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36.私の罪はもう一つあったらしい

ピンク色の空気に戸惑いながらも顔を上げた私と、私の顔を見ていたリファイドの視線が絡み合った。


柔らかな笑顔を見せていた彼は、顔を少し真剣な表情へと変えた。


「サナ。これからは、私が貴女を護ります。ですがその為には、私が貴女の側を少しの間、離れなければなりません。私には、どうしてもやらなければならない事があるのです」


「やらなければならない事?」


「はい。直ぐに終わらせて、もう一度貴女を迎えに来ます。ただ……。最近では、急に現れた聖女の事を調べる動きが、彼方此方で報告されています」


「えっ?それって、私の事も?」


「いいえ。今の所、サナの情報は隠してあるので大丈夫です。サナが召喚された者である事は、あの場にいた者達しか知りません。裁判の記録でも、神殿に侵入して来た者と残してあります」


「そうなんですか?!」


「はい……。申し上げ難いのですが、罪状的には王族への不敬と、神殿への不法侵入となっております」


リファイドの言葉に、私はポカーンとしてしまった。


どうやら私は、王子様に暴行を働いただけではなく、神殿に不法侵入したと言う無実の罪まで背負わされているらしい。

仕方が無かったのは分かるけど、それってちょっと酷い……。


「ですが、いつ貴女の事を彼らに知られてしまうか分かりません。私が貴女の側に戻るまでは、絶対に自分が異世界から来たという話だけはしないでください。お願いします」


「……はい。分かりました」


だからリファイドは、みんなから私を遠ざけてから話を聞いたのだ。

知られてしまっては、何か良くない事が起こるのだろう。

詳しく分からないだけに、不安になってしまう。


「怖がらせてしまって、すみません。私が出掛けている間は、サナの事を話してある信頼出来る部下を数人置いていきます。なるべく早く終わらせて戻ってきますので、待っていて下さい」


「はい」


頷きを落とした私を、リファイドがジッと見つめ続けた。

そして、背に回されていたリファイドの片方の手が、私の顔へと移動する。

優しく頬に触れたリファイドの指が、今度は私の唇の輪郭をなぞって行く。


「あ、あの……」


ドギマギしながらなんとか絞り出した声に、リファイドは笑顔を見せた。


「キスをしても、よろしいですか?」


(……はい?)


私は唖然としてしまう。

イケメンさんて言うのは、サラリと凄い事を口にするのですね……。


確かにこの世界は、外国の人達の様に、挨拶などでも気軽にチュッとキスをしている。

その為、キスへのハードルが日本人より低いと言う事は分かっている。


しかし、そっちが良くても、こっちは純粋培養の生粋のジャパニーズ。

そんなの勿論……。


「駄目!!!絶対、駄目!」


即座に私の両手が彼の口を塞いだ。

素晴らしき防衛本能だと、自分を賞賛したい。


驚きを見せた彼だったが、直ぐにその表情を笑顔に変える。


そっと外された私の右手は、彼の手に囚われてしまった。

でも左手はなんとか逃げ出す事に成功。

これで、いつでも彼の口を塞ぎにいける。


警戒をしていた私は、目の前に連れて来られた私の右手をキョトンとしながら見つめた。


「それでは、今日はこれで我慢をします」


目の前で右手の甲に、チュッと落とされたキスに、私の顔は瞬時に真っ赤になった。

そんな私の赤面顔に、リファイドは嬉しそうな笑顔を見せる。


「そんな可愛らしい反応をされますと、何度も試したくなりますね」


「もう駄目!」


私は両手を後ろに隠しながら、後退りして行く。

クスクスと笑ったリファイドは、待機している部下達の方を見た。


「サナ。そろそろ戻りましょう」


真っ赤に熱を持ったままの顔を隠す様に俯いた私は、無言でコクリと頷きを返した。


フワッとした力が広がり、リファイドがかけていたシールドが解けた。

ホッとした顔の部下達がこちらに向かって歩いて来る。


にこやかな笑顔を見せたリファイドは、私の手を取り、彼らの方へと歩いて行った。

立ち止まった彼は、立ち並ぶ部下達を見つめた。


「これからは、サナに対する無礼は、私に対する無礼と同じだと思え。誰がなんと言おうとも、私はサナへの気持ちを変える気はない。私の決断に不満を持つ者は、遠慮はいらない。今直ぐにこの場を立ち去り、城へと帰還せよ」


ザッと鎧が一斉に音を立てた。

リファイドの決断に全て従うと、兵達が胸に手を当てて礼を取っている。


「ありがとう。私も、君達と共にいられる事を嬉しく思う」


凛としたその姿に、私は思わず見惚れてしまった。

人の上に立つ人。

この人は紛れもなく、そう言う人……王子様なのだと強く認識させられた。


リファイドは、隣にいる私に視線を移した。


「そろそろ下に降ります。よろしいですか?」


「はい」


「それでは」


「えっ?」


身を屈めたリファイドに、私は目を見開いた。


再びお姫様抱っこをされた私は、まさか……と言う表情を向ける。

ニッコリと微笑んだリファイドは、フワリと宙に浮いていった。


「しっかり掴まっていて下さいね」


「えっ!嘘……。キャアァァアアアァ!!」


私の大絶叫と共に、下へと下降したリファイドは、静かに着地を済ませた。


ガッチリと彼の首にしがみ付いていた私は、プルプルと震えながら潤んだ瞳を向ける。

私の顔を見たリファイドは、驚き顔をした。


「えっ?どうかしましたか?まだ景色が見たいのなら、また上に戻りますが……」


全然分かっていない天然ボケの王子様に向かって、私は叫んだ。


「降りるのが怖かったの!こんな事なら、ちゃんと階段から降りて来たかった!」


ポロポロと涙が流れ落ちる。

上がるよりも下がる方が滅茶苦茶怖かった。


あれじゃあまるで、紐の付いていないバンジージャンプだ。


リファイドは空中下降に慣れているみたいだけど、初めての私は心の底から物凄く怖かった。


「すみません、サナ」


私を地面に降ろしながら、リファイドは眉を下げた。


謝ったって許してあげません。

プリプリと怒る私と、謝り続けるリファイド。


でもこの事がきっかけとなって、私とリファイドの距離がグンッと縮まった。


怒りの私がリファイドに対して敬語を使わなかった事で、リファイドも私に対してあまり畏まった口調で話す事をしなくなったからだ。


お互いなんとなく、立ち位置の様な物を探り当てた様な、そんな感じだった。



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