其之四|第三章|あんたもか!!!
「ニャーン!」
私と呪々が買い出しに出かけようとドアを開けると入れ替わりでにゃんこ様が入ってきた。
最近は私達が忙しそうだと、気を使って街の方でご飯を食べさせてもらっているらしく見かけなかったけど、通りかかったら何やら面白い事になっていそうだったから立ち寄ったそうだ。
「へー!こっちの猫は話せるのか!」
抱きつこうとした呪々から身を避けてヒラリとにゃんこ様が逃げる。
そのまま素早くハルトさんの膝に座ると「犬が気軽に触れるな鬱陶しい」と言い放った。
「シャァーーーー!!!」
「なにをぉぉぉぉ!?この猫風情が!!!」
激高しつつも、相手にされなかった呪々は耳や尻尾を寂しそうにシュンとさせる。
端から見てると私以外には独り言に見えて実に恥ずかしい状況だ。
ハルトさんも師匠さんも召喚時に付与された犬耳とかの効果で、呪々がにゃんこ様の言葉を聞き取れるのだと分かっては居るみたいだけど、非常に残念な人を見るような感じで呪々を見ていた。
そう言う事も分かって、にゃんこ様も呪々をからかっているっぽい。
「ジュジュ。にゃんこ様のお言葉は私達にしか分からないから。端から見たら猫と本気で喧嘩してるバカに見えるから気をつけた方が良いよ。」
少しジュジュが不憫になった私は玄関横に備え付けられた姿見鏡を指差した。
「・・・・・・。」
私に促され姿見鏡で自分の姿を確認する。
その姿も滑稽だった。
何というのかリアクションが古い感じがした。
トムとマツだっけ?
ルームランナーだっけ?
昔のアニメっぽいアクションと言うか?
耳とか尻尾を大げさにペタペタと障って確認をしている。
アニメだったら目が何重にも飛び出したり、心臓が口から飛び出したりしそうな表情で。
「なぁ?何だこれ?犬耳ってどこ需要なんだよ?」
恐る恐る振り返り私を見つめる。
「いやぁ。私に言われても。まれに召喚の時に使った材料が肉体に反映されるらしいよ?ホラ!私だって猫耳! でも、これのお陰でにゃんこ様の言葉も分かるんだし!悪い事ばかりじゃないよ?ねっ!」
と、励ましてはみたけど、問題はそこではないみたいだ。
「いやいや!犬耳需要なんて無いだろ!?どーして猫耳じゃないのかって!?どう考えても私が猫耳で、妙子が犬耳キャラだろ?」
うん。とってもとってもどうでも良いみたいだ。
「うるさいわ!!犬耳だろうが猫耳だろうがどうでも良いわい!!さっさとメシを調達して来い!!さっさと炭水化物と肉を持って来んか!!」
確かに師匠さんの言う通り。
正直、そんなどうでも良いジュジュのこだわりよりも今は食事の準備だ。
お腹が減ってイライラMAXの師匠さんをハルトさんに押し付けて、私はジュジュの手を引いて街へと向かった。
* * * * *
・・・・・・。
とは、言うものの。
話す事は全く無い。
何となく色々な事情は分かったけど気軽に話せる間柄でも無い。
許すとか許さないとかの問題でも無いと思う。
だからと言って許せるかと言うとそうでもない。
何というか色々な感情がグルグルと回って、どう接すれば良いのか分からなかった。
「同じだな。」
不意にジュジュが口を開く。
「えっ?」
突然の事に私は短く聞き返した。
「いや…さ。通り抜ける風の冷たさも。川の流れる音も。空に瞬く星も。暖かそうな街の光も。私とは関係ない笑い声とかも。タイムスリップって言われた方が納得しそうなくらい一緒だ。異世界だって分かるのは魔力がこんなにも満ちてるくらいで。」
サァッと風が私達の間を駆け抜ける。
一瞬、風の精霊が笑っている様な気がした。
私はそこまで考えた事が有っただろうか。
誰かさんの呪いのせいで、それどころじゃなかったって言うのも有ると思う。
でも、この世界が異世界なのだとシミジミと感じた事は無かった。
それは、ジュジュが魔力が無ければ生きていけない生き物だからかも知れない。
それは、ジュジュが外側から人間の世界を見ていたからかも知れない。
だから、ジュジュは素直にこの世界が異世界だと感じられたのかも知れない。
ジュジュに言われて改めて。
この世界が私達が育った世界とは違う異世界なのだと実感させられた。
