其之四|第四章|そうだ!ダンジョンに行こう!
ジュジュとの和解から数日。
時間は平穏に流れていた。
魔王の再来が~とか。
王への報告が~とか。
時空の歪みが~とか。
つい数週間前までバタバタしていたのが嘘かのように平和だった。
実年齢が百歳超えの熟女コンビが時折ハルトさんをからかって遊んでいるけど、そんなのは些末な問題で、地味に鬱陶しい以外の被害は無い。
実に平和だった。
ジュジュもこちらの世界に慣れてきたようで、私の知らないお店なんかを見つけてきては教えてくれる。
こんな平和が続くものだと思っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ヒマすぎる!!」
ある日の午後、ジュジュが吠えた。
「ん~?暇だったら掃除とか商品補充とか考えて仕事してねー?忙しさとか見ながら休憩取ってくれても良いけど。店から離れなければ基本的に自由なんだから考えて仕事してよー?」
そんな事を言ってるんじゃないのは分かって居たけどテンプレで返事をしてみる。
忙しさが落ち着く昼からの時間は、お店の様子を見ながらリビングで魔法の勉強をする貴重な時間だ。
出来ればジュジュの相手なんてせずに勉強に集中したい所なんだけど、こう言ったやり取りが最近の定番となりつつあった。
「仕事は完璧にやってますぅ~。お店もピカピカなら商品だってバッチリ綺麗に並んでますぅ~。」
その度にちょっとスネるジュジュがちょっと可愛くもあるけど、こうも続くと少し鬱陶しいのは言わずもがなだ。
「あのねー?何度も何度も言ってるけど、剣や魔法が身近な世界だからって、基本的には普通の日常が普通に過ぎてく普通の世界なんだから。何か事件が起こったり世界の危機がなんてのは物語の世界のお話なの。何か有ったとしても明らかにザコキャラのあんたに何か事件や冒険に巻き込まれるなんて事はないのよー。」
と、言って聞かせるのがいつもの流れだ。
「何も無いなら自ら動けば良いじゃん!折角、身近にダンジョンが有るんだからさ!ヤル前から諦めるとか現代っ子か!!チャレンジしようよ!もっと熱くなれよ!!」
この流れがここ数日繰り広げられていた。
今日は鬱陶しさが三割増しだけど、ジュジュとしては剣と魔法の世界と言う環境の中で「ダンジョン」と言う魅力的なワードを目の前に置かれて店番しかさせて貰えない現状にご不満らしい。
分からなくもない。
確かに、剣と魔法の世界に召喚されたのだから何かしらの冒険が待っている的な期待をするなと言うのは酷な話だ。
だけど、実際にはラノベの様な展開など無いと言って良い。
あれは、主人公が居て物語を進めるために発生する「お話」なのだ。
剣や魔法の世界に召喚されたからと言って事件や冒険が待っているワケではない。
そのお話の裏では普通に普通の日常が広がっているのだから。
「わかるー。わかるよー?何か期待しちゃうのはわかるー。でもね?どっちかと言うとあんたって戦闘系じゃないでしょ?この前確認したっしょ?」
「そこが納得いかないっての!!あんだけ派手に登場したのに戦闘技能が全く無しってどういう事なの!?きっと秘められた才能とかが有るってば!!」
「いや。それはみんなそうだから…。店番として召喚されたんだから普通は目的通りの対象が召喚されてるんだし戦闘技能なんて無いってば。」
実際に派手に召喚されようが、地味に召喚されようがあまり関係は無い。
ある種、召喚時のエフェクトって言うのは召喚者の趣味の問題であって、召喚された者の実力とかがそこに加味される事は無いらしい。
「大体、元の世界でもショボい呪いを重ね掛けするくらいしか技能が無かったんでしょ?確かにアレには参ったけどさー。こっちじゃ一瞬で解呪されちゃうようなモノなんだから、そんなの一つを頼りにしてダンジョンに潜ったら瞬殺だよ?」
「ぬぐぐぐぐぅ…。」
呪いに関しては一定の自信があったっぽいジュジュだったが、アンチカースで簡単に跳ね返されたり、幾重にも重ねた呪いですらシーナさんによって一瞬で解呪されると言う事実を知ってからと言うモノ呪いを使って何かをしようとはしなくなった。
それ一つで生きてきたんだから、それを否定され呪いを使うたびにプライドがズタボロになってしまうのをジュジュとしても良しとしなかった結果なんだと思うけど、自分が無力だと突きつけられる度に歯を噛み締めて悔しがるジュジュに同情をしないワケでは無い。
でも、何をしなくとも店番と言う生きる術が有ると言う事実に早く気がついて欲しいと思うのも事実だった。
冒険者と言うと自由で気ままな感じがするけど実際にはそうではない。
確かに冒険やら剣や魔法だけで生きていくと言うスタイルに魅力を感じるのは分からなくもないけど、実際には何かしらの本業を持って副業として冒険者をしている方が多いのだ。
