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半信半疑だった。
私がこれまで生きてきた中でアレは培ってきた常識の外に有る存在だ。
その事はコイツが話しだした時から理解していたつもりだった。
「まいったな。これは。」
だだっ広い平原。
化学物質に汚染されていない空気。
そして、この世界を満たすマナを感じ認めざるを得なかった。
信じたくはなかった。
もし、これが私の夢や妄想や幻覚で、この謎の生物が実在していないとするなら、この質感やイラっとくる設定を私の脳が構築したのなら正気に戻った時に発狂していただろう。
私は自分で見たものに関しては信じる人間だ。
いくら見た目が大阪辺りで神様として祀り上げられている芸術作品をSD化して、更に押しつぶした不細工な容姿で、人語を話す怪しい生物だとは言えど、見えて触れらて反応するのだから仕方がない。
ゆえに。この謎生物の存在に関しても信じて受け入れた。
コレが何なのかは分からなかった。
だけど、見えて触れられて話せて意思疎通が出来る。
あぁ。仕方がない。ここは嫌でも信じないといけないらしい。
そう、言い聞かせている部分もあった。
だが、コレの口から溢れ出す妄言の全てを信じるには抵抗があった。
異世界からやってきた自称妖精。
ふっ…。何を馬鹿な…。
何を言っている。
いや。無いだろう。
私もそう思った。
異世界からやって来ただとか、妖精だとか言われても信じがたい。
娘が消息を絶ち、私もとうとう幻覚を見るほどに疲弊しているのかとも思った。
何よりも、その造形に説得力が無かった。
妖精って言うのはアレだ。
ニチアサとかに出てくる可愛らしいアレだとか、カバにしか見えないトロールだとか、人型の羽のはえたアレを思い浮かべるだろう?
確かにあれらは親しみやすくディフォルメされた姿に描かれているだけだ。
それは分かってはいる。
だけど、コイツの造形は酷すぎた。
どちらかと言うとデビルだろ?
と、言いたくなるような顔をして妖精だと言われてもな。
私じゃなくとも困惑するのは仕方ないのではないだろうか。
私が許してもスポンサーや製作委員会が許さない造形だ。
娘が欲しがったとしても有無を言わさず元の場所に戻すレベルだ。
妖精?ふざけるなよ?
私もそう思った。
だが、こんな世界に連れて来られては信じないワケにはいかないだろう。
そして、この力。この世界に溢れるマナを感じては信じるしかない。
そう。こんな世界を知ってしまっては…。
この不細工な生物が、魔法少女に付随する妖精だと言う事を。
私は受け入れるしかなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
話は二時間くらい前に遡る。
「いや!だからホンマやって!あんさんにはユーフィリアの血が流れとるんや!魔法少女になって…魔法少女になって…ぶふぉ!あかん!魔法少女って!魔法少女って!どう頑張っても魔法熟女やっちゅーねん!!」
イラっとした。
熟女呼ばわりは甘んじて受けよう。
だが、そのエセ関西弁には嫌悪を禁じ得なかった。
関西芸人でもそうだ。いや。特定の一人なのだが。
普段は関西弁を使っているのに不自然な標準語風にツッコミを入れる芸人が居る。
いや。あんた。さっきまで関西弁だったでしょうが。
何に憧れて標準語っぽいツッコミを入れているのかは知らない。
だが、下手すぎるんだよ。標準語っぽいお前のツッコミは。
そう言いたくなる事はないだろうか?
基本的にその芸人は嫌いじゃない。
だけど、全くもって上達しないエセ標準語のツッコミ。
それに身の毛がよだった経験は無いだろうか?
この自称妖精の話す関西弁は、まさにそんな感じだった。
コレが現れてからずっとそれが続いていた。
不快。不快以外の何者でもない。
私にとってコレは嫌悪感の塊でしかなかった。
それに何だ?このマスコット気取りのクソ外道顔が…。
CCSでも見て「コレだ!」とでも思ったのか?
