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其之二|第二章|新戸晴人の怠惰な日常

 深夜零時。

 新たに売り出した『タエコちゃん特製弁当』を作り終えて地下の工房に向かう。


 一部の冒険者には『タエコちゃん特製弁当』の評判はすこぶる良く、利益面でも笑いが止まらない。弁当屋でもオープンしようかと思うくらいの勢いだ。

 もう、最悪。召喚したちょっと知性の有る魔物に弁当を作らせて大量生産してしまっても良いかも知れない。


 特に、余分に作った弁当を妙子ちゃんファンに高値で売りつけるのは、ちょっとした小遣い稼ぎになって意外と儲かる。

 数量限定と言うプレミアム感と妙子ちゃんの手作りと言う妄想もあって、倍以上の値段で取引される事もある。

 これは、どっかのアイドルの様に握手権抽選券なんかを抱き合わせて売ったら、もっと儲かるかも知れないな。元手もかからずに実に美味しい…。


 街の全てを掌握しダンジョンを運営している俺がどうしてこうも金に汚いのかと疑問に思う人も居るかも知れないが、それにも理由が有る。


 ダンジョン建設なんて召喚した魔物を無休無給でこき使っていると思われがちだが、それは全くの間違いである。


 作業用ユニットとなる『作業員』の魔物に関しては俺はノータッチだが、それを生み出す知性の有る魔物の『管理者』には当然の報酬や費用を支払って休みも取らせている。

 もちろん、『管理者』は『作業員』に対しての管理を任せているので、その費用の中から対価を支払い休みも与えている事だろう。


 それがどう言う割合かは知らないが、管理者の親が子供と接するような様子を見ていると、無茶な労働を強いている感じはしない。


 魔物と言えど活動するにはエネルギーが必要だ。

 本来なら魔の者は、人間のマイナスな感情を糧として活動をするが、マナの溢れるこの世界では代替となる物質が存在し、それは普通に流通している。

 故に無理して人間を陥れてまでエネルギー補充をしなくても良い。


 代替物質をちゃんと『作業員』に支給してやれば従順に働いてくれる。

 その上に立つ『管理者』も召喚陣によって俺には逆らえないから従順に働くしかない。

 代替物質と契約により、良いサイクルでダンジョン建設が行われているワケだ。


 ちなみに、この世界には『魔王』と言う存在が居るが、世界政府と裏で契約を交わし疑似戦争をしているのも、契約によって世界政府から代替物質を得る事で、ガチの戦争をするようなリスクを犯してまで魔力の代替物質を奪い合わない為の仕組みである。


 まあ、そう言うワケでダンジョン建設や運営にはそこそこの金がかかるのだ。

 街の運営で得た利益は、このダンジョン建設と街の発展や管理に使っているので、俺自身はそこまで金が余っているワケじゃない。

 生活に困るほどじゃないが、何年も先まで安泰と言うレベルではない。

 宝くじが五千万当たったとかと言うレベルだ。


 もし、街が何者かに狙われたとしたら、街の資金だけでは問題の解決は出来ないだろう。

 それを考えると俺が溜め込んでいる余剰資金を派手に使う事は出来ない。

 魔物なら対処は簡単だが、それが人間の場合は最悪だ。

 特に王族や貴族のロクでなしの場合は面倒な事この上ない。

 金で解決出来るなら、まだマシだが攻め入って来た時には冒険者や傭兵に金を掴ませてでも守らなければいけない。


 様々なリスクを考えると、まだまだ金が足りない。


 そんな中で簡単に小遣い稼ぎが出来るってのは有り難い事で、店の運営を含めて妙子ちゃんの貢献は大きいと言えるだろう。


 まあ、弁当を作ってるのは俺だが…。

 そのうち、魔物が弁当を作る事になるかも知れないが…。


* * * * *


「だんな!おはようございます!今日は早いんじゃないですか?」


 ヌッとガタイの良い大男が闇から現れ声をかけてくる。


「おう。今日は弁当作りも雑用も早く終わったからな。」


 深夜一時。

 地下の工房に着いてからポーション生成器に材料をセットを終える。

 肉体労働から開放され一休みしてから、現在施工中の地下十三階に降り立った。


 このガタイが良い黒光りしたマッチョは、破壊と想像の女神リルベリアとケンカ別れをして魔に下った『元』一級天界想像補助天使であり、現行では一級魔界建築魔のルルデビルズの分け御霊の様な存在だ。


