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其之四|第六章|ダンジョン探索に出かけたら地獄と化した件

 アラームが鳴り響いていた。


「対象は七階を突破!現在、八階を進行中!!止まりません!!」


「対象はなおも速度を上げて進行中!!配置されたオブジェクトでは限界です!!」


「クソ!本当にヤツは人間か!?火力が違いすぎる!!」


 召喚されたオペレーター要員の魔物たちが口々に悪態をつく。

 怒号。叫び。悲嘆の声。

 ダンジョンの制御区画は阿鼻叫喚地獄と化した。


「旦那…。これ以上は厳しいですぜ。地下十階以下のオブジェクトを上げて再配置するか、直接対決か…。ご決断を。」


 クソ…。どうしてこうなった。

 確かに、今日はダンジョン探索に出かけるとは聞いていた。

 そのメンバーも知っていたし、軽く流して帰ってくると言うのも聞いていた。


 軽くだと?


 地下七階に配置されている魔物なら並のパーティでは駆逐出来ない。

 現在の難易度設定なら、頑張ったとしても地下七階を開放する程度。

 奴らでもこの辺りで疲れて引き返すはずだった。


 万が一、進行しても地下八階への足がかりを整備して終わるはず。

 地下九階や地下十階にアタックするには時間が掛かる。

 引き返すものだろうと高をくくって油断していた。


 なぜ、奴らがこんな所まで進行しているのだ?

 なぜ、進み続ける理由が有ると言うのだ?


 俺には意味が分からなかった。


「再配置だ!これで止まらないなら一歩進むごとにブチ当てろ!!一般冒険者を強制排出!!リザレクトコインで外部に出せ!!対象にも一応排出処理を行え!!無駄だろうが時間稼ぎくらいにはなるかも知れん!!あとエレナに連絡してダンジョンは緊急封鎖だ!一般冒険者は入れるな!!追い出せ!!」


 師匠達の暴挙に俺は為す術も無かった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ─────地下四階


「ふぅ。やっと手応えを感じられるようになって来たのぉ。」


 敵を薙ぎ払った師匠さんがシャキーンと剣をしまう。

 師匠さんにとってはザコなのだろうけど数が増えだしている。


 まだ、この階の辺りでは歩くごとにダイス判定をして判定に引っかかったら何メートル先に敵がポップすると言う感じじゃ無い。


 地下四階に放たれている敵の数が単純に多いのだろう。


 一組のグループに最大で五匹と言うルールは有るみたいだけど、頻繁に遭遇するから体感的に進行速度が遅くなっている気がする。


「お姉さま!お飲み物をどうぞ!!」


「うむ。」


 ジュジュはと言うとすっかり立ち直っていた。

 マッパーの仕事をこなしながら、師匠さんが手を出すと阿吽の呼吸で師匠さんの欲している物を差し出すと言う見事な舎弟っぷりを発揮している。


「しかし、数が多いな~。私らが参戦する程じゃないとは言え、こうも多いと気分的に疲れるぜ。」


 ニナさんが遭遇数の多さに愚痴をこぼした。

 でも、放たれている敵の数にしてはマシな方だと思う。


 設定なのだろうけど敵は機械的に巡回しているだけのようだ。

 ニオイや音に気がついて、こちらに集まって来る感じは無かった。


 ワンフロア分しかない通路と通路の連結部分をはさんで敵とすれ違ったけど、こちらに気がつく気配も無かったし、バックアタックも成立しやすすぎる。


 敵の歩行スピードも一定。

 敵から襲われる場面と言えば敵が正面に私達を認識した時だけで、他の条件では向こうから襲って来る事はない。


 条件としては「まだ」冒険者達が有利にダンジョンを進行出来る設定なのだろう。

 ベテラン冒険者のニナさん達にとっては面倒くさい数なのだろうけど。


「まあ、そう言うな。この街の冒険者なら丁度良い難易度じゃろうて。稼ぐならこのくらい敵が現れてくれんと、おまんまの食い上げじゃろう?」


「確かにそうなんだろうが…。うーん。」


 怪訝そうに何かを考え込むニナさん。

 ダンジョンを進みながら何かを考え込んでいる感じだったけど、このダンジョンについて思う所があったのだろうか?


