其之五|第四章|本題は王宮の地下で?
「ごめんなさい。ちょっと待ってね。よいしょっと。」
話し始めたニナだったが言葉を止めて座り直した。
座り位置が悪いなんてのは誰にでも有る事。
勝手に直せば良いだけなだがイチイチ断わるのはニナの性格が意外と几帳面だからなのかも知れない。
ニナが座り直すのと同時にニコもニナの膝に座り直す。
イメージ的には腹話術師と人形の様なポジション取りなのだが…。
腐っても女神。腐っても上位存在と言う事なのだろうか。
間抜けな位置取りにも関わらず一枚の絵画の様な神々しさを放っていた。
さっきの話じゃないが、俺たちがミジンコの世界に降り立った際には、ミジンコからすれば俺達も二人の女神の様に神々しく見えるのかも知れない。
「さてと。パパの話の続きだったわね。」
しばらく、お尻をもぞもぞさせていたニナだったがベストポジションに収まったのか、こちらに向き直ると口を開いて話し始めた。
「ああ。黒木がスペア端末を作れる?だったか。クローンみたいなものか?」
折角、話し始めたばかりなのに再び話の腰を折るのは悪いと思ったが、これまでの話の確認の意味とイメージしやすい例えを口にして聞き直した。
「クローン?意味がよく分かんないわね。ちょっと待って。あなたの世界コードだけスキャンさせてもらうわ。個人情報は読み取らないから安心して。」
そう言って有無も言わさずニナが手をかざすと柔らかな光が俺を包み込む。
光が消えるとニナの前に透明なモニターの様なモノが現れて操作を始めた。
「オッケー。あなたの世界のライブラリにアクセスしてみる。それで会話の齟齬もある程度は解消できるでしょ。って、あんたんとこの管理者って随分ガメツイわね…。ライブラリとか普通はフリーでしょうが…。しかも、バガスなんてマイナーな…。しゃーない。ニコ。バガスを購入出来る口座ってあったっけ?」
「アルアル。プラナリアバンク。」
「ゲッ…。あそこって手数料高いのよね…。しゃーないか。」
何と言うか。小声で話してるつもりの二人の会話から彼女らの世界でも世知辛い通貨事情の様なモノが聞こえてきて何となく切なくなる。
どんな高度に発展しても通貨に囚われていると言う事実に何だか悲しくなった。
そして、元の世界の神様と言うか、管理者がガメツイと言う事実を知り、何となく納得してしまうのであった。
「ダウンロード完了っと。パッチを当てて…。あぁ。そうね。さっき言ってたクローンって言葉と似たような原理だと考えてもらって良いわ。詳細は違うけど、そんな感じよ。」
アーカイブをダウンロードして知識を得たニナが全てを理解したように俺に告げる。
ダウンロード一発で知識の共有が出来るのは便利な話だと感心しつつも、やっぱり、こいつらは俺達とは違うのだと言う一抹の寂しさを感じながら、ニコの好意を無にしない為に本題について話を進める事にした。
「わかった。そう考えるとするよ。しかし、便利だな。ライブラリをインストールする事で俺達の持ってる知識との齟齬を埋められるんだろ?じゃあ、俺の知ってる言葉で話して問題ないと思って良いのか?」
雑談を交えつつ確認をした。
報告・連絡・相談は会話においても重要だからな。
一応の確認はしておくのが礼儀だ。
「この技術の下位互換ならあなた達の世界でもそのうち実装されそうだけどね。認識としてはそれで良いわよ。気兼ねなく自分の言葉で話しなさい。じゃあ、話を戻すわね?」
それをニナも分かっている。
形式的に確認したのだと。
軽く返すと本題に話を戻した。
俺は無言で頷いて話を促す。
ニナも軽く頷くと話しだした。
