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其之一|第十章|初めての冒険 後編

 ローズが警察に注意を受けて戻ってくる。


 周りに居た人が「あれは仕方ない」と庇ってくれた事や、被害がパーティーメンバーのリックだった事、リックの日頃からの行いもあって、事情だけ確認され早々に解放される。


 取り敢えず、リックの解凍が終わるまでに少し時間が有るので昼食を取りながら軽く妙子ちゃんに説明をする事となった。


 みんなのオーダーを聞き冒険者組合に併設された食堂『夢見る冒険者亭』で料理を注文をする。

 料理が出来上がったら持ってきてくれるようにと顔見知りのウェイトレスさんに頼みチップを渡す。

 ドリンクはその場で受け取ってみんなに配った。


 俺と妙子ちゃんは氷の浮かんだアイスレモンティを飲みながら、今後の話をする事にした。


「本当なら入口に着いてから驚かせたかったんだが、リックがあの状態では後々の時間も短くなるので説明をしておこうと思う。」


「はい!お願いします!」


 相変わらず、返事は良いな。

 これでもう少し空気を読み間違えないでくれるなら良い子なのに。


「この街には地下ダンジョンへの入口が有ります。」


「ダンジョン?って?あの迷宮的な何かですか?」


「その通り。この街を開拓している時に、街がすっぽり入る程の大型地下ダンジョンが発見されてね。ダンジョンには魔物などが住み着いていた事から一時は騒ぎになったんだけど、ここの開拓団は大規模で元冒険者がいっぱい居た事もあって、早い段階で地下一階はある程度は制圧されたんだ。その後、教会の協力でダンジョンの外周に結界が張られ、万が一でも変な所から魔物が出入り出来ないように対策をして安全を確保しつつ街の建設を続け、ダンジョンの方も攻略を進めて結界の基礎となる教会を設置。ダンジョン内にも結界を張り、攻略の足がかりとなる安全地帯を確保した事で、この街は『モンスター狩りの出来るダンジョンがある街』となったんだ。」


 と、言う事にしておこう。


「へー。街に歴史ありですね!じゃあ、地下一階は全部が安全なんですか?」


「いや。無機物の教会では神の威光が届く範囲には限度があってね。神の威光が届きにくい地下では、その範囲が狭くなる。だから技術的に地下一階を全て結界で覆う事は出来ないんだ。」


「あれ?じゃあ、地下じゃプリーストさんは役立たずですか?」


「いや。シーナとか司祭はその一人一人が信仰心を持っているからダンジョンに潜っても神術には何の影響もないんだけど、教会と言う無機物のシンボルが影響を与えられる範囲ってのは光りが溢れている地上でも有限であり効果範囲は決まっている。それが、光の届かない地下となると、その範囲は狭まって、地下に潜れば潜る程その範囲は小さくなるのね。だから、攻略された階には地下二階以降でも結界が張られた安全地帯が有るけど、その安全地帯は深く潜るほど小さくなるんだ。」


「なるほど。地下は魔物の領域って言う事ですか?」


「そんな感じだね。外側からダンジョンを結界でまるごと覆って、変な所から魔物が出てこないようにする事は出来るんだけど、ダンジョンの内部では闇の力の方が大きいから全てを制圧する事は地下一階でも難しいらしい。まあ、結界は張られた安全地帯では、元の世界の地下街みたいに安心して店を出せるくらい安全なんだけどね。」


「おぉ!地下街でショッピング!!」


「まあ、食い物屋が少しと簡易教会に武具屋とか、あまりショッピングって感じじゃないけど。」


「あらら。必要な施設しかない感じなのかー。残念!」


「でも、食い物関連では他の街にはない物が食べられるよ。」


「ピキーン!他の街では食べられないものですか!?ダンジョンで採れたての魔物肉ですか!?」


 いやいや。 さすがにそんな物を食べるのは一部の珍味マニアだけだ。

 特殊な処理をしないとお腹を壊す。

 冗談だとは思うが一応注意はしておこう。


「さすがにそんな物を食べる人はごく一部で、処理が面倒だから普通には流通しないって。この街でしか食べられない物ってのは冷気を利用した食べ物だよ。」


 そう言うと『ちぇー』と凄く残念そうな顔で妙子が顔をしかめた。

 この子は放っておくと何でも食べそうだな…。


「それで?それで?何が食べられるんですか?!」


 今泣いたカラスがもう笑ったとは、この事かと思うほどの切り替えして妙子が詰め寄ってくる。


「はは…。地下の保冷性を活かして倉庫などを凍結魔術などで氷点下に維持して、氷や氷を使った食べ物が食べられるんだ。」


『ほほー』と、妙子ちゃんは一応納得しているみたいだがイマイチ分かってないと見える。この世界では氷はまだ貴重だと言う事が分かってないからだろう。


「この世界では、氷ってのは貴重でね。火は燃焼素材が有れば移動したり増やしたりできるだろ?でも、冷気はそうはいかないよね?普通に物を冷やすのは困難で、氷を作るとなると更に難易度は上がる。」


「え?でも魔法でちゃちゃっと冷やしてしまえば良いんじゃないですか??」


 確かに知らなければそう思うかも知れないが、これにも理由が有る。


「そう思うかも知れないが、凍結魔法や凍結魔術などには濃い魔力が含まれていてね。魔力職に就いていない一般人とかは魔力酔いを起こすんだ。何の処置もせず食べ物とかを魔力で冷やすと、食べ物とかが魔力で汚染されて気分が悪くなどの副作用が発生する。この世界にマナが溢れていて魔法や魔術が溢れてはいるが、魔力職以外の人はそこまで濃度の濃い魔力には触れる事がないから耐性もそんなに強くないんだ。」


