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ひと夜 2

「あなたは相手にとって都合の悪いことを知っている。あなたにそのつもりが無くても、向こうにはあるんですよ」


 伏せていた切れ長の瞳を開くと、鋭い眼光でベッヘムを睨みつけた。


「私の言っている意味が分かりますね」

「うぐっ」


 観念したようにベッヘムは唸る。


「グレーテ妃はあなたに生きていられると、都合が悪いのです」


 ベッヘムはグレーテとの関係を認めた。しかし、お腹の子の父親が自分だとは夢にも思っていないらしい。

 グレーテには複数の恋人がいて、自分とは限らないと主張した。 

 

 そんなベッヘムからしたら、今回の火遊びは最悪の結末だと吐き捨てたいところだろう。


 相変わらず侮蔑の視線をベッヘムに向ける帝国一の色男の肩をエルンストは叩いて、その隣に座った。


「みなが、お前のようには出来まい」

「ですが、閣下」

「女の扱いに慣れたお前だからこそだ、分かってやれ」


 ファーレンハイトは口を閉ざし、エルンストはベッヘムに向き直る。


「まさかとは思いますが、グレーテ妃とお付き合いされるにあたり、職務に関する情報漏洩などはしていませんよね」

「そ、それは・・・」

 

 視線をそらすベッヘムの態度が答えだった。


「正直にお話頂かないと、我々としても命の保証はしかねます」


 徐々にベッヘムを追い詰めていったのだった。



***


「しかし、とんでもない奴でしたね」

 

 尋問を終えたファーレンハイトはお茶を飲みながら、愚痴をこぼしている。


「真面目な男の成れの果てですよ、まったく」

「お前の言い方だと、真面目な男すべてを否定することになるぞ。選んだ女が悪かったのだ」


 ファーレンハイトは疲れたようにソファーに体を沈める。


「見せしめでしょうか?」

「ああ」


 グレーテは複数の男と関係を持っていた。正直子供は誰の子か自分でも分からないのではないか。しかし、誰か一人を殺せば身に思い当たる男どもは恐れをなして口を閉ざすだろう。

 そしてお腹の子は皇帝の子だと主張する。


 ベッヘムは哀れな生贄として選ばれたに過ぎない。


「それはそれとして・・・」


 ファーレンハイトのため息は深い。


「公金横領、物資の横流しとなると、ベッヘムはグレーテ妃だけでなく、ゲルフェルト侯からも命を狙われていますね」

「ああ」

 

 エルンストはカップを口へと運ぶ。


「だが、営倉にいれば安心だ。さすがのゲルフェルトも手は出せまい」

「ここの営倉は大陸一安全ですからね。なんといっても警備しているのは精鋭、シュバルツリーリエですからね」

「グレーテ。食えない娘だ」

「まったくですよ」

「お前も気をつけろよ」

「まさか」


 言いながら肩をすくめる。


 これはファーレンハイトの持論なのだが、『飛ぶ鳥あとを濁さず』だとか。

 いかにもファーレンハイトらしい。


「閣下は私の眼識をご存じないようですね」

「まさかとは思うが、お前グレーテとも関係が?」


 ファーレンハイトは不敵な笑みを浮かべる。

 それがどちらの答えなのか、エルンストには分からなかった。


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