【 閑話休題 】 & 第3章(上)
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文字数が少なくて、これだけでは投稿できないようなので、
第3章 に続けちゃいます。
第3章(上): 暗雲の楔
「永劫工場」がその名を冠したのは、ゼダプリがこの地に巨大な地下シェルターを備えた製造施設を築いた時のことだ。どんな災害にも、いかなる紛争にも屈せず、日本の頭脳を製造し続ける――。そんな技術者たちの悲願が、その名には込められていた。
だが、皮肉なことにその「強固さ」が、敵にとっては最大の標的となった。
成功の余韻は、わずか数時間で終わりを告げた。
午前3時14分。突如として工場を包む防護壁の外側で、凄まじい轟音が響いた。送電線の基幹施設が爆破されたのだ。永劫工場は瞬時にメイン電源を失い、非常用バッテリーへと切り替わる。
「敵襲だ! 全員、コア・セクターへ退避しろ!」
警備責任者の怒号が響く。だが、瀬戸は動かなかった。彼は手元にある試作チップのプロトタイプを、真空パックに入れて懐に深くしまい込んだ。
「ここを守るんだ。ラインを止められたら、二度とこのチップは再現できない!」
工場の廊下に、黒い戦闘服を纏った影が侵入してくる。彼らはハッキングで内部に入ることを諦め、最も確実で原始的な手段――「物理的な破壊」を選んだのだ。最新の軍用銃器の代わりに、彼らが手にしていたのは、重要回路を確実に粉砕するための高出力熱切断機だった。
「瀬戸さん、逃げてください! 私がここを塞ぎます!」
若手技術者の田中が、非常用シャッターの制御盤に飛びつく。だが、シャッターは降りない。外部からの遠隔操作でロックされていたのだ。
「誰か、内部に裏切り者が……!」
侵入者たちが、クリーンルームの入り口に殺到する。彼らの目的は、MOFを組み込んだ製造装置そのものを粉砕し、南山教授の理論を永遠に葬り去ることだ。
瀬戸は近くにあった重厚な作業用レンチを掴み、田中と肩を並べた。
「田中、怖がるな。これは半導体作りと同じだ。熱を制御し、構造を守り抜く。それだけだ」
激しい攻防が始まった。
クリーンルームに充満していたクリーンな空気が、侵入者の乱入で汚染されていく。
高価なシリコンウェハーが踏みつけられ、精密なロボットアームが鈍器で叩き折られる。かつてない静寂と緻密さが支配していた永劫工場が、今は怒号と金属音に満ちていた。
瀬戸は、侵入者のリーダー格と対峙していた。男が熱切断機を振り上げる。瀬戸はそれをレンチで受け止め、火花が散る。
「なぜ……なぜ? 日本が、この技術を持つことを許さない!」
男は、瀬戸の言葉に無反応だ。
「日本の主権を犯すな!」
男は冷酷に笑った。
「主権だと? お前たちは、ずっと『箱』の中で泳いでいればよかったんだ。自分の足で立とうとするから、こうなる」
「この男は、どこの者だ?」。瀬戸の頭に、疑問符が浮かぶ。
格闘しながら、大陸の某国から差し向けられたのか? マフィアのような振舞いをするあの国が、アペリカンを偽装して来てるのか? それとも本当に……?
激しい格闘の末、侵入者は撃退した。だが、工場の中心部である「MOF合成ユニット」は、彼らが仕掛けた小型爆薬によって、無惨に引き裂かれていた。
静寂が戻った工場内。
瀬戸は、崩れ落ちた装置の破片を拾い上げた。そこには、わずかに原型を留めた「MOFの残骸」があった。
「終わった……」
誰かが絶望的に呟く。
電力は断たれ、製造装置は粉砕された。永劫工場という名は、今や廃墟の代名詞に成り下がったように見えた。
瀬戸は灰まみれの顔で、瓦礫を見つめた。
チップの設計データは頭の中にあった。だが、それを形にするための「網(MOF)」を焼き付けるユニットはもう存在しない。
「いや、まだだ……」
瀬戸は震える手で、懐の試作チップを握りしめた。
「南山教授の理論は、この小さなチップの中に刻まれている。……破壊されたのは装置だ。理論そのものじゃない」
だが、彼の言葉に、誰も返事を返せなかった。目の前に広がるのは、あまりに現実的で、あまりに絶望的な「喪失」だった。
暗雲は、永劫工場の上空を完全に覆い尽くしていた。




