其之三|第二章|出発前夜
その日の夜。
俺は王都に向かう準備をしながら、妙子ちゃんと平穏な時間を過ごしていた。
仮病と言うか、先延ばしにしていた王都からの召喚。
妙子ちゃんが買い出しに出かけている間に、手持ち無沙汰から店を開いて店番をしていた俺。
たまには、ちゃんと働く事もあるんだぞと言う面を妙子ちゃんに見せたかったと言うか、怪我で寝込んでいて、心配ばかりかけていたから大丈夫だと言う姿を見せたかったと言うか…。
だが、それが悪かった。
妙子ちゃんやら街の連中に見られるだけで済めば良かったのだが、俺の見舞いに来た王都からの使者にバッチリその姿を見られてしまい、王都からの使者だと気が付かずにガッツリと接客をしてしまって仮病がバレた。
王都からの使者も事情は汲んでくれたのでお咎めはなかったが、動けるならと王都への上京が急遽決定。
あの戦いで随分とダメージを受けたから、もう少しゆっくりしたい所だったのだが…。
自業自得と言うか、言い逃れの出来ない状況を自ら招いてしまい旅支度をしているワケだ。
とは、言え悪い事ばかりでもなく、早ければ明日の午後にでも王様に謁見出来るらしい。
自称とは言っても魔王の襲来となれば王も時間を作らいないワケにはいかないだろう。
だが、緊急性は低くなっているので数日は王都で待たされると思っていた。
短い日数で済むならありがたい。
これに関しては幸運だったと言えるだろう。
自称魔王が完全復活して現界していたと言うなら問答無用で王様に直行だったと思うが…。
倒しちゃったからなぁ。
自称魔王だったけど。
俺の仮病が許されたのも緊急事態と言う事では無いと言う結論からだろうし、王都に着いてから空き時間が出来るまで待たされるものだと思っていたので嬉しい知らせではあった。
まあ、面倒事を先延ばしにしても良い事はない。
サクッと報告をして終わるなら終わらせてしまった方が後々の事を考えると楽だろう。
「へ~。じゃあ、早ければ王都からその日に帰って来られるんですか?」
「そうだなぁ。移動自体はさっきも言ったように一瞬だからね。体感で言うと家のテレポーターとあまり変わらないよ。じゃあ、テレポーターのメンテナンスのおさらいをしてみようか。」
「はーい!ではでは。さっき取得した座標を記入し直してロックっと。で、ぬいぐるみを置いて、魔力を通して…。こちら側での消失を確認したら、出口に正しく転移したかを…。確認してきます!」
面倒事と言うともう一つ。
王都への移動手段がテレポーターだと言う話をしたら、テレポーターに興味を持った妙子ちゃんが詳しく知りたいと言い出した事だ。
こういう物なんだと、何となく受け入れて好奇心を消化してくれるなら楽なのだが…。
更に突っ込んで話をすると面倒になる。
テレポーターについて深く説明するとなると凄く面倒臭い。
仕組みは何となく分かっても、中身の詳細は分からないなんて事は世の常だ。
元の世界で言えば携帯電話なんかがそうだろう。
今となっては当たり前のシステムだが、アレがどの様な仕組みで制御されて動作しているのかなんて事を気にする人は少ない。
この世界で言えば、このテレポーター。
先人が見つけた方法を活用しては居るが、仕組みまで知っている人は少ない。
俺も詳しく説明しようと思えば出来ない事も無いが、なぜあの魔術とこの魔術を組み合わせる事でその様な反応をするのかと聞かれると、そう言う法則なんだから仕方がないとしか言えない。
電流が流れるとなぜ磁界が発生するのかと言う話に近い感じがする。
事象は観測出来るが「なぜ?」と言われると、俺程度では「そうなるから」としか言いようがない。
それこそ「なぜ」そうしたのかは神にでも聞いてくれと言う話だ。
ポトン
地下工房に設置されたテレポーターからぬいぐるみが出現した。
妙子ちゃんが動作確認の為に家側に設置したテレポーターから送ったのだろう。
バタバタバタ
自分が調整したテレポーターが上手く動作したか早く知りたいのだろうか。
慌ただしい足音が階段から聞こえる。