「え?でも?さっき、凍結魔法でって言ってましたよね?」


 その疑問も、もっともである。『あっれれ~?』と腑に落ちない様子の妙子ちゃんに答えを提示してしんぜよう。


「ああ。その通り。だからアンチマジックシールドを何重にもかけて、魔力の影響を打ち消して冷気だけを取り出すってワケだ。」


「へー。そうすれば安全に冷気が使えるんですね!でも、それって地上でも出来そうな気がするけどー・・・。」


「確かに地上でも出来るね。でも、地上でこれをすると常温に戻るスピードが早いから効果が残っているアンチマジックシールドを解除して、凍結魔術などを使って冷やす。冷やし終わったら、再度アンチマジックシールドをかけないといけない。短いスパンで魔術を再度施さないといけない。じゃあ、ここで発生する問題は何だと思う?」


 妙子ちゃんは人差し指を額に当てて名探偵ばりに悩んでいるが、きっと大した事は考えてなさそうだ。


「うーん。答えは『面倒くさい』ですね!?」


 ドドーン!と効果音が付きそうなポーズをキメてドヤ顔の妙子ちゃん…。


 うん。そうだね。面倒くさい。

 でも、そこじゃない。

 もう少し察しが良ければ嬉しいのだが、これはこれで妙子ちゃんっぽいな。

 まあ、期待はしていなかったので続けて解説してしましょうか。


「そうだね。面倒臭い。だが、それ以上の問題があって、魔術を短いスパンで施すと言う事は、人が動くと言う事だ。人が動くと言う事は?」


「お腹が減る!」


 ふふん!と、またもやドヤ顔だが…。


 妙子ちゃんを受け持った歴代の先生は大変だったろうと考えると何だか涙が出そうになる。知力のパラメーターもそこそこ高いはずなのに…。


 どうしてこうなった?


「・・・。そうだね。お腹が減るね。人間はお腹を満たす為に何をするだろう?」


「ごは・・・」


「そうだね。ご飯を食べるためにお金を稼ぐね。」


 言わせない!「ごはんを食べる!」とか言わせない!

 その後、「お腹減った~」とか言い出すに決まってるんだから言わせない!


「う・・うん!そ、そう言おうと思ってた!ハルトさん!さえぎっちゃダメ!」


 目を反らして、そんな事を言われても説得力がないのだが…。

 

「つまり、人が動くと言う事はコストが発生する。自分でやるとしても地上じゃ、ある程度の保冷性を確保しないといけない。冷やす為の冷蔵室や冷凍室の設置・建設にも費用がかかる。 ピンキリだが王宮クラスになると冷却保存するための倉庫に、この街の月間予算くらいの費用がかかる。それを冷やそうと思うと何十人分の人件費がかかる。街の食堂で使う程度の物だと、そこまでのコストはかからないがトータルコストを考えると割が合わないから設置している店は少ないし、魔術師とかが店を出して自分でやるとしても面倒すぎて、やっぱり割が合わない。」


「じゃあ、もしかすると、この氷もすっごい高級品なんですか…。」


 これまでの説明で納得してくれたみたいだ。


 妙子ちゃんが氷に向かって柏手を打って拝んでいる…。

 いやいや。だからって氷を拝まなくて良いから…。


「そうだ。本来はこの氷ですら、この世界では高級品なんだよ。でも、この街だと?」


 まだ、少し氷が残ったグラスを指して答えを促すと、妙子ちゃんも気が付いたみたいだ。


「あぁ!と、言う事は!街の中にダンジョンの入口が有るって言う事は!ズバリ!ひんやりした地下だと何回も魔法を使わなくて冷え冷えのままだからお金もかからなくて、簡単に地下から地上に氷とかも持ってこられるって言うことですね!?ドドーン!」


 自分の口で効果音を付けて三度目のドヤ顔をする妙子ちゃん。

 今回は正解なので良しとしよう。

 続けて補足説明もしておくか…。


「そう言う事。地下の保冷環境は抜群だからね。普通の倉庫を魔術で冷却するだけで充分な効果が有る。その回数も三ヶ月に一回くらいで良いから、地上と比べるとタダと言って良いようなコストで冷蔵庫や冷凍庫を設置・運用出来る。だから、地上の店でも氷が安く使えるって事に繋がる。」


「じゃあ、氷が無ければ地下街を作れば良いじゃない?って事になりそうですよ?」


「確かにね。でも、この世界じゃまだ未開の土地が余ってるから。建設に危険が伴う地下街を膨大な費用を使って建設するなんて余程の事が無い限りは造らない。だから、この街の有用性や希少性が更に引き立って人が集まってくるってワケさ。」


「なるほどー。ダンジョンなんて迷惑なだけかと思ったけど、ダンジョンサマサマですね!この街って!」


「ああ。そうだ。そうだろ?ダンジョンのお陰だろ?ふふーん。」


 何となく、ダンジョンを褒められると嬉しくなる。

 気分も良いので妙子ちゃんの興味の有る情報もそれとなく教えてやろう。


「ここまでするのに色々あったが、今ではダンジョンのお陰で、ダンジョン探索の後には冷たいエールやジュースが飲める。食べ物も冷製パスタの様な冷たい食べ物も食べられれば、この世界では王族や貴族くらいしか食べれない様なアイスクリームやかき氷とかも食べられる。ホントにダンジョン様様だよ。」


