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聞きなれない魔石師との奮闘記  作者: さんご
成長と旅立ち

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無事の帰還

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

オーガの群れを討ち果たし、スタンピードという破滅の奔流が鎮まったとき、キワザスの空には久方ぶりの静寂が戻っていた。灰を含んだ風は次第に穏やかさを取り戻し、崩れかけた防壁の向こうでは、ようやく人々が息を吹き返し始めている。


マキたち一行が町へ帰還したのは、戦の余熱がまだ地面に残っている頃だった。


だが、彼らの姿は、静かに埋もれていく。


「ナイトウォーカー」のナイトは、まるで糸の切れた人形のようにふらつきながらも、どうにか足を前へ運んでいた。鎧は傷だらけで、血と泥が乾いてこびりつき、呼吸のたびに肩が重く上下する。それでも彼はギルドへ向かう。報告だけは、自分の責務だと信じていた。


ギルドの扉が開いた瞬間、内部の空気が一気に弾けた。


「ナイトウォーカーが戻ったぞ!」


「生きていたのか……!」


歓声と安堵が入り混じり、疲弊したナイトは一瞬だけ視線を上げる。しかし、その言葉を丁寧に訂正する余力は、もう残っていなかった。彼は要点だけを、途切れ途切れに伝える。


オーガの群れ。スタンピードの鎮静。仲間の奮戦。そして——終息。


それだけで十分だった。


いや、十分すぎた。


ギルドの職員たちは、その報告の細部を吟味するよりも先に「結論」に飛びついた。Aランク冒険者パーティ「ナイトウォーカー」が、キワザスを救った。その物語は、あまりに都合よく、あまりに英雄的で、そしてあまりに“望まれていた”。


誰もが疲弊し、恐怖に晒された直後だったのだ。単純な英雄譚ほど、喉に優しい薬はない。


「さすがナイトウォーカーだ……!」


「Aランクは格が違うな」


その声が積み重なっていくうちに、事実は少しずつ形を変える。誤解は誤解のまま固まり、やがて“真実のようなもの”へと変質していった。


本来ならそこにいるはずのマキたちの名は、語られない。


彼らは「救助された冒険者」として、物語の背景に押しやられていた。


ナイトはそれを訂正しようと口を開きかけた。しかし、その瞬間、ギルドの酒樽が開かれ、歓声が爆発する。


——タイミングを、完全に失った。


その夜から、町は狂騒に包まれる。


キワザスは三日三晩の宴へと突入した。


広場には火が焚かれ、肉が焼かれ、酒が流れ、歌が響く。壊れた防壁の一部すら、いつしか即席の舞台となり、そこでは「ナイトウォーカーの武勇伝」が誇張とともに語られ続けた。


ナイトはその中心にいた。


彼は本来、こうした賛美に慣れているはずだった。しかし今回ばかりは違った。事実と語られる物語の落差が、喉の奥に小さな棘のように残っている。


それでも、人々の視線が彼に集まるたび、その棘は酒で流されていく。


「いやぁ、今回も楽な仕事だったな!」


軽く笑いながらそう言ってしまった自分に、ほんのわずかな違和感を覚えながらも、ナイトはその違和感を踏み潰すように肩をすくめた。


ヒリギもサウザンドも、同じように笑っていた。疲労の奥にある沈黙を隠すように。


そしてその笑いが、さらに物語を補強していく。


ナイトウォーカーは英雄だ、と。


キワザスを救ったのは彼らだ、と。


誰もがそう信じた。


その陰で、マキたちは静かだった。


自分たちの名が表に出ないことに、驚きも怒りもなかった。むしろ、その誤認が町を安定させるならば、それでいいとさえ思っていた。


功績は形ではなく、結果に宿る。


そういう戦いだった。


やがて、エメダとも合流する。彼女は軽く肩をすくめると、事情を一瞥で理解したようにため息をついた。


「……まぁ、こうなるとは思ってたけどね」


その言葉には皮肉ではなく、妙な納得が混じっていた。


兄が待つという宿へ戻る道すがら、町はまだ祝祭の渦の中にあった。

酔った人々が踊り、子どもたちが英雄の名を叫び、大人たちはそれに笑って応じる。


誰もが救われたことだけを喜んでいる。


その中心に“誰がいたか”など、もはや重要ではなかった。


宿に戻ると、扉の向こう側だけが妙に静かだった。外の喧騒が遠い海鳴りのように響き、ここだけが別の世界のように落ち着いている。


マキは窓の外を一瞥し、小さく息を吐いた。


「まぁ、悪くない。予想通りの結果になった。」


その言葉は、自分に言い聞かせるようでもあり、町そのものへの評価でもあった。


ユキは、機嫌が悪そうではあったが、声にはださなかった。


誰が英雄と呼ばれるかは、時に物語の都合で決まる。だが、町が生き残ったという事実だけは、誰にも書き換えられない。


三日三晩の宴の中で、キワザスは傷を忘れ、痛みを忘れ、ただ生き延びたことだけを祝っていた。


そしてマキたちは、その喧騒から少し距離を置いたまま、束の間の休息に身を沈めていく。


嵐の後の静けさは、いつだって少しだけ甘い。


それが、真実に名がつく前の、ほんの短い猶予だった

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