「どうでした!?成功しました!?」
「大丈夫。ちゃんと調整出来たみたいだね。」
まあ、俺が設置したテレポーターを使っているんだから成功して当たり前なのだが…。
得意げにピースサインをする妙子ちゃんを見ているとそんな事を言えるワケもなく、無粋な事を口にするのは止めておいた。
「と、言う事で、座標計測器が有れば座標取得の魔術を知らなくても、同結界内の小規模なテレポーターをメンテナンスするくらいは出来るワケだ。詳しい仕組みは空間移動概論の初級から読んでもらった方が早いけど、さっきも言ったように正確な座標を割り出して指定を行い、時空系魔術と重力系魔術を組み合わせて空間をショートカットする事でテレポーターとして機能する。元の世界のワームホール理論っぽい感じなんだと思うんだけど、専門外だから「そんなものなんだ」として理解してくれると助かる。」
「ふーん。どうしてそんな反応が起こるかまでは分からないんですねー。」
「そうそう。詳しい人に聞けば理屈くらいは教えてもらえるかも知れないけど、「で、結局はどうしてそんな反応が現れるの?」とか聞いても、相手を困らせるだけだからやめなさいね。」
「はーい!魔法や魔術もよく分からない物で出来ているのがよく分かりましたー!」
珍しく、妙子ちゃんのモノ分かりが良くて助かる。
考えるのが面倒なだけと言う気もしなくないが、時には「そうなる」と割り切る事は大事な事。
もちろん「なぜ?」と疑問に思う事は大事だが、そうなるんだから仕方がないと言う事に関しては素直に受け入れ、活用してくれる方が幸せになれる気がする。
「と、言う事で。これが出入口を予め設定して使うのが固定式テレポーターの基礎ね。」
「何となく分かりました!じゃあ、これと同じでハルトさんが王都に行く時に使うのも固定式テレポーターなんですね!」
「そういう事。基本原理は変わらないね。こんな簡易的なモノではないけど。」
テレポーターにも色々有る。
この家に設置しているのは、家の中だけで仕える屋内の移動用。
自作のホームエレベーターとでも思って貰えればわかりやすい。
「あれ?固定式があると言う事は他の方式も有るんですか?」
まあ、想像できると言えば想像できる事だろうが、好奇心を広げられると言うのは妙子ちゃんの良い部分だと思う。
たまに、広がりすぎて面倒臭い時も有るが…。
「そう。今じゃ使いみちはあまり無いけど固定式の基礎となった座標指定式テレポーターと言う技術も有るよ。」
「ほほー。名前からすると座標さえ分かればどこにでも入り放題ですか!?」
「いやいや。「今じゃ使いみちはあまり無い」って言ったろ?どこにでも入り放題だと、この世界は犯罪天国だ。」
俺も最初はそう思ったが、そんなに世の中は甘くない。
悪用される可能性の有る魔術や魔法に関してはある程度の対策はされているのだ。
「ですよねー。でも、座標を指定して移動出来ないのに座標指定式テレポーターってコレいかにって感じなんですけどー?」
「まあ、やり方次第ではどこへでも入れはする。ただ、座標指定を指定して移動する技術なんてのは何千年も前から知られているから対策済みだからね。余程の使い手じゃないと家屋に侵入するなんて事は出来ないさ。」
「つまり、防犯対策は完璧なんですか?」
「そりゃそうだ。この世界の建物の多くはテレポーター対策やら悪用の可能性が有る魔法や魔術に対する結界が張られているからね。パスを持ってない建物の近くを出口に設定してアウトしてしまうと、下手すれば元の距離の倍以上の距離の知らない場所に飛ばされてしまうよ。」
「うーん。よく意味が分からないんですけど、結界の範囲の中に出ると結界の効果で知らない場所に飛ばされちゃうのかなー?」
「いやいや。テレポーターってのは固定式でも座標指定式でも『何もない場所』にアウトしないと一定の法則に則ってランダムで弾き飛ばされるんだ。」
この辺りは教本などで勉強して欲しい所なのだが「つまり?どう言う事ですか??」と、妙子ちゃんの頭はハテナマークでいっぱいの様なので、もう少し詳しく説明をする事にする。
