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其之四|第零章|プロローグ

 魔王について調べようと思ったのは、俺がこちらの世界に来て五年目だっただろうか。

 異世界へ移動に関して色々な考察を経ても「手がかりが見つからない!」と行き詰まっていた師匠を訪ねたのが切っ掛けだった。


 この頃の俺はと言うと、師匠に借金をし、貴族から安値で土地を巻き上げて、ダンジョンの基礎を作り、開拓団を募集して現在のダンジョンガーデン周辺の開拓を始めた頃。


 開拓団を守る傭兵だったリックや、コックとして開拓団に参加していた夢見る冒険者亭のおやっさんと知り合ったのもこの頃だ。

 開拓地のオーナーの側近と偽って開拓の指揮を取っていた俺に色々と絡んできては迷惑を掛けられたのも今となっては良い思い出だ。

 まあ。これはまた別の話なのだが…。


 そんな、ダンジョンガーデン開拓の真っ最中。

 開拓と同時並行で異世界への移動方法についても探していた。

 師匠を見かねてと言うワケではない。

 この頃の俺は元の世界に帰る事を諦めていなかったからだ。


 それに。

 あの師匠が躍起になっても解けない問題。

 それを解いて師匠に認めてもらいたいと言う気持ちもあったのだろう。

 色々な気持ちを抱えながら異世界への移動方法について調べていた。


 その手掛かりの一つとして調べたのが魔王についてだ。


 この世界で唯一異世界を移動した者。

 異世界より来たりて、異世界へ追いやられた者。


 これ以上の手がかりは無い。

 はずなのだが…。


 魔王について調べても得られる物は少なかった。


 敗者は勝者によって歪められる。

 それは、この世界でも同じでまともな文献は残っていない。

 魔王に関する文献は都合の良い様に脚色されていた。


 他にも手掛かりは無いかと探した事もあった。

 俺のように異世界から召喚された者の話だ。


 古い文献には、そんな話も薄っすらと残っていたりもする。

 魔王と戦いに参戦した魔法少女が異世界人だとか。

 何百年に一度。異世界人が召喚され人々に革新をもたらすとか。

 話は有るが伝説や噂の域を出ない物ばかりだった。


 近々の話だと百年前くらいに異世界から召喚された者が居たらしい。

 けど、これも創作の話の様な気がしてならない。

 話の出処が師匠だと言うのがそう思う一番の原因だ。

 俺をからかう為に作った作り話じゃないだろうかと言う気がする。


 話としてはこうだ。


 その異世界から来た女性は、自分を召喚して助けてくれた魔法使いと共に生き、恩人が亡くなった今も恩人の意思を継いで魔法使いになり、魔王の再来に備えているらしい。


 妙に話がアッサリしていて本当の話っぽいのが逆に胡散臭い。

 もし、この女性が実在するなら師匠の知り合いだろう。

 もし、師匠の知り合いなら調べ尽くしているだろう。

 師匠の事だから俺に紹介しないワケがない。


 この話を聞いた時に色々と考えてはみたが…。


 俺をからかう為か。

 俺を元気づける為か。


 どちらにしても師匠の創作話だろう。


 まあ。師匠の話が本当か嘘かなんて真偽はどうでも良い。

 他の話と一緒で統一性の無い噂話の一つなのだと思う。


 こう言った色々な話を収集して行く中でハッキリした事が有る。

 人が違う世界に憧れると言うのは、どの世界にも有るのだと言う事。


 それは見た事の無い世界を見たいと言う探究心。

 この世界で生きる事が辛くて逃げ出したいと言う気持ち。

 違う世界に行けば違う自分になれると言う空想。

 異世界人と言う幻想はどんな世界にも発生するおとぎ話なのだ。


 ただ、この世界には一つだけハッキリと歴史に刻まれた異世界人が居た。

 この世界では異世界にまつわる話が何千年経った今も残っている。

 それが魔王カルキノスだ。


 『太古の魔王の物語』


 それは、確かに脚色され勝者によって歪められている。

 だが、その存在は否定される事もボヤかされる事も無い。


 魔王カルキノスは居た。

 そして、再来する。


 物語が魔王を卑下する内容であっても存在は否定されない。

 そして、異世界より来て異世界に封じられた事実は曲げられないのだ。


 当時の俺も『太古の魔王の物語』については色々と調べた。


 異世界から訪れ、異世界に飛ばされた魔王。

 この世界で唯一、この世界と異世界を旅した者。


 魔王とは一体何者なのか?

