其之五|第五章|探索は空の彼方で?
王女アイリスは上機嫌だった。
「せーつめいしましょう!」
アイリス王女以外がドン引きする中で、対魔王最終決戦用迎撃飛行戦艦『ほわいとておふぃるす號』を背にして意気揚々と彼女は話し始めた。
「全長は七千五百メートル!全幅は二千二百メートル!全高は一千四百メートル!動力には神魔変換混合縮退炉を採用!その速度は最大で光の速さの99.99999%に達します!搭乗可能乗員は約三万人!外装にはエレニウムを採用する事で多少の物理攻撃並びに魔法攻撃では傷を付ける事も出来ません!その内部には飛行騎兵五千騎を搭載可能で対空対地戦の両方に対応!乱戦にも強く小規模の探索にも余念は有りません!主砲には一二八式光線砲を装備!星をも貫き焼き尽くします!副砲には五二式中距離光線砲、並びに二六七式エメタル合金物理砲を装備!光子魚雷及びフィジカル光線砲により近距離防御にも余念は有りません!また、当艦は次元スキャン探索機を搭載しており空間のみならず時空面に潜伏した敵機の探索が可能!これにより魔王がどこに潜んで居ようとも炙り出して差し上げますわ!!!!」
うーん。こうやって改めて説明を聞くと更にドン引きだ。
王女に友好的であるはずの女神達ですら、
「ヒクワー。アイチャン。ヒクワー。」
「ちょっと、アイちゃん…。あんた馬鹿なんじゃないの?何を造ってるのよ…。」
と、ドン引きする始末だった。
「しかし、お前は…。いや。お前ら親子は相変わらずじゃのぉ…。アリを探すのにクジラを連れてくる必要は無かろうが?いくら装甲が厚いと言っても相手の力量も知らずに突っ込んでは返り討ちじゃぞ?こんな大きな的を置いておけば打って下さいと言ってる様なもんじゃろうが?サイズはアリでも魔王の実力は桁違いじゃぞ?本当にお前らは馬鹿弟子じゃのぉ…。」
更には、こんな感じの造形が嫌いじゃない師匠にすら呆れられている。
「そんな!フィーナ師匠!これでも師匠のアドバイスを聞いて対空・対地・対魔・対物理・対各種属性を万全にした最高傑作なのですよ?!」
と、アイリス王女がすがりつくが師匠には全く相手にされていないようだった。
「良いか?他の星にでも移住するワケでもなかろうが?こんな大きな飛行戦艦を造ってどうする?内部に入られて中から壊されるのがオチじゃろうが?確かに幼いお前にアドバイスはした。だが、それはある程度のサイズであればの話じゃ。無駄に大きくしろとは言っておらなんだろうが?」
「そんな!巨大戦艦は浪漫です!!その巨大さで敵を圧倒し制圧する!!それこそが浪漫だとフィーナ師匠は理解して下さらないのですか!?」
「だから、馬鹿弟子だと言うのだ。お前は全く。昔からそうじゃな? 一つを教えれば一つが耳からこぼれ出る。間抜けなのが多種族交配の副作用じゃとしても、お前の場合は酷い過ぎる。酷いだけでは片付けられんレベルじゃぞ?」
師匠とアイリス王女のやり取りと流し聞いていた俺だったが…。
一つの疑問が浮かび上がった。
「さっきから馬鹿弟子だとか言ってますけど…。俺の事じゃないですよね?」
俺の問いに師匠は何を言っているのだ?と言う顔をして蔑みの視線を突き刺した。
「お前は王女とポテトイーターの一件で面識があるのじゃよな?」
「えぇ。まあ。黒帝山にも一緒に行きましたけど。」
「何じゃ?聞いておらんのか?」
「いや。何をでしょう…。」
予想はついていた。
だが、認めたくなかった。
「言っておらんのか?」
アイリス王女に視線を向けて師匠が問いかける。
「あれ!?言ってませんでしたっけ? 確かに最初お会いした時にフィーネ師匠の新たな弟子さんが、どんな方かとお引き止めして楽しくなってしまい色々とご迷惑をお掛けしましたけど…。その時に言ってませんでしたか?」
「はぁ。そうじゃろうな。多分、お前は楽しくなって私の弟子だと言う事すら忘れておったのじゃろうて…。」
嫌な言葉が聞こえてしまった…。
「つまり、アイリス王女は俺の妹弟子と言う事でしょうか…。」
「いや。違うな。私がアイリスを指導しとったのはお前を拾う前。アイリスが幼少の頃に魔法の基礎を教えていたのじゃから正確には姉弟子じゃな。」
姉 弟 子 だ っ た ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! !