シーナさんは基本的に教会からお給料をもらって活動をしているし、ローズさんはマリスさんの魔術工房でバイトをしながら冒険者をしている。
グリードさんは実は考古学者で、このダンジョンがどの様な経緯で作られたのかを調査する為にダンジョンに潜っている。
リックに関しては何をしているのか分からないけど、裏に相当な資産家のパトロンが居て活動を支援してもらっているらしい。実はどっかの貴族の三男坊で王都からの命令を受けてダンジョンと共に急速発展している街を監視しているなんて話も有るけど、普段のリックを見てるとそれは無いなと思うのは私だけじゃないらしく、信憑性は低いと思う。まあ、お金に困ったら農園で肉体労働をしているのを見かけるからパトロンが居るって言う噂も怪しいものだ。
魔力がほとんど無い、元の世界で魔の者として生き延びてきたジュジュが何かしらの自信とプライドを持っているのは分かる。
でも、私の周りだけを見回してみても簡単に冒険者をしている人は少ない。
冒険者として生きたり、そうじゃなくとも遊びでダンジョンに潜ると言うのは、今の彼女には難しいのではないかと駆け出しの魔法使いである私から見ても明らかだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まあ、行きたいってなら連れて行っても良いんじゃない?」
「ハルト~~~~♪」
「ハルトさん!!!」
こう言う時に空気が読めないのがハルトさんだ。
私が必死に諦めさせようとしているのに、軽く言ってのけた。
「ダメでしょ!ポーターとしても非力だし!それにジュジュの性格からして何も出来ないのに前に出て迷惑かけますって!!」
確かに何が出来て何が出来ないかを知るのは大事だと思う。
でも、ジュジュは私の様に何かしらのオプションで身体能力がブーストされているワケじゃない。明らかに危険だと言って良い状態だった。
確かに魔の者であるジュジュは普通の人間よりもポテンシャルは高いかも知れないけど、現状では一般人と大差ないのだ。何の技術も無い状態でダンジョンに潜るのは違うはずだ。
ダンジョンツアーなんてのも無いワケじゃないけど、アレは何もせずに後ろで守られているのが前提の話で、何も出来ないと理解している人が参加するツアーだ。
自分の存在意義を求めてダンジョンに踏み入ろうとしているジュジュが参加して良いモノでは無いと言って良い。
「妙子ちゃん。それを込みで実力を知ってもらおう。それに妙子ちゃんだけに彼女を任せようってワケじゃない。しっかりパーティを組んで安全なフロアまでと言う制限付きなら何とかなるだろう?」
「それは…。そうかも知れないですけど…。」
そうかも知れないけど納得は出来なかった。
私も人の事を言えないかも知れない。
私もハルトさんに対して駄々をこねる事も有る。
でも、それは自分が出来る範囲を判断しての事だ。
本当に危ないと思うような事には足を踏み入れないようにしている。
ハルトさんと自称魔王の戦いを見たあの日からは…。
「よし。分かった。師匠。お願いできますか?」
いやいや。何が「よし。分かった。」なのかも分からなければ、師匠さんが良い笑顔でサムズアップしている意味も分からない。
「まあまあ。召喚した者として召喚物の心配したり、友達が危険な所に足を踏み入れたがるのを止める気持ちも分かるけど、呪々さんも観光名所を目の前にして見に行っちゃダメと頭ごなしに反対したんじゃ納得できないだろ?自分の実力を思い知る為に一度ダンジョンに潜るのも悪くない。パーティリーダーを師匠にお願いしておけば妙子ちゃんが責任を感じる必要も無いし、師匠が付いてれば最悪でも死ぬ事はないだろから大丈夫だ。俺は色々と忙しいから一緒には行けないけど、ダンジョン探索を楽しんでくれば良いよ。」
と、一気に言い切ったハルトさんは「じゃあ、よろしくお願いします。」と師匠さんに言い残して地下の工房に引っ込んで行った。
私としては根拠の無い言い分に「ちょ!おま!!」と、物申したかったけど、この家の主であるハルトさんの許可を得たジュジュは嬉しそうにピョンピョン跳ねてるし、師匠さんは師匠さんで良い暇つぶしを見つけたみたいな顔でニコニコしている。
ジュジュは良いとしても、師匠さんが乗り気だと言う状況。
どうやら、この決定は覆らないようだ…。
まるでこの物語はダンジョン物だったと言う事を作者が思い出し、強引にぶっ込まれたかの様なダンジョン探索に、私が同行するのも決定事項っぽい。
師匠さんがテーブルの上で書き出しているパーティメンバー表には、私の名前がバッチリ書き記されていた…。
* * * * *
「そんなに心配する事は無いさね。本来なら私の無尽蔵な魔力と超火力が有れば一瞬で攻略される様なダンジョンなんだから心配するだけ無駄ってモノさ。妙子も遠足気分で楽しめばいいさね。」
と、気楽に言ってくれるが問題はそう言う事ではない。
あれ?そう言う事じゃないのかな?