「つまり、座標指定した出口に犬が居たとする。同じ座標に俺が現れる。じゃあ、どうなる?」
「うーん。犬が押しつぶされるかな?」
「いや。違うんだ。もし、同じ位置に出れたとしても犬の胴体に俺の足がのめり込んでるだろう。俺の足と犬が融合しているかも知れない。」
「そ…それはなかなかグロいですね…。」
「でも、実際にはそうはならない。出口が塞がれて出られないって言うのが正解だ。出口からは出られないが移動するための力は発生している。だから、その反動で良くて同じ距離を、悪いと倍以上の距離を飛ばされるんだ。方向やら場所はランダムでね。もちろん、ランダムだからアウトされる場所は知らない場所の方が多いだろう。」
「ほっ。じゃあ、わんこもハルトさんも無事と言えば無事なんですね!」
「あぁ。無事と言えば無事だ。でも、再アウト先が建物だったり、何かが居れば更にそれは続く。運良く何も無い所に出られたり、飛ばされている間に座標の再設定が出来れば助かるが、酷い時には延々と飛ばされ続ける事も有るから、どっちが幸せなのかは分からないな。」
「うわぁ。それはそれで嫌ですね…。」
「そういう事。一度くらいは経験しても良いかも知れないがアウトに失敗すると悲惨だ。だから、座標指定式テレポーターを使う場合には飛空系の魔術や魔法を前もって使用して、空にアウトするんだが、それでも運悪く鳥とか飛行物が通りかかって失敗するなんて事例が年に何度かは報告されているよ。座標指定式が頻繁に使われていた何千年前なら『何もない場所』なんてのも多かったかも知れないが、現在では人口も家屋も増えている。出口の状況が運任せなんて技術が廃れる理由も分かるだろ?」
「確かに…。飛行機の着陸が運任せじゃ誰も使いたがらないのと同じですね…。」
「そういう事。しかも建物に使われている結界の範囲は防犯の為にランダムで変わるからね。今日は大丈夫でも明日は分からない。不用意に建物近くを出口に設定すると言うのは、それだけで「結界が有る空間」にアウトすると言うリスクを負うんだ。だから、街の中を出口に設定するなんて危険な事は誰もしない。一応、一定規模以上の街には座標指定式用の広場が設置する決まりは有るんだけど、それも完璧じゃないからね。今では座標指定式を使うとしてもパスを設定した自宅への帰還くらいにしか使われていないのが現状だよ。」
「あぁ。もしかして「パス」ってパスワードとかそう言うパスなんですね!」
「そうそう。結界と言っても住んでる人間が不便じゃ意味が無いからね。パスワードを設定した権利者は結界が有っても出入りは自由だ。出入口の無い塔とかの出入りとかはそれだよ。住んでる人間が弾かれては意味がないから。出入りする方法は当然設定されているってワケ。」
「なるほどー。言われればそうですね。そんな魔法や魔術が有るのに対策をしないワケは無いし。だからと言って住んでいる人が不便じゃ意味ないですよね!あれ?でも?じゃあ、遠い場所の固定式の出口ってどうなってるのかな?家の中みたいにパス設定できないですよね?家の中だったら結界内だから? 何となく大丈夫かなって言うのは分かります。でも、遠くだと違う結界だから弾かれる?でも、設定をしているから大丈夫なのかな?」
「まあ、そうだね。設定がしてあれば安全な出口から安全にアウトする事が出来るよ。妙子ちゃんはテレポーター屋を覗いた事はあるかな?」
「外から見た事は有るけど、中は見た事ないですよー!用事も無いし!!」
「だろうね。テレポーター屋は基本的に値段が高いんだけど、行き先によって値段がかなり違うんだ。なぜか分かるかい?」
「えー!?なんだろう…。距離かなぁ?」
「それは些細な問題だね。その理由は安全な出口の確保だ。テレポーターを使う上で一番大事なのは出口のコンディションと言うのは今までの話で分かったよね?」
「そうですね。出口に結界とか何か障害物が有ると弾き飛ばされるんですよね。」
「そうそう。結界に関しては入口と出口でパスを共有して居れば問題はない。じゃあ、何が値段の変動に関係してくると思う?」