「ウフフ。お姉ちゃんって呼んで下さっても構いませんよ!」
「誰が呼ぶか!!!!」
単なる間抜けだと思っていたアイリス王女が、まさかこんな阿呆な物を造って悦る変態で、しかも俺の姉弟子だったとは…。
知らなければどうと言う事は無かったのだが、まさかの同門だたっと言う事実は少なからず俺にダメージを与えた。
いや。同門とは言え、姉弟子として何かを教えてもらったワケでもなければ、上下関係が有るワケでもない。気にしなければ良いだけの話だ。
「ハ・ル・トちゃーん!」
「うっせー!黙れ!ぶっ飛ばすぞ!俺はお前に何かを教えてもらったワケでも恩義が有るワケでもねぇ!馬鹿王女が!!」
「酷いですー!ハルト様!じゃなかった!ハルトちゃーん!」
同門で姉弟子だと言う事実は俺をからかうネタになると知ったアイリス王女により、しばらく弄られまくる事になる。だが、この時に俺は思った以上に先の未来まで、事あるごとにアイリス王女がこのネタで弄ってくる事をまだ知らなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それは良いとして。コレをどうする?使うとしても大きすぎて目立って仕方ないじゃろうが?」
戯れる王女を俺に押し付けて、女神達と顔を突き合わせ師匠が話し始めていた。
「まあ、そうよね。こんなのを飛ばしたんじゃ事情を知らない子達も不安に思うだろうし。その…。やっぱり出来るだけ目立たずに事態を収拾を図りたいわ。」
「まあ、そうじゃろうな。コレを使うとしても。こんなデカイのをどうやって外に出すのかも問題じゃな。」
「デカイハロマン。デモ、イマハチガウ。」
女神達も馬鹿だと思っていたが少し認識を改めないといけないかも知れない。
更なる馬鹿よりはずっとマシだったと。
この話が聞こえていたのか更なる馬鹿がトテトテと師匠達に近づいて騒ぎ出した。
「何を仰いますか!当艦には術法増幅装置も装備されており術者が乗艦すれば魔法の効果を何倍にもして引き出せます!それにより、テレポーターで瞬時にはるか上空の宇宙圏への移動も理論的には可能!更には魔術・神術・コンコンチキまでもが増幅可能なのですよ!万が一、搭載された次元スキャン探索機で魔王が見つけられなかったとしても、ニナ様とニコ様のお力によって魔王の位置を特定出来る可能性も御座います!起動し運行させるだけの価値は有るからこそ!こちらにお招きしたのです!」
フン!と鼻息荒く語り終わると「どうだ!」と言わんばかりにアイリス王女は比較的小さめの胸を張った。
全長がどうとか搭載兵器がどうとか言う前に、その機能を説明していれば「こいつ馬鹿なんじゃないか?」と思われたとしても、最小のダメージで済んだものを。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたがやっぱり馬鹿だった。
だが、なるほど。そのような機能が有るなら馬鹿じゃないかと思われる大きな戦艦でも運用する価値が出てくる。特に魔法や神術を増幅して発動出来ると言うのは、今回使わないとしても後々に役立つかも知れない。
最悪の場合を考えた時には確かに「対魔王最終決戦用迎撃飛行戦艦」としての役割は果たしそうだ。
「ふむ。それを先に言え。それが本当なら使ってみる価値が有るかも知れんな…。」
「ですよね!私、うっかりしていました!!」
アイリス王女は師匠に多少認められて嬉しそうだが、師匠としてはまだ決め手に欠けると言う表情で考え込んでいる。
「よし。アイリス。それを踏まえた上で、この艦を使うメリットとデメリットを挙げてみよ。よく考えろよ?また、うっかりしていたなどと言ってる場合ではないのだからな。」
「はい!メリットはでっかくて格好良いです!デメリットは有りません!」
「よし!ハルト!そこの馬鹿をボックスバリアで隔離しておけ!」
仕方がない。閉め出されても仕方がない。
俺は師匠の言う通り、アイリス王女をボックスバリアで隔離すると師匠達の話し合いの輪に加わった。ボックスバリアの中で凄い顔をして泣き叫び何かを言っているが同情の余地はないだろう。