いやいや。私の心配を強引にねじ伏せて推し進められている現状。
私の納得の外側で進んでいく現状にモヤモヤするんだ。
振り上げた拳を引っ込めるにも、もっと丁寧に進めてくれないと…。
現状は、私だけ拳を振り上げてプルプルしているのに、周りで楽しそうに遊びの計画を立てられている感じだから、すっごく居心地が悪い。
「まあ、妙子の気持ちも分からんでもないがな。チヨがあっちでは魔の者に落ちた異質な存在だったとは言え、こっちでは非力なルーキーじゃ。チヨ程度の存在など何処にでも居る。それを自覚する事で開ける道もあるじゃろうて。私の妹分の為に少しチカラを貸してはくれぬか?危険は無い様に責任は私が持つゆえに。」
うん。何と言うか、言い方って大事。
もしかしたら、ハルトさんもコミュ障の自分が言うよりも上手く言ってくれると師匠さんに任せたのかも知れないけど、ハルトさんの言い分よりも素直に心に届いた気がした。
ハルトさんと師匠さん。
言ってる事に大した違いは無い気がするけど、師匠さんの言い方の方が何となく納得出来る感じがするから不思議だ。
いや。ハルトさんの場合、同じ様な事を思っていても、そこまで心配していないのが言葉の端々に透けて見えるからかな? 無責任な印象の上に投げっぱなしだったから納得できなかったけど、師匠さんの場合は少なからずジュジュのこれからを考えて事を進めようとしている印象を受ける。
師匠さんの事だから、面白そうな事を目の前にして適当な事を言ってるだけの可能性も有るけど、師匠さんの言葉は私が拳を降ろす着地点としては十分なモノだった。
「はぁ…。わかりましたよ。今回は協力します。裏側を知ってるから出来ればダンジョンには潜りたくないんですけどね…。」
私がダンジョンに潜りたくないのには、もう一つ理由があった。
ジュジュには面倒くさい事になりそうだと言う事で満場一致でしばらくは伝えない事になっているけど、私達はこのダンジョンの運営者なのだ。
少なからず私もダンジョン運営に関わっている。
召喚の練習やらで召喚された魔物がダンジョン内には放たれている。
その事を考えると、親心じゃないけど自分の手で葬ると言うのは何というか気持ちいいモノじゃない。
「余計な事を考えておるようじゃな。話は聞いておるから分からなくもないが、召喚物に愛着を持ったり感情移入をするのは厳禁じゃ。私らの様な特殊な存在以外は、この世界に限界する為の分け御霊。召喚された者はカーボンコピーであって本体ではない。この世界に現れるために、この世界の法則に合わせて移し替えられた存在じゃ。この世界で事切れれば魂は再び本体に吸収されるのだから気に病む事はない。」
師匠さんの話は召喚の練習の時にルルデビルズさんにも聞いた話だけど、割り切れるかは別の話だった。
理屈は分かっていても、モヤっとするのは死とは縁遠かった元の世界の理屈を、今も引きずっているからなのだと思う。
「ふぅ。仕方ないヤツじゃの。この世界の生物だろうが召喚物だろうが敵対すれば命の取り合いなのじゃ。それでなくとも魔術師や魔法使いは普通の人間よりも自分以外の生命を消費する。個人が他者に影響を及ぼすチカラを持つと言う事の意味を知った上でどの様に運用するか考えて行動をするのが責任じゃろうが? その両手が何者かの血で染まるのは我々だけでなく冒険者全般に言える事。ようはチカラの使い方なのじゃ。チヨの事を心配する前に、妙子は人よりも強い自分のチカラをどの様に運用して、どの様に責任を負うか考えて覚悟するべきじゃな。今回のダンジョン探索もチヨの為でなく自分の為に潜ってみると良かろうて。チカラ持ちこの道を進むと決めた以上はいずれぶつかる壁じゃ。この機会に考えてみるのじゃな。」
そう言うと師匠さんは「少し出てくるぞ。」と言い残して街に出かけてしまった。
分かってはいた。
魔法を使うと言う事が綺麗事だけじゃないと言う事は。
ハルトさんにも言われたじゃない。
チカラを持てば何者かに命を狙われる事だってあるって。
魔物とか凶暴な動物だけの話じゃない。
人間同士だって他者を追い落とそうと牙を剥くことだって有る。