 召喚と言うのは基本的に個体を召喚出来るが、名のある神や悪魔となるとそうも行かない。

 ルルデビルズの様に人間にあまり知られなくても、実力の有る神や悪魔が召喚される際には、その一部が受肉されこの世界に現界する。

 ルルデビルズの狙い撃ち召喚は大成功で、実に優秀な能力を発揮しダンジョン建設の要となっているのだ。


「で?進捗状況は?」


 そう。気になるのはダンジョン建設の進捗状況。

 ここ最近、冒険者の間でダンジョンのナイトクルーズが流行っていて、テンションの上がった冒険者たちが「ショートカットだぁ!」とか言っては壁を破壊しようとするので手を焼いている。

 脳筋だけなら、突破出来る様な物じゃないのだが、そこに魔術師などが加わって思いもつかない様な複合技でダンジョンの壁を壊そうとするからたまったもんじゃない。


「そうだなー。予定の八〇%は維持している感じだな。でも、だんな。あのアホどもを何とかしないと、無駄な修理のせいで、いずれはこっちの状況にも深刻な影響を与えますぜ。」


 それは言われなくても分かっている。

 本当にアホだとは思うが、そのアホを楽しいと思ってしまう気持ちも分からなくもない。

 俺もMMOで経験がある。

 その先に何も無い事を知っていても、モデリングとモデリングの間に有る、移動できる領域を探し出し、誰も登らない様な山の頂点を目指す。

 気がつくと無駄に時間だけが過ぎていて落ち込むが、山登りをしている時は凄くテンションが上がるのだ。


 そう。山登り楽しい。

 そう言うもんだ。


「まあ、そう言うアホな部分を楽しめるのが人間だからな。対策としては地道に『地下十階級の魔物』を差し向けて後ろからバッサリと斬りつける。地道に対応して行こう。」


「はぁー。そんなもんすか?」


 納得がいかないと言う表情だが、ここは頑張って貰うしかないだろう。


「取り敢えず、確認の時に被害状況をランク分けして深刻な場所だけ修理する様に指示を出しておいて。アホな事をしてれば冒険者に入る実入りは劇的に減るんだし、それに気がつけば落ち着くだろ。」


「全く人間てヤツは。俺達ですら真面目に働いてるのに困った奴らだな。っと。だんなは別枠ですぜ?」


「いやいや。俺も同じ様なものさ。このダンジョンの建設理由は知ってるだろ?」


 慌てて取り繕う悪魔と言うものシュールな光景だ。

 だが、こいつらは生きると言う事に対しては実に真面目だ。

 動物の様な下級悪魔にはそれが当てはまらないが、知性の有る連中は人をおちょくる事に対しても、人を騙す事に対しても、こうやって魔族建築を行う事に対しても真剣に日々を生きている。

 気を抜くと怠ける人間と比べると実に真面目な種族と言えるのではないだろうか。


「まあ、知ってますが。でも、俺達から見ればそんな理由で街の下にこれを作るなんてのは、人間としてはすげー事だと思いますぜ?俺もこんな依頼は何千年生きてきて初めてでさー。」


 うん。魔物にすら呆れられてる気がする。

 そして、気を使われているのをしっかりと感じた。

 でも、泣かない…。


「あぁ。そうだ。これまで詳しく聞かなかったが、お前の部下の管理とかどうしてるんだ?休みとか給料とか。俺みたいなのに使われている状況だが何千年も生きて天界も魔界も知ってる『一級魔界建築魔ルルデビルズ』としての人材管理ってのが今更ながら気になるんだが。」