「あなた達の言うクローンと違うのは…。うーん。どう説明したものか。まず、全くの複製を作るワケじゃないって事ね。端末に個人の機能を分割して入れるって感じかしら?あ。コレが分かりやすいかも知れないわね。携帯電話ってあるでしょ?私達の体はシステムが入ってない携帯の本体だと思って。そして、魂はSIMカードで、そのSIMカードにはシステムも入ってるの。でね?本体ってのは携帯電話でも個人では作れないでしょ?まあ、繁殖は出来るのだけど。繁殖は別物と考えて?繁殖はランダム性が無いと意味が無いから思い通りに作れない仕組みになってるし、何もない所から端末を作るのとはワケが違うわ。うちのパパはその端末を設計・製造を行えるだけの技術と知識を持ってるの。でも、万能じゃないわ。個人の個性や知識や技術や経験などなど。SIMカードにシステムを移す際には思うままに全てをコピペ出来るってワケじゃないの。特定の機能を選んで、その端末に必要な機能を分割してインストールする。例えば端末が全損してもSIMカードを取り出し新しい端末に移し替えれば全ての機能は使えるわ。だけど、分割する際には必要な項目をどれだけ分配するか設定しないと同じIDでは別の端末で使えないのね。どうして?なんて聞かないで。それはパパでも従わないといけないルールなの。まあ、同じ人物が同じ能力で大量に複製されると世界のバランスとか仕組みが壊れるからなんでしょうけど。って、ワケで元の世界に戻りたいと言う望みを多く持ったパパと、この世界を円滑に回すと言う使命を多く持ったパパに分割されたと言うワケ。こんな説明でわかったかしら?」
つまり、どの様な割合で分割されたか分からないが、黒木は自分が元の世界に戻る為に、この世界の維持を任せる為の黒木の半身を太陽神メビとして残して、元の世界に戻りたい黒木は自分の望みを成し遂げる為に行動をしていると言うワケか。
だったら…。
「この世界にはお前が言うパパが居るワケだから問題ないんじゃないのか?」
当然の疑問だった。
パパが恋しいと言っても黒木の半身は居るって事なのだ。
問題ないんじゃないか?と、俺は思っていた。
「まあ、そう思うわよね。でも、問題はそれは本当にパパなのかって事。パパとしては神配分だとか思ったのかも知れないけど、知的生命体の半分は欲望で構成されているの。どんな神様が居たって知的生命体ってのは欲望が無くなれば、それこそ現状を維持する為のシステムの一部に過ぎない。それはもう何かを維持する為にだけに生きてる動物と同じよ。事実、太陽神メビとしてのパパは、この世界の仕組みを支えるだけのシステムの一部でしかないわ。確かに私が呼びかければ笑顔を返してくれる。疑問を投げかければ答えてくれる。でも、あんなのは神でも人間でも悪魔でも無い。それこそ生物とは言えたもんじゃない。単に反応するだけの人形よ。感情や欲望は魔王側がいっぱい持って行った。例え五分五分で配分されていたとしても、それはもう…。別人よ…。」
そこまで話すとニナは口をギュッと閉じ、何かを我慢する様に話を区切った。
数秒だろうか。
溢れ出しそうな涙を目をつぶって堪えると堰を切ったように感情を爆発させた。
「だったら…。だったらね?ちゃんと一人のパパに…。元のパパに戻ってどこにでも帰れば良いじゃない!元の世界に帰った所で、あの人を待ってる人が今も待ってるかなんて知らないわよ!でもね!!もし、待っている人が今も待ってるなら私と同じ事を思うわよ!中途半端な自分の知らないパパに戻って来られても相手にとっても迷惑なだけじゃない!?そんなの迷惑なだけだわ!! 異世界でパパが遊んでる間に私達だって多少は替わりが出来るくらいに成長してるって言うのよ!! あの時には私達は感情をぶつけるしか出来なかったけどさ!今の私達なら少なくともこの世界の維持を任されるだけの力量は持ってる!!もし、本当に戻りたいってなら、ちゃんとしたパパになってから帰れってってのよ!!!!」
ガン!