「アイスクリーム!!!この季節のアイス美味しいですよねー!うわー!たのしみぃーーーー!」


 あからさまに妙子ちゃんのテンションが上がる。

 俺としては、この反応は嬉しい。

 この街では普通に販売されているアイスクリームだが、この世界では一般的じゃないから、このダンジョンのウリとして俺が作り方を伝授したのだ。


 アイスクリームを知らない人が初めて食べた時の反応も面白いが、アイスクリームを知っている人の反応を見れるのは初めて。

 格別に美味いそれを食べた時の反応が楽しみだ。


「よしよし。後でごちそうしてやろう。あっちのアイスも美味いが、ここのアイスクリームは向こうじゃ食べれないくらい美味しいぞ?」


「うはー!未知の味のアイス!!テンションあがりますー!」


 ぴょんぴょん跳ねながら体いっぱいに嬉しさを表現する妙子ちゃん。

 素直なのか子供っぽいのか分からないが喜んでくれるなら何よりだ。


「美味いものを食えるってのはテンションが上がるよな!家を出る時にアトラクションって言っていただろ?そのアイスクリームとかも含めて、この街に有るダンジョンは、アトラクションとして機能しているワケだ!」


「えー!アイスは嬉しいですけど、家で聞いた時はアトラクションって遊園地みたいなモノかと思ってました!ダンジョンってアトラクションと言う割りには危険な気がしますよ???」


 何も説明していなかったから、そう思うのも仕方ない。

 でも、この世界の人間にとっては最高のアトラクションだと分かってくれていないと後々面倒なので説明を入れておいた方が良さそうだな…。


「俺達が来た世界からするとそう感じるだろうけど、安全地帯があって街から潜れるダンジョンって言うのは貴重なんだよ。こんなにも街とダンジョンが接しているのは多分ここだけ。この世界にはダンジョンが結構有るけど、ダンジョンがあって冒険者や商売人が近くに街を築くと言うパターンの方が多いのね。でも、多くの場合は、街とダンジョンに距離があるから、この街のように簡単に潜れて安全地帯があって、武具の材料になるような魔物が生息するダンジョンってのは、冒険者からするとオイシイ狩場と言う事。それを求めてリックみたいな冒険者が競ってダンジョンに潜っては売れる素材やらアイテムを拾っては売り拾っては売る。こんな儲かる楽しいアトラクションは他に無いってワケだよ」


 分かっているのか分かっていないのか眉間にシワを寄せる妙子が考え込んでいる様なポーズをしてパッと表情を変えた。


「私にはその楽しさはあまり分からないけど、なんだかダンジョンが有る事で色々な人が集まってきそうな感じはちょっとしますね!」


「そう!その通り!この街が街道沿いの街だと言うだけで発展するには限度が有るが、ダンジョンと言うアトラクションが有る事で人が集まり、おまけに他じゃ食えない食い物も有る事で、街の近くを通る商人とか以外にも、食べ物目当てで冒険者とは違った層の人も集まってくる!人が集まれば商売が生まれ、商売が上手く回れば雇用が生まれ、雇用が生まれれば仕事の欲しい人がまた集まる!この街はそう言う街なんだ!」


 アイスクリームなどはダンジョンのオマケみたいなものだが重要な要素と言える!

 この街は色々な要素が組み合わさって成立しているのだ!ドーン!

 と、言う俺の心を見透かしたかのように、

「へー。なんだかドドーンとか効果音が鳴りそうなくらいの演説ですねー。」

 と、少し呆れ顔で俺を見てくる。


 いかんな。少しテンションが上りすぎた。

 説明が長すぎた事もあってか妙子ちゃんはちょっと飽きてしまったみたいだ。

 首を伸ばして食堂の調理場の様子を窺い始めた。

 まあ、そっとしておこう。

 この時間は混むから仕方ないが、料理がなかなか来ないなとは俺も思ってたが…。


「それで、そのダンジョンがハルトさんの本業と何か関係あるんですか?お薬の材料とか集めるとか?」


 ウェイトレスが素通りしたので諦めたのか、時間つぶしに素朴な疑問を投げかけてくる。


「その辺りは、ダンジョンに潜ってからだね。どう言う事かは後でのお楽しみだ。」


 妙子ちゃんはダンジョン探索が今日のメインイベントだと思っているようだから、本番はその後だ。

 今は黙っておく事にしよう。


「ぶぅー!勿体つけるなぁ~!そんなんじゃ女の子にモテませんよ?」


「大丈夫!俺はにゃんこ様にモテれば良いから!」


「え?にゃんこ様って猫ですよ?」


「知ってる!」


「え~。ハルトさん×にゃんこ様ですか…。いや。それは想像するのもダメでしょ…。下手すれば発禁ですよ…。あ。でも人化をすれば…。」


「ぶふぉぉ!そう言うことじゃなーーーい!」


 丁度飲んでいたアイスレモンティを吹き出しつつ否定をするが、ニヤニヤしながら「えー?えー?」なんて言いつつ、からかってくる。もう、これは気が済むまでからかわれてやるしかないようだ。