 前から少し気になってはいた。

 今の状況ではこんなのだが、魔界での重要な建物や地上での魔王城を手掛けたのはルルデビルズだ。

 分け御霊とは言え俺に使われている様な状況だが、魔界では高名な建築魔。

 自ら指揮を取り、丁寧な仕事と納期を守る手際には最上級悪魔も一目を置く存在だ。


「特に特別な事をしてるワケじゃないですって。就業時間を守らせ、二十四時間稼働の為にシフトを組み、キッチリ働いた分の代替物質を支払い、進行状況が好調ならボーナスを出し、現場に不便を感じるなら出来るだけの改善をする。他には…。まあ、数が多いから全員では出かけらんねーが、人間の酒場まで出張って中間管理職どもに好きなもんを飲み食いさせて普段聞けない愚痴の聞き役に徹するくらいっすかねー?あとは、不調そうなヤツは無理やりでも有給で休ませて潰さない様にするとか?何か問題が有れば俺が責任を持って、その責任を負うとか?まあ、特別な事は何もしてないっすよ?うちらの間ではどこにでも有る普通の話っす。」


 ホワイト企業がここにあった…。


 特に「好きなもんを飲み食いさせて」って言うのは酒や嫌な物を強要しないって事だろうし、「普段聞けない愚痴の聞き役に徹する」ってのは自分の経験談とか押し付けずに部下の話を吸い上げるって事だろう。こんな上司の元なら自ずと部下も注文の時には上司の好みを理解して料理を注文するだろうし、腹を割って話も出来るんじゃないだろうか…。


 上司と部下の縦の関係は大事だが、それを除けば一対一の人間関係だ。

 双方が上司と部下と言う関係性だけしか見ない事で、その関係性は歪んでいく。

 人と人の関係だと言う事を忘れて立場や状況を押し付けるだけでは、上手く行く事も上手く行かなくなる。


 それをナチュラルに理解して実行してるのが悪魔なんですけど!!!!


「ありがとう。参考になったよ。」


 言葉が出なかった。

 俺を騙した同僚の言葉だけを鵜呑みにし、俺の実績や貢献を無視して全ての責任を俺に押し付け、最終的には俺を会社から追い出した元上司の顔が鮮明に思い出される。


『ッウ…。』


 嫌な過去を思い出し吐き気がする。

 脳が掴まれている様な感覚。

 妙子ちゃんが居てくれるようになってから少なくなっていたが。

 久しぶりだな。この嫌な感覚。


「だんな?大丈夫ですかい?顔色が悪いぜ?」

「ああ。大丈夫だ。昔の事を思い出して少し気分が悪くなっただけだ。」


 悪魔に心配されると言うのも、なかなか貴重な経験だ。


「お前の部下は幸せ者だな。理解してくれない者も居るかも知れないが、お前の行動をいつか理解してくれるだろう。そのまま頑張ってくれ。」


 悪魔に対して何を言ってるんだと言う話だが、俺の素直な気持ちだ。


「まあ、それは言われなくてもしますが…。それよりも今日は休んでくだせー!今日は建設要員の増員も良いですし、冒険者の撃退とかは他の者に指示しておきますから。いつも通りで良いんですよね?」


