其之三|第五章|アーノルドの冒険
謁見から開放されて一時間は経っただろうか。
変な疲れがドっと出て宿屋のベッドに身を預けて今日の出来事を思い出していた。
「そう言えばいつの間にか「君付け」だったな…。」
王は噂通り親しみやすかった。
あんな感じで大丈夫なのか?と、こっちが心配してしまうほどだ。
王と師匠は知り合いっぽかったし、俺が師匠の弟子だと言う事もあったのだと思うが、王との謁見と言うよりは、友人の家に招かれて親に紹介された時の感じに近いものを感じた。
誰にでも今日の様な態度で接すると言うワケじゃないだろうが、あの王なら災害などで被害に遭った地域には自ら出向いては躊躇なく膝を折り、民の手を取って勇気付けると言う話も頷ける。
それを良しとしない者も居るだろうが、その行動に異論を唱えられる者は居ないだろう。
親しみやすく、人の良さが滲み出る王だったが、実にしたたかな面を合わせ持ち、自分の頼みや意見を断らせない術を身に着けている。
その証拠に「万が一の場合の協力要請」だけでなく、サラっと面倒な「おつかい」を頼まれてしまったのだ。
あの後、自称魔王については各都市で警戒態勢を敷き、問題の中心地であるダンジョンガーデンに関しては市長であるエレナを中心に、継続して調査を行うと言う事で話がまとまった。
そこから新興都市であるダンジョンガーデンについてや、俺の普段の仕事について色々と聞かれたのだが…。
多分、俺についても下調べをした上で断られないように話を組み立てていたのだろう。
外堀を埋められた上で切り出された。
「では、少し確認に向かって欲しい場所があるのだが…。」と。
それがまた面倒な場所なのだが、強引に先払いで充分な先行報酬を受け取らされてしまった。
その上、帰りは王が自ら王宮の門まで降りてきてのお見送りと言う断らせない為のダメ押し。
一見、優しそうに見えるが、なかなかのタヌキだ。
俺がどうすれば断れなくなるか知った上で話を進められた気がする。
もし、王に反感を持つ者や、異論を持った者が居たとしても、先手を打たれて骨抜きにされてしまうのではないだろうか。
俺の様な庶民の人となりですら把握して断らせないのだから、身の回りの者の動向を把握して掌握する事くらい朝飯前なのだろう。
取り敢えず、受けてしまったものは仕方がない。
面倒事はさっさと片付けて、平常運行に戻れるよう努力するだけだ…。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ドンドン
ドンドンドン
「ハルト様!ハルト様!起きてらっしゃいますか!?ハルト様!」
さすがに王との謁見で疲れていたのだろうか。
いつの間にか寝てしまっていた。
そんな俺を叩き起こしたのはドアをノックする音とアーノルドの声だった。
時計を確認すると朝の六時過ぎ。
「おいおい。勘弁してくれ…。」
全く、シャレにならない。
確かに無碍にしないし、何かあったら話を聞いてやるとは言ったが、昨日の今日なのはまだ良いとしても朝の六時から人を叩き起こすと言うのは非常識すぎる。
どんな風に育てられれば人の迷惑も考えずに朝っぱらから騒ぎ立てられる様な人間に育つのか親の顔が見たい。
「くそ…。しゃーない。」
さすがに、ドアの外で騒ぐアーノルドを放置するワケにも行かないので、部屋に入れてお説教する事にする。
ガチャ
ドアを開けると勢い良くアーノルドが飛び込んできた。
「ハルト様!早速出発しましょう!」
「うん。何を言ってるのか意味がわかんない。」
飛び込んできたアーノルドが開口一番でワケの分からない事を言いだした。
「もー!イヤですよ!何を言ってるんですか!私も同行致しますから!!ハルト様!!」
「うん。ますますもって意味がわかんない。」
ワケの分からない事を言いながら俺の荷物をまとめだした。
「おいおい…。取り敢えず、落ち着いて事情を説明するくらいしてくれ。どうして俺が朝の六時から叩き起こされないといけないんだ…。俺はお前が思っている以上にご立腹だぞ?」
不満を訴える俺を尻目に、見事な手際で旅支度を整えるアーノルド。