「えー。何だろう…。距離は関係ないみたいだし…。安全な出口…。あぁ!!家賃!!」
「まあ、そんな所だ。賃貸じゃテレポーター屋は運営出来ないから土地や建物の維持費。地価の高い都市では物価も高ければ持ってかれる税金も高い。必然的に維持・管理するのにもお金が掛かる。その分の料金も高くなるってワケだよ。」
「なるほどー。安全な出口を確保する為に費用が掛かるから街のテレポーター屋さんは行先によって高いって言う事なんですね。じゃあ、自分でよく行く街の近くの野原とかに小屋を作って出口を設定しておけば…。」
「いやいや。管理者も居ない場所を出口に設定しても…。勝手に踏み荒らされてどうなるか分からないよ?管理に人を雇うとしてもコストが掛かるから意味がない。それ以前にそんな不法占拠が許されないよ。どう考えても安全性は確保出来ないから座標指定式よりも危険だ。」
「でも、無料で出来そうな事をお金を使ってとかイヤなんですけど!!」
・・・・・・。
うむ。実に妙子ちゃんっぽいと言えば妙子ちゃんっぽいのかも知れない。
普段は聡明な妙子ちゃんだが、たまにこう言う所がある。
結構、お金に汚い一面が。
一見、面倒な会話で出来れば早めに切り上げたいと思っていたのだが、俺が居る間に釘を刺しておくに至るまで話が進展したのは妙子ちゃんにとってラッキーだったと言えるだろう。
中途半端にこの話を流して終えていたなら、俺が王都から戻った時にはどこかに飛ばされまくっていたかも知れない。
変な所で行動力の有る妙子ちゃんだ。
俺が居ない間に自分で勉強して、テレポーターをマスターするかも知れない。
だが、問題としてはテレポーターが危険な魔術であると言う事。
勝手に試して行方不明にでもなってしまってはシャレにならない。
「良いかい。妙子ちゃん。テレポーターが危険な魔術で、魔法として使う場合にも注意が必要だと言うのは理解してくれているかな?」
「え?でも、固定式なら安全なんですよね?」
「それは比較的にって言う事で完全ではない。この家に有る小規模同結界内の固定式テレポーター設置は自己責任で設置する事が出来る。特に規制も無い。だが、同結界内でも規模の大きな宿屋や大きな屋敷とか一定の敷地面積を超えるとメンテナンス記録などの表示義務が発生する。何故だかは分かるよね?」
「えっと。もしかして危ないからですか?」
「そうだね。地軸の歪みや地震などで微妙に座標ってのは変わるんだ。小規模なら被害は少ないが、一定の敷地面積を超えるをこまめなメンテナンスが必要になる。じゃあ、違う土地にテレポーターを設置してメンテナンスをせずに放置していて安全かな?」
「危ない気がします…。」
「気がするじゃなくて危ないんだよ。テレポーター屋が土地と建物を確保して営業しているのは安全性を確保する為だ。安全性を確保して初めて政府から許可を得て運営しているんだよ。メンテナンス記録にメンテナンスをした業者の開示は必須、出入口の詳細や提携先などの情報を利用者が確認出来ない様な状態では商売は出来ない。治安維持と言う点からも認可の無いもぐりのテレポーター屋なんて商売も出来ないし罰則も厳しい。他にも王都ともなると外壁から約五キロメートルの距離には何重にも結界が張られているから座標指定式での侵入は不可能。固定式でも通過権を買って商売をしている。値段が高いのには理由が有るんだ。治安維持と言う点でも勝手にテレポーターを設置しないようにね。例え不正にテレポーターを設置して悪巧みをする様な反政府勢力なんかが活動拠点に固定式テレポーターを設置していたとしても、管理者を置かずに野ざらしで出口を設置するなんて事はない。何の整備も安全性の確保もされていないテレポーターが危険だからだ。知らなかったのは仕方ないけど危険な事にはもう少し敏感になって欲しいな。」
「うぅ…。ごめんなさい。」
「あぁ。良いよ。大丈夫だ。危ない事だと分かってもらえれば。たぶん本を読めば妙子ちゃんなら理解してくれて、勝手に試してみたりしないとは思うけどさ。俺が居ない間に何かあったら俺が困るから。王都から戻ったらこの家で笑顔の妙子ちゃんに迎えてもらいたいしさ。」