 良い機会だと思ったのか歩きながら話し始めた。


「いやさ。ダンジョンって言うと坑道や捨てられたダンジョンにモンスターやらが住み着いて根城にするって言うのが定番だ。そう言う背景なら入口付近には雑兵を配置して中心部に近づく程に強い者を配置するのは当然の配置だとは思うんだが…。」


「まあ、そうよね。そのタイプのダンジョンだと兵の数にも限りが有るだろうからフロアの重要度に応じて配置をするだろうし。でも、それはダンジョンマスターが悪魔だか魔法使いだか知らないけど存命で、しっかり稼働しているダンジョンでも言える事よね? 召喚コストの低そうな弱いモンスターだったり、勝手にフロアを占拠して居着いた統率の取れていない野良モンスターだったりが入口付近の重要でないフロアに居て、重要なフロアに近づくほどダンジョンマスターが配置した強いモンスターが配置されている。 でも、それって侵入者を低コストで排除する為の方法なんだから普通なんじゃない? 王都や街だって同じよ?門番にパラディン級の騎士とかを配置してたんじゃコストが合わないわ?」


 ニナさんの疑問にニコちゃんが親切丁寧な正論で返した。

 でも、ニナさんの口からこぼれ出た次の言葉は核心を突くものだった。


「まあ、それは分かるんだ。たださ。このダンジョンに限っては経緯が違うだろ? この土地を開拓している時にダンジョンを発見。押し寄せるモンスターを撃退して地下一階の半分を占拠。地下一階で攻防戦を繰り返しつつ、この街のオーナーの判断で開拓を続行。激闘を続けながら街の第一区画が完成した頃に地下一階をほぼ掌握したワケだが。 それ以降は激しい抵抗も無い。教会が設置されたからと言うのも有るかも知れないが…。 何かおかしくないか? 今日、潜ってて感じたんだが明らかに意図があるんじゃないか? 何というか…。美味しい餌をばら撒いて侵入者にダンジョンで活動させようみたいな? フィーナが言ってたけど『丁度良い難易度』『稼ぐならこの程度は』って引っかからないか? ダンジョンマスターからすれば、この街によってダンジョンに閉じ込められたんだよな?? なぜ、地上に進行して来ない?なぜ、丁度良い難易度設定にする? なぜ、冒険者の稼ぎを気にするような配置なんだ? 他にも攻略済みのエリア入口には教会が設置されて一定のセーフティエリアとなっていて各階が物理的に断絶されているのにモンスターが攻略済みエリアに現れる原因だとか…。気がついてたか? 一定以上の金品や素材を取得するとモンスターから取れる一定品質以上の素材や持ってる金品が次のフロアに入るまで激減する事を。加えて敵との遭遇率もガクっと落ちる。 明らかにおかしいだろ?? ここのダンジョンマスターが何を考えているのか知らないが、何かしらの意図を感じて気味が悪い!!」


 腐っても一流冒険者。

 細かな所まで観察をして違和感を感じていたみたいだ。

 正直、ニナさんは脳筋ゴリラだと思っていた所があるから驚いた。


 ニナさんの言う通りこのダンジョンは意図して運営されている。


 ハルトさんによって…。


 普通の冒険者なら利益だけを追い求めて、普通は気にしない事を感じ取るとは…。

 流石は一流の元冒険者だ。


「まあ、気のせいじゃな。」

「えぇ。気のせいね。」


 私が感心しているのも束の間。

 ニナさんの大演説は師匠さんとニコちゃんにバッサリと切り捨てられた。


「大体、物理的に各階が分断された所でテレポーターやらが設置されてても不思議じゃないだろうが?他にも隠し通路も有るだろうし、ダンジョンを運営する者が何も考えずに設計するワケがなかろう?当然、外部にも普通に出入りする仕組みだってあるじゃろうから閉じ込められているワケじゃなかろうて?」


