初めての城塞都市
「成る程ね、それでケイナンに行くのね」
一通り話が終わると、今後の事をナシュに話す。
ちなみにナシュはキープの予備のローブを着ている。
普通に絹で出来たローブだが、先ほどのボロ服よりはましだった。
ナシュにケイナンにいる聖女に会いにいくと伝えたとこだった。
その後、二人して街道を進む。
たまにケイナンから逃げ出してくる人達とすれ違った。
荷車を引きながら、あるいは誰かを背負いながら、あるいは怪我人を支えながら。
キープはすれ違う怪我人全てに回復魔法を掛けていった。
その為、進みがかなり遅くなった。
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
「痛くなくなりました」
「やったぁ! 歩けます! 歩ける様になりましたぁ!」
回復するたび、感謝の言葉をいくつも頂く。
その内、逃げてくる人の数が減り、ほぼいなくなった。
そうして王都を出て9日目、ようやく城塞都市ケイナンについた。
ケイナンは目と鼻の先に魔王軍の砦があり、昔から小競り合いが頻発していた。
その為都市の周りには大きな塀が作られ、塀の上には大型の弩や投石機が設置されており、名前の通り城塞と化していた。
ただ、キープ達が来た時、その面影はあまり残っていなかった。
大きな壁はそのほとんどが壊されており、塀の上にあったであろう弩・投石機はどれもが破壊されている。
都市の至る所で火の手が上がり、そこかしこに死体が転がっていた。
「何て酷い……」
キープもナシュも絶句して立ちつくしていた。
「ここには王国軍も勇者達もいたはず……一体どうして?」
キープとナシュはざっと周りを見て回る。
敵はいないが、生きている人もいなかった。
「ひとまず、隠れながらもう少し生き残っている人を探してみよう」
キープとナシュは建物に隠れつつ都市の奥へと進んで行った。
っ!
微かに剣戟の音が聞こえた。
キープ達は目を合わせるとそちらの方へ慎重に向かう。
建物の角を曲がると、そこには数名の王国軍兵士とそれを囲んでいる十数体の魔物が戦っていた。
魔物は魔人の使いであるミノタウロスと、魔人の番犬と言われる双頭の犬オルトロスだ。
ミノタウロスの剛腕から繰り出される巨大な斧を兵士がラージシールド(大盾)で受け流し、剣を繰り出す。
だが分厚い筋肉が邪魔して兵士の剣は弾かれる。
合間を縫って別な兵士が槍を繰り出すが、その槍をオルトロスが噛みつき固定する。
と、槍に噛みついたオルトロスとは別なオルトロスが槍を持った兵士に襲い掛かる。
それを助けようとした兵士を更に別なオルトロスが牽制する。
数で上回る魔王軍が個別撃破を狙っているらしい。
飛び出そうとしたキープをナシュが抑える、
「ちょ、ちょっと、どこに行くのよ?」
「助けないと!」
「あんた1人であそこにいってどうにかなるとでも?」
「それは分かんないけど……、でも僕は回復師だから。ナシュが何と言おうと行く」
強く言い切ったキープの目をじっと見つめていたが、ナシュはため息とともに目線を逸らす。
「はぁ、分かったわよ。私も行くわ」
「え、でも……」
「回復師一人で道は開けないでしょ? レイピア(細剣)ぐらいなら心得があるから」
どこで拾ったのか剣を見せる。
「それサーベル……」
「仕方ないでしょ! 似たようなの他にないんだから!」
確かにレイピアほどではないが、サーベルも細身の剣である。
「ぐわぁ!」
槍の兵士がオルトロスに噛みつかれている!
一刻の猶予もない。
「行くわよ!」
同時にナシュが飛び出し、キープも続く。
背後からの急襲にオルトロスの1匹が腹を裂かれて倒れる。
「聖光を紡いで鉄鎖とならん、『ホーリーチェイン(拘束)』」
キープの魔法でミノタウロスが拘束される。
ミノタウロスの拘束を見るや、相対していた兵士がオルトロスに襲われている兵士を救出する。
「っ!、このっ!」
ナシュにオルトロスが挟み撃ちを仕掛ける。
1体に剣を突き出し牽制し、もう1体の体当たりを体を捻って躱す。
そこを兵士が助けに来てくれて連携で2体のオルトロスを倒す。
しかし戦っていた他の兵士はかなりやられたようで、そちらから敵の増援がくる。
味方は傷だらけで満身創痍だ。
キープは杖をかざすと、
「神の御心に包まれて、その光癒しとならん『ハイヒール・リング(中回復・範囲)』」
キープの杖から溢れた光に照らされると、兵士達の傷が塞がっていく。
重体の兵は無理そうだが、あらかたの兵は回復したようで、
「おお力が!」
「痛みが消えた!?」
「剣を持てる!まだやれるぞ!」
回復した兵が次々魔物に襲い掛かる。
兵士を倒したと思いこちらに向かっていた増援だったが、回復した兵とキープ達に挟み撃ちになる形となり、右往左往と連携が乱れる。
その隙をついて、兵士やナシュが襲い掛かる。
キープも『ホーリーチェイン』で敵を拘束していく。
こうして2人の犠牲は出たものの、十数匹いた魔物は全て倒すことが出来た。
「『セイントヒール(大回復)』」
戦闘が終わると、重体な兵士を回復していく。
「ありがとう」「恩に着る」「助かった」……次々に感謝の言葉を伝えられる。
王国兵達は、急に現れて窮地を救ってくれたキープとナシュを囲んで感謝を伝え始めた。
ちなみに服装の所為もあるが、キープは聖女と思われているようだ。
「聖女様が来てくれた」
と口々に言い始めて、最後は聖女コールが沸き起こっていた。
もはやキープに否定できる様な状況ではなくなっていた。
「あなた聖女だったの? 回復師かと思ってた」
とナシュが言ってきたので、ナシュにだけは否定しておいた。
その後、落ち着いたところで王国軍の副隊長に声を掛けられた。
生き残りの兵士側を纏めているのはファクト・ワズン副隊長で、隊長は戦死したようだ。
ファクト副隊長と数名の部隊長の作戦会議にキープ達も呼ばれて、こうなった経緯から説明が始まった。




