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其之二|第六章|まだ、そこにいる

 家に戻ると師匠とニコさん&ニナさんが酒宴を続けていた。

 様子を見る限りじゃ三人とも無茶な飲み方はしていないようだが、部屋の荒れようは凄まじかった。


「ひゅー!お手て繋いでお帰りとはお熱いね~!朝帰りとは羨ましいじゃないかい?」

 家の中に入るなりニナさんが冷やかしてくる。


「何だ?何だ?ついにハルトも一線を越えて大人になったのかい?やるじゃないか。」

 多分、師匠も何も無かったと分かっていて、その冷やかしに乗っかってくる。

 勘弁して欲しいものである。


「はいはい。二人とも何も無かったって分かってて言ってますね。妙子ちゃんが出かけて帰って来るまでの時間で何が出来ると言うんですか。勘弁して下さい。」

 と、受け流すが下品なお姉さま達の追求は止まらない。


「情けないね~。そんなに早く出しちまったじゃタエコもさぞガッカリしただろうな!。」

 地味にニナさんがノリノリなのが厄介だ。

 普段は防波堤の役割をしてくれるニナさんが敵に回ると面倒な事この上ない。


「あのー!ハルトさんは安定のヘタレだったので何も無かったですよー!」

 さすがに眠たいのか目を擦りながらフォローとは思えないフォローを入れてくれる妙子ちゃん。


 うん。事態の収集に協力してくれようとしているのだろうが、さっきのやり取りは何だったのだろうかと思ってしまう様な辛辣な受け答えに心が折れそうだ。


「え~?本当に~?じゃあ、なんで手を繋いで帰ってきてるのさ?私のタエコちゃんに生半可な気持ちで手をつけるなら許さないよ~?」

 これまで大人しかったニコさんまで参戦してきた。

 しかも、玄関からでも目がニヤニヤしているのが分かるくらいのイヤラシイ笑顔で…。


 もうやだ。このお姉さん達。

 妙子ちゃんにまでヘタレ認定されて結構な精神的ダメージを負ってると言うのに。

 妙子ちゃんは年の離れた妹くらいの認識なのに…。

 この仕打ちときたら…。


「あ!ニコさん!そんな事よりも言伝を頼みましたよね!?夢見る冒険者亭にいるからって!妙子ちゃんに伝わってなかったですよ!!」


 と、話題を切り替えようとささやかな抵抗をする。


 が…。


「はぁ?私はフィーナちゃんに言ったし~?それよりも本当に手を出してない?さっきからタエコちゃんの顔が赤いんですけど~?」


 ニコさんの止まらない追求。

 って、言うか妙子ちゃん!何で君が顔を赤くしてるんだ!?


「あー。あれじゃね?ほら。フィーナがタエコに「ハルトが街に行ってる」って言おうとした時にさー。アレに今さら気がついて恥ずかしいんじゃない?ほら。なんだっけ?結構キレ気味でハルトが…。」


「わぁぁぁぁぁぁ!わぁぁぁぁぁぁ!何で聞こえてるんですか!?確かに私が話を遮って師匠さんの話が途中になってハルトさんの事を聞きそびれて、それを思い出して顔を赤くはしてましたけど!なんでリックと大暴れしていたニナさんが聞こえてるんですか!?」


 余程、俺に聞かれてはいけない様な事を師匠に言っていたのか、大慌てでニナさんを止めるタエコちゃん。


 一体、妙子ちゃんに何を言われていたのやら…。

 聞きたい気もするが怖すぎて聞きたくない…。


「あー。ほら。私って耳が良いからさー。」

「耳が良いってレベルじゃないですよ!封印して下さいー!記憶を封印ですー!」


 詳しい事情は分からないが、俺が居ない間に何やら一悶着あったのは確実の様だ。

 きっと、俺が聞かない方が良い事に違いない。

 知って良い事じゃないなら聞かなくて良いだろう。

 うん。気にならない。


 気にしない!