あれはマーキュリーの声優さんが演じているから許されるのだ。
しっかりとキャラ付けされたケロベロスちゃんだから許されるのだ。
付け焼き刃のエセ関西弁のポッと出キャラに許されるモノではない。
そう思った次の瞬間。
私はこのクソマスコットモドキの頭を握り締めていた。
「痛い!痛いって!やめてーな!!謝る!ババアとか熟女言うたんは悪かったさかい!カンニンや!やめて!やめてーな!」
「いや。それは良い。私は十七歳になる一児の母だ。熟女と呼ばれるなら甘んじて受けよう。私もババアが恥ずかしげも無く自ら「女子」と自称する昨今の現状には些か疑問と苛立ちを覚えている。それなら熟女と呼ばれた方がシックリ来ると言うものだ。だがな。それは礼儀を弁えた上でこの年齢の女に女としての魅力を感じる者が口にして良い別称だ。お前の様なゴミが侮蔑として言って良い言葉ではない。それにだ。私が許せないのはそのキャラ付けだ。その言葉がお国言葉ならいず知らず。貴様。私との関係を構築する上で、エセ関西弁の方が自由な立場で物を言えると勘違いしてエセ関西弁を選択しただろう?違うか?何とか言ってみろ?だが、残念だったな。私が最も嫌いなのは訛りを馬鹿にするような偽物の方言モドキだ。更には無理して使う標準語モドキだ。分かったかしら。」
更にクソマスコットモドキの頭を握る力を強めた。
「うがぁぁぁ!!!ホンマ!アカン!アカンて!脳みそがびゅびゅーって出るさかいにカンニンしたってんか!!マジで!マジで!僕の居た世界の僕の生まれた所ではコレが普通なんですわ!ホンマです!ごめんなさい!!」
私の手の中でもがき苦しむ不細工な造形の自称妖精の動きが気持ち悪い。
その不細工さも相まってイライラを募らせた私はソレを床に叩きつけた。
「ぐるぼぁ!!」
短く悲鳴を上げ叩きつけられた床を転がっていく。
全く。自称妖精なら床に叩きつけられる前に飛んでみろと言うのだ。
床に這いつくばりヒクヒクする自称妖精にイラっとしつつも話を続ける事にした。
さっきの話が本当だとするならば時間は惜しい。
「で?さっきの話は本当なの?」
腕を組み、自称妖精を踏みつけながらコイツの妄言を確認する。
「ホンマです!さっきも言うたけ…」
「もう一度言うてみぃ?さっきも言ぅたよな?キモイって。百歩譲って関西弁で喋る言うならせめて、ちゃんとした関西弁に寄せろや?舐めとったら奥歯ガタガタいわせてドタマカチ割るぞ?ワレ?」
「申し訳有りません!先程の話は本当で有ります!その件も含めまして魔王討伐の為にお力をお貸し願えればと愚考する所存で有ります!」
私が関西のやや南の地域の荒っぽい関西弁で手本を示し、自称妖精に凄んで見せると彼は縮み上がり軍隊っぽい言葉遣いに改めた。
チッ…。確かにこの話し方にも関西訛りっぽいニュアンスは有るから、本当にアレがお国言葉なのかも知れないが、軍隊っぽい喋り方にも腹が立つ。まあ、ニチアサの妖精キャラの様に妙に都合の良い可愛さを狙ってないだけマシと諦めるか。
勘違いした気持ち悪い関西弁モドキよりはマシだと割り切ると私は本題に移る事にした。
「ヤレば出来るじゃない。まあ良いわ。それで本題だけど。私がその魔法熟女ってのになれば異世界に行けるって言うのね?魔王がどうだかって話は興味無いけど、さっきの話が本当なら協力してあげても良いわよ。」
「ホンマ…じゃなくて…本当でありますか!?感謝致します!!軍曹殿!!」
「チッ…。まあ良いわ。地味に階級が低いのも腹立つけど不問にしてあげる。で、さっきの話だけど。もっと根本的な話から説明してくれないと話を受けるとしても納得出来ないわよ。いきなり異世界に行く方法だの、向こうに着いてからの捜索方法だの? それは、お前の都合でしょ?確かにうちのご先祖様にはそう言う名前の人は居たとは聞いているわ。でも、それを理由に異世界に行ってお前を助けるとかって話にはならないわよね?人に物を頼むなら自分の口で説明する。そして納得してもらう為に説明を尽くす。相手がある程度の事情を知っていたとしても、それを省いて良いか悪いかを判断するのは頼まれる方だわ。アンタの判断で勝手に決めんじゃないわよ。 あと、軍隊っぽい喋りはもう良いから標準語寄りで普通に話しなさい。良いわね?あんたの喋り方はウザすぎるから気をつけなさい。」
