蛍の丘 2
「ご主人様が——何でもいいんだけどさ、改革してくれないかなって思ってんのよ」
「改革?」
「そう。あんたをこの屋敷に置いたみたいにさ」
ルイーザはこの国の身分制度に不満があるらしい。
「貴族だろうが、平民だろうが愛し合っていれば結婚したっていいじゃない。ねえ、あんただってそう思うでしょ?」
「う、うんそれはそうよね」
フィーアの肩を掴む手には力がこもっている。
「前にも言ったけど、貴族ったって貧乏な下級貴族よ。平民で商売やってる家のほうがよほど金持ちなんだから」
貴族の肩書があるだけで、平民とは結婚できない。
これでは高い地位もなく、広大な領地もない下級貴族は貧乏から抜け出せない。
僅かな土地で作物を作らせ、羊を飼う。それで収益を得るか、学問に明かるければ、家庭教師も出来る。後はルイーザのように侍女として働くかだ。
男ならば軍人になることも出来るが、一生一兵卒として扱われることも多く戦場で命を落とすのは、下級貴族の子息だと言う。
これではとても貴族の体面など保てない。
貴族の称号など名ばかりだった。
そんな制度にルイーザは真剣に憤りを感じているようだった。
「第一、宮廷になんて呼ばれたことは無いんだから。遠くから憧れて見ているだけよ。そんなだったら、平民の金持ちと結婚して豊に暮らしたい」
もしかしたら。ルイーザは平民の青年と恋をしているのかしら?
「実はね・・・」
小声でルイーザは教えてくれた。
「ギルベルトとっ!?」
「声がおおきいって!」
ギルベルト・アンゲラー。屋敷に酒を納入している酒屋の息子だ。歳は、確か私たちと同じだったと思う。
「どうりで、酒屋さんのお使いにはルイーザが行くと思った」
「えへへ」
頬を染めて笑うルイーザは可愛かった。
「ご主人様があんたと結婚したいと考えたらさ、皇帝に話てくれるんじゃないかな」
「法律の改正ってこと?」
大きくうなずくルイーザ。
「そうね、そうなればいいのだけど」
フィーアの心は一気に沈んだ。
下級貴族と平民の結婚は皇帝のお許しが出るかもしれない。
けれど、上級貴族と奴隷なんて絶対に無理。
何故、幸せは奪われてしまったのだろう。
何故、両親は死ななければならなかったのだろう。
どうして私は奴隷なんだろう。
やはり私はだいそれたことをしてしまった。
後で苦しむのは目に見えていたのに。
たとえ愛し合っていたとしても、終わりは来るのだ。
「階級制度をぶっ壊せるなら、あたしがぶっ壊してやるんだけどさ」
ルイーザが羨ましいと思った。
この同じ年の少女はどうして素直に感情を表に出せるのだろう。
私もそう出来れば、苦しくないのに。
―—だけど、やっぱり奴隷は別・・・かな。
立場が特殊すぎるのだから。
せめて平民だったらまだ違っていたかも。だって堂々と生きられるもの。
フィーアの背中の焼き印が疼く。
「法律を決めるのも、変えるのも結局カーストの一番上なのさ。あたしたちは文句を言うのが関の山」
仕事をするフィーアたちに今日も太陽が照りつける。
人間の愚痴など知らぬとばかりに。