「おっまたせしました~!ご注文の『夢見る冒険者亭 特製 ハンバーグ定食』と『ポナレ玉子のふわふわオムライス』でっす♪ごゆっくりご賞味下さい♪」



 ウェイトレスの大きな声にビクッとする。


「わーい!オッムライスー♪いっただきまーす♪」


 と、早速、飛びつく妙子ちゃんを見て苦笑する。

 ホントにコロコロと表情が変わる子だな。何となく和む。


「注文は以上ですね♪ごゆっくりどうぞ♪」


 俺を見ながらニマニマするウェイトレス。

 うん。何か勘違いされた気がする。

 普段はリック以外の人間とここに来る事がないからな。仕方ないか。


「うわー!お米が長い!」


「だろ?なんか違う食べ物みたいだろ?」


 そんな俺たちの様子を伺いつつ、ニマニマしながら馴染みのあるウェイトレスが後ろ歩きで店に戻って行くが、今はまあ良いだろう。面倒なので放置する方向で。


 取り敢えず、メシでも食ってリックが解凍されるのを待つことにするか。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「俺!参上!待たせたな!ハルト!」


 解凍されたリックが何の反省も無くニヤニヤしながら現れた。

 上半身は裸だ。


「はいはい。お前のせいで時間ロスしてんだから、さっさと行くぞ。四〇秒で準備しな!」


 と、リックには何のネタかも分からないのだが、こう言う時に言っておくのはお約束だろう。


「そんな~!ハルト~!」と、後ろからクネクネしてそうな声が聞こえるが時間が惜しい。

 相手にしてやらん。

 横に着いてくる妙子ちゃんが俺を見上げながら、これまたニヤニヤして話しかけてくる。


「なんか色々言ってもリックさんと仲良しさんですねー。ニヤニヤ。」


 何を言ってるんだか。

 どこをどう見たらそう思うのか。

 あっちがそう思っていても、こっちはあいつに関わっても疲れるだけだ。

 頼める相手が少ないだけで出来れば関わり合いたくない。


「なんか言いたそうな感じですけど~?ニヤニヤ。」


 うん。この子は何かを勘違いしているが今は抵抗する気にもなれない。

 そう言う事にしておこう。


 そんな事よりも、これからの事だ。

 一応、ダンジョンに潜るのだから、ちゃんと説明しておかないと危険な目にあってからでは遅い。


「さて。これからの話しだけど、ダンジョンの入口で冒険者カードを提示するとリザレクションコインが冒険者組合から貰えるから受け取って。これは週に一個しかもらえないから無くさないでね。」


「リザレクションコイン?」


 うむ。もっともな疑問で聞かれるとは思ってた。


「リザレクションコインと言うのは、簡易テレポーターだと思ってもらえば良い。これが結構な高性能で、動けない様な瀕死状態になったり、死んでしまった時に地下一階の安全地帯に有る教会まで転送してくれる魔術アイテムだ。」


「うぇ!死んじゃう事もあるんですかーーー!?デンジャーゾーン!?」


「そりゃそうさ。楽に潜れて安全地帯が有るとは言え、野良か何者かに操られているかも分からない魔物とかが居るダンジョンに潜って乱獲するんだから。こっちも必死なら、あっちも必死だからな。死の危険はあるさ。」


 まあ、分からなくもない。

 俺達の居た世界では死の存在はそんなに近くない。

 そして、死を意識しない様に生きていたのだから。


「アトラクションって言うから、もっとチョロい『うふふふふ』『あはははは』って感じだと思ってましたよーーー!」


「人でも魔物でも傷つけられる覚悟が無いなら傷つけてはいけないのは、どの世界でも同じだよ。だから万が一の場合を考えてリザレクションコインを配布して最悪の場合でも蘇生が受けられるように配慮しているんだ。この街もお客さんに死なれては実入りが減るからね。」


「う。何だか配布の理由にドロっとした物を感じました…。でも、週に一個って少なくないですか!?もっと欲しいです!もっと!もっと!プリーズ!」


 確かに妙子ちゃんの言う事にも一理はあるが…


「おいおい。考えてみてくれ。週に何個も無料でこんな優秀なアイテムを配布してたんじゃコストがかかるだろ。そんな物をリックに何個も渡してみろ。死んでは蘇生して突っ込んで死んでは蘇生して突っ込んで、無限リック地獄だ。無駄にコストが掛かる上に、命を大事にしなくなる。いっそロストしてしまえって話だ。」


「な…なるほど…アレにそんなコストを支払うのは冒険者組合にとって凄い痛手ですね…」


 あぁ…。

 出会って数時間で妙子ちゃんにもアレ扱いだよ。リック…。

 同情はしないがな!