「そうそう。ドロップだって個体差じゃないの?私達みたいに余計な物を持たずにダンジョンに入る者も居れば、リックみたいに全財産持ってないと不安みたいな敵だって居るわよ。敵だって撃退状況くらいは把握してるだろうから私らの撃退数が多ければリックみたいに全財産を持って出ないと心配だって敵も減るだろうし、傷ついたまま再召喚される敵も増えるだろうから当然の流れよねー。」


「それにじゃ。こう言うダンジョンを作るような酔狂な者は自分の研究などに支障が無く邪魔されない程度のパワーバランスなら自由にやらせる場合の方が多いのじゃ。土足で中心部を踏み荒らさなければ侵入者など放置しておくじゃろう。深く入り込まない様に牽制はしておるが、街が発展して意外と便利じゃから放置しておるとかじゃろうな。街にまで攻め込まないのは。」


「うぐぅ…。そうなのか?私が考えすぎなのか?」


 惜しい。

 実に惜しい。

 なかなか良い線だったけど、ニナさんは言い含められた。


 師匠さんは分かってってシレっと言ってのけたけど、ニコちゃんのナチュラルなアシストが真実味を持たせたのか、納得はしてない感じだけどニナさんは言い含められた。


 この程度で引いてしまうなんて…。


 このダンジョンの真実に一歩近づいたニナさんだったが流石は脳筋ゴリラ…。

 二人に言い含められて百歩くらい真実から遠退いた感じだと思う。


 ニナさんはもうダンジョンの真実に近づけないだろう…。



 ─────地下五階


「オラ!オラ!オラーーーーー!」


 ニナさんがモヤモヤを吹き飛ばそうと暴れまわる。

 これまでは師匠さんがほとんど敵を片付けていたから余計に張り切っている感じだ。


 地下五階からは敵の強さも上がっているので、師匠さんがヘイトを取ってニコちゃんとニナさんが処理すると言う布陣で進行していた。


 ぶっちゃけ師匠さんだけでも処理出来るのだろうけど、ニナさんに余計な事を考えさせないようにと言う師匠さんなりの配慮らしい。


 まあ、師匠さんの事だから自分だけ仕事をしてるのが嫌になったとか言う理由な気もしなくもないけど…。


 流石にここまで潜ると物攻の師匠さんでは一撃とは行かないみたいで、ニナさんとニコちゃんが加わる事で実質的な進行速度は上がっている。


「はぁ。流石に地下五階ともなると敵も強くなって面倒ですねー。」


 何度目かの休憩。


 小型のコンロに魔力を通して火をつけるとポットに水を入れてお湯を沸かしながら意味もなく何気ない言葉を口にした。


「そうねー。雑魚いのは変わらないけど微妙に固いのが混じってるから面倒くさいわねー。」


 私の何気ない言葉にニコちゃんが何気なく相槌を打ってくれる。


 お湯が沸き使い捨てのコーヒーフィルターを使ってコーヒーを淹れるとそれぞれに手渡した。


 便利と言えば便利なのだけど、ゴミを持ち帰る事を考えると湿った粉が入ったコーヒーフィルターはぐちゃぐちゃになるから考えものだ。

 魔法で水漏れしないように加工された革の袋に入れてはいるけど何かの拍子にグチャっとなりそうで少し不安な感じがする。

 何かほかの方法を考えた方が良いかも知れない。


 などと考えながら何気なく口にした言葉。


「うぅーーーん!でも、ゴールまでもう少しだから頑張らないとですねー!」


 その何気ない言葉に、そんな答えが返ってくるなんて思ってもいなかった。


「はぁ?何を言っておる?ここからが本番じゃろうが?」


「はぁ?何を言ってるんですか???」


 何を言っているのか分からないと思うけど私も分からない。

 今、起こった事を有りのまま話すぜ…。


 師匠さん曰く。

「最初に言っただろうが?行ける所まで行くと。妙子こそ何を言っておるんじゃ?」


 私が反論する。

「でも、私やジュジュが疲れたら切り上げるって!!」


 師匠さん曰く。

「あぁ。言ったな。チヨ?疲れておるか?」


 ジュジュがほざく。

「いえ!大丈夫です!!どこまでもお姉様に着いて行きます!!」


 得意げにこちらを振り返り手のひらを上にした左手を差し出して師匠さんが一言。