魔法はアニメやマンガの様にご都合主義で問題を解決する為の手段じゃない。
チカラの使い方によっては相手の皮膚や肉を裂き、身を焼き尽くす事だって出来る。
チカラなのだ。
私が見たくなかったモノ。
それはジュジュが危険に遭う事では無かったのかも知れない。
私は自分の持ったチカラが何かを傷つけるのを見たく無かっただけ。
このチカラが死に直結するチカラだと知りたく無かっただけなのかも知れない。
「妙子?大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
空気を読んで、さっきまで遠くから私と師匠のやり取りを見守っていたジュジュがコップに水を汲み差し出してくれた。
大丈夫かと言われると大丈夫じゃない。
この世界では甘い。
いや。元の世界でも甘いだろう自分の考え。
それに押しつぶされそうだった。
「ありがとう。大丈夫じゃないけど…。うん…。」
何も言えなかった。
ジュジュがダンジョンに潜りたいなんて言わなければ…。
そう思う気持ちも無いわけじゃない。
でも、ジュジュを恨むような気持ちは溢れては来なかった。
それよりも、この世界で自分が魔法使いとしてどう生きるか。
どう覚悟して生きていくのか。
降って湧いた様な人生の課題に向き合う覚悟。
その覚悟の無さに私は…。
「重そうな話だったから聞かないようにしていたけど…。」
ポツリとジュジュが話し出す。
「端々で聞こえてくるお姉さまの話から想像するしかないけどさ。妙子はそれで良いんじゃないかと思うわよ。」
その口から発せられたのは意外にも私に対する肯定だった。
「あんたの感情を喰らう為に、あんたを観察していた私からすれば…。素なのか。そう見せているだけのか分からない天然っぽい所があんたの強みじゃない?大事に育てられたのがよく分かる愚鈍さと言うか純朴さと言うか?何というか対応力みたいなモノがあったからこそ、私は妙子を狙ったワケなのよね。獲物は生かさず殺さず。死んでしまったらそれまでだと諦めるけど、長く感情を啜れそうだと感じたから獲物として選んだの。」
え?
あ…。
うん。
どうして、私が獲物として選ばれたのか聞かされても困るんだけど…。
どうやら、ジュジュなりに元気づけてくれているらしい…。
「だから。何を悩んでいるのかは知らないけど、何も考えず「いつも通り」で良いんじゃない?考えるなんてあんたらしくないわよ?人間なんて意識せずとも手を汚す生き物なのかだから。その場面が来れば私の様に手を汚さないと生きて行けなくなるなんてのは、気が付かないだけで普通に有るんだから。」
そこで言葉を区切るとジュジュは私の顔を両手で挟んで告げた。
「もし、あんたが罪を背負いたくないってなら、私がその罪を背負ってあげるわ。あんたはあんたらしく何も考えずに突き進みなさい。あんたが私のマスターだってなら、私に全ての罪をなすりつけるくらいの気持ちで成すべき事をすれば良いだけよ!」
と、顔を真っ赤にして。
「あぁ。それが言いたかっただけなのね。顔真っ赤にしながら「どき☆プリ」第五話の告白アレンジとか…。ちょっと引くわー。」
「なっ!おま!人がせっかく元気づけようと!!」
「はいはい。ありがとう。そう言うならジュジュも私の罪を背負えるくらい強くなりなさい。今のアンタじゃ力不足よ!私の支えられるくらいに強くなりなさいよね!」
「ぐは…。アレンジ返しとは…。ごちそうさまです…。」
私はジュジュに「どき☆プリ」第五話の名シーンをアレンジして返事を返すと背中で彼女の声を聞いた。
うーん。
正直、ジュジュの言葉で問題が解決したかと言うと全くそんな事は無くて「あんたは馬鹿なんだから考えないで行動しなさい。」と、馬鹿にされた気分だったけど、少しだけ気持ちは軽くなった気がした。
アレだけ嫌がらせをされた相手に元気づけられるとか、どうなんだろうとも思わなくもないけど。
今は良しとしよう。
私には責任だとか覚悟だとか色々な事を割り切るには若すぎるのかも知れない。
ただ、この世界で持ったチカラをどう使うか?