「ちょ!何で泣き出してるの!?やめてよ!妙子!?ほら!みんな見てるから!!」
なんだろう。
ジュジュに言われて色々な気持ちが溢れてきた。
「だって…。だって…。違う世界なんだよ?ここで生きるって決めたけどさ…。でもさ…。多分さ。もう、戻れない。お母さんともお父さんとも会えない…。戻れないんだよ…。」
こっちに来てから度々有る情緒の崩れ。
ふとした時に精神が揺らいで恰好悪い自分になってしまう。
この子の前で弱い所なんて見せたくないのに。
弱みなんて見せたくないのに。
涙が止まらない。
壊れた様に。
「わかった。わかったから。取り敢えずコレで涙を拭いて。お姉さまとかハルトも戻る方法を考えてるんだろ? まだ、諦めるには早いだろ?」
何だか良く分からないけどジュジュに慰められると言うワケの分からない状況。
変な状況にフヒフヒと笑いそうになる…。
ジュジュの言う通り落ち着こう。
差し出されたハンカチを…。
ハンカチを…。
ハンカチを見た…。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!? どき☆プリ~EternalWind~だとぉぉぉぉぉぉぉ!?」
全てが引っ込んだ!!!
涙も鼻水もジュジュへのモヤモヤっとした気持ちも!!
差し出されたハンカチに印刷された「どき☆プリ~EternalWind~」の文字!
そして、私が見た事の無い「柏木 翔」きゅんの新イラスト!
そして、コピーライトマークの横に有る「どき☆プリ2制作委員会」!?
はぁ!?公式だとぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
同人じゃない?同人じゃないだとぉ!?
意味が分からない。
意味が分からなかった。
私が「どき☆プリ~君に決めた!~」に出会ったのは中学一年の時。
そう。時代はガラケーとスマホが混在する混迷期。
ガラケー時代の終末にリリースされたソシャゲの乙女ゲー。
私を腐女子と言う泥沼に叩き込んだソシャゲ。
それが「どき☆プリ~君に決めた!~」だった。
中学一年だった私が親に初めて買ってもらったガラケーでハマりにハマったソシャゲ。
親に内緒でクレを切り、五万もガチャに突っ込んだ夏!
水着ピックアップと書いてあるのに通常の☆5すら出なかった夏!
クレカの請求書を見た両親に凄く怒られた夏!!
お小遣いを一年間も貰えなかったのも今となっては良い思い出だ。
何万突っ込んでも水着なんて出ねぇ!!
何十万突っ込んでやっと水着出た!クソシャゲ!!
復刻とか言っていつものしか出ねぇじゃねーか!!ゴミが!!
と、スレが荒れる中で初春に突然リリースされた携帯用ゲーム機版!!
それが「どき☆プリ~どこでもいっしょ!~」だ!!
当時の「どき☆プリ」ファンは狂喜乱舞した!!
私もマンガとかゲームとかを売ってお金を工面して手に入れた!!
だけど、延々と続く薄い本編。
薄い本的な意味じゃない。
本編の内容がことごとく薄くて酷い。
そして超難易度のミニゲーム。
オマケじゃない。それをクリアしないと先に進めないクソゲ仕様。
そして発売日の当日から売り出されるDLCの嵐。
ミニゲーム免除キーなんてモノまで発売されて、一つのミニゲームをつき八百円と言うボッタクリ価格で売られると言う極悪さ。
しかも、DLCの追加シナリオは本編をクリアしていないとプレイ出来ないと言う鬼畜仕様な上に、音声は入っておらず追加絵は一枚で、本編の使い回しと言う低クオリティ。
泣いた!中二を目前とした春休みに私は泣いた!
もうやめよう。もう「どき☆プリ」に関わるのは。
そう思い中学二年生となった私は平穏な日々を過ごしていた…。
だが、突然発表された秋アニメ
「どき☆プリ~FirstDrop~」
最高だった…。
低く見積もっても最高だった…。
今までの所業が嘘のように最高だった!
一度は挫けて離れてしまった私だけど…。
もう一度追いかけようと。
もう一度だけ信じてみようと…。
だって、ファーストドロップだよ?
これは二作目も有ると思うじゃない!?