「なっ?大丈夫そうじゃろ?」


「なっ?じゃないですよーーーー!!!!」


 そして、私が吠えた。


「最初に言ったじゃないですか?今回はお試しみたいな感じだって!私やジュジュが疲れたら切り上げましょうって師匠さんも納得してたじゃないですか!?」


 師匠さんの「なっ?」っと言うドヤ顔にキレた。

 その一言で片付けようとしている事にも納得が出来なかった。


「まあ、落ち着け。私が疲れたと言うなら分からなくもない。じゃが、妙子が疲れているワケじゃなかろうが?それにチヨも気力を持ち直しておる。体力的にも気力的にも二人とも問題ないじゃろうが?こうやって適切に休憩を取っておるし。ほれ。二人のステータスを見ても問題無いじゃろう?」


 魔法と唱えるて、ずいっと詰め寄り私にステータス表示を見せつけてきた。


 えぇ。そんなの見せられなくとも体調も気力も万全ですとも…。

 ジュジュに関しても大丈夫そうなのは見て取れる…。


「なっ?」


 どうやら、師匠さんの思惑通りシッカリ休憩を取り、バッチリとダンジョン料理で精を付けて、地下六階以降も進行できるように管理されていたらしい…。


 妙に気を使ってくれたり、いつも以上に優しかったのはこの為だったのか…。


「まあまあ!大丈夫だってば!危ないと思ったら私が止めるから!取り敢えず行ける所まで行ってみよー!おー!」


 私の機嫌が著しく悪化したのを見てニコちゃんが割って入る。


 今になって思えば「まあまあ。フィーナは熱しやすく冷めやすいタイプだから大丈夫よ☆ 取り敢えずフィーナの好きにさせて飽きるのを待った方が早いわよ?」なんてニコちゃんの言葉に耳を貸すんじゃなかった…。


 師匠さんは飽きるどころか準備万端で地下六階に突入する気満々だ…。

 そして、自分の発言を誤魔化すようにおどけて見せるニコちゃんにイラっとしたのは言うまでもない。


「はぁ…。仕方が無いですね。でも、ジュジュが危ない目に遭ったら、そこで撤退ですからね?良いですか?」


 だけど、ニコちゃんが言ってた様に飽きるまで付き合うしかないと覚悟するしかなかった。


「おう!任せておけ!この程度のダンジョンで遅れは取らんわ!!」


 でも、この判断が間違いだったと後悔する事になろうとは。

 この時の私は知らなかった。



 ─────地下六階


 この階からは敵の強さが跳ね上がる上に謎解き要素が追加される。

 敵の強さに関しては師匠さん達にとって造作もないと言う感じだったのだけど…。


『左を見ろ』

『右を見ろ』

『上を見ろ』


『バーーーカ!ハズレ!!』


「うがぁぁぁぁぁ!クソはらったつ!!責任者出てこんかぁぁぁぁぁ!!」


 定番のトラップに素直に引っかかる師匠さん達にとっては精神衛生上とても良くない感じがした。


「もぉー。だからさっきの所は左だって言ったじゃないですかー?」


 私がそれとなく正解の方に誘導しようとしたにも関わらず、ズンズンと罠の方に突き進む師匠さん達を制御する事も出来ずに攻略には時間が掛かっている。


「いやいや。あれはこっちだと思うじゃろうが!!チヨ!しっかり記録しておけよ!後で嫌ってほど問い詰めてやるからな!!」


「そうよねー。あれはこっちが正解だと思うわよ!普通は!!」


「まったく。ここのダンジョンマスターは底意地が悪いぜ!見つけたらボコボコにしてやる!!」


 謎解き要素が加わってからは、ずっとこの調子だ。

 お馬鹿の三人衆が尽く簡単な罠に引っかかっては吠えまくっていた。


「もう、謎解きは私に任せてもらえないでしょうか…。」


 さすがに『上は洪水、下は大火事。安全に入れるのはどっちだ?』と言う、行く方向を示したなぞなぞに「そりゃ!山火事だろうが地上を逃げる方が安全じゃろうが!洪水に飛び込むなど馬鹿がする事じゃ!」とか「そうよね!水害の恐ろしさを考えれば山火事の方が生き延びられるわ!」とか「地上なら何とかなる。でも、水中だけは勘弁な!」とか言い出して、正解とは逆方向に進みだしたり…。