話している間に気持ちが高ぶり溢れたのだろう。
テーブルを強く叩きニナはうつむいた。
なるほどな。分からんではない。
分割で別人の様になってしまった父親。
元の「カルディナル=メキア=クロノス」に戻れる方法は有る。
だが、黒木は自分の目的を完遂する為だけに今も動いている。
黒木が俺達の世界で、この世界にまずは戻ろうと足掻いていた時間。
その長い時間の中で、ニナ達はこの世界のシステムを支えるだけ実力を持つ存在に成長した。
しかし、彼女達が成長する為の長い時間の中で、父の一部であるはずの太陽神メビを見ている事しか出来なかった。この世界を支えるシステムの一部と化した彼に対して何も出来なかったのだろう。娘として何も。
手助けしたいとか、役目を変わりたいだとか。
父に対して何か手助けをしたかったのかも知れない。
だが、欲望の大半を黒木に持っていかれた太陽神メビはシステムとしての役割を忠実に果たした。
娘達の気持ちなど受け入れずに。
それこそ、元の父ではなく別人としての彼は反応を返すだけの人形だったのかも知れない。
俺にはニナやニコの気持ちを想像する事しか出来ない…。
だが、俺には分からないほど辛かったに違いない。
自分の父が全くの別人になってしまったのだとしたら。
「ニナ…。」
ニコがどこからかハンカチを取り出しニナの涙を拭う。
「ごめんね。ニコ…。」
その手を握ってニナは力なく微笑んだ。
そして、俺を見つめて静かに話し始める。
「あの時の私にとって変わってしまったパパの姿は衝撃的で、幼かった私にとっては許せる事ではなかった。管理者である私がこの世界の子らを使ってパパを止めようとした事が正解だったか間違いだったかは今も答えは出せない。いいえ。管理者としては失格だったとは思う。でも、この世界の維持管理に必要だったパパを…。いえ。違うわね。それは言い訳ね。私達がパパを失いたくなかっただけだもの。間違いだったのかも知れないわ。でも、その時の私にとっては、それが正解だったのよ。そうするしか方法が思い浮かばなかった。この世界の子らを使ってでも引き止めたいと…。」
そこまで話すとニナは目を閉じてため息をつく。
どんなに取り繕っても、簡単に言ってしまえば親子喧嘩だ。
それに多くの人を巻き込んだ。
自分の職権や人々からの信頼を利用して。
ある意味、人々を謀って。
それは、職権の範囲内だったのかも知れない。
それは、本当に必要な行動だったのかも知れない。
当時、黒木がこの世界で必要だったのは間違いないのだろう。
だが、ニナやニコ。個人の思いとしては。
やはり、父親である黒木と離れたくなかった。
分割された父親の変貌に悩み苦しんだのだ事だろう。
多分、歴代の「王」達もその事を知っている。
王が造られる前の種族の長達も知っていただろう。
神を名乗るには幼い二人の少女達の気持ちを汲んで協力をした。
神を名乗るには幼くとも二人はこの世界の人々に愛されていた。
そうでなければ、今も「王」と言う種族が引き継がれ、各種族がそれに従っていると言う事実を説明は出来ないだろうから。
どうやら、俺もその頃の人々と同様に協力するしかないようだ。
成長したと言うが、どこか危なげで幼さを残し、馬鹿で意地っ張りで脇が甘い彼女達を放ってはおけないと言う気持ちになっている。
もちろん。彼女達の言い分だけで判断する事は出来ない。
黒木からも話を聞くべきだとは思う。
だが、今は彼女達の手助けをしたいと思っているのは間違いなかった。
俺がそう告げようとした時だ。
「自分勝手なのは承知している。異世界人の貴方達。いえ。この世界の子らにもこんな事を言える道理は無いとも思う。でも。だけど…。協力して欲しい。何千年と言う時が流れ、その間に様々な経験を蓄積したパパ達が一つに戻った時に何を選ぶのか。それでも元の世界に戻るのか。それとも私達と共に生きてくれるのか。本当のパパの答えが知りたい。あなたが黒木と呼ぶ彼と対面して冷静でいられるかは分からない。だけど、その答えも知らずに…。何も話せずに…。このままパパが居なくなるなんてイヤだ!もう会えないなんてイヤだ!無理を承知でお願いする。どうか、私達に協力してくれ。もう一度パパと話す機会を作ってくれ。お願いだ…。」
頭を下げられた。
いや。頭を下げただけではない。
言い終わるとニナはニコを膝から下ろした。
そして、二歩後ろに下がると膝をつき、両手を床に揃えて深々と頭を下げた。
そう…。
D O G E Z A で あ る ! !
