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第6.5話『死神、観葉植物に命名する』

「これ、買ってきた」


「……は?」


 シキが袋から取り出したのは、小さな観葉植物だった。

 丸っこい葉っぱがふさふさしていて、なんか……癒し力が高い。


「それ、どうしたん?」


「観測用」


「……は?」


「名もなき存在に名前を与えるのも、死神の仕事だ」


「え? それ、今作った設定じゃない?」



 翌朝、リビングの隅にその植物は鎮座していた。

 空気のような存在感。でも、シキは朝からずっとその前に正座していた。


「お前、今日原稿読むんじゃなかったっけ?」


「その前に――命名の儀を執り行う」


「……命名の儀?」



 線香を焚き始めた。

 黒い手帳を開き、なにやらぶつぶつと呟いている。

 詩のような、呪文のような、ポエムのような。


「第一候補。“碧の沈黙”」


「中二か」


「第二候補。“第二観測体α”」


「急に理系SFかよ」


「最終候補。“モリヲ”」


「なんで急に庶民派!?」


「……森っぽいから」


「いや、雑すぎん?」



 結局、名前は“モリヲ”に決定した。


 モリヲは特に何も反応しなかった。

 けど翌朝、少しだけ葉っぱが元気になっている気がした。


「観測値、微増」


「観測値って何?」



 それから、なんとなく俺もモリヲの世話をするようになった。

 水をやって、たまに原稿を読み聞かせたりする。

「どう思う?」って話しかける自分がちょっと怖い。


 シキはいつものようにポテチを食べながら、ぽつりとつぶやいた。


「……名前をつけるってことは、“ここにいる”って証明だからな」


「お、珍しくいいこと言ったな」


「モリヲ、だけどな」


「台無しぃ」



 夜、コーヒーを淹れながらふと思った。

 たかが植物。でも、“名前がある”ってだけで、少し愛着が湧いてる。


「……あの話、ちょっとヒントくれたかもな」


「どの?」


「“感情を捨てる手術”のやつ。

 あれ、名前があれば感情って残るかもなって」


「逆だよ」


「え?」


「感情が残るから、名前がつくんだ」


 シキはそう言って、モリヲを一瞥した。


 その葉っぱが――

 ほんのすこし、揺れた気がした。

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