 何というか悪魔が狼狽する様子を見てると、こっちが悪いんじゃないかと言う気分になる。

 対した事はないのだが、引き下がらないと許してくれなさそうだ。


「ああ。頼んだ。言葉に甘えて今日は寝るとするよ。ありがとうな。」


 妙子ちゃんに対するいつものクセで頭をポンポンしようとしたが届かなかった。

 上げた手が行き場を失う。


 バシッ!っと軽めに背中を叩いて誤魔化すと俺は現場を後にした。


 一瞬見えた、ルルデビルズのテレ顔を妙子ちゃんが見たら、また変な妄想の餌食になりそうだ。この事は俺の中に封印しておこう。


 時刻は深夜の三時前。

 緑色に輝くエマージェンシーゲートに入り地下工房に戻る。


「少し疲れたな。」


 もう。十年も前の事だと忘れられるなら良いのだが、未だにあの出来事が呪いの様に頭から離れない。

 いつか、忘れられる日が来るのだろうか。


 俺は逃れるかの様に睡眠薬を飲んで眠りについた。


* * * * *


 昼の十一時。

 布団の隙間から入ってくるヒンヤリとした地下工房の空気が気持ちいい。

 そろそろ妙子ちゃんがご飯を用意してくれている頃だろうか。

 早め早めに顔を出そうとは思うのだが、動くのがダルい…。

 昨日の吐き気やらは既におさまっているが、ベッドから出たくない。

 お店を任せておけると言う安心感が、ベッドから離れたくないと言う欲求を増幅させる。


 ・・・・・・。


「ふぅ。出るか…。」


 ・・・・・・。


「うむ。出ないとな。」


 ・・・・・・。


「よし。起きるぞ!」


 ・・・・・・。


 出たくないんだから仕方がない。

 まどろみの時間と言うのはどうして、こうも気持ちが良いのだろう。

 お腹も空いたと言えば空いているのだが、布団の誘惑に勝つのは難しい。

 いつもみたいに、朝方まで壁を壊す冒険者達の対応に追われなくて良かった分、いつもよりは寝覚めは良いのだが…。


 もう少しくらい良いだろう。

 うん。二度寝しよう。

 妙子ちゃんには悪いがもう少し惰眠を楽しむ事にした。


* * * * *


 昼の十二時。

 さすがに腹が空いた。

 この空腹で三度寝するほど俺もアレではない。


 取り敢えず、服を脱いで身体を拭く。

 さすがに地上に戻って風呂を沸かすのは面倒だ。


「地下にも風呂を設置しても良いが…。それも面倒だな。」


 何よりも地下に水を引くのが面倒だ。

 元々、生活スペースとして考えていなかった為に無駄な物は徹底的に排除しているので、水を引くのもだが、下水道などへのアクセスも無い。

 そんな場所に、風呂を作れとルルデビルズにお願いするのは忍びない。

 きっと、嫌な顔をされるだろう。


「まあ、良いか。ダンジョンの拡張が落ち着いた頃にでも頼んでみるか…。」


 一通り身体を拭き終えると服を着替えて地上に戻る事にした。


 地上へのテレポーターも、そろそろ直さないと不便なのだが何となく億劫だ。

 何というか、ここ最近この階段を登るこの光景が好きなのだ。

 妙子ちゃんと階段を一緒に登ったのは二回。

 お互い別々に階段を登り降りはしているが、また二人でこの階段を歩きたいと思っている。

 何があったと言うワケじゃないが、ここから始まったと言う気がして、なかなかテレポーターを直す気になれない。

 実際はちょっとズレた座標を修正するだけの簡単なお仕事なのだが…。


「まっ、良いか。そのうち。そのうち。」


 階段の終わりが見えてくる。

 出口から見える太陽の光がやけに眩しい。

 今日も外は暑そうだ。


* * * * *


 午後の一時。

 余分に作った『妙子ちゃん特製弁当』を売りさばき家に戻る。

 固定客と化している、いつもの連中は腹が減っても待っててくれるので実に売りやすい。


 かく言う俺は、本物の妙子ちゃんが作ってくれた昼食を平らげて一息ついていた。


 うまかった。シンプルな味付けだが、じゃがいもの火の通り具合とか絶品で、歯ごたえを残しつつも他の素材とのバランスを考えられた調理。

 多分、素材ごとに炒めて、最後に合わせてくれているのだろう。

 副菜のほうれん草のおひたしやニンジンとたまごのスープも栄養のバランスとかを考えてくれている感じがしてありがたい。


 ちょっと店の方の様子を見に行ったが順調に仕事をこなしてくれているようだ。


 こっちの環境にも、店の仕事にも、慣れてくれているみたいで正直助かっている。

 妙子ちゃんに任せてからと言うもの、決まった時間に店が稼働している事もあって売上も伸びているし、妙子ちゃん目当ての客も増えて実にありがたい。


 そこから妙子ちゃんの給料を払うのでトントンだとは思うが、それでも利益は拡大していってるので、材料費などの事を考えると二号店を街の方に作るくらいの資金くらいは簡単に稼げそうだ。


 まあ、面倒なので二店舗も店を持つことはないだろうが。


 時計を見ると午後一時三十分すぎ。


「まだ忙しい時間か。もう少ししたらコーヒーでも持って行ってやるか。」


 淹れたてのコーヒーを飲みながら新聞を広げる。

 魔王軍との戦況やら、開催まで一ヶ月を切ったお祭りで行われるレシピコンテストの応募要項やら、地下三階に強力な魔物が現れては壁を壊す冒険者を狩っているなどの記事が紙面を賑わしている。