どこでそんな知識を得たのか!?
いや…。さっきのダウンロードだろう…。
ニナは見事なまでの土下座をしてみせた。
それに習いニコも横に座ると、これまた完璧な土下座をして頭を下げた。
まさか、こんな所で正式で美しい土下座を見る事になろうとは。
リンダさんのアクロバティックな土下座は見た事があったから似たような謝り方や文化が有るのは知っていた。
だが、ここまで完璧に土下座をキメられて頼みを断われるだろうか?
ここまでされては断れるはずもない。
まあ、そんな事をしなくとも俺の方針は決まっていたのだが…。
「おい。そんな事をしなくて良いから。顔を上げろよ。」
二人の頭を両手で撫でる。
その行動に驚いて顔を上げた二人の手を取ると、腕に力を入れて二人を体を引き上げて両足で立たせた。
「お前ら側の話を聞いただけで、お前らに全面協力するなんて約束は出来ない。確かに同情の余地は有るが、向こうの話も聞かずに間を取り持つなんて出来ないからな。」
「だけど!!!」
ニナが必死の様相で訴えようとするのを右手で頬をムニュっと掴み、言いかけた言葉を止めた。
「だけど、まずは黒木を見つけない事には話にならない。取り敢えず、俺は黒木を見つけて話し合いのテーブルに着かせるまではお前達に全面協力をしようと思っている。それで良いか?」
ニヤリと笑って見せた。
優しく微笑んで見せても良かったのだが。この方が俺らしい。
そして、今のニナやニコの気持ちを思うと俺が憎らしいヤツを演じる方が、きっと元気も出るだろうと。
「にゃにゃにょ!それでぇいいばよ!!はやく手をはなしにゃさいよ!!」
俺の予想とは裏腹に。
いや。半分は思惑通りか。
ポロポロと涙を流しながら口では啖呵を切る女神がそこに居た。
涙で溢れた顔は、とてもブサイクで、とても美しかった。
俺はその顔を一生忘れることはないだろう。
神の友人を得たこの瞬間の事を。
と、感傷に浸っている場合じゃない。
「って、言う事で話がまとまったけど付き合ってくれるか?」
ニナのホッペから手を離し後ろを振り返る。
振り返った俺の目に写ったのは、実にイヤラシイ笑顔を浮かべながら親指を立てる仲間達だった。
「まあ、童貞の弟子がやっとこさ見つけた嫁を間男に連れ去られたとあっては死ぬに死ねんじゃろうからな。師弟の情けじゃ。付き合ってやろう。」
師匠が余計な情報を付け加えながらもニヤリと笑いながらシレっと言う。
「えぇぇぇ!?ハルト様!?本当にそうだったのですか!?あぁ!もしかしてだから!だからなのですか!?でも、落ち込まないで下さい!人生はまだまだあります!タエコさんだって受け入れてくれますって!!」
アイリス王女が真に受けて、というか真実なのだが…。真実なのだが…。
泣かない。泣かない。
遠回しに精神攻撃をしつつも慰めてくれているつもりっぽいのだから…。
「アイリス様。ここは流す所ですよ。大丈夫です。ハルト様。私も男性経験はこの歳まで御座いませんので…。」
何を思ったのかリンダさんがとんでも情報をぶっちゃけてフォローしてくれる。
「リンダさんこそ何を言ってるんですか!!ハルト様が女性経験無しと言う事実は置いておいて下さい!今回の件に関しては王家としても全面的に協力しますからね!私の戴冠前に問題が解決出来て、親子喧嘩の尻拭いの為に王家が存続していると言う恥ずかしい理由を秘匿しなくて良くなると言うならば願ったり叶ったりです!これを最後にしましょう!!」