「大きさは置いておいて、王女が言っていた機能に賭ける価値は有りそうですね。」
席に座るとアイリス王女の言葉をどこまで信じて良いのかと考え込んでいる師匠に声をかけた。
「いや。まあ、そうじゃな。ワシらの魔法だけではなく、神術が増幅可能と言う事は女神達の神威も増幅可能と言うことじゃろ?その機能は有益じゃ。じゃが、どこまで信じたモノか…。なあ、リンダ?もっと詳しい仕様書などは無いのか?」
師匠が問いかけると予想して準備をしていたのだろう。
リンダさんが近づき膨大な資料の束から関係の有りそうなファイルを抜き出してテーブルに広げた。
「多分、必要そうなファイルはこの辺りだと。分からない部分が有れば私が分かる範囲で答えますので終わったらアイリス様を開放して差し上げて下さい。」
うむ。と頷くと師匠は資料に目を通し始めた。
ヘッポコな一面も有るが仕事はしっかり出来るリンダさんが言うのだ。
多分、欲しい資料は並べられているのだろう。
師匠も資料に目を通し、不満も無さげに考え込んでいる。
しかし、どうしてこんな馬鹿な物を造ってしまうヘッポコな元王や王女が王位を継承して、仕事はしっかり出来るリンダさんなどの親族が王達に仕えているのだろうか。
たまたま、リンダさんが優秀なだけなのかも知れないが、何となく理不尽さを感じずにはいられない。
少し空いた時間に俺がそんな事を考えていると、資料を読み終わった師匠がそれを俺に投げて寄こした。俺にも読んで意見を聞かせろと言う事なのだろう。
「アイリスを喜ばせるのはシャクじゃが、ワシとしては動かしても良いだろうと言う結論に達した。捜索の時間も一時間程度で終わるじゃろうし、黒木を発見した時には母艦とリンクして小型機で黒木を捕らえられるじゃろう。黒木が逃走したとしても女神達には母艦で待機してもらえば、増幅された神威で黒木を追い詰められる可能性も高い。全てが有用だとは言えんがやってみる価値は有る。皆の意見を聞きたい。」
資料に目を通し終わるとニナに資料を手渡して俺の意見を述べた。
「問題としては乗員数ですね。最小構成で何人くらい居れば動かせますか?」
リンダさんを見て聞いてみた。
「そうですね…。一万…。いや。動かすだけなら六千…。そうですね。戦闘の可能性を排除すれば五千五百名程が居れば何とかなるでしょうか。」
はぁ。それでも多い。
大きな船を動かすのだ。
人数が必要なのは当然だ。
魔王との戦闘の可能性を考えれば非戦闘員だけと言うワケにもいかないだろう。
数が集まれば色々な人間が関わる事になる。
フルメンバーなら多少の問題程度の話なのかも知れない。
だが、人数を絞るとなるとその影響は大きい。
王家に忠誠を誓っているとは言え、これだけの人数だ。
中には不義理な者も居るかも知れない。
その中には…。いや。その可能性は考えるべきではないか。
「いや。分かりました。それでも流石に多いですね。出来れば事情を伏せて運行をしたいのですけど試験航行などの名目で動かせるでしょうか?」
多分、リンダさんも俺の心配を察してくれたのだろう。
「試験航行と言う名目での起動は可能です。ですが、そう言う事なら最大限まで乗艦人数を乗せては如何でしょうか。その方が試験航行や訓練として有益ですし、不自然さも解消出来るでしょう。そして、万が一の可能性を考えた場合にもこちらとしても対処がしやすい。さすがに何かあったとしてもごく一部でしょうから。」
そうだな。リンダさんの言う事ももっともだ。確かな助言をしてくれた。
万が一、搭乗員に黒木の手先や反王派が潜伏していたとしても最大限まで搭乗員を搭載していれば対処もしやすいだろうし、試験運用や訓練と言う名目にも真実味が増す。
人数が増えれば、人の口に戸は立てられぬと言う理には抗えなくなる。
この無駄にバカでかい戦艦の噂が世間に広まる可能性は高まるが致し方なしか。
参考にさせてもらおう。と、考えたのも束の間。