 この世界において異世界に通じる唯一のヒントが魔王。


 だが、今も昔も異世界に通じる話は皆無と言って良いほど少ない。


 この世界で言う所の魔王は「敵」だ。

 わかりやすいほどに敵なのだ。

 この世界の支配者によって都合よく改変されていているのだろう。


 どうして敵対関係になってしまったのか?

 それすら詳しく記された文献は残っていなかった。


『最初は友好的だった魔王カルキノスが双子の女神の怒りを買い敵対関係になった。』


 残っている話が有るとしてもこの程度だ。


 もし、魔王が友好的なままだったなら、異世界への扉を開く技術も発展していたかも知れない。


 だが、敵対関係となってしまった魔王。

 魔王に関係する異世界移動の技術が発展する事は無かった。


 当然と言えば当然だろう。

 異世界へ行き来が可能なら魔王の復活を画策する者が現れてもおかしくはない。

 ただでさえ、魔王封印の際に双子の女神が魔王の再来を予見しているのだ。


 もし、復活した魔王を再度 異世界に封印するために異世界移動に関する技術が密かに受け継がれて居たとしても魔王の再来までは表に出る事はないだろう。


 調べれば調べる程、異世界に通じる情報は権力者によって秘匿されている。

 その事実だけが明らかだった。


「手詰まりか…。」


 当時の俺も行き着く先は同じ結論だった。

 どんなに魔王周辺の話から異世界に関する情報を得ようとしても繋がらない。

 唯一のヒントにして、一番遠いところに隠された真実。

 一般人がそれにたどり着こうとしても難しい場所に隠されている。


「師匠はどうして今も異世界にこだわるのだろうか…。」


 師匠の工房には異世界にまつわる文献が多く所蔵されていた。

 異世界にまつわる文献の所蔵は世界一ではないかと思われるくらいの蔵書。

 その全てが手がかりとは言い難い物だった。

 それでも集めずにはいられない師匠の異世界への熱意。


 何が彼女をそこまで突き動かすのか。

 それは今も分からない。


 異世界とは俺が居た世界を含め、この世界とは構造自体が全く違う世界の事。

 物理法則など似ている部分は多いが、細かな所でのルールが異なる世界。


 魔法使いと言うのはある種の探求者だ。

 自分が知らない事が有ると言う事に我慢ならない人種ではある。

 目の前に置かれた謎を見過ごせないと言うのは分かる。

 だが、些か異世界に拘りすぎる部分が有るのは何故なのだろうか。


 俺と言う異世界人が現れた事で興味を掻き立てられたのか?

 もしかしたら、俺を元の世界に戻したいと今も思っているのかも知れない。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 師匠の異世界へのこだわりは冷める事は無かった。