 私からすれば「簡単な、なぞなぞも解けないなんて勘弁な!」って感じだ…。


 ちなみに正解は「お風呂」だから安全に入れるのは洪水。つまり湯船の方だ。


 そ ん な 簡 単 な 事 も 分 か ら な い な ん て !


 頭が痛くなった。


 確か次の階からはフロアに設置されたセンサーでエンカウントして敵がポップすると言うのに、この調子で大丈夫なのだろうか…。


「ワケは分からないけど、この難解な謎解きをタエコちゃんが解けるって言うなら任せてみるのも一つの手ね。」


 この階だけでなく、次の階について頭を痛めているとニコちゃんから女神の様な言葉が降り注いだ。


「ニコちゃん!!良いの!?私の言葉に従ってくれるの!?」


 希望の光が見えた。


「そりゃね。タエコちゃんは全問正解なんだから任せた方が、より深くまで潜れそうだしね?」


 ただでさえ普通にダンジョンを降りていくのは面倒くさいって言うのに、イチイチ簡単ななぞなぞなんぞに引っかかる師匠さん達に嫌気がさしていた私にとっては、またとないチャンスだった。


「そうなんですよ!そうなんですよ!この謎解きにはコツが居るから師匠さん達が引っかかっちゃうのは仕方が無いんです! だから謎解きは私に任せて、師匠さん達は私やジュジュに被害が及ばないように戦闘で本気を出して欲しいんです!!」


 思えばこれがトリガーだったのかも知れない。


「うむ。言われればそうじゃの。まだ本気を出しておらんし、さっさと進んで私らの本気をダンジョンマスターに見せつけてやるかの…。」


「そうですよ!師匠さん!さっさと潜ってさっさと帰りましょう!!」


 ぬるい謎解きはここまでだった。



 ─────地下七階


 ついに未到達エリアに踏み入った。

 今回は教会関係者が居ないために地下七階の入口に安全地帯を設置出来ない。


 エリア到達者は記録に残るけど、安全地帯を設置出来た者だけが記録されるので今回は非公式の記録となる。


「のぉー?妙子やぁー?」


「なんですかー?師匠さん?」


「さっきから随分と歩かされてるんじゃがー?」


 長い通路に飽き飽きとした師匠さんが私にだけ聞こえる声で話しかけてきた。


 地下七階は長い。ただただ長い。

 これはハルトさんが以前に私を地下十階に連れて降りた時、ただただ長い通路にキレた事に味をしめて、そう言う仕様にしたからだ。

 通路のどこかにランダムで設置されたボタンを押して解除しない限り、ただただ長い通路が続くと言う仕様なのだ。


「それに地味に敵の現れる間隔が短くなっていてイラっとするんじゃがー?」


「あー。そう言えばそうですねー。地下七階はまだ一定の間隔のはずなんですけど。もしかしたら、どっかの馬鹿が焦って設定をいじってるのかもですねー。」


「あー。それなー。」


 私が前に聞いた仕様だと地下七階は一定間隔でエンカウントされて、ダイスロールで一定値以下だったら敵がポップして出現ごとに一定の割合で敵が強くなるって話だったのだけど、明らかに何か数値が変更された様な感じがする。


「アレかのぉ?ナメてんのかのぉ?」


「うーん。と、言うか焦ってるんじゃないですか? 地下七階は予定だと今月末くらいから安置を設置出来る様に難易度を調整するって言ってましたしー。」


「いや。焦ってるならもっと頑張れよって感じなんじゃが?どう考えても嫌がらせじゃろうが?」


「アレですよ。ニコちゃんやニナさんも居るし、ジュジュも居るから振り切った設定にするにもアレな感じじゃないですかねー?」


「そうなのかのぉー?まあ、この程度が続くならサクっと地下十階まで行って帰るかのぉ?って。クソ…。鬱陶しい!!!」


 ダイスロールに失敗したのか数メートル先に敵がポップした。

 それにいち早く気がついた師匠さんが斬りかかる。


「敵か!!私にも殴らせろ!!」


 同じく長い通路に飽き飽きしていたニナさんが続いて走り出した。


「クソ!!私にも残しとけよ!!」


 かなり、敵の強さも上がっているはずなんだけど、師匠さんの手に掛かって瞬殺(しゅんころ)