「師匠さんも!あれは私が悪かったと全面的に認めますから!忘れて下さいね!」


 もう、キッ!っと言ってるかの様な妙子ちゃんの顔を見ても分かる。

 ロクでもない事を言われていたのは確定のようだ。


「大丈夫。大丈夫。妙子がハルトをしんぱ…」


「わぁぁぁぁぁぁ!わぁぁぁぁぁぁ!わぁぁぁぁぁぁ!ポロリしちゃいそうになってますよ!ワザとですね!?ワザと言おうとしましたね!?師匠さん!師匠さんでも言って良い事と悪い事が有りますよ!!笑ってないで!聞いてます!?」


 焦る妙子ちゃんを尻目にケタケタと笑う師匠にも困ったものだが、そこまで必死に秘密にしようとされると知りたくなるのが人情だ。


「ハルトさんは~私達の~」


「あああああぁぁぁぁぁぁ!ニナさん!ニナさんでも!私!ヤリますよ!ヤルってなら殺りますよ!!たとえ!たとえ!この身が朽ち果てようとも!!」


 本気じゃないだろうけど、ニナさんが妙子ちゃんをからかって秘密を暴露しようと言う素振りをする。

 からかわれているだけだと分かっていても、余程の事を言ってしまっているのか、妙子ちゃんの慌てようは相当だ。


 さすがに気になってニナさんに注意が行っている間にボソボソと師匠に聞いてみる。


『師匠。師匠。妙子ちゃんは何をそこまで秘密にしたいんですか?』

『まあ、そんなに気にする事じゃないさね。簡単に言うとお前はタエコに信頼されてるってだけの話さ。』

『はぁ。その割には血相変えていますけど…。』

『クックック…。そう言う事を知られるのが恥ずかしい年頃ってだけの事さね。』

『はぁ。そんなもんですか?うーん。』

『ああ。そんなもんさ。』


 聞いてみたがイマイチ意味がわからない。

 それなら、そんなに恥ずかしがる話でもなかろうに。


「うきゃぁぁぁぁぁ!!何そこでコソコソ話してるんですかぁぁぁぁ!?やめてーーー!!」


 まあ、年頃なら仕方がない。

 今は半狂乱している妙子ちゃんだが、そのうち落ち着くだろう。

 師匠を責め立てる妙子ちゃんを眺めつつ俺は昨晩の事は気にしない事にした。


 気にしない事にしたら…。


 腹 が 減 っ た !


* * * * *


 未だお姉さま方にからかわれる妙子ちゃんを横目に見つつキッチンへ向かう。

 昨日、消化出来なかった材料だろうか?

 キッチンには大量の食材が置かれたままになっていた。

 幸い、痛みやすい食材は無いようなので安心だが、せめてキッチンの横に有る食料保存室には入れてもらいたいものである。


「さて、腹は減ったが何を作ろうか?」


 俺が一人食べるだけなら何だって入るくらいの腹具合だが、他の四人がどう言う状態なのかが分からない。


 妙子ちゃんはお腹が空いていそうだが、お姉さま方はさっきまで飲んでいた事を考えると少し軽めの方が良いかも知れないな。


「まぁ。あの人達は出されれば何でも食べるか…。」


 取り敢えず、お姉さま方も無理なく食べられて、妙子ちゃんの機嫌が直りそうな物を作る事にした。


 まずは、小麦粉を(ふるい)にかけてボウルに入れ、小麦粉がダマにならないようにする。

 泡立て器でまぜるだけでも良いとは聞くが、個人的にはサラサラした感じが気持ちいいので粉ものを作る時にはこうする事が多い。

 次に、そのボウルに牛乳を加えて粉っぽさが無くなるまで泡立て器でかき混ぜる。

 ハンドミキサーなんかが有ると便利なんだが、無くても何とかなるので作ろうとは思わない。

 それに、こう言う力仕事は何となく男の仕事っぽくて何となく楽しい。


 ある程度、馴染んできたら別のボウルに、たまご・砂糖・ヨーグルトを入れて角が立つくらいまでかき混ぜる。


 まあ、かき混ぜるだけの簡単なお仕事なので特筆する部分は無いが、何となくかき混ぜているとテンションが上ってくるのは俺だけだろうか?