俺はやっぱり王家の連中が嫌いかも知れない…。
それは置いておいて…。
取り敢えず、アイリス王女も協力してくれると約束してくれた。
笑いを堪えるニコさんとニナさんに視線を移す。
「ま、まぁ。タエコちゃんは私の妹の様な子だからね。連れ去られたなら一刻も早く助け出す。相手が誰だろうと当然よ!ついでに神様に恩が売れるなら安い買い物だわ。って言うか!色々と貸しまくりなんだから後でタップリと返してもらうわよ!」
と、言ってビシっとニナに向かい指を指す。
困り顔でオロオロしながらもニナはニコさんに向かって頭を下げた。
ニコさん的にはそれで満足と言う顔をしている。
後で、すっごい報酬を女神達に要求しそうだが…。
「私はどっちでも良いぞ。面白ければな。正直、ダンジョンでの事を考えると私達に出来る事は無いと思う。それでも何か出来ることが有るなら協力したい。女神達の話を聞いてるとな…。うちの父親も酷かったしなー。若い女引っ掛けて逃げ出したオヤジの事を思い出すと他人事には思えねー。ってワケだ。」
俺達も知らなかった地味にヘビーな過去話を持ち出しながらも、ニナさんも協力してくれると言ってくれた。
いや。正直、それを同列に今回の件を語るのは如何なモノかと思うが、何やら気分が良さそうなので、そっとしておこう…。
最後に残った呪々は…
「神様と魔王の合体なんて大好物!妙子も助けないとだし!まさにぃの完全体も見たいし!何もしないけど当然付いていくわ!!」
うん。どう考えても役に立たないが付いてくるみたいだ。
「と、言う事だ。半分以上役に立つか分からんが、どうしょーもない女神を見放す者は居ないらしい。お前達はどうだ?感情を抑え込んででも冷静に対処しないといけない場面が有るだろう。ちゃんとやれるか?」
もう一度、女神達の覚悟を問う。
黒木を目の前にして冷静で居られるかは分からないだろう。
そう言う事態になっても責めるつもりはない。
結局は親子喧嘩だ。当人同士でか解決すれば良い。
だが、それを問うのは俺達が協力する上で大事なプロセスだ。
最初から喧嘩腰で対峙するつもりなら協力する義理はない。
俺は彼女達が実際にどう動くかではなく、彼女達の覚悟を聞いているのだ。
「モンダイナイ。ニコ ハ イツデモ レイセイ。」
ニコが答える。
いつも冷静ってワケじゃないのは、さっきの大演説を聞いてしまっていると信じがたいのだが、少なくともアイツよりはマシだろう。
問題はコイツだ。
「…そんなの分からないわよ。」
ポツリと呟いた。
「そんなの分からない。でも、努力はする。だって…。私達のこんな話を聞かされて、それでもこの子たちは私に。私達に協力してくれるって言ってくれるのだもの…。その好意を無下には出来ないわ…。」
そんな殊勝な事を言っているが、黒木と対面したらニナが頭に血を上らせ突っ込んでいく姿が目に浮かぶ。今は良しとするが…。
そうなった時は、そうなった時だ。
今、皆の気持ちを受けて、自分の感情を抑えようとしてくれるだけで良い。
かくして俺達は残念な女神達と協力関係を結んだのだ。
「して、どうやって黒木を探す?そこの残念な女神をしても探せんのだろ?」
ニナの言葉を聞いて協力関係が成立したと理解した師匠が、時間が惜しいと言わんばかりに当面の問題点を口に出した。
まあ、それだわな。
自称「管理者」が手も足も出ないと言うのにどうすれば良いのか?