「そういうこと。だから、リザレクションコインには制限があって、『配布は週に一個』『使用制限も週に一回』『一週間経つと自動で回収される』『使用条件が有り、コインはそれを自動で判別し、回復職が存命中は効果に制限がある。回復出来る範囲なら使用出来ない』『パーティメンバーが存命中、死亡した者のコインの使用はパーティメンバーに委ねられる』『パーティ全滅時は自動で発動する』『蘇生の費用は冒険者組合に預けられた蘇生積立より支払われる。不足の場合は借り入れか放置か事前に選択された方法を採用し、未選択の場合は借り入れを選択したものとし蘇生される』などかな。大体こんな感じだったと思う。」


「…。結構、制限がキツイ感じがしますね。」


 分からなくもないが、この辺りが精一杯のサービスだ。

 これ以上の面倒はコストを支払ってまでする事じゃない。


「いやいや。これでも甘い方だと思うけどね。他のダンジョンだと、そのまま放置されてレイスやグールになって第二の人生を再スタートするワケだが、街に隣接する このダンジョンでは、そんな事を放置するワケにもいかず最低の措置だけしてるって感じなんだよ。」


「でも!そんな制限無くせばゾンビアタックで、こんなダンジョンなんて瞬殺じゃないですか!?」


 分かってないな。ゾンビアタックと言うのは、ギリギリの状態で回復職が耐え、全員が息を合わせて攻撃し、相手の行動を把握してギリギリの状態で強力な敵を狩るのが楽しいのにダンジョンの段階でゾンビアタックなどもってのほかだ。


「ふぅ。分かってないな。このダンジョンに安全地帯が有っても、その神威の範囲には制限が有ると言ったろ?どんなにゾンビアタックした所で全てを制圧出来るワケじゃない。今いる敵だけを駆逐しても、敵の増え方を考えると復活や増殖をしているみたいだし、ゾンビアタックなんて無意味なんだよ。ダンジョンの奥に行けば行くほど敵も強くなるし、根本的な部分を解決しないと。」


「うぅ…。そう言われるとそんな気がしてきました…。でも、根本的な部分って?」


「敵を自動召喚するシステムか、敵を自動復活させるシステムかは分からないが、根本的なシステムを壊さないと意味が無いって事。もしかしたらダンジョンマスターが最深部に居るかも知れないし、そいつを倒さないと解決にならないかも知れないね。」


 と、悩める妙子ちゃんにシレっと言う。


「でも!でも!それなら、やっぱり物量戦ですよ!もう魔法でリックさんを大量生産して、ずっとゾンビアタックさせましょう!それなら人道的な問題も解決です!!」


 うん。ちょっと黙ろうか。妙子ちゃん。

 それはダンジョン程度の問題よりもずっと危険な世界の危機レベルだ。


「まあ、落ち着いて考えてくれ。大量のリックが居る世界を。リックが大量に居るなんて世界が滅びるより恐ろしい事だよ。そんな事をしてまでゾンビアタックするなんて愚行は、俺が阻止するよ。」


「はぁ。確かにリックさん大量はヤバイですね…。地道に攻略するしかないのかぁー」


 取り敢えず、何やら危ない思考に至りそうになった妙子ちゃんも一応の納得をしてくれたようだ。

 ゾンビアタックを出来ない事もないが、コインを使っても危ないアタックは週に一回しか出来ないと言うバランスが丁度いいのだ。


 それに、蘇生できるとは言え死ねば苦しい。

 無残に切り裂かれて、それこそ死ぬような思いをするのは生涯に何回も経験しなくて良い。

 地道に自分の力量の範囲で攻略すれば良いさ。

 これはゲームじゃないんだから。


「ハルトさーん!置いていきますよー!?」


 あれだけ色々言っていたのに、もう気持ちを切り替えたのか妙子は地下一階への階段を降りていく。


 まあ、納得してくれたなら良いさ。

 少し説明に時間を取られたがサクッとダンジョンを体験してもらおうか。


 って、言うかあの子と話してると、どうも話が長くなるな…。

 何とかせねば。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 俺達が地下に降りると元気になったリックと他のメンバーが地下の食堂「闇に潜みしもぐら亭」でくつろいでいた。


「もぉ~!ハルトさんったらお~そ~い~ですよぉ~!」


 ああ。ムカつく。

 シーナの口真似をするリックに殴りかかりそうになるのをグッと抑える。

 まずは、この後の予定を話そう。


「あー。この後だが…」


「もぉ~!リック!わたしはそんなんじゃないですよぉ~!?」


「もぉ~!シーナはこんな感じなんですぅぅぅぅ~!?」


 おい。イチャイチャするなら家に帰ってからやってくれ。まったく。


「良いか?イチャイチャしてる所、悪いが今日は地下二階を適度に流そうと思う。」


 リックは喜び、シーナはご立腹だがそんなこった知らん!

 こっちはこんな人の多い所で気分が悪くなってきているんだ。

 ダンジョンの中に入れば少しマシになるんだ。

 適当に済ませて早く家に帰りたい…。


「はいはい。わかったわかった。それで大丈夫か?お前らこの前、地下三階の半ばまで攻略したって言ってたけど、初心者のポーターが居るから、それで良いだろ?」


「えぇ~!わたしは~もっとガンガン行きたいです~!」


 ああ。リックがウザイ。


 もう良いよね。俺は我慢したよ?

 何をされても文句言えないよね?


『ローズ。この中級マジックポーションをやろう。サイレンスで良いよ。こいつならスキル使わなくても、このウザさでヘイト集めてくれるだろうから。頼んだ。』


『その依頼、このローズ=ヴァレンタインが引き受けたわ。安心して。』


 そう言うと、ローズはリック人気の少ない所に連れ出そうとする。

 リックはリックで何を勘違いしているのか嬉しそうに着いて行く。

 まあ、頑張れ。リック。

 俺は知らん。


「ハルトさーん!このアイスのお金払って下さーい!」


 ああ。もうなんだろう。

 妙子ちゃんは妙子ちゃんでアイスを注文して口に入れてから料金をこっちに投げてくるし。

 良いんだよ?ごちそうする事が嫌じゃないんだよ?