私の言葉に自称妖精が気合を入れ直すと汗を浮かべながら話し始めた。
にわかには信じがたいお話を。
「あなたがユーフィリアの子孫である事は間違い有りません。それはあなたの中で解凍されたイメージや…。そうですね。第二子までは女児しか生まれず、第一子と第二子には強い力が引き継がれると言う話をお母様からお聞きになっていないでしょうか? そして、幼い頃からユーフィリアの夢を見ているのではないでしょうか。更にはお聞きした件もユーフィリアの子孫であるからこそ巻き込まれたのではないかと考察する次第であります!」
自称妖精の言う事には一定の納得ができた。
うちの家系では第一子、第二子は女児しか生まれず強い力を引き継ぐと言う話は母から子へ。子から孫へと代々語り継がれている。そして、それは代を重ねても、どんな男性に嫁いでも変わらない。私も実際に女児を生んでいる。もし、パパとの間にもう一人子供を儲けたなら女児だろう。きっと。
今なら確信を持ってそう言える。
それに、あの時に解凍されたイメージ。
ユーフィリアと呼ばれた少女の記憶からも明確だった。
それに、今ならハッキリとわかる。
幼い頃に見た夢はユーフィリアの記憶だったと。
「良いわ。ブラッディピコ。その点に関しては良しとしましょう。」
私が少女の記憶から引き出した「彼の名前」を呼ぶとパッと顔を明るくさせた。
「おぉ!ハイ!有難うございます!なんでしたら愛称でブラピとお呼び下さい!」
「殴るわよ!あんた、封印状態でも一定の知識は蓄積してるんでしょうが!その愛称が何を指すか知ってるわよね?自分の顔を見て言って良い事と悪い事くらい分別を付けなさい!私がどうしてそう呼ばなかったかも分かって言ってるなら許さないわよ!取り敢えず、仮としてピコと呼ぶから!良いわね!?」
「はい!ピコとお呼び下さい!!」
「まったく…。ピコってツラかよ…。」
どうにもコレと関わってると私のテンポが狂う。
私と違い優しい女の子で当時は言い出せなかったご先祖様の鬱屈が、私のイライラを増幅させるのか話が中々進まなかった。過去に自称妖精からお婆ちゃんが受けた数々狼藉を問いただしたい気もするが今は話を進めるのが先決だと考えた私は話を元に戻す。
「それでピコ。帰還システムって言うのは本当に使えるワケ?」
私の中に解凍されたユーフィリアの記憶から不明瞭だった事柄をピコに問う。
詳しい事は自称妖精に委ねられているらしい。
当然と言えば当然か。
この世界で生きると決めたユーフィリアが異世界移動を悪用されないようにと関連する記憶を自分で封印し、この世界の誰にも知られない様にと異世界移動の方法に関しては彼女の記憶が解凍された今もフィルタリングされているのだから。
「そうですね。理論的には使えるはずです。今は亡きユーフィリア個人に帰属するシステムでは無く『マジカル☆リング』の機能ですから。私が起動方法をお教えすれば、あなたなら起動出来るでしょう。故障さえしていなければ。」
なるほどね。起動に関しては問題無さそうだ。
故障さえしていなければと言う一言には不安を覚えるが、この世界に来てからと言う物、異世界移動の魔法は起動されていないのだから確認のしようがない。
少なくともピコは間違った事は伝えていないのだろう。
私に流れるユーフィリアの血とロック解除の方法が分かれば起動できる。
それは間違いないみたいだ。
もう一つ、気になるのは…
「問題としては…。その異世界に無事に辿り着けるのかって事ね。起動したのは良いけど宇宙に放り出されたり次元の狭間を漂うなんてイヤよ?鮮明に情報がロードされないけど私の中のユーフィリアが危険性を警告しているんだけど?」