「よし。良かろう。リンダはその線で準備を進めてくれ。今回は試験航行を兼ねた訓練だと。ハルトの心配も分かるがこの規模になると、そんな可能性を心配していてはこの艦を運用は出来まい。乗組員とそれらを選んだ者らを信頼するしかなかろう。」
師匠が速攻で判断を下す。
そして、女神達の方を向き無言で意見を求めた。
「まあ、その線で良いんじゃない?補助装置でパパを捕まえられる可能性が高まるなら助かるし、私達なら単独での飛行や移動も可能だから直接捕まえる為に人数が必要なら駆けつけられるわ。」
「ソレニパパヲ上回レル可能性ガ高イ。ニガサナイ。」
「うむ。女神らとしても問題ないのならやってみるか。」
かくして、図らずもアイリス王女が熱望した対魔王最終決戦用迎撃飛行戦艦『ほわいとておふぃるす號』の試験航行を兼ねた訓練名目での運用が決定したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
━━ 翌々日四時二十五分
━━ 『ほわいとておふぃるす號』艦橋
「艦載機収容完了。」
「各種レーダーを起動。チェック開始。正常に可動。」
「一番から十番までのバルブ開放。動作正常。」
「術法増幅装置に術者を配置。各機関へのリンクオールグリーン。」
「神魔変換混合縮退炉チェック完了。」
「飛行機構への接続宜し。」
「アイリス王女。出港可能です。」
艦橋中央に設置された椅子に座るアイリス王女に艦長が声を掛ける。
報告を受けアイリス王女がゆっくりと立ち上がり艦橋を見渡すと号令を発した。
「ご苦労。神魔変換混合縮退炉始動。」
「神魔変換混合縮退炉始動。」
艦長の復唱により艦が始動する。
低い唸り声と共に艦が青白い光に包まれた。
「推力上昇。上空百キロメートルに目標高度を固定。」
「上空百キロに目標高度を固定。」
「詠唱完了。空間転移いつでも可能です。」
報告を聞きアイリス王女が頷く。
「宜しい。空間転移魔法起動!『ほわいとておふぃるす號』発進!!!」
「空間転移魔法起動!『ほわいとておふぃるす號』発進!」
術法増幅装置により増幅された空間転移魔法が発動する。
一瞬、身が軽くなった様な錯覚を感じた後に本物の浮遊感が俺達を包んだ。
・・・・・・。
「空間転移魔法成功。目標との誤差無し。成功です。」
その報告を聞き艦橋だけではなく艦全体から歓喜の声が上がった。
試作を繰り返し、安全性は実証されているとは言え、これほど巨大な艦が実際に、これだけの兵員を搭載して宇宙に上がったのは初めてなのだと言う。
また、『ほわいとておふぃるす號』は新造艦で最終起動試験前だったらしい。
喜ぶなと言う方が無理な話だろう。
その様子を嬉しそうに見ながらも表情を引き締めて艦内に声を伝えるべく、アイリス王女がマイクの前に立つ。
「皆さん。短い時間で良くぞここまで仕上げてくれました。元王に成り代わりお礼申し上げます。ですが、喜ぶには少し早いですわ。続いて試運転を行い、問題が無ければ当初の予定通り次元スキャンの試験運転を行います。本来なら対魔王探索の為に使用される装置ですが…。万が一、禁止されている次元空間の設置を行っているような不穏分子が見つかった際には仮想魔王として対処して下さい。と、言っても魔王ほどの力は無いでしょうから殺生は禁止します。必ず生きたまま確保して正当な裁判の上で法の下で処分を受けてもらいましょう。皆さんの奮戦に期待致します。」
王女の声を受けて再び歓声に沸く艦内。
この時までは順調の様に思えた。
そう。この時までは。
* * * * *
━━ 二時間後
━━ 王宮内会議室
「報告致します。違法次元空間設置者五十六名を逮捕。内、指名手配犯二十一名の取り調べを開始。また、残りの者の中には国家転覆を目論んでいると噂される者も多数おり、こちらの取り調べも順次開始致します。報告は後日となりますので、その際にはご確認のほど宜しくお願い致します。」
「はい。分かりました。下がって頂いて結構です。ご苦労さま。」
「では、私はこれで。」