 角が立つくらいまでかき混ぜたら、小麦粉のボウルと合わせてバニラエッセンスを少し垂らし更にかき混ぜる。


 この時に、たまごなどが入った方を半分だけ先に入れて混ぜ合わせ、残り半分を後から入れて泡を潰さないように軽くかき混ぜる。

 そうする事で、ふんわりした食感に仕上がる気がする。


 生地が出来たら果物をカットしていく。


 オレンジとイチゴに変わり種でトマトを食べやすい大きさにカット。

 砂糖を多め。水は砂糖の半分くらいで煮詰めてシロップを作る。

 オレンジはそのまま盛り付けるとして、イチゴとトマトにはシロップをまとわせる。

 トマトを普通に食べるなら塩でも良いが、今回はイチゴと一緒でシロップに少し浸して甘めの味付けにしよう。


 最後に生地を焼きに入る。

 まあ、ここまで来れば誰でもわかるだろうが、いわゆるホットケーキだ。


 弱火でじっくり焼いて裏返す。

 しっかり、焼きあがったらフルーツを盛って出来上がり。


 見た目もそこそこだし、お姉さま方にも文句は言われないだろう。


* * * * *


 リビングに戻ると相変わらずワイワイと盛り上がっている女性陣だったが、おそらく匂いを察知して出来上がりを待っていたのだろう。


 俺が顔を出すとさっきまでの喧騒が嘘の様にピタリと収まり席に付き始めた。


「ご苦労!さっさと朝ごはんを持ってくるさね!」

「めーし!めーし!」

「ハルトさん!お腹すいた~!」

「ハルトさん!ごはん!ごはん!」


 順に、師匠、ニナさん、ニコさん、妙子ちゃんである。

 まあ、事態が治まるなら良いのだが…。

 何だか行儀の良い幼稚園の様で何とも言えない気分だ。


「はいはい。お嬢様方。本日の朝食はホットケーキですよ。お飲み物は如何なさいますか?」


 こう言うのは気分の問題だが、何となく執事風に対応してみた。

 雰囲気につられて大人しくなってくれれば良いが。


「コーヒー。」

「ビール!!」

「オレンジジュースをお願いね♪」

「パンケーキなら紅茶かなぁー?」


 この人達には無理だった様だ。

 見事にバラバラな上に、早速食べだしている。

 ちなみに、順に、師匠、ニナさん、ニコさん、妙子ちゃんである。


「はぁ。わかりました。準備してきますね。」


 コーヒーと紅茶は予想内だったので準備をしていたが、ビールとオレンジジュースは予想外だった。


 そう言えば、ニコさんはオレンジジュースをよく飲んでいるな。

 どうやら、それくらいの予想が出来ない俺は執事には向いてないらしい。


 キッチンに向かい準備していたコーヒーと紅茶を入れる。

 ビールは冷えていない瓶ビールで問題ないか。

 どーせ、冷えてても冷えてなくても飲むだろうし。

 オレンジジュースだけ少し待ってもらおう。


 取り敢えず、コーヒー、紅茶、ビールを持ってリビングに戻った。


「「「「おかわりー!」」」」


 待ってましたと言わんばかりに、すっかり平らげられた皿を差し出してくるお嬢様方。

 結構な量があったはずなのだが…。


 何というか恥じらいと言うリミットを解除した女性のアレでアレな部分が何というか幻想を打ち砕くどころか逆に清々しい。


 料理を作った者としては嬉しいのだが…。

 嬉しいのだが複雑な気分だ。

 元は俺が腹が減って作ったついでのつもりだったのに…。


 あぁ。妙子ちゃん…。口の中でもしゃもしゃしながら喋るのはさすがにどうかと思う…。


「あっれ~?ハルトさん?私のオレンジジュースは~!?」


 ニコさんに文句を言われそうな気はしていたが本当に言われると何とも言えない気分になる。


「はいはい。すいませんね。オレンジジュースは用意してなかったから少し待って下さいな。俺が無償で一人で朝ごはん用意しているんですから容赦して下さいな。」


 まあ、分かって言ってるだけで単なるコミュニケーション的な何かだとは理解しているが、腹が減ってイチイチ答えるのも面倒になりそうだ。


「ふ~ん。まあ良いけどね。でも、そんなんじゃタエコちゃんは守れないわよ~?」


「ダハハハハハ!ちょ!おま!ダメだって!ニコ~~~!!言わない約束だったろ~!!」


 な!?