一段落ついた所で俺の方を振り返り言い放った。
「早くして下さい!モタモタしていると追手がかかりますよ!主にリンダさん方面から!!」
「はぁ?追手だと!?なんでリンダさんから!?」
「はいはい。良いですから。良いですから。トイレとか大丈夫ですか?大丈夫なら行きますよ!事情は向こうに移動してからです!王の許可は取ってますから!ほら!命令書です!これは任務ですから!行きますよ!」
「おい!ちょ!おま!!!」
* * * * *
テレポーターでの移動は早い。
どんなに距離が離れていても数十秒で目的地に到着する。
アーノルドの持っていた命令書のお陰で最低でも十分くらい掛かる手続きもパスして、さっきまで王都に居たはずなのに、もう街まで戻ってこれられた。
ポータルに入る前に「王の命令だから今日一日は誰であってもポータルを通さないで下さい!」とか物騒な話が聞こえたが聞かなかった事にしよう。
そうしよう。
本当なら妙子ちゃんや皆にお土産を買って昼頃に戻ろうと思っていたのだが、それも買えずに連行されてきたのだ。
これ以上、厄介事に自分から巻き込まれる必要も無いだろう。
何かあっても知らなかった事にすれば少なくとも俺の責任じゃない…。
うん。そうしよう。
「ハルト様!のんびりしていられませんよ!早く向かいましょう!」
「おい!ちょっと待て!なぜ逃げるように王都を出たのかまでは聞かないが、どこに何をしに行くってんだ!?意味がわかんねーぞ!?」
「だから!私も黒帝山へ同行致します!王からの命令書もホレこのとおり!」
バーン!と言わんばかりに突き出された命令書。
~~~~~~~~~
【命令書】
アーノルド(笑)もハルト君の調査に同行させてね!
▼ 権限許可
● ポータル使用の命令権限
● 移動手段の確保・接収権限
● 食料接収権限(王宮付けにて後日請求)
● 黒帝山への入山許可
● 一部王族権限の使用許可
● ハルト=ニイド氏との同行権限
● その他の必要経費などはハルト=ニイド氏による立替
後日王宮へ請求し精算する事とする
メビリオ=アンリエル=ソルティエラ王
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「こんな緩い命令書を見たのは初めてだ!しかも俺の断り無く事後承諾とか!!」
その(笑)ってなんだ!(笑)って!!
金を立替えるのは百歩譲って良いとしても事後承諾ってなんだ!事後承諾って!!
もう、全てのやる気が吹っ飛ぶ様なやる気のない命令書に項垂れるしかなかった。
こんな緩い命令書でも王命だ…。
従うしかない…。
「まあまあ。そう肩を落とさないで下さい!アーノルドに任せて頂ければ移動も食事代も無料です!!」
「お前に任せてられるか!!この地雷が!!黒帝山を舐めんな!!」
「ひ…ひどい…。」
酷いと言いたいのはこっちだ。
黒帝山と言うのは俺が王様に調査を依頼された場所だ。
ダンジョンガーデンから北東方向に二百キロメートルちょいの場所に有り、標高三千メートルくらいの活火山。
この山は『太古の魔王の物語』で魔王が封印された地とされている。
されていると言うか、実際に黒帝山で魔王との最後の戦いが行われた場所なのだが、この地に封印されたワケではなく、魔王カルキノスは異世界に飛ばされたので決戦の地と言う以外の意味はあまり無い。
だが、現在も封印の際に生じた時空の歪みの影響で活発に噴火をしており、その歪みを監視するために王と契約をしたドラゴンと竜種のワイバーンが住まう山となっている。
黒帝山から半径五十キロ圏内には街は無く、半径二十キロ地点、八方に八カ所の監視所 兼 結界が設置されているだけ。
一般人の出入りは滅多に無く、物資運搬の業者が月に数回の出入りをするくらいだ。
流石に何千年も魔王再来の兆しすら無い状態なので監視所周辺も一見は平和だ。
駐留兵の子孫たちが監視所の周辺に村を造り独自の文化を築いているらしい。
普段は噴火の灰が振る以外、一見は普通の村らしいが、監視の任務に着いている兵士達は精鋭揃い。
その精鋭が監視所の村で夫婦となり子が生まれ、その子を更なる精鋭兵士として育てる。