 でも、このパーティをまとめる自信がどんどん無くなってくる。

 この状況に少し泣きそうである。


「はい。これお金ね。払ったらもう少しちゃんと話を聞いてね?」


「ふぁ~い!それにしてもコレ凄く美味しいですね!初めての味!!感動です!」


 本当にこの子は…。


 シーナ曰くショボイ呪いだったって話だけど、この図太い子を自殺まで追い込んでしまう様な呪いってのは尋常じゃなかったんだろうと今でも思う。アレがなんだったのか考えてしまうと小一時間悩んでしまいそうなので、今はしないが…。もし、向こうへ帰れる様な方法が見つかった時には、その辺りの事もちゃんと解決してやりたいな。


 とは、思うが今はダンジョン探索の方が優先だ。


 気持ち切り替えると俺は静かになって戻ってきたリックをニコニコ眺めつつミーティングを続ける事にした。


『・・・・!!!・・・!・・・・~☆・・・・・!?』


 こいつ、動作だけも充分ウザイな!まったく!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「うわー!リックさんすごい!伊達にウザいワケじゃなかったんですね!」

「うほー!わかった?わかった?俺ってば凄いっしょ!褒めて!もっと褒めて!さぁ!さぁ!」


 ダンジョンに潜り始めて四十分。

 俺達は小休憩を取っていた。


 地下二階も半ば。

 街の大きさと変わらないダンジョンを攻略している割には意外と早いペースだ。

 リック達のパーティが慣れていると言う事もあるが…。


「きゃー!リックさんすてきー!ウザいから普段は関わりたくないけど、そのウザさがキラキラ光って魔物もリックさんの魅力にメロメロですよー!」

「いやぁ~♪照れるなぁ~♪もっと!もっと褒めて!俺の魅力をダンジョンいっぱいに広めて!流布してぇぇぇぇぇ!!」


 妙子ちゃん怖い子…。

 最初の十分でリックの扱い方を覚えて上手に使っている。

 普段のリックの1.5倍くらいは働いている。

 これで鎧が赤かったら3倍の働きも夢じゃないだろう。


 そんなリックと妙子ちゃんのやり取りを微笑ましく見ながらシーナは成果の確認をしていた。


「どんな感じだ?売れそうな物はあったか?」


 これでも、俺も冒険者の端くれでもある。

 ドロップアイテムは気になる。


「そうですね~。宝箱の『高級ポーション』は大きかったですね~。五つも入ってて、これだけでも、今回の元は取れそうですよ~?」


 そうだろう。そうだろう。

 罠の解除に時間が掛かっただけあって、なかなかの成果である。

 罠の解除にグリードが大活躍で、それこそ息を飲むような緊張感の有る場面だったが、諸般の事情により今回は割愛させて頂く。


 だが、グリードが最高に格好良かったと言う事はお伝えしたい!

 まあ、あの顔でエンジェルキッスさんなんだけどさ…。


「あと~。ハルトさんが使わないなら~。氷系の補正の掛かったロッドが有るんですけど~?これはローズちゃんにあげても良いですか~?」


「あぁ。構わんよ。結構、良さそうな物だから欲しい気もするけど、そのくらいなら俺が使うよりもローズの方が役立ててくれるだろ?ローズにやってくれ。」


「わぁ~!良かったぁ~!ローズちゃんも喜びます~!買い取り金額は鑑定代を差し引いて折半でいいですかぁ~?」


「いやいや。大丈夫だから。そのままあげてくれ。元々魔法使いの俺だとブースター程度にしか使わないし、魔術師のローズの方が効果は大きいと思うから、その効果を次に一緒に潜る時にでも使って、俺に楽させてくれれば良いよ。」


「じゃあ~。好意に甘えておきますね~?そう言う事でローズちゃんには伝えておきますから~。」


 まあ、なんだ。ドロップしてから、あんだけチラチラ見られたんじゃ俺が欲しいと言うのもアレだしな。レジェンド装備ってワケでもないし、これでローズが喜ぶなら安いものだ。


 早速、シーナがロッドをローズに渡すとペコペコ頭を下げつつ満面の笑顔でロッドを抱きしめながらニコニコしている。

 ローズは二十代半ばだったと思うが、時折見える幼い感じが普段とのギャップで…。

 何と言うか良いよね!最高!ギャップ萌え!これだけでも報酬と言っても良いだろう!


 微笑ましく、そんな様子を見ていると妙子ちゃんがトコトコと近づいてきた。


「ハルトさん。良いご身分ですね!私がリックさんを翻弄している間に美女鑑賞ですか!?」


 おっと。俺はやましい事なんて考えてないぞ?何を言い出すんだこの子は!?

 多少、そんな事も考えなかったワケでもないが…。言いがかりだ!