この二人を持ってしても黒木の痕跡すら分からないのでは俺達も手の打ちようが無かった。
この世界全体だか、この星だかは知らんが、この世界で一番の技術を持って維持管理している管理者が見つけられないってのに。どうしたものか…。
「そう言えば妙子ちゃんが持ってる『マジカル☆ブレス』の機能は?確か、あれって妙子ちゃんの危機を自動で判断して俺や師匠に伝える機能が有りましたよね?」
「馬鹿かお前は。通知が届かんと言う事は何らかの方法によってライトニングメッセンジャーが遮断されておると言う事じゃ。結界か?はたまた次元が違うのか?方法は分からんが届かんと言う事実を考えれば我らの知識の外に捕らわれていると言う事くらい説明せんでも分かるじゃろ?分かりきった事をイチイチ聞くな。」
もしや。と、思って聞いてみたが、やっぱり『マジカル☆ブレス』の機能は仕事をしていないらしい。短いながらも嫌味を詰め込んで叱責されてしまった。
だとしたら、他に方法は無いのか…。
考え込んでいるとアイリス王女が待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「フッフッフ。これは王家の出番のようですね…。」
不敵に笑うと王女アイリスが何を思ったかデーブルの上に乗り意味ありげに呟く。
そして、くるりと回りドドーンと言い出しそうなポーズをキメて語り始める。
「私達、王家がこのどうでも良い親子喧嘩に巻き込まれて数千年!何もせずに安穏とした時間を貪っていたとお思いでしょうか!?否!我々はこの時を迎える為に日々研究と努力を積み重ねて来たのです!それを今こそ役立てましょうぞ!ドドーン!」
いや。ドドーンって言っちゃったよ。
ホントにこのお姫さんは…。
アーノルドの時も感じたが本当にお姫様なのか…。
種違いとは言え、本当にローズと姉妹なのか疑いたくなる。
とは言え、何千年と言う長い刻の中で魔王迎撃の為だけに存続してきた王家の秘策。
期待せずには居られなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
━━ 同日二十一時二四分
━━ 王城内 第百八地下行昇降機
俺達は夕食を取った後、アイリス王女の案内で王城の遥か地下に向かっていた。
時間が掛かったのはアイリス王女の言う「秘策」を使用する為には複数の承認が必要だった為だ。
万が一、黒木がこの世界のどこかで戦端を開いていたなら、その手続きも省略されていたのだろうが、魔王再来の報を受けたとは言え表面上は平和で普段と何も変わりがない。
この先に何が待っているのかは分からないが、兵器にしろ探索機にしろ王家の秘匿する何かしらを使うには手続きが必要だった。
その間に俺達は食事と仮眠を済ませ、夜更け前に招集されたってワケだ。
「なあ。なんでテレポーターじゃなくて昇降機なんだ?」
俺は道中で小さな疑問を口にした。
今、俺達が乗っている昇降機。いわゆるエレベーターなのだが、半透明の魔法陣に物理的な抵抗力を与えて、上に人が乗れるような処理を施し、魔力の力で上下に昇降させる。
場所によっては使われる技術だ。
主に景色を楽しむ為の場所では好んで使われる。
固定式のテレポーターで移動すると、ゆっくり景色を楽しめないからな。
だが、今回向かう場所は違う。
いわゆる軍事施設的な場所だと言うのは容易に想像出来る。
と、なると。緊急時にエレベーターで上がり下がりするよりもテレポーターの方が一瞬で移動出来る分、緊急性を要する軍事施設としては有益なはずなのだが…。
「ハルト様…。それは雰囲気です。」
「雰囲気?」
意味が分からなかった。
「テレポーター?確かに有ります。ですが、今は明確な緊急時では有りません。故に雰囲気を盛り上げるためのカッコイイ演出。それがこの昇降機なのです!!」
本当に意味が分からなかった。
つまり、この馬鹿王女は映画的な演出を求め、格好良さを求めてエレベーターを利用したと言う事らしい。
確かに透明の筒を魔法陣の乗って下方に降りていく中で、赤いガイドラインの様な明かりが等間隔に点滅する様子は、遠目で見てもそれっぽく見えるだろうし、乗っていても何となくそれっぽい雰囲気を醸し出している。