 なぜそれを!?


 ニナさんの笑い声が響く中、思わず妙子ちゃんの方を見る。

 テヘ!と言わんばかりの笑顔で自分の頭をコツンとする妙子ちゃん。


 別に良い…。

 やましい事は別に無いから別に良いのだが…。


 妙子ちゃんにも、そんな気はさらさら無いだろうに、他方面から外堀を埋められている気がする。


 本人をよそに作り上げられようとしている状況に納得が出来ない。

 と、言った所で状況は改善しないだろうから今は諦めるしかないだろう。


「はぁ。茶化さないで下さいよ。下衆の勘ぐりは妙子ちゃんの迷惑になりますから。取り敢えず、オレンジ絞ってきますんで。今はせっかく作った朝食を味わって下さい。」


 妙子ちゃんに落ち着いて貰うために抱きしめて、あんな事を言ったとは言え、他人から茶化されるのは良い気がしない。

 妙子ちゃんも抱きしめられた事までは話していない感じはしたが、そう言うナイーブな話は内緒にしていて欲しかった気もする。


 まあ、あの人達に迫られればある程度の話題を提供して、肝心な部分はボカすと言うのは仕方ない対処かも知れないのだが。


 オレンジを絞り、追加のパンケーキを焼きながら昨日の事を思い出し顔が熱くなる。


 確かに守るとは言ったが保護者的な意味合いの方が大きい。

 どちらかと言うと俺は妙子ちゃんの両親の方が、妙子ちゃんよりも年が近いはずだ。

 俺がヤンチャだったなら、妙子ちゃんと同じ年の子供が居る可能性だってあったかも知れない。


 そう考えるとリミットが掛かるのは当然だ。


 その一方で、女性として妙子ちゃんを意識しないかと言うと嘘になる。

 まあ、色々と裏表が有る感じはするが基本的には良い子だし。

 もし、俺に好意を寄せてくれる事が有るなら誠実に応えたいとは思う。


 だが、今の段階で「彼女と」とは考えられない。


 十七歳の女の子が異世界に召喚されて一人っきりで頼る大人が俺しか居なくて、一緒に共同生活をしているんだ。


 こんな特殊な状況では勘違いをしてしまうかも知れない。

 それを良い事に彼女の選択肢を奪うような事は大人として出来ない。

 もしかしたら、何かのキッカケで元の世界に戻れるかも知れないんだ。

 冷静になれば俺の様な人間で良かったのかと思い直すだろう。

 そうなった時に苦しむのは彼女だ。


 もし、俺が受け入れる事が有るとしても、それは彼女が正しい判断を出来る様になってから。

 この先、元の世界に戻られないままで、一生ここで暮らす覚悟ができたなら。


 そう。俺はもう向こうに帰れるとしても、元の世界には帰らないと決めたのだから。


* * * * *


「はいはい。お待たせしましたよー。オレンジジュースと追加のホットケーキです。これで仕込んだ分は無くなったので食べたら帰って下さいね。」


 ホットケーキを運び込むと湧き上がる歓喜の声。

 俺も自分の分をテーブルに置いて、やっと食事にありつける。


 昨日からの疲れも有りホットケーキの甘さが体中に染み渡る。