待った。私は待った。
中学生の私には待つと言うその時間も楽しかった。
お金の無い私は中古のDVDを少しずつ集めた。
ドキドキしながら初めて買った薄い本。
学校では希少な「どき☆プリスト」の友達とコピー本も作った。
たまに投下される公式からの意味ありげなツイートに心を躍らされた。
それが何の修正も追加要素も無いBDBOXの発売告知でも嬉しかった。
でも、新作が発表される事は無かった…。
キャラデザの松坂絵師がクリスマスやお正月とかのイベント時に投下するイラストだけが心の支えだった。
それが…。
それが…。
私がこっちに来ている間に何があった!?
いや。良いの。良いの。
向こうのコンテンツは諦めるって決めたんだもん。
こっちの世界で生きていこうって決めたんだもん。
良いの!良いの!良いの!
だって、向こうに戻れる可能性は低いのだから!
でも…。
でも、これは酷い…。
諦めていたのに…。
もう、新作なんて無いって諦めていたのに…。
なぜ、ここで燃料が投下されるの!?
ここは異世界だよ!!
どうして異世界で燃料が投下されるのか意味がわかんない!!!
追加燃料が届かないこの世界で燃料投下されて私にどうしろと!?
長年の想いが爆発寸前の私!!
その溢れんばかりの思いを押し殺し静かにゆっくりと聞いた。
「じゅ…じゅじゅちゃん…。これはいったいなんなのかしら…。どうしてしょうきゅんの新イラストが…。えたーなるうぃんどーってなんなのかしら…。「どき☆プリ2制作委員会」ってどういうことなのかしら…。」
いや。わかっている。わかっている。
そういう事なんだ。
私達が待ち望んでいた願い。
それが成就されたのだと。
「妙子…。もしかしてお前…。」
「そうよ!私は「どき☆プリ」が大好きよ!!「きみきめ」からずっとずっと!!なのに…。なのに…!!私の居なくなった世界でエターナルって!!!どうなってるの!?「どき☆プリ」に何があったの!?」
「マジか…。伝説の「きみきめ」の生き残りだってのか…。」
何かが通じ合った。
抱きしめられた。
強く優しく。
きっとジュジュも私と同じなんだろう。
ジュジュがどこからのファンなのかは分からない。
いや。どこからのファンだって良い!
きっと「どき☆プリ」の続編を待ち望んでいたファンだと言う事に変わりは無い!
「良いか。良く聞け。私達の願いは叶った。続編はこの秋にスタートしたんだ。第一期が始まったあの秋のように。きっと今頃は画面の中で、しょうきゅんが、たろちゃんが、アキにぃが、ヒロぽんが、マイケルが、ロドリゲスが、動き回ってるだろうさ…。」
秋から…?
だろうさ…?
もしかして…。
もしかして…。
「ジュジュ…。もしかして…。あなた…。」
必死に堪えていた。
今にも泣き出しそう程。
瞳に涙を浮かべて。
「あぁ…。見られなかった。楽しみにしてたんだけどなぁ。昨日の初回放送。」
泣いた。
私達は抱き合って泣いた。
なんと、昨晩が「どき☆プリ~EternalWind~」の初回放送だったのだ。
何という運命のいたずら!!
何という驚愕の事実!!
何という残酷な運命!!