私の周りの人の為に使うだろうと言う事だけは何となく感じた。
今はそれで良い。
いつか、このチカラを何かに向ける事が有るなら。
その時に考えよう。
それが正しい事ならば私はそう行動するだろうから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「第一回!ダンジョン探索会議!!」
わー。パチパチパチ。
街から戻った師匠さんが引き連れてきたニコちゃんとニナさんが賑やかしに歓声をあげながら紙吹雪を撒き散らかして拍手する。
「なんですか…。これは…。掃除するの私なんですけど…。」
戻るや否や私とジュジュを拉致ってこの有様。
ダンジョン探索がどうとか言う前に無駄な掃除をしないといけなくなった現状を小一時間は問い詰めたいのですが…。
「ほほぉ。多少はマシな顔になったな。妙子よ。もう大丈夫じゃな?」
師匠さんが私のアゴをクイっと掴むとチューされそうなくらいに顔を寄せてきた。
「大丈夫じゃな?じゃ、ないですよ!無駄に部屋を汚さないで下さい!!!」
大丈夫っちゃー、大丈夫だったけど。
それよりも散らかされた事の方が腹立たしかった。
「まあまあ。フィーナもタエコちゃんの事を心配してたのよ?元気づけようと…。」
ニコちゃんが師匠さんのフォローをしようと割って入ったけど睨みつける。
いわゆる、おまいう状態だ。
散らかした本人が割って入った所で説得力も何もない。
「ほらほら!ちゃんと掃除するから!怒るなよ?な!タエコ!!」
結構、ガチで怒っているのが伝わったのか、普段は汚すだけのニナさんが掃除をし始めた。
私から言わせるともっとちゃんと掃除しなさいと言いたい所だけど、原状回復しようとした心意気だけは汲んであげよう。
結局は後で私が掃除する二度手間だけど、取り敢えずは話を聞く事にした。
「で?これはジュジュをダンジョンに連れて行く為の集まりって事で良いですか?」
私が本題を振ると師匠さんが何かを取り繕うかの様に話し出す。
「そう!そうなのじゃ!ニコもニナ腐っても鯛じゃからな!私とニコにニナに妙子が居れば問題なかろうて!」
「おい!腐ってもってなんだよ!?」
「そうよ!そんなに腐ってないわよ!!少し男色好きなくらいよ!!」
ニナさんもニコさんも的はずれな事で怒っているけど仕方ないかも知れない。
元の世界のことわざを使われても分からないって話だよね。
こちらの世界のことわざで言うと「落ち葉は散れども役に立つ」だったと思う。
落ち葉扱いすればしたで怒り出しそうだけど。
「でも、回復役とか盾役が居なくて大丈夫なんですか?実践初心者からすると心配なんですけど。」
確かに、ニコちゃんもニナさんも名の通った冒険者だったのは知っている。
今も何か有れば出張って問題解決に協力する事も有ると言うのも知っているけど、私の知る限りではインファイターの火力職だったはずだ。
火力職が盾役をする事も有ると言うけど、MMO的な知識だけで言うと何かあった時にタンカーが居ないのは少し心配になる。
魔法職がデバブとかで足止めしつつ、各個撃破して行く事になるだろうから少しタイミングがズレるだけでも大惨事になりかねない。
「大丈夫じゃ!焼き尽くす!」
「えぇ。そうね。殺られる前に殺れば問題ないわよ。」
「まあ、傷を負っても回復薬をがぶ飲みすれば良いだけだしな!!」
ぉぅ…。何と言う事でしょう…。
見事な脳筋パーティです。
ありがとうございます。
大丈夫なのだろうか。
慣れた人間同志なら大丈夫かも知れないけど、今回は役に立たないジュジュが同行する上に、私も実践経験が乏しい初心者だ。
ダンジョンに潜るのだって二回目だって言うのに…。
「とは言え、アレじゃ。万が一の事を考えて今回は私が盾役を行おうと思っておる。こう見えても剣の腕前には覚えがあるのじゃ。装備で物理防御を上げつつ束縛魔法とシールドを駆使すれば何とかなるじゃろうて!」
「えー!盾役だったら私だって出来るわよー!?フィーナってば自分だけタエコちゃんに良い所を見せようとしてるでしょ!?いつもなら魔法職のクセに最前線で爆裂魔法を放ってケタケタ笑ってるクセに!!ズルいわよ!!大体、タゲ維持とかあんたにできるの!?」
「んー。盾役とか面倒だからいらなくね?」
「・・・・・・。」
どうしよう。
ジュジュがどうこう言う前に、このパーティで大丈夫なのかと言う不安が…。
下手するとリック単体に依頼する以上の不安が私を襲った。
わかってる。
この人達が歴戦の冒険者だって言う事はわかってる。
でも、この常識の無さよ!!