 オレンジの香りやシロップにさっと浸したイチゴとトマトの味。

 程よい甘さと爽やかな果物の香りがマッチして疲れた脳を目覚めさせる。

 組み合わせとして間違って居なかったようだ。

 特にイチゴとトマトの違った酸味にシロップの甘さが相まって満足感を与えてくれる。

 本当ならホイップクリームなんかも添えたかったが、さすがにそこまでする余裕は無かった。

 次に作る時には前もってホイップクリームを用意しておくと良いかも知れない。


「あれ?ハルトさん。自分の飲み物は持って来なかったんですかー?」


 自分の分はすっかり食べ終わったのか妙子ちゃんが俺のテーブルに飲み物が無い事に気がついてくれる。


「あぁ。一人分淹れるのも面倒だったからね。後で水でも飲めば良いかなって。今、煮沸して冷やしてる所。」


「もぉ!せっかく美味しくできたのにもったいない!紅茶が合うから淹れてきてあげますよ!」


 と、言うと返事も聞かずにキッチンへ行ってしまった。


「ひゅ~!タエコも甲斐甲斐しいね~!で?ハルトはホントの所どうなんだ?」


 まだ、酔ってるのだろう。今日のニナさんはやけに粘着質だ。


「ニナさん。いい加減にしてもらえませんか。彼女の気持ちも大事ですし。それ以上に親元を離れて知らない土地で俺なんかと共同生活をしているんです。頼る人間が基本的に俺しか居ない状況で彼女の年齢なら、その気持ちを違う気持ちと勘違いをしてもおかしくないと思います。もし、その気持ちが今は本物だとしても、この先どうなるか分かりません。彼女は事情があって今は親元に戻れないですけど、もしかしたら状況が改善されるかも知れない。そうなった時に俺と言う枷が有ったら戻るに戻れないかも知れないじゃないですか?お願いですから気安く冷やかさないで下さい。」


 はぁ。少し感情的になりそうだったが、ある程度は穏便に冷静に説明できただろうか。

 いくら酔っていても分かって貰えるように説明したつもりだ。


 ニナさんは事情を知らないし、細かな事情まで説明出来ない。

 知らないのだから仕方がない。

 ニナさんの性格からして、昨日の「箱の中にいる事件」の事を気にしてか軽口を言って場を和ませようとしてくれているだけだろうと言う事は分かる。分かるが何というか逆効果だ、


 出来れば余計な事はして欲しくない。

 事情を知らないとは言え、俺と妙子ちゃんの関係について変な勘ぐりをされるのは気分の良いものではない。


「すまなかったよ。確かに事情も知らずに冷やかして。でもさ!」


「はいはい。ストップー!でもさじゃない!ニナ。謝ったならそれ以上は言わないの~。あんたらしくないわよ?」


 多分、止められなかったら一触即発の事態だったと思う。

 それを察して、止めてくれたのはニコさんだった。


「ハルトさんも許してやってね。私たちは昨日ハルトさんが居なかった事を知ってたから少し悪ノリしちゃってね。こっちはこっちで色々あってさ。ニナなりにフォローしようとしたんだろうけど、この子ってバカだから!私に免じて許してあげてね♪」