異世界の片隅で「どき☆プリ」と言うコンテンツを愛した二人の腐女子が泣いた。
待ち望んだ続編を。
もう見る事の出来ない二人が。
二人の間にはもう。
過去のワダカマリなど無かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ただいま戻りましたー!」
意外な接点が発覚した私達は過去の遺恨を水に流すことにした。
まだ、ぎこちないものの趣味を介してある種の友情が芽生えたのは確かだと思う。
何とも言い難い気持ちが残っているのは確かだけど、待ちに待ったタイトルの初回放送を見逃した上に、コンテンツの配信が壊滅的に無理な異世界へ召喚されると言う不幸に見舞われたジュジュの気持ちを思うと、これ以上責める気にはなれなかった。
「おっそいわ!さっさとメシー!メシの支度をするのじゃー!」
家に戻ると、にゃんこ様と遊んでいたと言うか遊ばれていた師匠さんが足をバタバタさせながら子供の様に騒ぎ出した。
「はいはい。今準備しますねー。コレでも食べて待ってて下さい。」
こんな事もあろうかと、街で買ったコロッケのような物を師匠さんに差し出す。
ポテトボール。
それは、じゃがいもと牛ひき肉とナッツを団子にして揚げた物で小腹が空いた時にオヤツとしても便利な一品だ。
とは、言ってもコレだけじゃ足りないのは師匠さんの口に消えていくスピードを見ても明らかだ。
師匠さんがポテトボールに飛びついている間にキッチンに移動して夕飯の準備を始めた。
「妙子。材料はテーブルに並べておけば良いか?」
荷物持ちをしてくれていたジュジュが私の答えを待たずにキッチンのミニテーブルに並べだす。
「ありがとう。適当に並べておいて。」
まだ、言葉の端々が固いのは仕方ない。
許すとは決めたけど、どう接して良いのか悩ましい。
普通に接してくるジュジュに困惑しているのが正直なところだ。
でも、何気に必要そうな物から並べてくれるジュジュの心配りが嬉しかった。
狙ってやってるのか、自然とやってるのかは分からないけど、意外と気配りが出来るタイプなのかも知れない。
「おかえり。妙子ちゃん。何か手伝おうか?」
下ごしらえをしていると、にゃんこ様に師匠を押し付けて雲隠れしていたハルトさんがヒョコっと顔を出した。
「こっちは大丈夫ですよー。それよりも!ちゃんと師匠さんのお守りをしてて下さいよー!帰ってきて、たちまち絡まれるとか勘弁してくださいよー?」
「いやぁ…。不機嫌な時の師匠は手がつけられないからね。あはは…。」
と、笑って誤魔化すと、食事の準備をする私達を見守るかのようにキッチンの入口から動かずに居る。
これ以上、師匠さんを待たせて暴れられても面倒だからハルトさんの事は気にせずに、ジュジュに豚肉を切り分けてくれるように指示した。
私は私で油を火にかけると、手早く薄力粉と片栗粉を篩かけて混ぜ、卵やお水を準備するとボールに卵、お水、粉の順番で混ぜ合わせる。
粉を入れた後は混ぜすぎないのがポイントだ。
混ぜすぎると、グルテンが発生してカラっと上がらない。
グルテンの発生を抑える為の工夫としてもう一つ。
少し大きめのボールに水を張って…。
「アイスフリージング。」
魔法で凍らない程度の調整して水の入ったボールを冷やす。
本当ならアンチマジックシールドで魔力の影響を軽減した方が良いのかも知れないけど、この家には魔法使いしか居ないし、ジュジュもいわゆる魔力を摂取する生き物なんだから大丈夫だと思うから省略しておいた。
「ほほー。今日の夕飯はてんぷらか?」
キッチンの入口に張り付いたハルトさんが準備を見て今日のご飯を言い当てた。
どうしたものか。このダメな大人は…。
リビングに戻って師匠さんの相手をしてて欲しいと言う意味で、お手伝いを断ったと言うのに何もせずにボーっと同じ位置に立ってる。
いや。分かるんだよ?分かってはいるんだよ?
家を出てジュジュが「どき☆プリ」ファンだと言うのを知るまでは、待ち望んだ「どき☆プリ」二期の初回放送を見られずに、こちらに召喚された事実を知る前の私なら今もジュジュを許せずに居たと思う。
ハルトさんが心配して顔を出し、今も見守ってるつもりなのは分かる。
分かるんだけど…。
この視線だけで分かる。
「もぉ!いい加減うっとーしいです!さっきからニヤニヤしてるっぽい視線が絡みついて!もう大丈夫だからリビングで師匠さんの相手してて下さい!!」
それとなく和解した私達の様子を見て「ほほーん」とか「へー」とか言ってる様なニヤニヤした視線がキッチンに顔を出した時から鬱陶しかった!
気持ちは分かる。
仲違いしていた人が仲直りしていたらイジってみたくなるのは。
私だって他人事ならそうするだろう。
だが!当事者としては、そっとしておいて欲しい!!
「はいはい。大丈夫ってなら良いけどね。まあ、何かあったら呼んでくれたまえ。」
その語尾よ!!