聞いたところによると親子でも上下関係に厳しく修羅の国の様な村だと言う話だ。
村から出て騎士や王の直属部隊に志願する者も居るらしいが、村で育った子らの大半が監視所の精鋭部隊に志願し、監視所隊員として一生を終えると言う。
また、黒帝山には人が滅多に踏み入らないことから、ワイバーンを主とする竜種の生息地となっている。
そのワイバーンを相手に監視所の精鋭部隊は年に数回、駆除名目で訓練を行っていると言うのだから空恐ろしい。
精鋭部隊とは言え、空を飛ぶワイバーンを相手に大半が歩兵の部隊で何十匹も狩り、そのうちの何匹かを捕らえてワイバーンを乗りこなすと言うのだから尋常じゃない。
ドラゴンでは無いとは言え竜種は頭が良くプライドの高いモンスターだ。
それを調教して操ると言うのだから頭がおかしいと言っても過言じゃない。
ハッキリ言って変態じみた監視と戦闘のプロ集団。
それが「黒帝山監視所部隊」の面々なのだ。
ただ、竜種を相手にそこまで出来るのは子供の頃から訓練を受けた精鋭だからこそ。
正直、俺でも何も考えずにワイバーンの群れに突っ込んで囲まれでもしたら苦戦する。
そんな場所にアーノルドと言うお荷物を抱えて行かなければならないってどんな罰ゲームだ…。
俺が一人なら考えて行動すれば何とかなるのだが。
アーノルドを連れて行くとなると…。
監視所部隊にでも協力を要請できるなら少しは安心なのだが…。
「どうしたものか…。」
途方に暮れるしかなかった。
正直、俺なら飛行魔法を使えば比較的簡単に行って帰って来られないこともない。
だが、三千メートル級の山を人間一人抱えて飛ぶとなるとかなりキツイ。
短距離なら簡単なのだが…。
長距離となると、どうしても抱えている人間の思考が共振する。
それはラジオの雑音やトランシーバーの混線の様な物で正しく魔法が発動出来なくなる。
魔術や魔法の知識が有り、飛ぶ事だけに集中してもらえるなら何とかなるのだが。
このアホにそれができるだろうか…。
俺が考えあぐねていると突然後ろから声をかけられた。
「あら。ハルトさん。戻ってらしたのですね!お久しぶりです!」
そこに立っていたのはローズだった。
「あぁ。ローズ。ただいま。と、言ってもすぐに出かけるんだがな…。はぁ…。」
「まあ。王都に続いて大変ですね。お手伝い出来る事が有れば相談して下さいね?」
「うん。ありがとう。何かあったら相談する。」
俺を心配してくれるローズの笑顔が眩しい…。
ここ二日間くらい酷い目にしか遭ってない気がするから、その笑顔が俺を癒やしてくれる。
そんなローズの後ろでコソコソとモゾモゾしているアーノルドの姿が目に入った。
「おい!アーノルド!ローズと出会っちまったんだから挨拶くらいしたらどうだ!?」
『アー!ハルト様!シー!シー!』
そう言えば心配させたくないから会うのは止めといたと言ってたっけか。
余程、心配させたくないのかアーノルドがジェスチャーを俺に送っていた。
「え?アーノルドってどなたですか?」
振り返るローズ。
その視線を避けるように凄いスピードで逆回りに移動してアーノルドが俺の後ろへ隠れる。
うん。何がしたいのかよく分からない状態だ。
「あれ?先程、誰かが…。」
視線を戻すローズから再び逃げようとするアーノルドの首根っこを捕まえて今度は逃さない。
「え?この仮面の方はどなたですか?『従者の仮面』と言う事は王宮の方…。それでアーノルド…?」
首根っこを引っ掴まれてビタンと地面に顔からコケたアーノルドを見ながらローズが考え込む。
アーノルドもアーノルドで表情は分からないが
(((´;ω;`)))
と、言う仮面の感情表示を見た感じ、何だかマズイ事でも有るのだろうか?
相当、困惑しているようだ。
「王宮勤めの関係で仮名か何かなんじゃないか?」
「えぇ。そうかも知れませんが…。アーノルド?王宮勤め?アーノルド…。え?アノアノアノアノアノアノアノ!!!あなた!!こんな所で!!もしかして!もしかして!」
アーノルドを見つめて壊れたかの様に困惑するローズ。
一昨日だったか。
こんな風景を見た気がするのだが気の所為か?
