第7.5話『死神は、“幸せ”について考える』
「……で、あれって実話か?」
ポテチ片手に、シキが唐突に言った。
俺はパソコンの画面を閉じながら、軽くため息をつく。
「違うよ。
俺が幸福度100で消えてたら、今こうして原稿送信してねぇだろ」
「でもお前、
“幸せになったら死ぬ”って言われたら、
わりとすんなり光に包まれそうだよな」
「どんなイメージだよ、俺」
「てかさ」
シキがポテチを机に置いた。
こいつが真顔になると、ロクなこと言わない。
「あのヒロイン、“幸福死請負人”だろ?」
「うーん、どうだろね」
「絶対あるよ、ああいう業界。
“対象に幸せを与えて消す”専門の裏サービス」
「……」
「依頼フォームこうだろ。
《依頼人:両親》
《動機:自宅警備歴10年》
《希望日:今すぐ》」
「まぁ、ありそうだな」
「でもさ」
シキはぽつりと言う。
「あの女、ちょっとだけ……
本気で“幸せになってほしい”って思ってた気もする」
「……どのへん?」
「ラストの台詞。
“でも私は、死んでもいいくらい誰かに幸せを感じてほしいな”ってやつ」
「あー……まあ、プロ意識高いからな。
“幸せを感じさせる言葉を選ぶ”のが仕事なんだろ」
「……身も蓋もねぇな」
静かな間が落ちる。
ポテチの袋が、カサッと音を立てた。
シキがぽつりとつぶやいた。
「……幸福度ってさ。
自分じゃ、案外測れないもんなんだな」
「急にどうした」
「主人公さ、死ぬ直前がいちばん“生きてた”気がするんだよ。
逃げて、避けて、それでも最後に誰かと笑って――消えた」
「……」
「人間って、たぶん――
“幸せ”の為に死ねる生き物なんだな」
その言葉のあと、シキは静かにポテチをひとつつまんで、口に運ぶ。
俺はパソコンに目を戻しながら、少しだけ笑って言った。
「じゃあ俺も、
誰かの幸せのために消える練習でもしとくかな」