 地下三階の『強力な魔物』の記事の扱いが意外と大きくて驚いたが、裏から手を回しておいて正解だったようだ。

 脳筋連中は新聞など読まないだろうが、魔術師やプリーストはしっかり読むだろうから、これで壁を壊して進もうなんて連中が少しでも減ると良いのだが…。


 ふむ。『魔王軍 塩田を襲撃』か…。

 そう言う計画が有ると言う情報は入手していたが意外と早くに動いたな。

 塩の買い付けは情報を元に一年分くらい確保してあるから大丈夫だが、世界政府は一年待たずして奪還の予定らしいから詳しい情報を集めて吟味して早めに売りさばくか。


 ガタゴトガタゴト


 優雅にコーヒーを飲みながら商売の事を考えていると、店の方から物音がする。

 片手で軽々と大きな木箱を抱えて妙子ちゃんが現れた。


 うむ。何だか少し機嫌が悪い感じがする。

 ここは爽やかに挨拶をして、なだめる事としよう。

 どんな、とばっちりが来るかわかったもんじゃないからな。


「おっ!妙子ちゃん、おはよう!なんだい?その大きな荷物は?」


 俺の爽やかな挨拶がお気に召さなかったのか表情がみるみる曇る。


「もぉ!『おはよう』じゃないです!いつもいつも!お昼すらとっくに過ぎてますよ!?」


 怒られた…。これはいつも以上に怒ってるらしい…。何とかせねば。


「わかってるよ。でも、それが俺の生活スタイル!それに夜の方が建設要員の使い魔召喚とかも楽なんだから仕方ないじゃない?」


 まあ、昨晩は早めに寝たのだが、今はそれを言うタイミングじゃない!

 妙子ちゃんの様子も『それは分かってるけど、何となく納得できない』と言う感じだ。

 うむ。どうしようか。

 後で、妙子ちゃんが気に入っているケーキ屋でお気に入りのケーキでも買ってくるか…。


「まあ、良いですよ!それよりもこの大きな箱!ハルトさん!またロクでもない物を注文したんですか!?時間帯指定して自分が起きてる時に自分で受け取ってくださいよー!」


 と、身に覚えのない理由で怒られる。

 この前、色々とドン引きされてからと言うもの郵便屋止めにしているのだが…。


「んぁ?最近、何か頼んだ覚えは無いんだけどな。差出人は…。無いな。なんだこれ?」


 どうやら、妙子ちゃんの抱える木箱は俺宛ての荷物らしい。

 差出人は不明だ。

 うーん。何が入ってるんだ?

 中身の書かれた欄を確認すると『なまもの』と書かれている…。


 やだ…。なにこれ?気持ち悪い。


「ハルトさん…。これヤバイんじゃないですか!?この大きさで『なまもの』ってなんですか!?ホントにハルトさんの注文じゃないんですか!?だったらヤバくないですか!?」


 一緒にそれを見た妙子ちゃんが狼狽している。

 確かに、この世界でこの大きさの『なまもの』を木箱で送りつけてくるとか頭がおかしい。

 妙子ちゃんじゃなくとも狼狽えて当然だ。


「お…おぅ…。確かにこの大きさで『なまもの』とかを差出人無記名で送りつけてくるとか尋常じゃないな…。燃やしてしまうか?」


『ガタン!』


 その『なまもの』が入った箱が動いた…。


「「ひぃぃぃぃぃぃ!!」」


 あまりの出来事に二人して恥ずかしい悲鳴をあげてしまう。

 仮にも大魔法使い級の魔法使いとその弟子が。


 日も暖かな午後の昼下がり。

 普段なら平和な日常が流れる空間に置かれた得体の知れない謎の箱。

 その正体を知り、後に俺たちは驚愕する事になるのだった…。


 今思えば心当たりが無かったワケではないが…。

 まさか、こんな形で『アレ』が送られてくると誰が想像できただろうか…。

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