「すいません。ハルトさん。この方を少しお借りしてよろしいでしょうか?もしかしたら知り合いかもしれませんので。」
「あぁ。問題ないぞ。親戚なんだろ?」
「!!!」
ローズにしては珍しく、と言うか初めて見る険しい形相をしてアーノルドを引っ張って行く。
「あ…ありがとうございます。すぐにすぐにすぐにお返ししますので…。」
一見、冷静そうなローズだったが、相当困惑しているようだ。
まあ、そうなのだろう。
王宮に勤めていたら普通はこんな所をウロウロしている事態がおかしな事だ。
アーノルドもこうなると分かっていたから、この前もローズに合わなかったのだろう。
今回は王の命令だから良いのだが、無断で脱走なんてした日には家族に処罰はなくとも悪い噂が家にまで伝わり迷惑がかかる。
そして、何よりも正式に辞めずに逃げた本人には相当の処罰が下るはずだ。
ローズが心配するのも無理はない。
まあ、アーノルドがちゃんと説明すれば分かってもらえるだろう。
最初は激高していたローズだったが、王からの命令書を見せたのが効いたのか、遠目から見ていても落ち着きを取り戻したのが分かる。
数分後には手をしっかりと握りながら優しい笑顔でアーノルドを見ていた。
その笑顔はお姉さんと言うか家族に向ける優しい表情。
アーノルドを抱きしめ何分か泣いたのだろうか。
少し目を腫らしながらも戻って来た時には恥ずかしそうな笑顔を浮かべていた。
「すいません。お恥ずかしい所を見せてしまって。」
「いや。かまわんよ。王宮勤めがこんな所をうろついていたら仕方ないから。」
「えぇ。本当に。この子は私の異父兄弟なのですが…。王宮に居るはずなのに、こんな時期にこんな所に居るものだからビックリしてしまって…。」
「もぉ!ね!ローズさん!さっきも説明致しましたが…王からの!」
「はいはい。それは分かりました。それでですね!ハルトさん!!」
「うん?なんだ?」
少し嫌な予感がした。
「私も同行させて頂きます!これは決定です!!」
だろうな。とは思った…。
* * * * *
「ただいまー。」
「はーい!おっかえりなさーい!ハルトさん!意外と早かったですねー!!」
バタバタと妙子ちゃんの部屋の辺りから足音が近づいてくる。
「と?ローズさん?と?怪しい仮面の人???」
笑顔で迎えてくれた妙子ちゃんがみるみる困惑顔になったのも仕方が無い。
まだ、ローズは分かるとして、珍妙な仮面を被ったアーノルドとは初対面なのだから。
こんな変態仮面が普通に入ってきたら誰だって困惑するだろう。
「妙子ちゃんは初対面だったな。この人が王宮からの使者だったアーノルドだ。あまり親しくしなくても良いが、ローズの身内らしいから、悪影響を受けない範囲で仲良くしてやってくれ。」
「あー。だからローズさんに似た匂いだったんだー。でも、女の子なのにマッチョなオッサンっぽい名前なんですねー。でも、ローズさんよりも幼い感じの匂いがするから妹さんですか?どんな変態仮面が入ってきたの思いましたよー!もしかして私だけに見えてるのかとー!」
「「「!!!!!!!」」」
うちの妙子ちゃんは時々凄いんです。
召喚の時に猫とか馬の能力が付与されているから、その効果も有るのかも知れないが、時々ズバリと本質を突く事も有るんです。
でも、俺でも看破出来ない従者の仮面の効果を見破るとは恐ろしい子…。
「妙子ちゃん。この『従者の仮面』は王宮の様々な理由により性別や個人の特定が出来ないように強力な神威が施されているんだが、男女の区別がつくのかい?」
あまりの事に確認しないワケにはいかなかった。
うんうんと頷くヴァレンタイン姉妹。
彼女らもその辺りが気になるようだ。
「あー。だからモヤっと気持ち悪い感じだったんですねー。見た目は男の人っぽいですけど中性的な感じで…。でも、匂いはローズさんを若くした感じのフレッシュな女の子っぽい感じですよ?ちなみに…ゴニョゴニョゴニョ」