 ニコさんに二回も許してやってと念押しされては許さない訳にはいかない。

 本気で怒る気も無かったが、売り言葉に買い言葉と言う事態が無かったかと言うと無いとは言い切れない状況ではあった。


 素直に感謝するしかないだろう。


「分かってますよ。ニナさんが理由も無く人を茶化す人じゃない事くらい。でも、最近のニナさんって少しリックっぽいから…。」

「な!なんだと!?リックっぽい?リックっぽいってか!?私が!?」


 晴天の霹靂と言う感じなのかニナさんはショックを受けている。

 だが、最近のニナさんのノリと言うかしつこさがリックっぽいと言うのは事実だと思う


「あー。そう言われればそうね。最近の違和感ってそれだったのね。ニナ。気をつけなさいよ?あんた最近は特にノリがリックっぽいわよ?」

「えー!?ニコまで?ニコまで?そんな事を言うの!?えーん!泣いてやる!」


 と、言って本当に泣き出すニナさん。

 普段は見られない姿が少し可愛いが、その本性は女リックだと言っても過言ではない。

 相棒のニコさんにまでリック認定されれば泣きたくもなるだろうが、気をつけないと元々似ている部分が少しでも有るとリックのノリに引っ張られるのも事実だと思う。


 まあ、そうなる前から共通点は有るなと思っていたけど。


「私はひと目見てわかったぞ。パーティを組んでた時に注意してやったろうが?忘れたか?基本的にお前は鬱陶しいから無理してでも良い女ぶれと。」

「フィィィィナァァァァ!だったら昨日言ってくれよぉ~!仲間だろぉ~!?注意してくれよぉ~!?でも、アレよりはマシだよな?な?大丈夫だよな?」

「いや。どっこいどっこいじゃろ?」

「フィィィィナァァァァァァァァァァァァ!」


 師匠にもダメ押しされてキャラが崩壊しつつあるニナさん。

 昨日、ここで何があったのか知らないが、師匠に前から言われてたのに、この体たらくじゃ見放されても仕方ないだろう。

 って言うか、面白いから放っておかれたに違いない。

 非常に哀れである…。


「あー。なるほどー!だから昨日ニナさんはリックを煽って木箱にチンコ突っ込んでハルトさんのお尻の穴から奥歯ガタガタ言わせてやれって大声で叫んでたんですね!」


 いつの間にかキッチンから帰ってきていた妙子ちゃんがとんでもない爆弾をブッ込んでくる。


「タエコ!そこまでは言ってない!言ってない!タエコォォォ!!おまえぇぇぇ!!言ってないぞぉぉぉ!?」


「あー。言ってた言ってた。」

「言ってたのー。言ってたのー。」


 ここに来て妙子ちゃんからの大暴露+ニコさんと師匠からの総攻撃とは…。


 えげつない。


 にこやかに「ハルトさん!紅茶どーぞ!」とか、淹れてくれた紅茶を差し出してくれるけど…。



 妙子ちゃん!恐ろしい子!



 満足そうな笑顔でひと仕事終えたっぽく普通に紅茶を飲んでるのが凄く怖いよ!?

 紅茶吹いちゃうレベルでアレだぞ!?


 ご飯前のアレの仕返しだろうけど、どこまで本当なのか分からない所が怖い。


 リックの悪ノリを考えると全裸で何かしてそうだが…。

 うん。リックが来た時点で逃げて正解だったのだろう。

 俺が居ない間に何があったのか考えたくないな…。


「ねぇ。妙子ちゃん。実際の所はどこまでが本当なんだ?」


 好奇心は猫を殺すと言うが聞かずには居られなかった。


「そうですねー。リックが全裸で木箱に腰を擦り付けて、それを見ていたニナさんがリックを煽って『入れろ』コールをしていたくらいですねー。私には何を何に入れるのか分からなかったですけどー。あまりにも酷かったので、あれを止めなかった師匠さんと少し言い合いになっちゃいました。ハルトさんが外に出てるとか知らなかったですしー?」


 ニッコリ。


 ひぃ!笑顔が怖い!

 そして、何!?その嫌な状況は?

 箱から逃げ出していて正解だったと言えるのだろうが…。

 言えるのだろうが…。

 今の状況で話を深掘りして聞くのは地雷を踏むのと同義だろう…。

 ここは流しておかないとニナさんに巻き込まれて俺まで何か言われかねない!


「そ、そうか。ごめんな。大変な時にひとりぼっちにさせて。ニコさん達を信頼して伝えておいたんだけどなー。まさか、ニナさんがリック体質だったとは…。ホントにごめんな。アハ…。アハハ…。」


「大丈夫ですよー。ハルトさんには謝ってもらいましたし。約束もしましたからー。悪いのは直接に私へ伝えてくれなかったニナさんですからー。アハハー。」


 本気になった妙子ちゃんは怖い子です。

 押すなよ!押すなよ!をフリと受け止め突き落とし、押して!押して!と言っても突き落とすだろう。

 まあ、余程の事が無ければそこまではしないだろうが、今回のニナさんの一件は彼女を本気にさせてしまったようだ。


「あははは…。」

「ウフフフフ。」


「こらー!そこ笑ってるなー!って言うかごめんなさいー!助けてー!タエコーーー!!」


 俺らが話している間に師匠とニコさんに耳元で「言ってた。言ってた。」言われると言う謎の責め苦を受けていたニナさんが音を上げたようだ。


「妙子ちゃん。もう許してあげて。俺も妙子ちゃんにメッセンジャーを飛ばさなかったのも悪かったし。今度からは大事な事は必ず妙子ちゃんにメッセンジャーを飛ばすからさ。」