「おやおや。妙子ちゃん。このレモンティーでも飲んで落ち着きたまえ。人が喜んでいるのを見るのは嬉しいものだろ?単にそう言う事だよ。それは俺みたいな引きこもりでも同じなのだよ。」


「へー。ハルトさんって引きこもりだったんですね。ヒキニートだったんですか?ボッチでMMOとかプレイしてて寂しくなっちゃうタイプですか?って、あれ?そう言えば自殺がどうたらって話の時にヒキニートだった過去って聞いたっけ?へー。まあ、いいや!そんな事!詳しく聞いたらハルトさん泣いちゃいそうですもんね!」


 なかなか辛辣である。

 この二日は色々と有りすぎて詳しく話していなかったかも知れないな。

 俺の事は。

 妙子ちゃんについてはある程度聞いたけど。


「俺が自殺しようとしたって話はしたと思うけど、サラリーマン時代に知り合った親友とも呼べると思っていた同僚にハメられてね。色々あって人が怖くなったんだ。それから人と話す事も出来なくなってね。そこからズルズルと引きこもり。最終的には睡眠薬を飲んで自殺って探せばどこにでも有る様な話さ。」


「同僚にハメられたですか…。やっぱりハルトさんって受けだったんですね。」


「ちょっ!おま!!!!」


 そんな軽口を言いつつも、聞いてはいけない事を聞いたとでも思ったのか、しょんぼり猫耳を伏せ、背筋はぎゅっと丸まり、悲しそうな表情で落ち込んでいるのが分かる。


 まったく。この子は表情がコロコロ変わるな…。


 俺はグシャグシャと頭をなでてやる。


「気にするな。これでもこっちに来てから随分とマシになったんだぜ?未だに人混みとか苦手だから引きこもりたいけどさ。普通に人と話す事はできるし。数は少ないがあいつらみたいに俺を理解してくれようとしてくれる人も居る。それは妙子ちゃんもそうだろ?…。と、俺は思ってるんだが違う?」


 妙子が顔を上げると、涙でぐちゃぐちゃになった顔を俺の胸に埋めて泣き出した。


「わだじぃー!わだじぃー!はるどざんの触れられたぐない部分にふれちゃっでぇー!わーん!ごめんなざぃー!」


「いや…。そこまで泣くほどの事じゃないから。ほら。ハンカチ貸してあげるから涙を拭いて。」


 若いと言う事も有るのか、なんと言うかピーキーな感じで表情を変えて…。

 感受性が強いと言うのか何と言うのか…。

 そこが、この子の良い所だと言えるのかも知れないが。

 うん。何と言うかこう言う時にどう反応して良いものか困ってしまうな。


 大丈夫だと諭すように、ポンポンと頭を撫でてハンカチを渡す。


「あい…。ぐすん。ハルトさんありがとう…。」



 ずびぃぃぃぃーーーー!ふん!ふん!ちーん!



「ハルトさん。ハンカチありがとうございました…。」


 うん。そうだよね。そこまでやってワンセットだよね。

 定番をしっかりおさえブッ込んでくる妙子。

 返却された涙と鼻水で濡れたハンカチを見つつ、晴人は二度と油断しないと誓うのであった。



「あっれ~~~?ハルトー!!!チュー!チューは?そこでチュー!!」



 いつから見てたのかリックが、からかってくる。


「うっせー!ボケ!リック!簀巻にして転がすぞ!」


 気がつけば、全員が俺と妙子ちゃんの様子を息を飲んで見ていた…。

 普段は表情をあまり変えないグリ…エンジェルキッスまで!


「ちょ!エンジェルキッス!お前までニヤニヤしてんな!!!お前ら!!!お前ら!!!」

「はぁ?エンジェルキッスだが!エンジェルキッスなのだが!お前!お前!」

「はぁ?は、こっちのセリフだ!はぁ?はぁ?お前!大きな声が出るじゃねーか!?いつも聞き取れないんだよ!」


 言い返せないエンジェルキッスさん。

 俺達のやり取りを少し遠くに距離を取ってニコニコと見ているシーナがお母さんのようだ。

 いや!違うし!

 今はそれは違う!


「シーナ!お前もこいつら止めろよ!」

「いえいえ~。何だかいい雰囲気だったので~。」


 ニコニコと笑顔のまま悪びれるでもなく、この状態も楽しんでいるシーナにモヤっとしたモノを感じる。このパーティをまとめているだけあって、シーナも相当な曲者なんだと思う。