 ダンジョンガーデンが街として形を成して来た頃。

 俺がこちらの世界に召喚されて十年と言う年月が見え始めた頃。

 俺が魔法使いとして変質して後戻りが出来なくなった頃。


 魔法使いとしては短い。

 人間としては長い。


 俺達が師匠と弟子として周りに認知されるだけの時間が流れても変わる事は無かった。


 この頃には俺は半ば元の世界に戻る事を諦めていた。


 毎月何度か師匠の工房に訪れて議論や考察は続けていたが、観測すら儘ならない異世界と言う存在に心は折れていた。


「魔王についてもう一度調べ直す価値は本当にないのでしょうか?」


 見る事も出来ない異世界よりも手掛かりの多い魔王について調べ直さないかと提案した事がある。


「のぉ?私が調べなかったと思っておるのか?」


 師匠は大きな胸を両腕で抱える様に立ち上がると俺を見下ろして凄んで見せた。


「いや…。調べているとは思いますけど。時期が悪かったりだとか、新たな文献が見つかっていたりだとか、別の視点で見直してみると新たな発見があったりだとか…。」


 師匠が魔王についても端から端まで調べているのは知っている。

 だが、俺は魔王からの手掛かりしか可能性は無いと思っていた。


 今もそうだ。

 観測すら出来ないモノを対象にして思考実験を行うよりも有益だと思っている。


 それに元の世界の仕事でもよく有った事だ。

 アプローチは悪くないが時代的に早すぎたと言う事は往々にしてある。

 時代が進む事で技術発展や研究が進んだ事により新たな事実が明らかになる事がある。

 そして、研究が進み一般に受け入れられるカタチとなって成功する事がある。

 見直さないと言うのが一番愚かだ。


 先人が失敗したから。

 今まで手掛かりが見つからなかった。

 そう言って過去の失敗を放置したまま見直さないのは愚策だ。

 それらの発想を否定してしまうのは間違いだと俺は思っていた。


 もちろん、先人の経験則は馬鹿にできない。


 だが、先人の失敗体験から何が悪かったのかを考察し、他の人間の視点で失敗を改善し、同じアプローチを違う視点で行う事で成功に繋がる事が有るのも事実だ。


 トライアンドエラーを繰り返し、成功に繋げると言うのはどの世界でも同じだろう。


 一度の失敗で。

 その方法が間違いだと決めつけるのは早計だと。

 俺は思っている。


「まあ、言いたい事は分かるがのぉ。それは新しい情報が有ればの話じゃ。」


 師匠は「ふぅ」と一つため息をついて、両手を組み直し重そうな胸をもう一度抱えると話を続けた。


「神代の時代に何があったかは知らん。 だが、私の様に名を馳せても開示されん情報は多い。その時代の文献についてはアクセスする事ができんのじゃ。 信憑性の高い文献は王の直轄機関に管理されて表には出ぬ。 噂で聞く事があっても本当に存在するのかも分からん。 人の世でその真実に触れられるのは王と一部の人間だけじゃろう。 真実を秘匿するためにな。 うちに有る文献が欲しければ持っていくが良い。 じゃが、それは私が既に暗唱出来るほど読み込んだ書物じゃ。 無駄な事をするよりは他に建設的な方法を探した方が早いじゃろうて。 新たな考察も出来ないくらいに魔王に関する情報は秘匿されておるのじゃ。」