頭のネジがどこか飛んでっちゃってるのじゃないだろうか?
初心者の私と、民間人に等しいジュジュを連れてダンジョンに潜ろうって感じではない。
下手したらダンジョン攻略してしまおうと言う勢いな気がした。
あなた方の火力でタゲ維持しないといけない状況ってどう言う状況なのかジックリ聞いてみたい…。
「ね?タエコちゃん?初心者連れの盾役だったら接客業で普段から気が回る美人のニコちゃんが良いわよね?」
「何を言っとる!!馬火力しかないニコでは、敵を固定できんじゃろが!?それに常に第三者視点で状況を把握し、魔法を行使する魔法職の方が状況把握に優れておる!!お前ら馬火力では魔物を引き連れて引き狩りとかも出来んじゃろうが!!突っ込むしか脳の無いこの脳筋どもが!!」
「言ったわね!!!バスターソード使いの対応力を舐めんなっての!!ニナと組んでた時だって私が盾役してたんだからね!!引きこもりの魔法使いなんて耐久力無いでしょ!?盾役がピョンピョン飛び跳ねて移動されたんじゃダメ与えらんないじゃない!?」
「ピョンピョン飛び跳ねたりしませんー!ダメバリ張りながらテレポで行ったり来たりするんですー!ハッ!気が回る美人ウェイトレスが聞いて呆れるわ!!観察力が欠如してる人間が盾役とかできるのかのぉ!?」
「知ってるしー!!でも、あんたらソロ狩りとかしてる時に意味なくピョンピョン飛び跳ねるじゃない!!アレって凄く目障りなんですけどー!?」
「バーカ!バーカ!!ああやって全体を見て、まとまった所で一気に魔法を放って一網打尽にするんですー!」
「それが目障りだって…」
バーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
流石にキレそうだった。と、言うかキレた。
気がつくと私はテーブルを思い切り両手で叩いていた。
そして。
「───サイレンス」
詠唱無しで脳筋二人を黙らせていた。
「からの、バインド」
そして、動きを拘束する。
「んーーー!んーーー!」
「んんん!?んんん!んんんっん!んんんん!!」
「ホ・ン・ト・に!!いい加減にして下さい!!安全ならどっちだって良いんです!こんな所で無駄に罵り合う元気が有るなら、無駄になった時間以上にミッチリと炭鉱とかで肉体労働してもらいますからね!?」
私が睨みを効かせて言い伏せると涙目でウンウンと頷く二人。
多少は反省しているみたいなのでサイレンスだけを解いて話を進める事にした。
「いやー。議論が白熱して我を忘れてしもたわ!話を戻すぞ!!」
「ホントね!良い議論だったわ!盾役の事は置いておいて先に話す事が有るんじゃない?」
議論と言うか子供の喧嘩だったじゃないとは思ったけどスルーして話を戻す。
イチイチと何か有る度にツッコンでいては話にならないのは、さっきの様子を見て理解した。
議長役を師匠さんから取り上げて私が話を進めた方が話が早そうだ。
「じゃあ、盾役が一人。火力が二人と言う構成で、それは師匠さんとニコちゃんニナさんが担うとして、私達は付いていくだけで良いんですか?」
ダンジョンに潜る以上は何かしらの役割があった方が責任感が生まれると思う。
今回に関してジュジュはお客さんとして付いていくのではなく、何かしらの役割が必要だと思うのだけど、その辺りを師匠さんがどう考えているのかが知りたかった。
「いや。今回の目的を考えるとそれは無いじゃろ。今のチヨの実力を考えると戦闘には不向きじゃが、何かあった時には自分の身を守れる様に装備はさせるが、基本的にはマッパーとして同行させようと考えておる。荷物持ちにしては筋力も足りんからな。ならば、ダンジョンの構造を理解する為にもマッパーが適任じゃろうて。」
なるほど。普通は単体の役割じゃなくてシーフとかが兼役で行うマッパーだけど、ダンジョン初体験のジュジュには良い経験になりそうだ。
