか、戦闘向けというよりも、暗殺向けよね、その力。前から思ってたけど、姿現して真っ向から戦わない方が強いんじゃないの、それ。初見の相手には、何処から攻撃されたのか分からないだろうし」
「はぁ? 馬鹿なの? キールケちゃんはバルトシュタインの令嬢なんだよ? なんでコソコソと隠れなきゃいけないのよ。そもそも、キールケちゃんは姑息な暗殺者になんてなりたくないから。常に表舞台に立って愚民どもを嘲笑うのが、キールケちゃんだから。あんまりふざけたこと言わないでねー」
「……何か、あんた、性格と能力がマッチしてないわね」
目立ちたがりなのに、暗殺者向けの能力を持っているとか、宝の持ち腐れというか何と言うか……。
あたしがキールケの発言に引き攣った笑みを浮かべていた、その時。
今まで傍観していたアイリスが、剣を持って、あたしの前に立った。
「……ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。私と……戦いなさい」
その顔は、先ほどまでの自信に満ちていたものではなく。
あたしに対して、怯えの色が見え隠れしていた。
「あんたは……オルベルフ家を本家にするために、戦っているのよね?」
「そうよ。私たち一族は、貴方の祖母のせいで、長年辛酸を舐め続けていて――」
「前から思っていたけど、それ、誰の夢よ。あんたの本心からの願いなの?」
「は……?」
「家督を奪い返そうとするのは別に良いわ。レティキュラータス家の当主に相応しい能力があるのなら、喜んであたしが受けて立ってあげる。でも……誰かの夢を、願いを、押し付けられただけの存在が……剣を握っているのは、腹が立つ。あたしはそんな紛い物に敗ける気はない」
「な、に、を……辛い経験もなく、レティキュラータス家でのうのうと暮らしていただけの本家の人間が!! 私は、幼いころから、あんたを倒すように教育されてきたの!! 寝る間も惜しんで、血反吐吐きながら、剣術も勉強も耐えてきたの! ロザレナには絶対に負けるな、お前はロザレナを倒してレティキュラータス家の当主になるんだって……そう、言われ続けて、ここまで来たのよ!! 私の15年間を否定する気なら、許さないから!!」
「のうのうと暮らしてきた、ですって? レティキュラータス家が世間からどういう扱いをされているのか、貴方は知らないの? あたしのお父様とお母様は、どんな酷い言葉にも耐えてきた。本家にも本家の辛さがある。勿論、あたしだって楽をして生きてきたわけじゃない」
「知らないわよ! 私は、あんたを倒して、お爺様が奪われた家督を取り戻し――」
「だからそれ、誰の夢なのよ。剣王試験にまで来ているのだから、自分の夢を語りなさいよ」
「……ッッ!! うるさい!! 死ね、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス!!」
そう叫んで、走って来るアイリス。
そんな彼女を見て、隣に立っているキールケは呆れたため息を溢す。
「で、どうする? 今度こそ、キールケちゃんがサポートしてあげる?」
「いらないわ。あたし一人で十分」
「言うと思った」
あたしは前に出て、大剣を構える。
相手は双剣使い。見たところ、速剣型、か。
不思議なものね。同じ血を引いているのに、型が違うなんて。
「私は……私は……っ!!」
「あたしは、【剣聖】になるわ。【剣聖】になって、レティキュラータス家を復興させて、それで―――――――憧れの人と、約束を果たす。あたしはこの夢を、子供の頃から抱いている。自分が握る剣の理由が他者である時点で、貴方は剣士じゃないわ」
……いつの日か道場で戦ったリトリシアにも、同じようなことを言ったわね。
あの森妖精族は、亡き師匠のために、剣を振っていた。
あたしとは異なる考え。だけど、もし、あたしとの約束を叶える前に、アネットがいなくなったらって思うと……あたしも彼女のようになっていた可能性がある。
リトリシアが抱く師匠への想いと、あたしが抱くアネットへの想いは、もしかしたら同じくらい、強い想いなのかもしれない。
あたしは大剣を振り、アイリスの横を通り過ぎる。
そしてその間際、峰打ちを、彼女の背中へと当てた。
アイリスは「なん……で……私の、15年、は……いったい……」と言って、バタリと、気絶し地面に倒れ伏した。
この子には、剣の才能があるように感じられる。でも、剣に載せる思いが、自分の夢でない時点で……どんなに訓練を行おうが、強くはなれないでしょうね。
あたしは大剣を振り回し、背中に納める。
そして、アイリスの首にぶら下がっていたネックレスを引きちぎった。
「……三つ目。これで、第三次試験に進むことができるわね」
そう言って、ネックレスをポケットに仕舞った、その時。
背後の林から、声が聴こえてきた。
「お嬢様―――っ!! ご無事ですか―――――っ!!」
「アネット?」
林の奥に視線を向けると、そこには……アイリスの従者と、ミフォーリアさんを連れたアネットが、こちらへと向かって走って来る姿があった。
その姿を見て、あたしは思わずニコリと、微笑みを浮かべてしまった。
ロザレナ・ウェス・レティキュラータス
ネックレスを三つ獲得したことにより、第二次試験 合格課題を達成