 そう言われてから数年。

 過程を差っ引いて結果だけ話すと答えは師匠の言う通りだった。

 探せど探せど見つかるのは肝心な部分が隠された物語ばかり。


 当時もそうだった。

 今でもそうだ。


 俺は継続して調べてはいる。

 ある種の意地の様な物だった。


 だが、調べれば調べるほど個人ではどうにもならない事が有ると思い知らされた。

 本当に世界が隠そうと思えば隠せてしまうと言う事を思い知らされた。


 魔王に関して。

 異世界に関して。

 調べ続けても一定の段階で壁にぶち当たる。


 そして、知らなくても良いような事だけが積み重なる。


 文献の大半は一般に『太古の魔王の物語』と言うおとぎ話の元となる話。

 それは、グリム童話が実は残酷な物語だと言う程度の違いしかない。


 一般的なおとぎ話よりも詳しく表現されている。

 だが、肝心の部分に関しては触れられる事は無い。

 知りたい事が書かれている物はなかった。

 そう。意図的に隠されているかのように。


 多少、踏み入って書かれている物でも「最初は魔王も友好的だった」という程度の事が書かれているくらいだ。


 神とは一時期は友好関係だったらしい。

 これについてはいくつかの文献に記されていた。

 だが、肝心の部分は書かれていない。


 何をして敵対関係になったのか。

 どうして魔王は異世界に追いやられたのか。

 どうして魔王はこの世界にやって来たのか。


 何かを隠すように肝心な部分が語られる事は無かった。


 神にとって。

 この世界にとって。

 不都合な真実。

 それらを秘匿するように。


 少なくとも最初は友好的だった神と魔王が、音楽性の違いみたいな下らない理由で仲違いをしたワケではないだろう。


 何があったのか分からない。

 なぜ、魔王が異世界に追いやられたのか分からない。

 どんな方法でそれが行われたのかも。


 師匠が言う様に何かが隠されている。

 それにたどり着く方法は当時の俺にも今の俺にも無かった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 異世界からやってきた魔王カルキノス。

 どの様にしてこの世界にやって来たのか。

 どの様にして異世界に封印されたのか。


 師匠が持っている蔵書のどこにも書かれていない真実。


 ある種の諦めを感じつつも、見た事の無い文献を見かけると買い求めている。

 目新しい情報が書かれている文献に出会うことは無いが癖となっていた。


 元々、書物と言うのは移ろいやすい物だ。


 その時の解釈で書き記される。

 時の権力者によるワンサイドな見方で都合の良い様に改変される。


 聖書ですらそうだ。

 民の人心を掌握し、操作しやすいように改変され、都合の良いように解釈される。


 都合の悪い事が書かれていなくても当たり前なのだ。


「と、なると王か教会か…。」


 どちらにしても厄介だ。

 敵に回して得になる相手ではない。

 アイリス王女がチョロイと言っても容易くはないだろう。


 だが、過去の真実を正しく記録されている書物が有るとするなら…。


「あぁ…。面倒くさい相手だ。」


 魔王に関する真実に近づき、異世界への扉を開く鍵を求めるなら。

 真実に近づこうとするなら避けては通れない相手だった。


 もし、次王を説得できたとしても…。

 真実を隠す者が裏で暗躍し、更に真実を隠すだろう。


 これは最後の手段。

 王や教会に接触するとしても。

 気軽に禁忌に触れようとすればタダでは済まない。


 だが…。


 半ば諦めかけていた俺が再び異世界への鍵に興味を掻き立てられたのには理由が有った。


 俺の周りに集まってくる欠片。

 異世界への鍵を探せと言わんばかりに集まってくる生きた証拠。

 俺の周りに集まるデータ達が俺に探せと言っているかのようだ。


 師匠が俺を召喚した時にも同じ事を感じたのだろうか。


 だが。

 今はそう。


「糸氏樹々か…。」


 伊丹妙子を呪い死へと向かわせた鬼。

 元の世界の影でヒッソリと生きる魔の者。

 元の世界で生きていた頃には考えもしなかった存在。


 俺の周辺に集まった被験者達から調べる方が先だろう。


はーい!どうもー!へっぽこ書き手のとなりの新兵ちゃんです!


・・・。

アレですね。

気にしないで下さい。


そう言えば!

明けましておめでとうございます!

夏頃から書き始めたお話も気がつけば年を越しました。

相変わらず、文章力は伴いませんが何となくでも楽しんでいただけるなら幸いです。

嬉しい事に、こんな場末のweb小説と言うか、おっさんの妄想にも投稿すれば数百人の方が読みに来て頂けます。

嬉しいです!語彙力なくてアレですけど!嬉しいです!

通り過ぎる方も多いでしょうが気に入って頂けたならブックマークだとかRSSの通知を登録して頂ければありがたいです。


さて、今回のプロローグ。

毎回プロローグでは「今回やりたい話」を過去の回想と言う感じで書き記しています。

今回に関しては魔王関連か異世界関連の話に持って行ければと思っていますが、そろそろダンジョン関連の話も入れたいので、どの辺りに着地するかは未定です。

いくつか、あらすじは書いているのですが…。

どこに持っていこうか…。

まあ、書籍化とか狙ってるガチ勢ではないので緩い感じでお付き合いいただければと有り難いです。


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。


と、言うか一時間後に自動投稿で第一章に続きます。

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