私の言葉を受けてリビングに行ってくれたのは良いけど、語尾からも面白がっているのが見て取れた。
変な所で調子に乗らなかったら良い人なのに。
心配して様子を見に来てくれたのには感謝している。
だけど、人と人との距離が近づくと距離感を見誤る的な部分がいかにも引きこもりって感じがして、少しイラッとしてしまう。
私は、その恥ずかしさと言うか鬱陶しさと言うかイラっとした気持ちをエビの背わたに全てぶつけた。
「まったくもぉ!まったくもぉ!まったくもぉ!」
あっという間に処理されていくエビの山。
次々と処理されていくエビを見ながらジュジュがクスっと笑った。
私も同じ光景を見ていたら笑ってしまうだろうけど、色々とご立腹だった私はムッとして無意識にジュジュを睨みつけていた。
「いや。悪い。妙子は相変わらず美味しい感情を垂れ流してくれるんだなと思ったら面白くて。それに。それを引き出すアレもアレだよなぁ。あんなマスター…。と、言うか彼氏だと苦労も多そうだね?」
「なっ!彼氏じゃないし!!」
元々、感情を喰らうと言っていたジュジュだけに感情には敏感らしい。
どんな風に感じているのかは分からないけど、私の感情は筒抜けっぽい。
「おやおや。私はてっきり…。っと。これ以上は言わない方が懸命かね?」
何か知った風に今度はジュジュがニヤつく。
同じ趣味を持った同志だけど、やっぱりこの子は好きになれそうにない。
私から感じた感情である程度分かっていてそんな事を言い出して…。
恥ずかしさを誤魔化すかの様に私は野菜の下処理に没頭する事にした。
って、言うかアレはどうなったんだろうか…。
昨晩、私は結構思い切って気持ちを伝えたはずなんだけど…。
って、言うかハルトさんのアレは私のアレに対する返事だったんだよね?
そのワリには、ハルトさんが平常運転すぎる。
こう言っちゃなんだけど、童貞(仮定)でコミュ障気味なハルトさんが、こんなに可愛い妙子ちゃんに告白されてドギマギもせずに、いつもと同じなんてどう考えてもおかしい…。
そう言えば、ハッキリとハルトさんの気持ちを伝えられた記憶がない。
『妙子ちゃん。俺と一緒にこの道を歩いてくれるかい?』
あの時の言葉が脳内でリフレインする…。
いやいや!脳内で繰り返し再生してる場合じゃない!!
アレはどう言う意味で言ったのだろうか!?
一見、プロポーズにも似た…。
そう!「一生、俺のために味噌汁を作ってくれないか?」みたいな感じで受け取っていただけど、「俺と一緒に」の前に何が付くのかで意味合いが変わってくる…。
師弟としてなのか。
恋人としてなのか。
伴侶としてなのか。
伴侶!伴侶って!!
まあ、それは良い。落ち着け…。落ち着くのよ!妙子!!
ハルトさんの事だ…。
単に私が魔法使いとして歩み出す一歩を不安に感じているだけだと受け取った可能性は無いだろうか?
私の一世一代の告白を「あははー。妙子ちゃんもやっと事の重大性に気がついて不安になっちゃったかー。こいつめー♪ここは師匠らしく良い事っぽい感じの話をしておくかー!」みたいな感じで受け取った可能性は無いだろうか?
