虚飾の城 4
翌日に許可が下り、エルンストは皇帝の執務室にいた。
皇帝への挨拶を済ませると、すかさず本題に入った
「陛下、恐れながら人払いをお願いしたいのですが」
「はて?お前から人払いとは珍しいな」
ゲオルグが片手をあげると、傍らに控えていた側近が席を外す。
「さて、余に人払いをさせてどんな話をするつもりだ」
「陛下におかれましては、最近側室を迎えられたとか?」
ここでいきなりゾフィーの話題を出すと、ゲオルグは拒否反応を示すだろう。
エルンストは外堀から埋めていくことにした。
「お前の耳にも入ったか。ゲルフェルトの娘グレーテだ。グレーテはそれは気の利く出来た娘だ。しかも若くて美しい」
大して歳差もないゾフィーも十分若いのだが。エルンストは眉根を寄せる。
「既に陛下の御子を身籠られているとか。誠におめでたく存じます」
「うむ」
満足気に頷くゲオルグ。
「お世継ぎのご誕生はいつのご予定ですか?」
「薬師によると、冬の終わりか春の頭だそうだ」
嬉しそうな顔をする。
それを聞いたエルンストはとっさに計算する。やはり出産日に狂いはなさそうだった。
ゾフィーと出産月が重なる。
女狐のことだ、薬草を用いて出産を早める可能性もある。
とにかく情報を集めるしかない。エルンストは思案する。
「そうだエルンスト」
何かを思い立ったように、ゲオルグは椅子から身を乗り出した。
「ランドルフ・フォン・ベッヘムの身柄を拘束しようと思うのだ」
突然のことにエルンストはいささか驚く。
ベッヘム伯爵は文官として若く有能な人物だ。エルンストは何度か酒を酌み交わしたことがある。
罪を犯す人物とは思えない。
「ベッヘム伯をでございますか?その罪状は?」
「何でもいい、適当に考えてくれ」
「は!?」
バツの悪そうなゲオルグの表情を、エルンストは見逃さなかった。
「つまりだな、グレーテが奴を処断して欲しいと言うのだ」
エルンストは耳を疑った。
「余の愛しいグレーテがベッヘムを見るだけで嫌悪感を抱くから、出来れば殺して欲しいと言うのだ」
正気か?
無実の人間を殺せと言うのか?
若く有能な人材を失うと言うのに。
エルンストはまじまじと皇帝の顔を眺めた。
側室の甘言で、こともなげに人の命を奪える人間になってしまったのか。
しかし皇帝の命令は絶対だ。専制君主制である以上、臣下はそれに従うしかない。
どんなに理不尽で納得がいかなくとも。
「すぐにベッヘムを拘禁してくれ」
「はっ」
敬礼すると執務室から退出し、自分の執務室へと戻ったのだった。