と、妙子ちゃんがアーノルドに耳打ちすると、アーノルドの仮面に
(*;ω;*)
みたいな感情表示が浮かび上がる。
何を言ったんだ…。妙子ちゃん。
「ふっふっふ。人間周期表とでも呼んでください!って何を言わせるんですか!ハルトさんのエッチー!」
なぜかバチーンとビンタが飛んできたがギリギリの所で避ける。
何を言ったのかは何となく分かったが出来れば俺の居ない所でやってほしい。
「まあ、妙子ちゃんの嗅覚が凄いのは分かったが、それはそれで問題な気がするから王宮に戻ったら報告しておいてね。アーノルド。」
「はい。分かりました。あのタエコ様。この事はご内密にお願いします…。」
「あれ?まずかったのかなー?何だか分からないけどりょうかーい!もう一つの珍しい匂いの事も言わない方がいい??」
「えっと。そうですね。それが何かは分かりませんが…。出来ればわたくしアーノルドに関する個人情報はご内密に頂ければと。」
「了解!って言うか?こんな朝からみんなして集まったのはどうしてですかー?ご飯だったら簡単な物くらいなら作れますけど??」
そうだった…。
こんな事をして遊んでいる場合じゃなかった気がする。
俺の事情じゃなくて、主にアーノルドの事情で。
「朝食もお願いしたいけど、また出かけないといけなくてね。その作戦会議みたいな感じなんだ。取り敢えず朝食を地下の工房に持ってきて。あと、準備している間に誰か来たら「荷物を用意して行き先も告げすに出ていった」って言って追い払って!妙子ちゃんお願い!」
「えー!またですかー!?もー!事情が有りそうだから今は聞きませんけど、地下でゆっくり問いただしますからね!」
余程、お留守番が退屈だったのか不満顔の妙子ちゃんだがそう言い残すと台所に向かう。
「うん。助かるよ。妙子ちゃん。ありがとうね!」
その背中にお礼を言い残すと俺達は地下工房に移動した。
* * * * *
「ハルトさん!私たちに内緒で、こんな凄い工房を隠し持っていたんですね!!」
地下工房に移動してローズが開口一番で感嘆の声を漏らす。
「曲がりなりにも魔法使いだからな。そこそこの広さは有るが、ここは規模としては小さい方だよ。あと。皆には内緒にしてくれよ。ここは俺の聖域なんだから。」
もっと言うならダンジョンの方が俺にとっての神域なのだが流石にそれはローズだろうと言えない。
「うぅ…。確かにあのメンバーには話せませんね。きっと凄く暴れると思います…。」
あいつらにポロっとでも話したらどうなるのか想像したのだろう。
素直に納得してくれたようだ。
誰かに話したらポロっとリックにも伝わり確実にリックに荒らされるだろう…。
アーノルドはアーノルドで、余程 珍しいのか「おぉー!」とか「うわー!」とか言いながらチョロチョロと動き回る始末。
「おーい!アーノルド!お前の為にこんな事になってんだから早く席に座れ!」
「ハイ!少々お待ちを!!」
地下工房の奥まで行って気が済んだのかテトテトと駆け寄ってくる。
確かに遠くから走ってくる姿を見てると何となく女の子っぽさが見え隠れする。
まあ、揉んでしまったので俺的には確信していたのだが…。
ローズの妹(?)だったとは。
世間は意外と狭いものだ。
思わず「そんな体力で大丈夫か?」と言いたくなるのだが、ローズと対面して見せた身のこなしとかを思い出すと妙子ちゃんの様なリミットをアーノルドも持っているのかも知れない。
テトテトと走ってきたアーノルドがローズの隣にピタっと座る。
その様子を見て笑顔が止まらないローズを見てると姉妹団欒を堪能させてやりたいのだが、アーノルド曰く時間があまりないと言う事なので早速始めさせてもらおう。
「よし。取り敢えずこれで落ち着いて話せるな。まずはローズ。アーノルドからどの程度の話を聞いた?」
取り敢えずはローズとのすり合わせだ。
俺もアーノルドが付いて来る理由を聞かされていない。
誰がどの程度、今回の話を知っているか把握してからじゃないと、これからどうするか考えられない。
