35.王子様が変な事言い出した
私の頬を優しく撫でたリファイドは、柔らかな微笑みを見せた。
「私を受け入れて下さって、ありがとうございます。とても嬉しく思っています」
「はい……。ん?」
なんだろう。
なんか、少し違和感の様なものを感じたが、それがなんなのかが分からない。
気の所為かと、気を取り直して顔を上げてみた。
密着している体は、彼が鎧を着てくれているので、無機質な鉄の感触が恥ずかしさを軽減してくれている。
しかし、このイケメン顔のドアップには、交際歴ゼロの私は耐えられそうにない。
パッと視線を外した私に、リファイドがクスリと笑った。
「恥ずかしがった貴女も、とても可愛らしいです」
(ん?)
なんだろう……。
先程までの緊迫していた謝罪の空気とは、明らかに違う空気が流れ始めている。
しかもその空気を色に例えるとしたら、ピンクっぽい様な……。
「あ、あの……。リファイド……殿下?」
「初めて私の名前を呼んでくれましたね。私の事はリファイドと、呼び捨てで構いません」
「いえ!あの、身分が……違うので」
「私がお慕いしている貴女には、是非名前で呼んで頂きたいのです」
「……ええ?」
お慕いする?
いつからそんな話になったの?
私は、全然聞いていません。
「でも、あの……。私は、不敬を働いた犯罪者ですし……。あの……だから……」
さっきまで散々ボカスカ殴っておいて説得力は全く無いが、取り敢えず、変な事を言い出した王子様を拒否してみた。
「邪紋の件と一緒に、私がサナを思う気持ちまで応援して貰えるとは、思ってもいませんでした。本当に嬉しく思っています」
残念な事に、私の拒否はサラリとかわされてしまった。
突破口を見出す為、私は彼の『私がサナを思う気持ちを応援』と言う発言は、一体なんの事なのだろうかと考えてみる。
応援という言葉は、さっき私がリファイドに言った言葉だと思う。
『貴方のしたい事や気持ちは、分かりました。それならば、私も貴方を応援していきたいです』
リファイドのしたい事、邪紋の根絶。
リファイドの気持ち……。
……えっ?ちょっと待って。
それって、別々な事として取られたって事?
私は、邪紋を無くしたいという気持ちや行動を応援したいって言ったんだけど……。
「あ、あの……。さっきの発言なんですが……」
「はい。ありがとうございます。貴女に受け入れて頂ける様、誠心誠意、努力致します」
破壊力の高いリファイドのキラキラとした笑顔に、口籠って何も言えなくなった私は、タラタラと汗をかいた。
(どうしよう、完全に勘違いされてる)
しかし、対イケメン戦闘力がゼロの私では、やっぱり太刀打ち出来そうにない。
「あの日貴女を見送ってから、一日とて貴女を忘れた日はありません。貴女が涙を流して私を見た顔が、どうしても頭の中から消し去れなかったのです。私が貴女を思う強き思いは、今こうやって、私を貴女の元へと導いてくれました」
……話だけ聞いていると、とても甘い恋の始まりを連想させる。
しかし、思い出してみて欲しい。
その時の私の格好を……。
(えっ?あの、服だけ新品な、クソ汚いボロボロの姿をずっと忘れられなかったって事?)
私は唖然としてしまった。
ヌェイリブさんの家で初めてお風呂に入った時、ここまで泡が黒くなるものなのかと驚いたくらい、私は汚れきっていた。
髪の毛は汚れも酷かったが、ボサボサで絡まっており、まるで鳥の巣の様になっていた。
余りにも酷く絡まり過ぎていたので、若干短く切らないと解けない程だった。
そんな悲惨な状態だった姿を、私はこのイケメンの脳裏に強烈に叩き込んでしまったらしい。
汚過ぎて忘れられなかっただけなんじゃないだろうか……とか思う。
乙女心的にちょっと……いや、かなりのショックを受けた。
「あ、あの……。出来たらその記憶は消し去って下さい。なんか、物凄く汚い格好だったし……」
「私が忘れられないのは、格好ではなく、サナのとても力強い瞳です。どんな宝石よりも、美しい輝きを見せる瞳でした」
力強い瞳……。
なんだろう。
あまり嬉しさを感じない。
なんとなくこの世界では、私の女子力が悉く否定されている様な気がする。
でも一応、これは褒め言葉……なんだよね?
まあ、それなら良いんですけどね……。