「おま!?それでも聖職者か!?ダメだろ!?止めなきゃダメだろ!?聖職者的に!」


 キレまくる俺をみんながからかってくる。

 まあ、何と言うかアレなのだが、こんなやり取りも悪くないと思ってしまっている俺も居る。


「くふ…。あははははー!もぉー!ハルトさん怒りすぎですよ!あは!あはは!」


 おいおい。誰のせいでこんな状況になっているのか…。

 あまりものキレっぷりがツボにはまったらしい。

 ダンジョンの中だと言うのに転げ回って笑いだした。


「くそ、妙子ちゃんまで…。誰のせいで…。」


 まあ、良いか。こんな事で笑顔になってくれるなら。

 俺もキレ損と言うワケじゃないさ。

 すっかりと毒気を抜かれてしまった。


 少し温くなったレモンティーを口にして落ち着こう。

 ここからどうするかも話し合わないといけないしな。


「ハルト。敵だ。」


 さっきまで憤慨していたグリードが落ち着いた表情で敵の来訪を告げる。


「ああ。わかった。あれだけ騒げばお客さんもくるか…。」


 グリードの警告を受け周りを見回す。

 妙子ちゃんを後ろに下げ、迎撃準備が完了している仲間達。

 普段はアレだが、急なお客さんの来訪にも対処してくれる。

 やっぱり、こいつらは頼もしい。


「もうひと仕事しますか!ハルト!いくぜーーー!ヘイトソーーーード!」


 開口一番、リックが前に出る。


「おう!疲れたから早く帰りたい!まとめてくれ!俺が処理する!」


 俺がそう言うだろうと既に魔法を当てやすいように敵をまとめてくれている。


「足止めします!」


 リックが前に出た瞬間から詠唱をしていたローズが魔術発動の合図をする。


「大地に撒かれた種よ!引き裂いて!ローズバインド!」


 バッチリだ!絶妙なタイミングでローズの足止めが決まる。


 俺は右手に魔力を込める。

 熱気が徐々に右手に集まり炎となる。


「いくぜ!ファイアストーム!」


 簡単な動作で魔法が発動し、敵の周りに炎の渦が立ち上る。


「「「クケーーーーー!」」」


 ローズのバインドで一網打尽にされた、鳥型のモンスターたちが断末魔をあげ、周りには肉の焦げる臭いが立ち込める。


 よし。完璧だ。

 完璧じゃないか。

 良いぞ。これは良い。

 満足な連携である。


「よ~!ハルト!どうだった?俺ってば最高だろ?」


 さすがに、今回は褒めておかないといけないだろう。


「あぁ。リックにしては上出来だったな。まあ、それもグリードの索敵のおかげだがな。それよりも、何発かもらってるじゃないか?まだまだだな。」


 と、言うと「ちぇー」と言いながらも嬉しそうにして、シーナに傷を治してもらいに行った。


 そんな様子を眺めていると、シーナと目が合う。

 相変わらずニコニコしながらコッチに向かってVサイン。

 うん。何となく言いたい事は分かるが…。

 こう言うのは照れるな。


 多分、慣れたとしても…。

 いや。慣れないだろうな。

 こう言うやりとりはこそばゆい。


 後ろに控えていた妙子ちゃんも丸焦げになったモンスターを見ながら感心しているように食い入る感じで見ていた。


「どうだい?今のはちょっと凄かっただろ?慣れればこんな連携も…」


「はい!凄かったです!」


 目をきらきらさせながら、ふんふんと鼻息も荒く詰め寄ってくる。


 そうだろう。そうだろう。

 さっきの連携の凄さは素人の妙子ちゃんにも伝わるくらい凄かっただろう。

 今回ばかりは自画自賛しても許されるだろ?


 と、思っていたが・・・


「本当にすっごい高速調理!!鮮度抜群ですね!!!後ろにいても鶏肉の焼ける良い匂いがしてー。はぁ~。これ食べれます???お腹すきました!!!」


 うん。そんな気はしていた。この子は何だかちょっと感覚が違う。

 泣かない。これが一瞬美味しそうに見えるのも分からなくもないから。


「うん。でも、そいつが何を食べてるかもわからないからね。それ食べちゃダメだよ。体調が悪くなるよー?はぁ。お腹も減ったし帰ろうか…。」


「わーい!よるごはん♪よるごはん♪今日はなにかなー♪」


 まあ、良いか。そのうち分かってくれるよね。

 妙子ちゃんが「お腹へった!」と言う事で、本日は帰還する事にした。


 その理由を聞いても普通に受け入れてくれる四人。

 この一日で妙子ちゃんがどの様な子かと言う事をある程度は把握されたらしい。


 初めてダンジョンであれだけ自由にしていれば誰だって分かるか…。

 これだけ、物怖じをしない子も珍しいと思う。

 それを受け入れた四人も意外と大物なのかも知れない。


「ハルトさん。テレポーターの準備ができたわ。帰りましょう。」


「おう!今、行く!」


 アイテムの回収も終わり、テレポーターの準備をしてくれていたローズが声をかけてくれる。


「妙子ちゃん?準備できたって」


 ダンジョンの奥に続く闇をボーっと眺めてた妙子ちゃんに声をかけるが反応がない。


「妙子ちゃん大丈夫?」


 反応のない妙子ちゃんを揺すって声をかけるとハッとしてワタワタと慌てだす。


「何だか凄かったなぁって、今更、感慨にふけってました。えへへ。帰りましょう!」


 ニコっと笑うとローズに駆け寄りペコっと頭を下げて、先にテレポーターに入る。


「色々ありがとう。ローズ。」


 俺も礼を言ってテレポーターに入ろうとする。


「今日は私も楽しかったです。あと…」


 何かを言いよどむと少し困った様な顔をする。


「いえ。なんでもないですわ。さあ入って入って!」


 少し気になるが、話せることならそのうち話してくれるだろう。


 テレポーターに入ると視界が歪み地下一階の喧騒が戻ってくる。

 程なくして、ローズもダンジョンから戻ってきた。


「さあ!打ち上げですわ!今日は大漁でしたからいっぱい飲みますよ!」


 不意にローズは俺の手を引いて、小走りでみんなの元に誘導する。

 うーん?何があったのか分からないがローズの様子がおかしいような?いつも通りのような?

 まあ、何かあったら相談してくるだろう。


 最後にそんなモヤモヤを抱えてしまったが、今は無事に帰還できた事を喜ぶ事にしよう。


 この後、妙子ちゃんに本業について説明をしないといけないが…

 それはそれ。これはこれだ。


「あいつら底なしだからなぁ。今日の稼ぎで足りるのか?」


 俺は大丈夫だが、全員の財布の中身が心配だ。

 最悪、俺が払ってやるか。今日は。


 こうして、妙子のダンジョン初体験は無事に幕を閉じた。

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