20. おふろ
女子寮の脱衣所。 ……いわば処刑前の監獄である。
あえなく連行されたオレは何とか粛清という魔の手から逃れられないかと辺りを見渡そうとするが、裸体の看守達が立ちはだかり、そもそも見渡すという行為自体が出来なかった。
こうなれば、もうどうしようもないから、視界に入れないように下を見るしかない。完全に借りてきた猫状態になったオレはあれよあれよと服を引ん剝かれていく。
「ちょ、マオちゃん。下着、これは流石にないでしょー……」
なんだよ、トランクスの何が悪いってんだ。シィはぶつくさと「マオちゃんに合う下着はー……」とかなんとか言っているようだが、もうそもそもオレはそれどころではない。
というか、この場にオレがいること自体が間違いなのだ。狼は山で群れて遠吠えしながら同族と戯れているべきであり、決して人里でもみくちゃにされるべきではないのだ。で、こんなところ、ユウに見られでもしたら、更にマズい。
「……あら、マオちゃん?」
……やだなーもう。即フラグ回収なんてそんな小説みたいな事、あるわけないじゃないですか。これは幻聴。オレは何も聞いていないし、この場にはオレと看守さんしかいませんよ。さあ、看守さん。ボディチェックは済んだでしょ?早くオレを解放してください。
「こんにちは、マオちゃんのー……保護者?のユウです」
「えと、こんにちは、クラスメイトのシィです」
「現実にひきもどすにゃ!あといつから保護者ににゃった!?」
よりにもよって何でこんな所に居やがるんだコイツは!あと、オレの体をマジマジ見るな!可愛いと呟いてうっとりするな!
……ええい、もう破れかぶれだ。ココじゃ分が悪いからオレは逃げる!裸?知った事か!
オレはユウを突き飛ばして逃げるべくユウにタックルをかます。しかし、ビクともせず、ふんわりと受け止められた後、がっしりと体を掴まれてしまった。ホントになんなのコイツの膂力!?
「なぁに?私と入りたいの?」
「ちっがう!おまえたおしてオレは逃げるのっ!!」
「ふふ、ダメ。シィちゃん。この子、先に入れておいてあげてくれないかな。すぐに向かうから」
「あ、うん分かった」
ユウはさっとオレの肩を掴んでシィに引渡して、鼻歌歌いながら駆けていってしまった。おのれ、おのれぇぇ!!
「うにゃぁぁーー!!はにゃせぇぇーー!!!」
―――……。
夕焼けに雲が通り過ぎていく。あの茜の雲が過ぎれば夜の帳が優しく世界を包み込み、満天の星々が仄暗き空を彩る。ああ、世界は美しい……。
「はい、マオちゃん座ってー」
「やだ、げんじつとうひする」
「はいはい、意味不明な事言ってないのー」
うーあー……なぜ、なぜこんな事に。こんな事あってはならない。シィは無理やりオレを洗い場の椅子に座らせると、タライのお湯で優しく背中を流してくる。一方のオレはシィのぽよん様を見るわけにもいかず、ずっと俯いたままだ。このあと奴もここに来ることを考えると、物凄く……気が重い。オレが深いため息を吐いていると、キィと扉が開く音が聞こえてくる。
「おまたせー」
「まってにゃい」
「あ、ユウさん。マオちゃん洗いますか?」
「ええ、シィちゃんもこの後で洗ってあげるね」
そこにどぽよん様が現れ、シィと並んでオレの後ろにしゃがんだ。手には高級そうなガラスの容器が用意されていて、何やらフローラルな香りがする。オレはすぐに察した、「あぁ、刑が執行されるのだな」と。 ……備え付けのシャワーでお湯が頭からかけられ、ぴちょんと毛先から雫が滴る。オレは諦めて、目を閉じた。
「……ひぅ……」
不意にユウの指が頭の先に当たって、こそばゆさが全身を駆け抜け、恐怖を煽る。一方のユウはにっこり笑うと、洗髪剤を手に付けて、髪にゆっくりとつけた。
……しかし、そこからの手つきはなんとも絶妙で、頭のマッサージはとても心地よかった。耳も乱暴にわしゃわしゃされるではなく、ゆっくり、壊れ物のようにマッサージされ、いつものこそばゆさではなく、ゾクリとした快楽が押し寄せてくる。体を支配していたはずの恐怖と硬直はするすると落ちていき、自分の意思とは関係なく喉からゴロゴロと音が鳴ってしまう。
……あ、これやば……とけそう……。
「……ふにゃぁ」
「気持ちい?」
「うんー……ゴロゴロ……」
「……はぁー……蕩けたマオちゃん、最高に可愛い…」
―――…。
………………ハッ!?
気が付くと、オレは湯船の中にいた。頭には何やらタオルが巻かれているようで、若干周りの音が聞こえづらい。ん、肩が少し寒い……。
オレは肩まで浸る為に、体勢を整えようと湯船の中で身じろぎすると、背中に何か柔らかいものが当たった。不思議に思っていると、後ろからにゅっと手が伸びてきて、オレの首の前でクロスする。ぎょっとして後ろを向くと、間近にユウの顔が飛び込んできた。
「……んにゃうぅあ!?」
……驚きのあまり変な悲鳴を上げてしまった……一方のユウは聖母のような笑顔でくすくすと笑っていて、横にいたシィはちょっとだけ蕩けた顔をしている。オレは、どうやら、湯船の中で抱きこまれていたらしいんだけど……。
……え、え?いや、オレなんで……?
「おはよ。随分気持ち良さそうだったね」
………………~~~~~ッッ!!!!
「あ……あ……あ…………う…………」
「うん?」
「うぅわああぁぁん!!バカあああああああ!!!びえええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「あ、あらら。逃げられちゃった」