 謎解きと言っても地下七階は、ループを解除する為のボタン探しだから体感的には凄く楽なんだけど…。


 師匠さんの本気加減を見ていると早くボタンを見つけないと大変な事になりそうだ。


「ったく。さっきの階と良い!この階と良い!クソみたいな仕掛けを仕掛けよって!聞こえてるんじゃろ!?ヤルならヤルでガンガン来んか!!まどろっこしいわ!!」


 って、吠えちゃってるし。


 だけど、その叫びも虚しくダンジョンに響くだけだった。

 きっと、裏ではどこかの引きこもりがてんやわんやで焦りまくって、どれどころじゃないんだと思う。


 微妙な間隔で湧く敵にイライラしながら怒りを叩きつける師匠さん。


 私とジュジュは解除ボタンを見逃さないよう探し回るしかなかった。



 ─────地下八階


「ほぉ…。これは面白いのぉ…。」


 ただただ長い通路が続いた地下七階で必死こいて解除ボタンを見つけた何とか私達。


 地下八階に降りて私達が見たのは延々と続く肉の壁だった。


 私が知っている仕様とはまるっきり別物。

 全てが変更されていたのだ。


 階段を降りて広がる少し広めのフロア。

 そこから続く一本道の通路。

 その通路を埋め尽くすムキムキのグレーターデーモン達。

 黒光りする筋肉が闇の中で蠢いている。


 フロアで動き回っている分には向こうから襲って来る事は無い。

 だが、満員電車に詰め込まれたボディビルダーの群れを想像して頂こう。


 分かるでしょ?

 すっごいむさ苦しい…。


 黒光りする筋肉が汗なのかオイルなのか分からないけど黒光りしている。

 そして、時折 ひしめき合いながらも行われるポージング。

 ニカっと白い歯を見せて…。


 実に…。実に暑苦しい…。


「のぉ。面白いのぉ。妙子や。良いかの?本気を出して良いかのぉ?」


 正直、この仕様変更はやり過ぎだと思う。

 明らかに師匠さんの何かに火を付けてしまった…。


 多分、焦ったハルトさんがありったけのグレーターデーモンを投入して通路を埋め尽くしたのだろうけど…。


 地下八階はあの曲がり角の先の先までグレーターデーモンで埋め尽くされているに違いない…。


 もう、やるしかないのだろう…。


「うーん。是非もなしですね…。」


 こんなのを見せられては師匠さんを止められない。

 いや。止まるはずもないと感じた私はそう言うしかなかった。


「フッハハハハハハ!!!ダンジョンマスターよ!!!その愚行を地下の底で悔いるが良い!!焼き尽くしてくれるわ!!!」


 本当にキレた師匠さんが杖をどこからか取り出し身構えた。

 次の瞬間、私達が薄い膜で包まれたかと思うと同時に眼前が炎の渦に包まれた。


「ふん!ざまぁないのぉ!!」


 一瞬で吹き飛んだ。

 通路の奥まで埋め尽くされていたグレーターデーモンが。


 辺りには熱と肉が焦げる臭いに包まれている。

 師匠さんが張ったマジックシールドの様な物で緩和されていると言うのに、ジリジリと伝わってくる熱と臭いが事態の凄惨さを伝えていた。


 勝ち誇った様に師匠さんが一歩進む。


 ・・・・・・。


 敵がポップした。

 また、通路がムキムキのグレーターデーモンで埋め尽くされたのだ。


 こ れ は 酷 い !