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
気がつくと軽く奇声を発してテーブルに頭を打ち付けていた。
「え?あ…。だ…大丈夫か?」
そして、ジュジュに変な気を使わせてしまう大失態。
「うん。大丈夫。ちょっと人生の不条理にぶち当たっちゃっただけだから…。」
「おっ…おぅ…。」
あぁ。そうだろう。
私もこんな人にどう声をかけて良いのか分からない。
「あぁぁ!もぉ!揚げるよ!油切りバットを持てい!!」
不意に思いついた最悪の可能性。
私は、どこにぶつけて良いのか分からない感情を「テンプラアゲル」と言う行為にぶつけるしか無かった。
このあと、めちゃくちゃてんぷらあげた…。
* * * * *
私は揚げた。
黙々と。
鬼神のごとく。
鍋をもう一つ追加して。
それはもう。
本物の鬼が引くくらいに。
揚げては上げて次を揚げ。
肉、野菜、エビ。
買ってきた食材を揚げきると備蓄食料の燻製やら餅まで揚げた。
やりきった…。
「おまちどうさま!妙子ちゃん特製てんぷら!塩とか馬鹿な事は言わずに天つゆにどっぷり浸して召し上がれ!!」
「おぉ!待ってたぞ!天麩羅とは懐かしいの!」
私がリビングにてんぷらを運ぶと師匠さんの歓喜の声が響く。
メニューのチョイスとしては悪くなかったみたいだ。
こっちにもてんぷら的な物は有るけど、どちらかと言うとフリッターっぽい。
基本的に同じ素材を使っていてもフリッターとてんぷらでは全然違う。
師匠さんも同じ世界から来たならと和食を選んで正解だったと思う。
「ぬぉ!この薄くまとった衣が良いの!!天麩羅ってこんなに美味かったか!?」
歓喜の声を上げながら次々と師匠さんのお腹にてんぷらが消えていった。
ここまで喜んでもらえると作った私としても嬉しい。
「うん。悪くないね。この豚の天ぷらも変わってるけど意外を合うな。」
豚肉が安かったって言うのも有るけど、何かで読んで食べたかった豚のてんぷらにチャレンジしてみたのも成功っぽい。
豚の天ぷらをひとつ取ると味を確かめる。
味見の時は天つゆにつけなかったけど、天つゆとの相性も悪くない。
乾燥しいたけ、乾燥昆布、煮干しを水に漬けただけで出来る水出汁と、自家製の醤油に少しお酒と砂糖を入れた天つゆが、軽く胡椒を振って揚げた豚肉に絡まり、丁度良い塩味と甘味が口の中に広がる。ピリっとした胡椒の香りもアクセントになって面白い。
魚介系の出汁を使った天つゆと豚の脂が口の中で噛みしめる程に融合して美味しさを更に引き出してくれる。
これはアレかな?ラーメンとかと同じで魚介系の食材と獣系の食材が合わさって旨味の相乗効果をみたいなアレかな?
ぼんやりと何かで読んだ理由が頭に思い浮かぶ。
でも、今の私にはどうでも良かった。
美味しい理由や理屈は有ったと思う。
けど、今はみんなで美味しく食事が出来ると言う事の方が重要だった。
昨日、ジュジュを召喚した時には、どうなるかと思ったけど…。
食事をする師匠さんを嬉しそうに見つめているジュジュの様子を見る限りでは、これから何か問題が有っても、なんとかやって行けそうな気がする。
綺麗に箸を持ち、師匠さんを見つめながらも、ゆっくりと食事をするジュジュ。
その立ち居振る舞いにジュジュの本質の様なモノを感じた。
精神を病んでネジ曲がった後でも抜けない所作。
それが本来のジュジュなんだろう。
食事する姿も綺麗な様子に本当は真面目で一途な良い子なのかも知れないと感じずには居られなかった。
彼女の本質を知ろうとジュジュを見ながら、てんぷらをバウンドさせて天つゆまみれになったご飯を口に運んでいると不意に目が合う。
一瞬、キョトンとしたかと思うと何かを納得した様にニコっと笑い、ウィンクをされた…。
ちょっと待って?
ジュジュ?今、あんた何を理解した?と、言うか勘違いしたの?
その一連の流れは何か良くない予感が…。
ジュジュを連れ出して確認しようと席を立とうとした。
その時。
「ねえ?ハルトさんと妙子って付き合ってるんでしょ?どこまで行ってるの?」
前触れもなく。
いや。前触れはあったけどさ!
突然、ド直球で核心を突いた質問を投げてきた!!
「「「 ブフゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」」」」
思わず、まだ口の中に残っていたお米を吹き出しそうになる。
それを必死に口を閉じたもんから、鼻腔にお米が入り込んで死ぬほど痛い!!
みんなのいる前でフン!なんて出来ないからスンスンするけど引っかかって喉に中々戻ってくれなくて苦痛が継続する!
ジュジュの一言で食卓は阿鼻叫喚地獄と化した!
さすがの師匠さんも、聞かれたハルトさんも吹き出しそうになったのを必死で堪えて、口の中とか鼻腔の中とかが大変な状況で転げ回りそうだ!!
「ゲホゲホ…。どこまでも何も…。ゲホ…。」
周りの状況など気にせずにフンフンして鼻腔に入った異物を排除したハルトさんが何とかそれだけを発した。
肝心なのはそこからよ!
爆弾を投げたなら最後まで聞き出しなさいよ!
