皇妃暗殺 4
「私ね。子供の頃、兄さまのお嫁様になるのが夢だったの。だから兄さまのお嫁様は、私のお眼鏡に叶う女性でなくてはダメよ」
冗談めかしながらゾフィーは話す。
きっとゾフィーは悪気があったわけではない。フィーアを試すつもりもないはずだ。
単純に普通の会話をしているつもりなのだ。
だって、皇妃様は私の本当の過去を知らないのだから。
「皇妃様は何か勘違いをされていらっしゃいます」
カップをソーサーに置く。
フィーアは以前、ルイーザと話していたことを思い出していた。
「私は下級貴族。上級貴族であるご主人様と結婚などそもそも出来ません」
「大丈夫よ。私が陛下にお口添えすれば出来るわ」
ゾフィーはため息をつく。
「陛下はグレーテに惑わされているだけだと思うの。時間が経てば、きっと目を覚まされるわ。兄さまだって陛下を説得してくださってる」
「はい。ご主人様は皇妃様のために、毎日尽力されておいでです」
「そうよね。私は兄さまを信じて待つわ」
たとえ幽閉されているとは言え、エルンストには帝室の人間が身内にいるのだ。
「で、本当はどこの貴族の娘なの?」
「そ、それは・・・」
口ごもるフィーアにゾフィーは不審顔をする。
「まさか、平民ではないわよね。さすがに平民だったら私の力をもってしても無理だわ」
ズキズキとフィーアの胸は痛む。
「何故黙っているの。言いたくないのはどうして?」
ゾフィーの追求は止まらない。
フィーアは悩んでいた。
どう答えたら、エルンストの名誉を守れるかを。
本当のことは言えない。
「申し訳ありません、皇妃様。私は平民の旅一座の娘です。命を狙われていたところを、ご主人様に救われたのです。そして侍女として召し抱えてくださったのです」
「そうだったの。侍女は下級貴族の娘であるという規則があるから、兄さまは嘘をついたのね」
明らかにゾフィーは落胆した様子だった。
「私はあなたが好きよ、フィーア。けれど、力にはなれそうもないわね」
これが現実なのだ。
私が奴隷と知ったら、ゾフィーはどんな反応を示すだろうか。
想像しただけで、震えが止まらないフィーアだ。
私はきっと彼の立場を危うくしてしまう。
今、はっきりと自覚した。
私は彼の手を離さなくてはいけないことを。
彼には約束された未来がある。私の存在はそれを破滅へと導いてしまう。
輝かしい未来を壊したくない。
壊れそうな気持ちを必死に抑え込む。
それに身重なゾフィーに心配をかけてはいけない。
結婚など大それたことは毛頭考えていないけれど、周りの人間があれこれ詮索してくる。
嘘をついてもいつか、破綻する。
今のように。
エルンスト様の元を去らなくてはいけない。
私は、お側にいてなならない存在なのだから。