「はい…。ハルトさん…。」
こんな説明で良かったのかは少し疑問だが、危ないと言う事だけは認識してくれたみたいで何よりだ。
それよりも、自称魔王討伐の後に怪我で看病してくれて以来、何となく良い雰囲気と言うか甘い雰囲気になる事が度々あって、どうしたものかと凄く困る事が増えている。
王都から戻ったら笑顔の妙子ちゃんに迎えてもらいたいと言うのは本心だが、何と言うか意図した意味で伝わって居ない気がしてならない。
まあ、恥ずかしいセリフだったとは言ってから俺も思ったが…。
頬を染めてモジモジとされてはオッサンとしては、どう反応して良いのかとても複雑だ。
この世界の決まり事としてはセーフと言えばセーフなのだが…。
どうにもこうにもアレだ…。
そして、お互いの真意が伝わらないままに誤魔化してしまう。
「まあ、アレだよ。固定式テレポーターは、飛行機のファーストクラスや新幹線みたいな感じで考えれば、移動時間の短縮にそれなりの対価が発生するのも理解出来ると思う。それくらいの厳しい安全基準の上で運営されているからね。お金がって言うなら他にも移動手段は有るから、鈍行の旅か優雅なファーストクラスの旅かみたいな感じで割り切れば楽しみ方も色々だと思うしさ。整備もされていない自作の飛行機で旅なんてしちゃいけないみたいなもんだよ!あはは…。」
「そうですね…。自作の飛行機は怖いですよね…。あはは…。」
「あと、ダンジョン内でショートカットしようとして座標指定式テレポーターを使うのも駄目だからね?運が余程良いかダンジョンを熟知してないと埋まってしまうって事故も多いからね!リザレクションコインで地下一階に戻される馬鹿が何人も毎月いるからね!あはははは!」
「うわー!毎月居るのにやっちゃう辺りが冒険者と言うか何と言うかですね!あはははは!」
そして、気まずい雰囲気になるんだよな…。
意識しすぎなのかも知れないが、この年まで童貞の俺には難易度が高いシチュエーションだ…。
「盛り上がってる所、悪いが良いかのぉ?」
ビクン!
ビクン!
ナイスタイミング!
なのだが、出現方法が悪趣味だ。
二人してビクンとしてしまって超ハズイんですけど!!!
「私が骨を折ってやったと言うのに王都からの使者にバレたらしいのぉ?」
いつもなら俺と妙子ちゃんを弄ってきそうなシチュエーションなのにスルーされている時点で少し怖いのですが…。
「はぁ。面目ないです。」
「まあ、それは良いさね。丁度良い機会だから自称魔王の件で得たデータをねぐらに持ち帰って検証してみようと思うのじゃが…。タエコ。一人で大丈夫じゃな?」
「え?あ。はい。大丈夫だと思うけど。師匠さん帰っちゃうんですか?」
いつもとは違う師匠の雰囲気を妙子ちゃんも感じているようだ。
「思う所があってな。本来ならすぐにでも戻って検証したかったのじゃが、そこの馬鹿が馬鹿すぎてアレじゃったからの。ハルトが王都に行くってなら逆に安心じゃからな。一度戻ってくるだけさね。そうさね。長くても一週間もかからんじゃろ。良い子でお留守番してくれるか?」
「はい!大丈夫ですよ! もぉ…。いつもと師匠さんの雰囲気が違うから居なくなっちゃうのかと心配しましたよー!」
少し涙ぐむ妙子ちゃんを見て頭を撫でながら微笑む師匠。
確かに師匠の雰囲気がいつもと違ったので俺も少し心配したが戻ってくる気は有りそうだ。
魔法少女の特訓で急激に距離が近くなった妙子ちゃんも、師匠が帰ってこないのではないかと言う感じを受けたのだろうが、微笑む師匠の顔を見て安心したみたいだ。
ただ、先の自称魔王の件で何かしらの危機感を感じてはいるのだと思う。
師匠の工房に戻れば、師匠の師匠である爆裂技巧の魔法使いジョージ=グラスロッドが残した持ち出し制限がされている魔王関連の資料が唸るほど有るはずだ。
もっと早くに戻って調べられたのかも知れないが、俺が怪我とかアレでアレ過ぎて流されそうな感じになりかけていたのを見越して、抑止の為に残ってくれていたのだろう。