 普段パーティを組む事が少ないからすっかり忘れていたが最初からそうしていれば行き違いが無かったと言う事にいまさら気がついて何となくバツが悪い。


 妙子ちゃんも妙子ちゃんで「あ!」っと言う表情になった後に苦虫を噛み潰した様な表情になり「仕方ないなー。」と言いたげなポーズを取った。


「ふぅ。そうですねー。師匠さん!ニコちゃん!もう大丈夫ですよー!ニナさんにはリックに引っ張られない様に気をつけてもらえれば問題ないですからー!」


 妙子ちゃんがそう言うと残念そうに師匠とニコさんがニナさんから離れる。

 何というか今回の一件を安全地帯で楽しんでいたのは、この二人だけなんじゃないかと言う気がしてきた。

 出来れば、これからは何かおこる前に止めてほしいものだ…。


「じゃあ、そろそろお暇しようかな♪色々と有ったけど楽しかったわ♪ごちそうさまでした♪今度は普通の時に誘ってね♪」


 ニコさんがすっかり疲れ果てたニナさんを引きずってドアに向かう。


「もちろん!今度はリックだけは誘いませんから!私の料理の腕も見せちゃいますよー!」


 さっきまでの表情が嘘かの様に、にこやかにお見送りをする妙子ちゃん。

 ここまで切り替えが早いと、普段から気をつけていないと、いつ何が有るかわからないな。

 と、言う教訓を残し、地獄の様な宴は終宴迎えるのであった。


* * * * *


「で、師匠はいつまでいるんですか?」


 静けさが戻ったリビングでニコ&ニナを見送った師匠に素朴な疑問を投げかけてみた。


 別に滞在する事には問題ないのだが、これまでの事を考えると良く言ってもトラブルメーカーで、悪く言ってもトラブルメーカーだと言っても過言ではない。

 大人しくしてくれているなら、それで良いのだが…。

 師匠が来てからこっちの振り回され具合を考えると、これ以上のトラブルを引き起こされそうだと言う予感を禁じ得ない!


「しばらく滞在する予定さね?手紙にも大きく書いておいたろうが。なんだ?ヤルなら気にせずヤッてくれて良いぞ?私は気にせんからな!」


 滞在の件は初耳だ。

「近日中に行くからヨロシク。」

 と、言う手紙は送られて来たが、それ以上の事は書かれていなかった。

 と、言うかヤルだとかヤラないだとか下品すぎて少し引いてしまう…。


「何をヤルってんですか。何を。それに手紙には『近日中に行くからヨロシク。』と、しか書いてなかったですよ。」


「タエコに魔術を教えるたら、ポーションを作るたら、色々とヤル事があるだろうが。昨日もお前が帰ってこんから、タエコが店を開けられないと嘆いておったぞ?って、言うかちゃんと手紙を見たのか?手紙が残ってるなら持って来るが良いさ。」


「ヤルって。あぁ。そうですか。全く紛らわしい。取り敢えず手紙を探してきますけど、そんな事は書かれて無かったですよ!」


「絶対、書いてある!まったく。ヤルって単語に過敏反応する童貞のクセに生意気じゃのー。まあ、そう聞こえる様に言ったんだがな!カッカッカ!」


 取り敢えず、聞かなかった事にしよう。

 こう言う所さえ無ければ悪い人ではないのだが…。

 師匠もリックとは違ったウザさが半端ない。

 これさえ無ければ、師匠の元に今も居たかも知れないのだが。

 この人がナチュラルにウザいのは、どうにもならないと三年の共同生活で諦めがついているので今更どうこう言うつもりはないが…。


 ウ ザ い !