そう。辿り着けるのかと言う心配。
私の中のユーフィリアが移動系魔法の危険性を知らせている。
異世界との移動に関する知識がプロテクトされていて上手く引き出せない。
その事が私の不安を増幅させていた。
「それは大丈夫でしょう。何事にも完璧は有りませんが、理論上では問題ないはずです。『マジカル☆リング』には宙域の絶対座標が記録されていますし、双月の女神の縁基配列が記録されているので地面が有る場所には転送されるはずです。加えて私の観測では魔王を含めて、あなたに縁のある者が三名ほどあちらに転移しているはずです。異世界への移動では縁の力も大きく作用しますから、最も縁の有る方の住まいなど、関連性の高い土地に転移されると思われます。不安は分かりますがユーフィリアは万全の準備の上で送り出されています。それを準備したユーフィリアの親友である双子の女神達を信じて頂くしかありません。」
「ふーん。なるほどね。婆ちゃんは信頼してくれていた者を信頼して、この世界にやってきたってワケね。何となく分かるわ。異世界移動と言う魔法の危険性。だけど、どこか心の奥から感じる安心感。きっと彼女も、その双子の女神ってのを信頼していたのね…。」
双月の女神。
その言葉を聞いてプロテクトが解除されたかの様に心に広がった安心感。
ピコの口から関連ワードが出る度にパスワードが解かれていくように徐々にユーフィリアの記憶が鮮明になってくる。
まあ、どのみち。他に方法が無いのだからヤルしかないのだけど。
コイツと言葉を交わす度に説明されなくても分かってしまう。
実感してしまったのだからか仕方がない。
面倒だけど、そうも言ってられなくなってしまった。
「で?私に隠してる問題点は?」
「失敗すると壁の中とかに転送されて身動きが取れなくなるとかでしょうか。」
「ほほー。私に聞かれなかったらそれを言わないつもりだったワケね。」
「いえ!そんな事は!ちゃんと言おうと!ちゃんと言おうと!うぐぼぁぁぁぁ!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、色々と聞き出した私は旅立つ準備をしていた。
不安が無いかと言われれば不安だったけど仕方がない。
あの子が何を選択しているかは分からない。
だけど、迎えに行ける手段が有るなら親として迎えに行ってあげないと。
例え、あの子がこちらに戻って来ないと決めていたとしても。
迎えに行ける手段が私の手には有るのだもの。
目を見て話して彼女の意思を確認しないまま送り出す事は出来ない。
あの子の事だから、もう既に色々と覚悟をしている事だろう。
こちらに帰れる手段が有ると知った時に何を選択するのか。
それはあの子の自由だ。
どんな選択をしたとしても最終的には彼女の選択に任せよう。
パパには悪いけど巻き込めない以上は私に任せてもらおう。
パパには本当の事は一生話せないけど。
彼女の選択によってはパパには辛い思いをさせるけど。
彼女の選択に任せよう。
出来る事なら「一緒に元の世界に戻る」と言って欲しいけど。
メモと言うには長く。
手紙と言うには短い。
パパに私の気持ちを込めた書き置きをリビングに残して立ち上がった。
「さあ。行くわよ。」
私の声に応えて自称妖精が術式を展開する。
「魔力開放…。」
私が唱えると、指輪が光だし何千年と溜め込まれた魔力が溢れ出した。
転送陣が青白く光り私を包み込みむ。
どう、表現して良いのか分からない。
その光の中で私は再構成されるかの様な刺激を感じながら目を瞑った。
そして、私はこの世界から消失する。
こちらでは冬の足音が聞こえ始めた昼過ぎの出来事である。
どうも。隣の新兵ちゃんです。
今回は本編に関係する番外編としては最後の番外編でした。
短い話ですし、あとがきで話す事もあまりありません。
お母さんにはこの後も頑張ってもらうとしましょう。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