報告に来た近衛兵と思われる男性がアイリス王女の指示で部屋を後にした。
結果としては収穫はゼロだ。
確かに指名手配されていた犯罪者や、物騒な計画書や兵器と共に捉えられた過激派の本拠地と思われる次元空間を捕らえる事は出来た。
だが、本来の目的である黒木の居場所が明らかになる事は無かった。
「よよよよよ…。私は無能でした…。国民の税金を使って造り上げた最高傑作だと言うのにぃ…。よよよよよ…。」
部下の前では気丈に振る舞っているアイリス王女だったが、部下が出ていった瞬間に泣き崩れると言う残念な状態を俺達の前で何度も繰り広げている。
「まあ、アレだな。ニナやニコに手伝ってもらってもダメだったんだから仕方ないって。確かに無駄金をドバドバと今回の試験運行では使ってしまったが、艦としては問題なく使えたワケだし、普通の次元空間は探知出来たんだから問題ないじゃないか?それに今まで捕らえる事が出来なかった賊も逮捕出来たんだから全くの無駄だったと言うワケでもないじゃないか?な?元気出せ?」
「ハルト様…。でも、でも!総工費は約一兆七千万ギルですよ!?国民に顔向け出来ませんよ!よよよよよ…。」
女神が励ましても、俺が励ましても、この始末。立ち直るには時間が掛かりそうだ。
「しかし、こうなると…。いよいよ打つ手なしと言った所じゃな。うーむ。」
泣き崩れる王女を無視して師匠が唸る。
師匠が本気で頭を抱えると言う姿は珍しい。
師匠自らが『ほわいとておふぃるす號』の術法増幅装置を使用し、
「行ける!これなら行けるぞ!今のワシに出来ぬ事は無い!!」
と、言っていただけに本格的にお手上げなのだろう。
「仕方ないわよ。私だってニコと一緒にアレを使った時にはコレならと思ったのに。まさか痕跡すら見つからないなんて。はぁ。こんな時にユフィが居てくれたら…。」
ポロっとニナの口から聞き馴染みの無い名前がこぼれた。
「ユフィ?」
そして俺は反射的に聞き直していた。
俺達の年代で「ユフィ」と言うと、あのゲームしか思い浮かばない。
当時の俺は反対の陣営を応援していたのでプレイした事は無いが、薄い本には世話になった。
今もあのシリーズは続いているのだろうか…。
続いていても薄い本の原材料にしかなっていない気がするが。
出来る事なら、四作目くらいまでの流れに回帰して名作となっていて欲しいものだ。
などと言う事が頭によぎったが、こいつらが知っているワケもない。
ユフィとは誰なのか?いや。そもそも人間なのだろうかと考え込んでいるとニナがその疑問に答えを与えてくれた。
「あぁ。そうよね。確か名前までは今に伝わってないんだっけか。ユーフィリア=マギ=クルゥティス。あの時、私達に協力してくれた魔法少女の女の子。そして、当時の私達にとって唯一の友人だったわ。」
ほぉ。あの話の最後に魔王を追って異世界へ向かった魔法少女か。
一説には監視の為にとか、魔王を仕留めるためにとか、事情は明らかにされていないが異世界へ向かったと言う話は有名だが…。
「どうして、そのユフィさんが居ればなんだ?」
と、言う疑問が湧き上がってくるのは当然だった。
一般には魔王の正確な正体に関してもだが、魔法少女に関しても謎の部分が多い。
魔王を封印した後にも、この世界で活躍したり、功績を残した人物に関しての逸話などは大量に溢れているのだが。
例えば師匠の師匠。ジョージ=グラスロッドなどは独創的な魔法道具の開発者として名を残している他に、若い巨乳好きと言う不名誉な逸話も数多く残している。
他にも疾風のクロイツは魔王封印後における魔族との戦いで領土を取り返した事で救国の戦士として名を残しているし、教会の上層部に女性が多いのは魔王封印の戦いで皆に母と慕われたマザークレアの影響だと言われている。
対して、魔法少女に関する記録は少なく、俺が知ってる限りだとポテトイーターの一件の際に大師匠の爆裂技巧の魔法使いジョージが、その装備製作に関わっているらしいと言う事くらいだった。
「そうね。何故かあの娘はパパの居所を見つけるのが上手かったのよね…。」