「まずは黒帝山での時空の歪みの調査に関しては聞きました。伝説上の話だと思っていたので驚きましたけど…。これって先日の自称魔王に関する調査の一環だと考えて宜しいですか?」
「あぁ。その通りだ。俺が依頼されているのは時空の歪みを監視するドラゴンに密書を手渡す事と、時空の歪み周辺での調査。これは俺がこの前対峙した自称魔王の魔力痕跡や波長などが無いかの調査だ。少し大変だが俺一人なら生息しているワイバーンなど対処しつつドラゴンの所まで行き着き調査出来ると思う。そこでどうしてアーノルドが必要なのかなんだが…。」
そこで区切ってアーノルドの方を見る。
が、出してやったコーヒー牛乳に夢中らしく完全にスルーされた。
代わりにローズが話し出す。
「私も聞いたのですが…。詳しくは話せませんし、全てを聞いたワケではないのですが、目的地への扉を開く為に、この子の能力が必要だとか…。」
なるほど。言われてみればそうだ。
時空の歪みからこれまで魔王が帰還していないとは言え、戻ってくる可能性が有る第一候補と言えば封印の地と考えても良いだろう。
その周辺に何の対策をしていないワケがない。
こんなアーノルドが王宮勤めをしているのに疑問を持っていたが、アーノルドに何かしらの鍵となる能力があるのだとすれば合点がいく。
「つまり。お前が居ないと開かない扉が有ると言う事で良いのか?アーノルド?」
俺が問いかけるとすっかりコーヒー牛乳が無くなったカップから顔を上げて話し始めた。
「大体そう言う事ですね!アーノルドさえ居れば危険な事などせずに黒龍帝の部屋まで一直線だと王は仰ってました!!」
やはりか。つまり、時空の歪みを監視する黒龍帝の部屋に入るにはアーノルドが必要と言う事らしい。
「ちなみに、道中の危険度を考えると俺が一人で行った方が身軽でお前たちを守る手間も無いのだが、それを押してでもアーノルドを連れて行かないといけないのか?例えばお前が居ないと絶対に扉が開かないとか、他の入口は無いだとか?」
「いえ。そう言う事は無いのだと思います。最終的にあの部屋を守っているのは黒龍帝ですから。賊が侵入を試みて最深部に辿り着いたとしても並大抵の賊なら瞬コロでしょうから。 私は王が「あ。そう言えば■■■■で■■■■■を通れば、ハルト君も危険な目をして■■■■■■■■を使わなくても良いから楽だろうね。■■■■■■■も、もうすぐ■になる事だし■■■■の使い方を学ぶつもりで■■■■■■■■■■を起動させてみる?」と仰ったので志願したのです!!」
「うん。何だかやっぱりあの王って意外と軽いな…。と、言うか声になってなかった部分があったけど言えない様な事なのか?」
「それは禁則事項ですね。アーノルドが普通に発音しているつもりでも、相応しくない人や場所での禁則事項の発声は制限されるのです。それは退位された王にも施されるプロミスで時期や条件によって解除される単語も有りますが、情報漏えい対策なので私ではどうにもなりません。もちろん文字にする事も不可能です…。」
と、言う事は分からない部分はどうしても分からないか…。
俺が知っておくべき情報が隠されている感じがして気にはなるが…。
これまでの話を聞いた限りでは、扉を開くだけの為にアーノルドとローズを危険な黒帝山に連れて行くメリットは少ないかも知れない。
俺が苦労すれば良いだけなら…。
「なぁ。やっぱり、俺が一人で…」
「却下です!今のアーノルドにはハルト様への同行権限が有ります!それでも拒否されると言うならアーノルドは一部王族権限を発動致します!!そうなるとアーノルドの声は王の声と同じ!!!どうしても拒否されると言うならば!最近、街で流行りだと言う『魔法少女☆まじかるタエにゃん』の衣装で市中引き回しの刑などを実行しなくてはいけなくなります!!その覚悟がお有りならば私の屍を超えて行きなさい!!!」
ドーン!!!