弱っていた俺が間違いを犯さないで済んだもの師匠のお陰だ。
感謝してもしきれない。
「もう二度と別れも言わずに消えるなんて事はしないと決めているから大丈夫さね。泣いてなんかいないで笑いなさい。妙子。」
くしゃくしゃと師匠が妙子ちゃんの頭を撫でて抱きしめる。
「それに約束したじゃないかい。妙子を立派な魔法少女にすると。それまでは消えろと言われても消えないさね。なぁ?晴人?」
こう言う時にどう言う顔をすれば良いのやら。
珍しくシリアスモード全開の師匠に困った笑顔を返すしかなかった。
「魔法少女が云々と言う話は置いておくとして。十年前に俺が師匠の工房を出る時にも言いましたが、俺を師匠が助けてくれた様に、俺も師匠の助けになりたいんです。師匠が何を抱えているのかは分かりませんけど。師匠があの塔から出る理由くらいにはなれるように頑張りますから。師匠ももう少し…」
「いや。お前じゃ理由にならないさね!私はタエコの為にここに居よう!」
「ぬお!何だか二人だけの秘密的な展開だと思って静かに聞いてたら私の方に矢が向いた!?って言うか!!さっきの良い雰囲気っぽいのとか色々と問い詰めたいのですが!?」
「師匠…。師匠が変なシリアスモードに入ってたから合わせたら、妙子ちゃんにある事ない事問い詰められそうなんですけど…。」
「「「あはははははは!」」」
普段は冷たい地下の工房に笑い声が響く。
それは、少なく見積もっても幸せな時間だった。
その後、待ち受ける試練を知らない この時の俺達にとっては。
「さて、そろそろ月の力が満ちる時間か。行くとするかね。」
「あれ?師匠さんもう行っちゃうんですか!?」
時刻は午後十時。
良い感じに満月が昇り、透き通った純粋なマナが溢れる時間だろう。
「あぁ。結構遠いからね。効率の良い時間じゃないと飛んでても疲れるのさ。」
「そっか。そんなのも有るんですね…。」
「なぁーに。心配ない。すぐに戻ってくるさ。約束さね。」
「はい…。師匠さん…。気をつけて。」
妙子ちゃんを安心させる為か、名残惜しそうに頭を撫でる。
「師匠。いってらっしゃい。無理はしないで下さいね。トシなんですから。」
「馬鹿者。まだお前程度には負けないさね。」
そう言ってニコリと笑うとテレポーターに向かう。
「じゃあ。行くかね。」
テレポーターに消える師匠が間際で呟いた。
「いってきます。」と。
どうも。となりの新兵ちゃんです。
季節的な物でしょうか。
家に帰ると何も出来なくなってしまうと言うメンタルでヘルス的な症状が現れて帰宅後は何もやる気がなくなって寝コケると言う状態が二日くらい続いてお話がまとまらない状態がしばらく続いていました。
その状態から脱してから出てきたのがコレなので、単に眠かっただけの様な気もします。
が、季節の変わり目なので、みなさんもご自愛ください。
症状が落ち着いた所でクオリオティなんて上がらないのでアレですよね…。
まだお話っぽくはなったのと、後の展開に絡めようと思ってる話を入れられたので良しとします。
と、言う事で一回書き直しています。
ボツになったお話では脈略もなくテレポーターに関するお話がダラダラと書かれて、王宮に着いてからのハルトの話がダラダラと展開されていたのですが…
書き直してみたところ「ハルトがテレポーターで王都に行く」と知った妙子ちゃんが何故かテレポーターに興味を持って、出発前夜なのにハルトがテレポーターについて教えると言うよく分からない展開になってしまいました。
いや。まあ。どっかでテレポーター関連の設定とか使うんだと思うんですけど、無くても良かった気がします。
うーん。色々思う所も有りますが、ボツになった物よりはマシなので勘弁してください。
あ。前回あとがきの予告っぽいのとは変わってしまいましたね。
その辺は次回それなりに消化されると思います。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




