虚飾の城 3
執務室に戻ったエルンストはファーレンハイトを呼び出した。
「お呼びですか、閣下」
「お前、グレーテ・フォン・ゲルフェルトなる娘を見知っているか?」
「はい」
笑顔で即答するファーレンハイトに、エルンストは複雑な心境だった。
「どんな娘だ?」
「そうですね・・・」
少し考えていたが、
「美しさはまずまずですね。閣下のところのフィーア殿には劣りますな」
「そうではない、俺が知りたいのはグレーテの素性だ」
ファーレンハイトは肩をすくめると、話を続けた。
「最近陛下の側室になったとか。しかも既に懐妊しているそうですね」
「ああ」
執務机に肘をつきながらファーレンハイトを見やる。
こいつの情報網はやはりあなどれない。
おそらく寝所を共にした女官から聞き出したのだろう。
エルンストは話を続けるようファーレンハイトを促す。
「ゲルフェルト侯爵家の四女で、甘やかされて育ったせいか、我がままで自由奔放。自己顕示欲が強く、注目されることに快感を感じる性格。だそうです」
やはり女官の陰口か。
「このまま側室の座に甘んじておりますかどうか。それに、ゲルフェルト侯爵も孫を玉座に座らせるために、色々と画策しているとか」
「つまり、皇妃の子が邪魔なのだな」
「恐れ多いことです。この度のご懐妊も本当に陛下の御子かと女官たちはささやいております」
「当然だ」
「ですが、何より陛下がグレーテ妃に夢中のご様子。側近の声に耳を傾けないのです」
ゾフィーはともかく、グレーテの妊娠はタイミングが良すぎる気がする。
陛下がグレーテと寝所を共にされたのはおそらく、あの晩だ。
不愉快な記憶を呼び起こさなくてはならなかった。
あの宴から数えると、ギリギリ計算は合いそうだった。
これは軍人としての勘なのだが、どうも面倒な娘のようだ。古狸が若い仮面を被っているのではないか?
狡猾で貪欲。そんな気がしてならないエルンストだった。
「宮廷内でも陛下のご寵愛をいいことに、ゲルフェルト侯爵の発言力が増し、一族が次々に要職を与えられています」
「昔から変わらぬな。政権争いは娘にかかっている」
皮肉を込めて、エルンストは口の端を上げる。
「陛下はゾフィー様を疎ましくされているとの噂が流れ、風見鶏のごとく態度を変える臣下も出てきている由。閣下の伯父上ユンゲルス様もさぞご心痛かと」
よくもまあ、そこまで知っているのもだ。
エルンストは舌を巻く。
だが・・・エルンストは舌打ちした。
自分は武官であって文官ではない。それを言い訳に宮廷での政治闘争に目を背けていた。
武門としての役割を果たしていればいいと思っていた。今更ながら、もっと宮廷に目を向けていればと思うと歯がゆい。
目の前の女ったらしを見習うべきだな。
自嘲気味に自戒を込めて笑う。
しかし、相手の動きが思っていたよりも早い。
「ゲルフェルト侯に汚職や謀反の動きは?」
「今のところありません」
そう断言したファーレンハイトだったが、ニヤリと口を歪める。
「もっと調べてみますか?閣下」
ファーレンハイトがこんな言い方をするときは、必ず何かあることをエルンストは知っていた。
彼にこの件を一任すると、エルンストは皇帝に拝謁すべく、その申請を出したのだった。




