蛍の丘 7
あの三人のいづれかが側室になるのだろうか?
だが、もはやどうでもいい。とばかりに冷めた視線でゲオルグを見送ったエルンストに、残された何人かの娘たちが話しかけてきた。
「エルンスト様、私たちもお話してよろしいでしょうか?」
上品さを装いつつ、エルンストの隣の席を奪い合う。
「前々から一度、エルンスト様とお話しとうございました」
「エルンスト様の勇士は、父から聞き及んでおりますわ」
「ファーレンハイト様から、よくお話を伺っております」
いっぺんに話しかけられて、酔いのせいもあってエルンストは聞き流していたが、最後の一人にだけ反応した。
「ファーレンハイト?」
娘は嬉しそうに、頬を染めて頷く。
大人しそうで、初々しさの残る幼い顔。
あいつはこのような女が好みなのか。
部下の秘密を知れた気がして、ふふっ。と笑みがこぼれる。
パウラは少し不機嫌そうに、さっきから扇を揺らしている。
「エルンスト様はどのような女性がお好みなのですか?」
好機到来とばかりに、パウラが身を乗り出した。
「エルンスト様は私がお好みなのです。あなた達がいくら頑張っても無駄よ」
パウラは「ほほっ」羽のついた扇をひらひらと得意げに揺らす。
エルンストはパウラの気の強さにいささか呆れた。
そんな彼女たちを、エルンストは椅子のひじ掛けに頬杖をつきながら眺めていた。
これは女の戦いが始まるか。
見ものだ。
「エルンスト様、本当ですの?パウラ様がお好みなんですの?」
「だから、そう言っているじゃない」
「パウラ様のように気の強い女性がお好みとは知りませんでした」
どちらも負けていない。
「何ですってっ!あなたなど、子供みたい。胸もお尻も小さいわ」
「見たことあるんですか?エルンスト様ぁ、こんなはしたない女性が本当にお好みですのっ?」
最悪だ。喧嘩が始まりそうだった。眉間にしわを寄せて瞳を閉じた。
「ほら、あなたのせいでエルンスト様のご気分が悪くなったわ」
パウラは相手の娘を睨みつけた。
「ああ、うるさいっ」
エルンストは立ち上がると、パウラの腰に手をまわした。
誰でもよかった。たまたまパウラのほうが近くにいただけだ。
しかし、パウラはそうとは知らない。
それ見なさい。とばかりに相手の娘に勝ち誇った顔をする。
「私たちも、どこか静かなところへ・・・」
怪しげな瞳でエルンストを誘う。
ここに、ファーレンハイトがいたら、「とうとうですか?」と笑っていただろう。
*
唖然とする娘たちを残して、二人は夜の茂みを歩いていた。
宮廷内にはあちらこちらに怪しげな茂みがある。
先代の皇帝が逢瀬を楽しむために作らせたらしい。
パウラに手を引かれ、エルンストは庭園奥に足を踏み入れていた。
近くには人工の小川が流れている。そのせせらぎはひそやかな夜を楽しむ二人の声を消すためにあるとか。
この娘、かなりの玉だな。そう思った。
酔った勢いもあったが、フィーアの訳の分からない態度がエルンストの気持ちをパウラに向かわせていた。
「私を自由になさっていいのですよ」
茂みに座ったパウラは体を寄せてくると、エルンストの手を取り、自分の胸元にそっと運ぶ。
フィーアならば絶対にこんなことはしない。そう思った瞬間、エルンストの中で何かが切れた。
抱かれたいのなら、望みを叶えてやる。
パウラを茂みに押し倒すと、乱暴にその胸元を開いた。
首筋に唇を落とし、それを下へと這わす。
パウラの切なそうな声は小川のせせらぎにの飲み込まれた。
サワサワと茂みの葉を揺らす音が、夜の闇を怪しく流れる。
どこかで虫の鳴き声がする。
小川のせせらぎは穏やかに、闇に怪しく動く二人を秘匿していた。
「・・・エルンスト様?」
違う。俺の知っている肌はもっと白くなめらかで、俺の知っている体はもっと柔らかく細い。俺の知っている声はもっと甘く切ない。
「やはり、お前は抱けん」
エルンストはパウラから距離を取った。
驚いたのはパウラだった。
「私ではご不満ですか?私を好みだとおっしゃったではありませんか」
「好み・・・か」
口元を歪ませた。
「お前の顔は嫌いではないが、好みの女ではない」
「意味がわかりませんっ」
パウラの言葉を無視してエルンストは立ち上がる。
「お待ちください!私に恥をかかせるのですかっ」
「もう、娼婦は抱かんと決めたのだ」
そう言い残すとパウラに背を向けて歩きだした。