 引くわー。

 ホントに引くわー。


 無詠唱で一瞬にしてグレーターデーモンを薙ぎ払った師匠さんも師匠さんだけど、それを受けてかエンカウント一歩で同じ数のグレーターデーモンをポップさせる運営陣にもドン引きだ!


 消耗戦ほど無益な戦いは無いと言うのに焦りすぎでしょうが!?


 だけど、私のドン引きを他所に…。


「アーッハッハッハ!!面白い!!!どっちの力が尽きるのが先か!!やってやんよ!!!」


 消耗戦が始まった。


 一歩踏み出しては業火で薙ぎ払われるグレーターデーモン。

 一歩踏み出してはポップしてグレーターデーモンが再配置される。


 一歩一歩、機械的に繰り返される惨殺。


 受肉して現界した魔性生物が死の瞬間に放つオドからは黒いマナが溢れ出して一帯を侵食していた。


 もし、師匠さんがマジックシールドを張ってくれていなければ私も黒い魔力で酔っていたかも知れない。


 もちろん、魔力耐性の低いジュジュは当然として、歴戦の冒険者であるニコちゃんやニナさんも危なかったかも知れない。


 マジックシールドの強度が徐々に上がっている事を考えると、まだ師匠さんには後衛の様子を見て配慮するだけの余裕は有るのだろうが…。


 だけど、師匠さんの怒りを表すかの様な業火の進軍は止まらなかった。


 一歩進むごとに敵の支配地域は狭くなり、狭くなった通路に同じ数のグレーターデーモンが詰め込まれる。


 そして、業火に加えてグレーターデーモンが発する熱が通路に立ち込めて温度を上げる。まるで真夏の満員電車に押し込まれたボディビルダーの如く。


 それは正に地獄絵図だった。


「クソ…。邪魔じゃ…。」


 一瞬、立ち止まり師匠さんが何かを唱えると物理防具が消えた。


 そして、胸のトップを申し訳程度に隠すチューブトップとミニスカート…と、言うには心許ない「布」を身に着けた師匠さんが再び一歩一歩と歩みを進めた。


「な!?フィーナ!リミッターを外すって言うの!?ダンジョンごと吹き飛ばすつもり!?」


 その姿を見たニコちゃんが取り乱した。


「リミッター?どう言うことですか!? もうお子様には見せらんないくらいにリミッター外れてますけど!?」


 確かに見えそうで見えない感じの布は痴女度をアップさせた気もする。

 でも、どっちかと言うとビキニアーマーの方がぶっちゃけ直接的な感じがしてヤバかった。

 私から言わせればどっちもぶっ飛んだ痴女には変わりない気がする!


 今の恰好もビキニアーマーも羞恥心のリミッターが外れた、最初からクライマックス状態なのですが!?


 と、ツッコミたくなったけど、ニコちゃんの言葉にはもっとヤバげなワードが含まれていた。


 ダンジョンごと吹き飛ばす?


「普段の装備もそうだけど、今日のアレもフィーナが本来のチカラを封じる為のリミッターなの。そのリミッターが外されたと言う事は…。私達では彼女の本来のチカラを抑え込めないわ…。」


「そんな…。」


「今はまだ自我を保っているけど…。最悪の場合は…。」


 地獄と化した地下八階。


 溢れるマナと濃い魔力が通路を包み、それを取り込みながら一歩、また一歩とグレーターデーモンをなぎ払いながら進む師匠さん。


 私達は地面に残る熱を感じながら私達は師匠さんの僅かに残った理性で張られているマジックシールドの範囲から出ないようにと、その後ろ姿を追うしかなかった…。


どうも。となりの新兵ちゃんです。


うん。この前、痴女とかビキニアーマーとか書いた回がアクセス伸びてたからって、今回も痴女とかビキニアーマーとかってワードを入れたワケじゃないですよ?ホントですよ?


ダラダラと進んだ上層を抜けてダンジョン探索もクライマックスです。

大量に召喚されたムキムキのグレーターデーモンも瞬殺で薙ぎ倒して行く半裸の師匠さん。

このままでは地下十階どころかダンジョン攻略しそうな勢いですが、どの様にオチに持って行こうか…。


えぇ。その想像で合っていると思います。


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。

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