だが、この世界において大型のスクリーン的な投影機と言うのは、近場の戦況を伝えるライブカメラの様にしか使われず、元の世界の映画産業の様な商売は発展していない。
つまり、この映画的な演出なんてのを意識して行動するなんて人間は、ほとんど居ないのだ。っていうか、元の世界でも映画を見た後くらいしかそんな人間は居ない。
それを、この緊急時にやってしまう王女っていったい…。
腐っても…いや。元々腐ってるか。腐女子だからこその行動なのだろか。
想像力が豊かだと言う証拠なのだろうか。
だとしたら、触れない方が良いと思った俺は、自分の解説にフンフンと鼻を鳴らして興奮するアイリス王女を放置する事にした。
うん。放置してる今も勝手に幸せそうに解説を繰り広げている。
こうなったら知った事じゃないだろう。
放っておこう…。
* * * * *
アイリス王女の解説をBGMにしてエレベーターで降りること数分。
随分と深い場所まで降りたようだ。
エレベーターが止まるとブゥーンと言う音と共に扉が開いた。
このブゥーンと言う音もこだわりらしい。元王の…。
お前ら親子で何やってんだ…。
と、言うツッコミも面倒なので放置する。
目的地はまだ先っぽいので体力は残しておきたい。
「さて!歩きますよ!ここから先は特別警戒区域につき、魔法・神術などは使えません!少し遠いですけど面倒だからって飛んだりしようとすると恥ずかしい思いをするので気をつけて下さいね!」
そう告げるとアイリス王女はズンズンと歩き出した。
オレンジ色の非常灯がアイリス王女の歩みの一歩先を照らす。
俺達もその後を追った。
「これもアレか?格好良いからなのか?」
魔が差したのだろう。
ヤケに演出的な廊下の照明について聞いてしまった。
「もちろんですとも!分かりますか?分かりますか!流石はハルト様!良いですか?一歩一歩、私達が歩くごとに歩いている部分が照らされると言うのはですね!」
と、目的地に着くまでにアイリス王女の演出論を聞かされる事になったのは言うまでもない。
何分歩いただろうか。
多分、十数分程度なのだろうが興味の無いアイリス王女の解説を聞きながらだったからか体感では数十分歩いた様な気がした。
アイリス王女のネタも尽きた頃。
俺達の前にはだだっ広い空間が現れた。
実際に見えたワケではない。
所々に設置された非常灯の放つ明かりが遠くまで続いていた。
カツカツカツ。
アイリス王女が数歩、暗闇の中を進む音だけが響く。
後を追おうとした俺達の方を振り返る。
暗闇の中で俺を静止する様なポーズだけが辛うじて見えた。
「皆さん。お待たせいたしました。ここが目的地です。」
シンとした暗闇の中で、アイリス王女の声がやけに響く。
「で?ここは何なのじゃ?ヤケに広いのは分かるが。」
業を煮やしたかの様にぶっきらぼうな師匠の声も同じく響いた。
「良いでしょう!フィーナ師匠!!皆さんも右手にご注目下さい!!」
パチン!
アイリス王女が指を鳴らすと手前から順番に明かりが灯る。
そして、溢れた光の中に浮かび上がったのは…。
白い巨大なクジラ…。いや。これは…。
「紹介しましょう!これこそ我が王家が長い年月と時間を掛けて研究して来た決戦兵器の最終型!!対魔王最終決戦用迎撃飛行戦艦にして、その旗艦!!『ほわいとておふぃるす號』です!!」
今もなお点灯し続ける地下の明かりの中に横たわっていたのは、全長十キロメートルは有ろうかと思われる巨大な戦艦だった。
はい。どうも。となりの新兵ちゃんです。
連休の効果なんて長続きはしないのですよ。
忙しさも相まって今週は殆ど筆が進んでないと言うね。
うん。ストック有るから大丈夫…。
来週から頑張る…。
しかし、書いてる人間が何か変なテンション入ってた事もあってノリが変ですね…。
ニナ…。情緒不安定すぎと言うか突然 机をガンと叩くとかコワイです。
さっさと戦艦出したかったからと言っても…
もう少し色々な遣り取りが有っても良かったのでは?
と、思いますけど、手直しも面倒なのでこのまま行っちゃいましょう。
大丈夫。大丈夫。この作品は残念で情緒不安定な人多いから。それが普通。
と、言う事で次回は戦艦が大活躍します!
うん。戦艦ですら、うちの話の登場人物は残念ですけどね。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