何とか鼻かみ用の紙を取り混乱に乗じて鼻をかんでスッキリした私は意を決してジュジュにアイコンタクトを送った。
いきなり、あんな事をみんなの前で聞かれて、正直怒りも有る。
だけど!
こうなったら仕方がない!
毒を食らわば皿までだ!
私とハルトさんの曖昧な状況を解決してくれるなら乗っておこう!
畳み掛けなさいとアゴをクイっと上げる。
だが、ジュジュの口から発せられたのは思いもよらない言葉だった。
「だったら~?私にしておきますぅ?私なら二四時間いつでもオーケーですよ?」
いつの間にかジュジュがハルトさんにマウントを取りながらそう言って迫った。
ガッデムシーーーーーーーーット!!
サノバビーーーーーーーーーッチ!!
日本語訳すると「畜生!このクソ野郎!お前の母ちゃんデベソ!!」だろうか。
ジュジュの発言を聞いた私の頭に上品では無い英語の煽り文句が思い浮かんだ。
お尻の穴から腕を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせますわよ?的な英語の煽り文句が思い浮かばなかっただけマシだろう。
肝心な事を聞き出さずに何を言い出してるの?コイツは!!
何が二四時間オーケーなのか正座させてジックリ二四時間聞こうじゃないか!!
私がジュジュを引っ張り出そうと立ち上がった!
が、その前に師匠さんが割って入った。
「何を馬鹿な事を行っておる!チヨ!!いい加減にせんか!!」
窓が響くかと思うほどの大声でジュジュを叱りつける。
あぁ。師匠さんは頼りになる。
床に押し倒されてアワアワ言ってるだけのハルトさんとは大違いだ。
と、思ったのが甘かった。
「そいつは十年前から私の物だ!!そいつが欲しくば私を倒してから言ってもらおうか!!」
まさかの師匠さん参戦…。
どこから出したのか竹刀を持ち一部の隙もない構えでジュジュを睨みつける。
「フッ…。再びお姉さまと剣を交える事になるなんてね…。」
近くに有ったモップを構えるジュジュが鼻を鳴らして恰好をつけていた。
いや!あんた!モップで恰好付けても微妙なんですけど!?
お酒も入ってないのにこのテンション。
女性が三人集まればかしましいと言うけど、この二人は例外だ。
一人でも十分な気がする。
一人でも十分に面倒でうるさい気がする。
この二人をこれから私が相手にしないといけないのかと思うと頭が痛い。
騒動に紛れてどこかに逃げたハルトさんの行動を見れ明らかだ。
なし崩し的に私に面倒を押し付けられるのは。
「いくぞ!チヨ!」
「お姉さま!お覚悟を!!」
交わる竹刀とモップ。
リビングを縦横無尽に飛び交う二人。
「って、言うか…。後片付けするのってやっぱり私なんだろうか…。」
器用に割れ物は避けて繰り広げられる激闘。
激しい戦いをリビングで楽しそうに繰り広げる二人の顔。
「まあ、良いか…。」
何となくそう思った。
二人にとってはお遊び的な部分も有るのかも知れない。
でも、そんな風に素直に感情をぶつけ合える二人が少し羨ましかった。
いつか、私も誰かと素直に感情をぶつけ合えるようになるのかな。
そんな事を思いながらキッチンでコーヒーを淹れ、二人の剣戟を日が変わる頃まで見守るのだった。
どうも。となりの新兵ちゃんです。
私もですけど、うちの登場人物は深く考えません。
深く考えても肩透かしを喰らうのが定めだと思います。
と、言う事で一定のワダカマリが溶けるのもこんな感じで良いよねー。みたいな感じで妙子ちゃんとジュジュには一定の和解をしてもらいました。
和解したので、ここから色々と一緒に動いてもらいたいのですが、次回以降どうなるかまだ決まってません。
風邪で寝込んでたしね!!
無理やり持ってく方向だけは決まってますが、どう動かそうかはサッパリ…。
体調は落ち着いてきましたが、完治してないので、今週末書けるかどうか。来週中に進めることが出来るか分かりません。
場合によっては来週もおやすみさせて頂くかも知れませんがご理解頂ければと思います。
そうならないように、ちょこちょこ書ければ良いですけど、今週迷惑かけた分、本業で頑張らないとなので、どうなるかは…。
取り敢えずは、体調の回復と仕事優先とさせて頂きます。ご了承下さい。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




