37.初めての馬乗り
リファイドの元に、壁の上部から降りて来た騎士達が駆け付けて来た。
それを見た彼は、再び私を見る。
「そろそろ城に行こう」
(城に?なんで?)
疑問には思うが、恐らく私に拒否権は無い。
手を差し出された私は、仕方なく歩み寄って行った。
連れて行かれた先にいたのは、リファイドが乗って来た雪の様に真っ白な、白馬の所だった。
「この子が私の愛馬、ルースタリアです」
馬の近くまで歩いて来た私に、手綱を持ったリファイドが紹介してくれた。
(でっかい……)
ロッチアが乗っていた馬も大きかったけれど、この白馬もとても大きい。
これに乗れと?
……それは無理です!
「あのね。リファイドは先に城に行ってて。私は後から行くから」
「何か用事が?それなら、それが終わるまで待つけれど……」
「いえ、結構です。私は馬車でお城に行きますので!」
私のこの言葉に、リファイドがようやくその意味に気が付いた。
「サナは馬に乗った事がないのか……。でも、それなら大丈夫。私が後ろから支えているから心配はいらないよ」
「貴方の大丈夫は、信用出来ません!」
さっき死に掛けた事は、まだ忘れていないんですからね。
紐無しバンジーの恨みは、根深いんです!
フイッと顔を背けた私に、リファイドは吐息を零した。
「困ったな……。ルースタリア。ちゃんとゆっくり走ると、サナに約束してはくれないか?」
リファイドが話し掛けると、白馬のルースタリアは、ヒンッとひと鳴きして、リファイドに擦り寄った。
(あっ。ちょっと可愛いかも……)
そぉーっと近付いてみた私は、真っ白な馬を見つめてみた。
風に靡く長くて真っ白な鬣と、差し色が全く無い、純白な毛並み。
まるで童話に出て来る王子様が乗っている様な、とても綺麗な馬だった。
まあ、実際乗っているのも王子様だけど……。
あまりの美しさに、ちょっと触ってみたいと言う気持ちが浮かんでくる。
「触っても……平気?」
「うん、大丈夫。ルースタリア。私の大切なサナです。仲良くする様に」
ブルブルッと首を揺らして返事をした白馬に、私は恐る恐る近付いた。
そっと顔に触れてみると、優しそうな瞳が私を見つめていた。
「仲良くしてね」
そう呟くと、なんとなく彼女は瞳で分かったと言ってくれた様な気がした。
「仲良くなって良かった。それでは、行こうか」
「えっ?」
後ろから私を抱き締めたリファイドは、またしてもフワリと宙に浮いた。
馬の上にストンッと降ろされた私は、放心状態のまま静かに座っていた。
チラリと横を確認してみると、地面がかなり下の方に見える。
(馬って、こんなに高いの?)
私の顔が一気に青褪めた。
こんなに地面から高くて、捕まる所が無い不安定な座り心地の馬に乗っていくだなんて、絶対に無理!
「や、やだ!!怖い。降ろして!!!」
「サナ。落ち着いて」
「やだ!本当に怖いの!!」
パニックを起こす私を、リファイドが後ろから優しく抱き締めた。
「私の手は、いつでもサナを包み込める場所にあるから大丈夫。安心していい」
耳元で囁かれたリファイドの優しい声に、私は騒ぐのをやめて、なんとか平常心を取り戻した。
「サナが怖がるので、ゆっくり行こう」
グッと手綱を引いて、馬の向きを変えたリファイドは、軽く馬の腹を蹴りユックリと歩かせ始めた。
彼の右手は手綱だが、左手は私のお腹に固定されている。
片手運転は、車でも危ないと言う事は分かっているが、離されたらと思うと物凄く怖い。
外されない様に、彼の左腕を両手でしっかりと握り締めた。
カッポ、カッポと進む私達の周りには、周りの景色が見えないほどに、騎士の人達が取り囲んでいる。
彼らの乗っているお馬さん達が、ブルブルッと首を振り、早く行こうよ!と言っているかの様だ。
「馬の動きに、だいぶ慣れて来たね」
「そうかな……。まだ少し怖いけど、さっきよりは怖くないかも」
「そう。それなら良かった」
微笑んだリファイドは、周囲を見回した。
周りにいる馬達が、走りたがっている。
「サナ。馬達が走りたがっているので、ゆっくりとした駆け足くらいの速度にしても良いかな?」
ああ、やっぱりそうだったんだ……と、私は納得をする。
なんとなくお馬さん達が不満を持っている事は感じていたからだ。
思いっきり走られるのは怖いけど、ゆっくりとした駆け足くらいだったら良いかな?とか思う。
「うん。分かった……」
「ありがとう!」
スッと離されていく左手に、私はギョッとする。
「えっ?ちょっと、まっ……」
私から離された左手は、手綱を握り締めた。
右手をあげたリファイドは『いくぞ!』の合図を送る。
リファイドの合図を見た側近の男の人が、大きな声をあげた。
「全騎、進め!」
その声と共に、馬達が一斉に走り出した。
私が考えていた、ゆっくりな駆け足と言う速度じゃない。
馬達は、あっという間に、城まで続く真っ直ぐな道を駆け上がって行く。
城へと到着したリファイドは、風を受けた爽快感から、イケメン度増しの満面の笑みで、腕の中にいる私の顔を覗き込んだ。
「どうだったかな、サナ」
気持ちよかったでしょ?と、言わんばかりの言葉だった。
しかし私は、直ぐに顔を上げられなかった。
あまりの恐怖から、ガッチリと馬の鬣を握り締め、必死にしがみついてここまで来た。
何度落ちるかもしれないと、恐怖心を持ったかは分からない。
プルプルと震えた私は、後ろに座るリファイドを振り返り、涙目で睨み付けた。
「嘘吐き!!!!」
私の怒りの声に、また失敗した事に気が付いたリファイドの眉が再び下がった。