「なぜか?」
「そう。なぜか。」
「どうしてかって理由とかは?」
「いやー。あの娘もどうしてか分からないけど何となく分かるって言ってたわ。」
「それって勘で黒木を見つけられたって事なのか?」
「そうなのよねー。それが当たるのよ!彼女が居なければ、今は黒帝山となってるサンセキプク平原でパパを見つける事は出来なかったでしょうね…。タイミング的にも星の並びが揃う直前だったから、あの日を逃していたらパパは元の世界に帰っていたわよ。」
何と言う哀れな。
魔法少女の勘でだけで追い詰められた黒木。
ポテトイーターの一件で妙子ちゃんを見てビビったのも頷ける。
いやいや。アレは妙子ちゃんの行動にビビっただけなのかも知れないが。
と、思いを巡らしていた俺だったが、さっきの会話で一点だけ気になる事を言っていた気がした。
「なぁ。さっきタイミング的にもって言ってたよな?」
「えぇ。言ってたわよ?それがどうかしたの?」
「いや。そのタイミングってのは何だ?」
「えっ?聞いてないの?」
「聞いてないから聞いてるんだが?」
「あれ?私は王女とかが伝えてるものだと思ってたけど?」
「いや。だから何なんだよ!?」
不毛なやり取りに飽き飽きした俺は叫んだ。
そして、もう一つの重要な情報を耳にする事となる。
「まあ、知らないなら教えておくべきね。異世界移動って言うのはね、普通は条件が揃わないと発動が出来ないの。勿論、例外も有るのだけど基本としては「充分な魔力量の確保」「異世界星系の位置座標特定」「星の配置」最低でもこの三つが揃って初めて任意での異世界移動が可能となるわ。「星の配置」に関しては出発元によってタイミングや条件は違うのだけど…。そうね。あなた達の世界の知識で例えるとパソコンのコネクタの様な物ね。USBコネクタとLANコネクタでは形が違うでしょ?どちらか一つしかコネクタを装備していないパソコンだと規格に合うケーブルが無いとパソコン同士を繋ぐ事は出来ないわ。でも、そこにハブが有ったら?その役割を担うのが「星の配置」と言うワケね。この世界で言えば…。一ヶ月後。正確には二十七日後に発生する双月日食がそのタイミングだと言えるわ。」
「おいおい…。そんなサラっと…。」
異世界移動の秘密をそんなに簡単に明かしても良いのかと言いかけたが口を閉じた。
そして、恨みがましくニナを睨んだ。
「その通りよ。私が言ったのは概要だけ。核心には何も触れていないわ。でも、概要だけでも話しておかないと「どうしてその日時なんだー!」って聞くでしょ?だから、話したの。普通は概要すら貴方達が知る事は無いんだし。恨みがましく見られてもね。あなた達が異世界移動に関して調べていた事も知ってる。だけど、詳細を教えるとしても もっと先のお話ね。今はその時ではないわ。今はね。」
何を言わんとしているのかは何となく分かった。
今は。
これに尽きるのだろう。
こんなにも気安く話していてもニナもニコも管理者なのだ。
この世界の人々が。あるいは俺が成長し、管理者と肩を並べられる日が来たなら、彼女達の世界について語られる日が来るのかも知れない。
だが、俺達のような異世界人を含めて、この世界はそれを知るまでには成長していないと言う事なのだろう。
異世界移動の為の方法や正確な情報を今は明かせない。
だから、俺が納得して動くだけの情報のみを開示した。
つまりはそう言う事なのだ。
「分かった。今はそれで良い。今は二十七日の猶予が有ると言う事だけ分かれば問題無いからな。だが、いつか…。」
『いつか必ず聞き出してやる。聞かなくとも突き止めてみせる。』
そう言いかけて止めた。
この世界に通常とは違う方法で呼び出され、この世界に救われた俺が本当に元の世界に戻る方法を欲しているのか。
妙子ちゃんの為に。
師匠がずっと研究していたから。
俺も探し求めてはいた。
理由は有る。
でも、どうなのだろうか。俺は。
俺にとってそれは本当に必要なのだろうか。
元の世界に戻って何が有ると言うのだろうか。
ゲーム?