 そう思いながらも、どうにもならない事に無駄な労力を割く必要は感じられないので自分の部屋へ手紙を探しに向かう。

 そんなに昔の手紙でもないので、あっさりと見つかるが確認してみても他に書かれている事など無かった。

 ほのかに柑橘系の香りがついた手紙を持ってリビングに戻る。


「師匠。やっぱり何も書かれていませんでしたよ。勘弁して下さいね。こっちも忙しいからボケられても介護とか出来ませんよ。」


 嫌味を言いつつ例の手紙を師匠に渡す。

 受け取った手紙を手にニヤリとする。


『あぁ。なんかどうでも良くてロクでもない事がおこりそうだ。』


 その表情を見て、何となく直感する。

 この後、どうでも良いくっだらない事がおきる事を。


「ファイア」


 師匠が呟くと指先に小さな火が灯る。

 その火を手紙に近づけあぶり出した。


 うぅ…。頭が痛くなる。


「ほれ!書いてあるじゃろうが!」


 まさかの『あぶり出し』である。


「師匠。そんなの今時の小学生の年賀状でもやりませんよ…。」


 あぶり出された手紙には『しばらく、滞在するぞ!世話になる!』と書かれていた。

 それをドヤ顔で見せて満足げな師匠。


 わかります。俺がそれを見て落胆するまでがワンセットですね。ええ。わかりますとも。

 わかるけど。それを見せられてどうすれば良いのか分からない俺の気持ちを理解して頂けないものか。


「何を言うか!秘密の手紙と年賀状は昔からあぶり出しと決まっておろうが!」


 それを小学生がやるなら可愛いものだが…。

 見た目は二十代、実際には百歳を超えるBBAがやるのだからたまったものじゃない。


「はいはい。そうですね。あぶり出しとかどーでも良いんで。師匠がいつ泊まりに来ても良いように準備もしてますから、滞在するのは良いですけど予定は教えておいて下さいね。あと、トラブルだけは止めて下さいね。面倒事だけは勘弁して下さい。」


「失礼だねー。私がいつトラブルをおこしたって言うのさ?まあ、気をつけておいてやらん事もないがね!」


 と、胸を張ってエッヘンとでも言い出しそうな師匠を見て頭が痛くなる。


 偉大な魔法使いと言うのは社会と断絶している事も多く、うちの師匠もそうだと言える。

 師匠に関してそこまで酷くないが、何十年単位で引きこもって研究に打ち込んでいる魔法使いも居るので、その間に社会常識が変わっていると言う事も少なくない。


 師匠に関しても数年単位で引きこもっているので、そうでないとも言えないし、元からちょっとネジが緩い所が有るので、注意しておくに越したことはないだろう。


「取り敢えず、祭が終わるくらいまでは居るつもりさね。今年はアレが予想以上に育っているって話だろ?なら、私は戦力になると思うのだが?」


 なるほど。どこでアレの情報を聞きつけたのか分からないが、祭のメインイベントと言っても良いアレの噂を聞きつけて、日頃はあまり使えない魔法を思う存分にぶっ放すためにも遊びに来たと言うのは実に師匠らしい。


「それは心強いですね。毎年の事とは言え、今年のアレには手こずりそうだったから助かります。けど、やりすぎない程度にお願いしますね?」


「あははは!さすがの私も街をぶっ飛ばすような事はしないさね!ポテトイーター程度に全力は出さないさ!」


 そう。農作物の収穫期に必ず現れる巨大モンスター。

 それが「ポテトイーター」だ。

 こいつらを倒さない限り今年の作物の収穫を祝う事は出来ないのである。

どうも。となりの新兵ちゃんです。


と、言う事で。今回でハルトが何故か木箱に引きこもると言うどうでも良い話は完了です。

本当にどうでも良い話でしたね!なんでこんなの書いたんだろ?

あぁ。師匠の登場的なエピソードでした。そうでした。


そこそこのスペースを使って書いたワリには師匠の喋り方が安定しないのが痛々しいですね!

また、師匠にはいずれ大立ち回りをしてもらいますが、それまでにキャラが安定してくれる事を願います。その時はシリアス展開っぽい感じになると思うので頑張って安定したキャラになってもらいましょう。

と、言うか私の力不足で登場人物みんなが情緒不安定キャラっぽくなっているので、もう少しまともな人間になって欲しい所です…。頑張ります。


さて、次回以降ですが最後の方に匂わせましたがお外でのモンスター狩りの様相です。

あれ?ダンジョンは?引きこもりは?と、私も思いますが、ハルトは引きこもりたいけど妙子ちゃんとの出会いで引きこもれなくなってくるとか、徐々に引きこもりたいと思う気持ちが薄れていくみたいな話になるんだと思います。


なので、お外でモンスター狩りをしたり、ネームドを狩ったりしても気にしないで下さい!

書いている感じ次の章は結構長めになっているので下手な文章を長々と読まされる覚悟だけして頂ければと思います!

その三割くらいがとってもどうでも良い事に消費されているので、後半から始まるどうでも良い三割分のお話にウンザリして頂ければ有り難いです!


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。

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