「じゃあ、私はどうしましょうか?思う所も有るけど…。火力としての経験を積むべきなのかなって思ってはいるんですけど。」
それは、魔物だとは言え命を殺めると言う事。
その覚悟が有るのかと言われると、モヤモヤとした気持ちになるのも事実だった。
でも、初めてハルトさんにダンジョンへ連れて行ってもらった時の私とは違う。
色々な事を受け止めて行動しなければ行けないのかも知れないと思う気持ちは有る。
何かが有った時に何かを傷つける覚悟。
それは慣れるしかないのだと言う事を私も自覚していた。
「まあ。そうじゃの。出来るだけで構わんて。基本的にはチヨを守る事を意識して、参加出来そうなら参加すれば良い。ただ、私らは慣れていて呼吸で合わせる事が出来るが、妙子は分からんじゃろうから何かする時には声を出して行うように。それに私らが合わせるからの。私らの行動には意味があり、それをお互いが見て判断をし、攻撃を繋げる。お前が普段やってる店番の仕事と同じで流れが有るのだと感じられれば大収穫だと思ってくれれば良いじゃろう。焦らなくても良いからな?」
さっきまで酷かったギャップも有って師匠さんがとてもまともに見えた。
相変わらずバインドで動けずにプルプルしているのが忍びないくらいに。
師匠さんの優しい言葉に「うん」と頷くと二人のバインドを解く。
うへーとか言いながらヘタり込んだ師匠さん達にコーヒーを淹れてテーブルに並べた。
「エキサイトしてしまったが大体の話は出来たかの。妙子の心配も分かるがコレばかりは潜ってみないとわからん。身体能力が高いに越した事はないが、それだけでは語れない事も有る。私らとて肉を絶つ感覚が楽しいワケでもない。必要なら行わなければいけないだけじゃからな。出来ないなら出来る者に任せれば良い。出来る力が有るのと行えるかは違うのじゃ。だが、この世界では何かを守るためには必要となる事も有るのが現実じゃ。それを理解していたならば動かないといけない時には動けるだろうて。」
淹れられたコーヒーを飲みながら一息ついた師匠さんに続いてニナさんが話し出す。
「そういう事だ。何かが出来るようになったり強くなるって事は喜びでもある。激闘の末に生き延びて勝てたなら嬉しく思う事も有る。だが、それは楽しいワケではない。人間相手だろうと魔物相手だろうと飛び散った体液の臭いや手に残る肉や骨の感覚に酔う事はない。それを楽しむ者も居るだろうが、死の放つ臭いに囚われず生きる為に剣を振るう。本来はそうあるべきだ。」
二人の話を聞きながら何か言いたげにウズウズしていたニコさんが、ニナさんの言葉の切れ目を見計らって割って入る。
「神の力で生き返られる事もあるけどさ。死は死なのよね。運が悪ければロストしちゃうし。切られれば痛いし、焼かれれば熱いし。何がしたいのよ?って感じよね。生き死にのやり取りが尊いとか価値を付けるなんてナンセンスなんだけど。それでも、向かってくる相手に敬意を払えない殺し合いなんてのは何か違うのよねー。出来れば、そんな事をしなくても良いのが理想なんだろうけど、そう言う理屈の外に生きてるのが居るのも事実で、私達はむざむざと自分の命を差し出すワケにもいかない。だから、剣を持って魔法を駆使して抵抗するのだけど…。そんな荒事は出来る人間だけで十分なのよ。今、タエコちゃんがやる必要も無いし、必要な状況になったなら動くしかないのだから考えるのはその時で良い。ただ、誰かを守れるだけの力を蓄積するって言うのは商売人でも農夫でも一緒だから。タエコちゃんが魔法を生業にして生きていくと決めたなら何かあった時に動けるように鍛錬だけは忘れないことね。」
言い切った!と言う満足げな表情でニコちゃんが私に笑いかける。
師匠さんがどうして、この二人を今回のダンジョン探索のメンバーに誘ったのか何となく分かった気がした。
言葉にならない言葉。