確かに気になるタイトルやこの十年でどの様な発展をしたのかは気になる。
だが、今の世界の様な充実感をそれで得られるだろうか?
漫画?小説?アニメ?
そう言えば妙子ちゃんと呪々は同じ作品繋がりで仲良くなったんだっけか。
でも、俺があそこに戻る理由にはならないだろう。
確かにアレが拙筆と言うカタチではなく完結しているのを見てみたい気がする。
だが、こちらでの生活よりも刺激的だろうか?
仕事?
戻れば戻ったで何かしら出来るだろう。
元の仕事には戻れないだろうが起業してあの時まで夢見ていた仕事に携わる。
いや。今の俺にあの時の情熱は戻らない。
この世界で天職だと言える技術に出会ったのだ。
あの世界で生きていける自信がない。
戻ったとしても親に顔を見せて安心させるくらいか。
あの親に。
「はぁ。でしょうね。ハルトにとってはこっちの世界の方が合ってるのよ。極端に技術と想像力に極振りした世界で何をするでもなく、信仰心と言うログインボーナスだけを溜め込んで何がしたいのかも分からない管理者の下に置いておくには惜しいもの。悩むくらいならこのままこの世界に居た方があなたにとっても有益だと思うわ。ただ、故郷が恋しくなるのも人の子の宿命。その時が来たならもっと本気で研究なさい。今までみたいにこの世界から出たくないのに義理で研究するみたいな感じじゃなくてね。その時には私達も手を差し伸べるかも知れないわ。」
俺を見透かすようにニナは言った。
その通りだ。
この世界に居たいのに。
この世界から出たくないのに。
恩に報いるために無理をして。
自分の責任だと言う使命感だけで無理をして。
何かをしようとしているポーズだけ。
そう。ポーズだけをしてみせていた。
そうする事で頑張っていると言うアピールをしていただけだ。
本気で誰かの助力を得たければ自分から動かなければ。
誰かに甘えているだけでは誰も力なんて貸してくれない。
それは当然の事でしょ?と、ニナに言われている気がした。
「そうだな。その時には頼む。」
確かにそうだ。
俺はこの世界に引きこもっていたい。
俺が俺で居られる場所に。
でも、現実と向き合わなければいけなく…
いや。俺の大事な二人がそう望んだ時には。
「なんだ。私としてはずっとこのままこの世界に居て欲しい所なんだけど、アッサリと覚悟を決めるのね。」
ニナがフフっと笑う。
俺を引き止めたいと言った彼女の声は、俺の決意を察しながらも、どこか嬉しそうでもあった。
「何にしても俺達の異世界移動の話なんてのは、ずっと先の話だ。話し合わずに俺だけで勝手に決めたんじゃ、後で何を言われるか分かったもんじゃない。今はこの二十七日間で出来るだけの事をしよう。最悪の場合でも黒木は最後の日に潜伏先から出て来なけりゃいけないんだろ?だったら話が早い。アイリス王女ご自慢のアレを使って今度こそ捕まえれば良いだけの話だしな。まずはウチの腐ったお姫様を取り戻して、黒木とお前らの話し合う機会を作る。それで良いな?」
「えぇ。もちろんよ。その日までヤレるだけの事はヤル。ダメなら最後の一日に賭ける。それでもダメなら…。その時はその時よ。」
穏やかに笑うニナの顔には迷いはなかった。
最悪の場合、黒木が何も語らずに元の世界に戻ってしまっても構わないと覚悟を決めて笑ったに違いない。
その笑顔は、数日前に会ったばかりの時とは違い少女っぽさが抜け一つ成長した大人の表情を帯びていた。
あと二十七日。
長く短いこの期間を俺達は有効に使わなくてはならない。
どうも。となりの新兵ちゃんです。
対魔王最終決戦用迎撃飛行戦艦『ほわいとておふぃるす號』が飛び立ちましたが、この話の登場人物は基本残念な感じで、その残念な人が造らせた戦艦も残念な結果に終わってしましました。
予定通りです!
最後にもう一回出てくるか分かりませんが、ここでは役立たずでいてもらいましょう。
うん。今、コレで黒木が見つかっては最後までもたないので…。
うーん。今回は特に書く事も無いですね。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




