第3章 (下) 反転の布石
工場内は、非常用照明の淡い赤い光に包まれていた。瀬戸は、破壊された装置の破片を握りしめ、力なく膝をつく。もはや、この永劫工場でチップを量産することは不可能だ。
「……瀬戸リーダー」
声をかけてきたのは、工場の隅で震えていた若手技術者の田中だった。彼は、破壊された装置の残骸を片付けるのではなく、工場の地下に広がる、本来は廃材置き場に使われていた区画へと向かおうとしていた。
「どうした、田中」
「……いえ、僕たちには、ずっと密かにやっていた『遊び』があったんです」
田中が震える指で操作したのは、メインの製造ラインではない、工場長すら知らないはずの「旧式」のラボだった。そこには、ゼダピスの最新鋭装置ではなく、かつて大学の研究室から払い下げられた、無骨で頑丈な旧式のナノインプリント装置が並んでいた。
「メインラインが破壊されるような緊急事態には、AIの最適化なんて使えない。だから……僕たちは、手動でもMOFを焼き付けられるように、この『ガラクタ』を調整していたんです」
それは、効率も悪く、量産能力も低い。だが、確実にチップを一つずつ生み出せる「職人仕様」のラインだった。
「これなら……」
瀬戸の瞳に、再び光が宿る。
「……ああ。これなら、この小さなチップを守り抜き、量産のための『種』を作れる。世界は我々を滅ぼしたつもりだろう。だが、我々は灰の中から、もう一度火を起こす!」
その時、遠くで爆発音が響いた。侵入者の残党が、工場の崩落を狙って自爆装置を作動させたのだ。工場の壁が揺れ、天井からコンクリートの塊が降り注ぐ。
「急げ! 地下へ潜るんだ! 永劫工場は終わらない。ここからが、本当の『始まり』だ!」




