28.突然の豹変
執務室を出た私を、ヌェイリブさんが、丁度書類を置きに行くから、と追いかけて来た。
向かう先は、騎士団の訓練所だ。
ヌェイリブさんが、ロッチアなら訓練所にいると言うので、それを信じて向かっている。
訓練所についた私とヌェイリブさんは、一緒に中を覗き込んだ。
「ほら、あそこにロッチアがいるだろ?」
「あっ!本当だ!」
訓練所の端の方で、仲間達と一緒に話しているロッチアがいた。
なんだか、久しぶりにロッチアを見た気がする。
居場所を当てたヌェイリブさんは、少し自慢げな顔をしながらロッチアを呼んだ。
「おおーい、ロッチア!」
ヌェイリブさんの声に振り向いたロッチアに、私は小さく手を振った。
歩み寄って来たロッチアの視線は、ヌェイリブさんへと向かっていた。
「何?」
「ルッソは、いるか?この書類を見せたいんだが……おっと、あそこにいた」
ヌェイリブさんは、書類を持ってルッソさんの方へと歩いて行った。
それを見送った私は、ロッチアに視線を戻した。
「あのね。マノアさんから、ロッチアの分のお弁当預かって来たの」
「ああ……。ありがとう」
お弁当を受け取ったロッチアは、スッと横を向いてしまう。
いつもと違うロッチアの態度に、私は首を傾げた。
「どうかしたの?」
「……何が?」
「えっ?……なにか変だから」
「別に。いつも通りだけど?」
「……そう?」
いつも通りな感じがしない。
でもあの日から、ロッチアにはずっと会えなかったし、全く思い当たることがなかった。
「……何か怒ってる?」
「だから、別に普通だって言ってんだろ。しつこいんだよ!」
私に背を向けたロッチアは、歩き出そうとした。
「待って!」
慌ててロッチアの腕を掴むと、ロッチアは私の手を乱暴に振り解いた。
「俺に触るな!」
ロッチアの大きな声に、訓練所にいる人達が一斉にこちらを見た。
ヌェイリブさんも、驚いた顔を見せている。
でも、この場にいる誰よりも驚いているのは、私だった。
どうして急に、ロッチアが怒り出したのかが分からない。
「私……何かした?」
「あのさ……。お前はもう一人でも生活できる様になっただろ?これからは、あんまり俺に頼らないでくれ」
「あっ……。ご、ごめ……」
分からない。
なんで急にこんな事になったのかが、全然分からなかった。
でも、一つだけはっきりしている事がある。
それはロッチアが私に対して、嫌な感情を持っているという事だった。
「……もしかして、ずっと私に会わないように、時間をずらしてた?」
「……かもな」
そうだったのかと、私は俯いた。
二週間の間、ヌェイリブさんの家に行っても、お城に薬を売りに来ても、ずっとロッチアにだけ会えなかった。
ただ単に時間が合わないのだと思っていたが、意図的にずらされていたらしい。
私はここまでロッチアに嫌われる存在になってしまっていたのだ。
「ごめんなさい……。もう、迷惑はかけないから……」
踵を返した私は、訓練所から外へと出て行った。
「サナ!」
振り向くと、私の後をヌェイリブさんが追いかけて来ていた。
俯く私に、ヌェイリブさんが優しく声をかける。
「喧嘩でもしたのか?」
「ううん。ただ、私が側に居過ぎたから、ロッチアの迷惑になっていたみたい。ずっと頼りっぱなしだったから、いっぱい迷惑かけちゃったみたいで……」
ポロリと流れた涙を、私は慌てて拭き取った。
「お仕事の邪魔して、ごめんなさい!私は、家に帰るね。今日の馬車、あまり遅くまで運行していないらしいの」
「あ、ああ……。そうか。気をつけて帰るんだぞ」
「うん!」
私は無理矢理笑顔を作って返事を返すと、急いで城の外へと出て行った。
停留所から馬車に乗って、下級層を目指す。
馬車の窓から見える景色が、段々暗くなって見えなくなって行く。
私の瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちた。
いつも応援ありがとうございます。
ジャンルの違う話を書き始めました。
まだ書き始めですが、そちらもよろしくお願い致します。