生死の狭間を歩んできた二人の言葉を聞かせたかったのかも知れない。
それを二人が上手く私に伝えられたとは思えないけど、少なからず私には言葉にならない部分の気持ちも伝わった気がした。
結局は命のやり取りに意味も理由も無いのかも知れない。
ただ、敵意を避ける為の手段であって、そうしないと自分の命が奪われる。
ただ、それだけなのかも知れない。
何かあった時には動けるように。
ニコちゃんの言う様に何も無ければそれが一番だ。
ただ、何かあった時には動かないと大事な人が守れないなら。
その時は、私も自然と動いてしまうのだろう。
そのチカラが私には有るのだから。
「まあ、ダンジョンに入らなければ襲って来ない魔物を狩るためにダンジョンに踏み入る俺達がこんな事を話すのもどうかと思うけどな!ある種の魔物の虐殺だしな! ただ、意味不明すぎるんだよ。何の目的でこんな所にダンジョンを造ったのかってのが。更には自分のダンジョンの上に街を造られて何もして来ないって何だって話だ!絶対に、ここのダンジョンマスターは変態だぜ!?さもなくば何かを企んで潜んでるに違いない!!早いとこ最深部に到達して問い詰めないと何されるか分からないぜ!?」
何となく話が落ち着いたのを見てニナさんがダンジョンに踏み入る理由の矛盾を払拭しようとしたのか、独自の理論でダンジョン探索を正当化しようとした。
そうだよね。
ダンジョンを放置していても問題ないのは薄々と街に住んでいたら分かると思う。
ダンジョンに潜る人が絶えないのは「おいしい」からだ。
二人が生き物を滅殺するのが楽しいからじゃないと言ったのは本心だと思う。
ただ、この街のダンジョンには、そう言う話とは別の領域で魅力が有る。
そう。おいしいから。
ここのダンジョンマスターが、自分が引きこもるために街の名物とするべくダンジョンを開発しているのだから仕方がない。
生き死にに関して哲学を持つニナさんやニコちゃんでも、理屈の外で魅力を感じているに違いない。
ハルトさんからすれば計画通りだと言う事なのだと思う。
ニナさんの言う通り、自分が引きこもるためにダンジョンを造って振興策としたのはハルトさんだ。
ニナさんに変態扱いされても仕方ないだろう。
って、言うか自分が引きこもるためにダンジョンを造って街の観光名所にしようなんて変態以外の何者でもない。
世の中には自分が引きこもるためにダンジョンやら街を造ってしまう人が居るんだ。
何だかそう考えると…。
私が悩んでいた事なんて、ちっぽけな事の様な気がしてきた。
私は当の変態との付き合い方を考え直すべきなのか悩みつつダンジョン探索の当日を迎える事となるのだった。
どうも。となりの新兵ちゃんです。
金曜の夜だけの執筆で何とかまとまりました!
週末に差し掛かり何とか体調も落ち着いて来ました。
仕事は忙しかったけど来週には何とか平常運転まで持ち直せそうです。
と、言う事で今回は妙子ちゃんが言ってた様に思い出したかの様なダンジョン回!の、前日譚でした。
いや。其之四を開始した時から考えてましたけどね。
思い出したかの様にダンジョンの話をぶっ込んだワケじゃないですから。
と、言ってもウィザードリィタイプのダンジョンの想定なので話が広がらないなぁと言うのが正直な所。
どっかのダンジョン物のダンジョンが「ダンジョンかよ!!」と言う様な塔を舞台にしているのも、書いてみて何となくその理由が分かった気がします。
そうですよね。普通のダンジョンとか舞台にしても狭くて暗くてジメジメした場所じゃぁ話を広げるにも限界がありますものね。
私の文章力では苦労しそうですけど、次回はダンジョン回本編です。
上手く書けるか分かりませんが何とか頑張ってみたいと思います…。
期待せずに居て頂ければ幸いです。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