と、言わんばかりのキメ顔を決めている感じのアーノルドが俺を指差す。
どこからツッコンで良いのか分からないが、取り敢えず身内の恥ずかしいコスプレのコスプレだけは勘弁して欲しいものだ…。
「分かった。そこまで言うなら仕方がない。禁則事項の部分が気になるが同行を許そう。ただ、俺が危ないと判断したらローズと一緒に離脱する事。それだけは約束してくれ。俺だけなら処理出来ても、お前たちが居たらどうにもならない可能性は十分有る。良いな?」
「もちろんです!ハルトさ」
「おーっと!話は全て聞きましたよー!早速、本物の妙子ちゃん特製弁当を四人分用意しますね!」
いつから聞いていたのか分からないが、妙子ちゃんは朝食を置いてそう言い残し再びキッチンに向かって走って行ってしまった。
うん。あれは何を言っても一緒に来る感じだ。
マジで勘弁して下さい…。ホントに。
* * * * *
急いでいる時ほど不運に見舞われる。
人間なら一度や二度はそう言う経験が有るだろう。
遅刻しそうになって電車が駅に到着したのと同時に駆け出して階段を駆け下りたまでは良かったが、目測を見誤って一段飛ばしをしてしまい、そのまま対応できずに派手に転んでしまったり、約束の時間よりも随分早く着いてしまい、予定時間まで時間が有るからとカフェで本を読みながら待っていて、気がついたら約束の五分前で急いで店を出ようとしたは良いが、そう言う時に限って精算時に小銭が上手く出せず仕方なく札を出して財布が小銭でパンパンになったりなど。
普段ならちょっと気をつければ回避できるような些細なミスを焦っていると人間はしてしまいがちだ。
「いーやーだー!わだじもいぐんでずー!!!いぐんでずー!!!」
今の俺がまさにその状態だった。
朝っぱらからアーノルドに叩き起こされて、何かローズとアーノルドにも色々有りそうな感じで、頭が回っていなかったと言う事も有るだろう。
少し考えればこうなってしまうだろうと思いついたのかも知れないが…。
なんで家に戻ってきてしまったのだろうか。
「いぐー!!!いぐー!!!わだじもいぐー!!!」
案の定と言うか予想以上にと言うか、妙子ちゃんも黒帝山行くと駄々を捏ねられている。
「だーかーらー。流石に今回のは危険だから留守番だって行ってるだろ?」
「えー!じゃあローズさんもアーノルドさんもお留守番でしょ!危険だって理由なのにうら若き乙女を二人も連れて行くのに私だけお留守番なんて酷いです!一人も二人も三人も変わりませんよ!!!ハルトさんのエッチ!鬼畜!ムッツリスケベ!!」
妙子ちゃんの身の危険を心配して言っていると言うのに罵倒されるとか、どっち方面のご褒美なのか意味が分からない。
万が一、連れて行くとしても、それなりの経験者の助けが必要だ。
一定レベルの冒険者に依頼してパーティを組んでアーノルドと妙子ちゃんのフォローを頼まないといけなくなる。
と、なると。
必然的にと言うか俺の人間関係の狭さの関係上からローズのパーティに依頼する事になる。
と、なると。
どうしてもリックが着いて来るワケだ。
正直、今の俺はアレの相手をしたくない。
通常時ならかろうじて相手も出来るのだがここ数日の出来事で精神的に疲弊している。
正直、現状で既に面倒臭い感じ。
出来れば俺一人で向かってさっさと用事を済ませてミッションコンプリートしたいと言うのに…。
「アーノルドはタエコさんにも同行して頂きたいです!あんなに美味しい食事を提供して下さったタエコさんをひとりぼっちで置いていくとか!!ハルト様は酷いです!!」
うん。面倒臭い。
元はと言えばお前が朝っぱらから押しかけて来なければ余裕をもって準備をして一人で黒帝山に向かって調査をしてくるだけの簡単なお仕事だったと言うのに。
明らかにここまで事態が拗れている原因はアーノルド。お前だ。
「いーぎーだいー!!いーぎーだいー!!いーぎーだいー!!」(チラ…。)
もうやだ。面倒臭い。泣きたいのは俺だと言うのに…。
明らかに嘘泣きだと言うのは分かっているのだが、ここ数日家を留守にして妙子ちゃんをこの世界でひとりぼっちにさせてしまった申し訳無さが心に伸し掛かる。
「…仕方ない。取り敢えず上に戻ろう。話はそれからだ。」
「え!?じゃあ!?」
「ローズ。上に戻ったらメッセンジャーで皆にウィスパーしてくれ。リックは無理に誘わなくて良いからな。最悪、おれがヘイト集めて引き狩りでも何でもするから。」
「ふふ。良かったですね。タエコさん。同行を許して下さるそうですよ!」
俺があえて口にしたくないと思っているのを察してくれてかローズが妙子ちゃんに耳打ちしてくれた。
「やったー!ハルトさんありがとー!!!」
無邪気に笑顔を見せる妙子ちゃんだが、標高三千メートル級の山でワイバーンを撃退しながら登山する過酷さを思い知る事となる。
* * * * *
上に戻りパーティメンバーが揃うまでの間、リビングで再度ブリーフィングをする。
と、言っても。
ここまでメンバーが増えたら注意も何もあったもんじゃない。
今いるメンバーに伝える事と言ったら…
・勝手に歩き回らない。
・道中に居るだろうワイバーンを無駄に引っ掛けない。
・万が一の場合は俺の指示でローズは二人を連れて離脱する。
と言う事くらいだ。
後は、来たメンバーに今回は狩りじゃないから出来るだけ敵はスルーで目的地を目指すと言う事を伝えれば場面場面で適切な対応をしてくれるだろう。
「じゃあ、復唱だ。」
「「有るき回らない!引っ掛けない!危なくなったらローズさんと逃げる!」」
「よし。それだけは絶対守れよ?」
「「はーい!」」
今は素直に返事を返す妙子ちゃんとアーノルドだが、どこまでこの返事を信用して良いものか…。
二人共、予想外の所で予想外の行動をする予感がするので気が抜けない。
一通りの説明が終わった所で家のドアが乱暴に開け放たれた。
「俺参上!!!ハールトーー!!俺の力が必要だってな!?」
「いや。正直、お前はあまり必要ないが来たいなら来ていいぞ。」
「ツンデレか?ハルト?ツンデレか?…っていうか見慣れないのが一人いるな…。ってかあれってまさか…。」
家に入って真っ先に俺に絡んできたリックがアーノルドに気が付き問いかけてきた。
と、言うか一般人からすれば異様な風貌のアーノルドをスルーして俺に絡んでくる方が異常なのだが…。
「出来ればまとめて来てほしかったんだが軽く紹介しておくか。今回の任務の依頼者代理と言っても良いだろう。アーノルドだ。えーと。宮廷勤めの従者で良いのか?肩書的には?」
「はい。構いませんよ。」
「と、言う事だ。短い期間だが良くしてやってくれ。」
俺が紹介し終わったがリックの反応が無い。
アーノルドの方を見ながら何かブツブツと言いながら考え込んでいるようだ。
「おい。こんなポンコツでも一応依頼人だ。自己紹介くらいしろよ。」
「あ…。ああ。すまん。」
リックが珍しく素直だった。
普段なら誰にでも気安く、もっと騒がしく、失礼なのだが。
膝を折りアーノルドの左手を取って自己紹介を始めた。
「申し遅れました。この街で冒険者をしているリック=グランリバーです。失礼ですが雨上がりの虹はお好きでしょうか?」
うん。今日のリックは明らかにおかしい。
普段とは違うベクトルでおかしい。
明らかに誰が見ても異常な風貌のアーノルドに騎士の様な挨拶を始めてワケの分からない事を言いだした。
「はい。雨上がりの虹は素敵です。出来る事なら雨上がりの虹の下でお茶会でも開きたいですね。」
「お茶会ですか!それは良いですね!でも、あなたはワインの方がお好きなのでは?」
「えぇ。ですが、ここにワインは無いのでしょう?」
「あぁ!失念していました!これは失礼!!」
「「あはははは!」」
って、なんだこの小芝居は…。
リックも変だが、アーノルドの様子もおかしい。
そして、その様子を見ていたローズの様子もおかしかった。
「 本 物 じ ゃ ね ー か ー ー ー ! ! ! 」
なぜか、謎の奇声を発して転げ回るリック。
なぜか、クスクスと笑っているアーノルド。
なぜか、青い顔をしているローズ。
何がどうなっているのかは分からないが、今回のこの件は何かとても面倒な事情が絡んでいる気がした。
どうも。となりの新兵ちゃんです。
一応、ここでは言いませんがそういう事で正解だと思います。
隠す気は無いと言うか、隠す技量が無いのでアレなのですがアレですね。
あっちの方も多分それで良いと思います。
今回ではなく、どっかで書ければ良いなと思うのですが、そのうちにと言う事で。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




