18.ロッチアの提案
落ち着きを取り戻したサナは、ロッチアと向かい合ってダイニングのテーブルに座っていた。
マノアさんが作ってくれた料理をつまみながら、回復薬を飲む。涙で赤くなっていた瞼が、スッと元の色に戻って行った。
その効能を見ながら、ロッチアが他の回復薬の瓶を手に取った。
「それじゃあ、サナはこれしか作れないって事だよな?……勿体ねえなぁ。効能は高いのに、不味くて売れないだなんてさ」
「うん……。販売所の人達も、回復薬は足りないくらいだから、頑張って欲しいって応援してくれているんだけど、皆んなが飲める薬をどうやったら作れるのかがどうしても分からないの……」
「うーん。でも作り方は間違っていないんだよな?変更する所が無いなら、味は変わらないと思うんだよな……」
ちゃんと手順通りに作っていても、美味しくない料理しか出来ない人はいる。
サナの場合は、それが回復薬だったと言う事なのだろう。
考えを巡らせていたロッチアは、パッと閃いた。
「そうだ!それなら、このまま売ろうぜ!」
「えっ?このまま?」
「ああ。味が不味いのしか出来ないのなら、最初から不味いって知らせた上で買って貰うんだよ。正規金額とはいかなくても、安くすれば売れるんじゃないか?」
「本当に!?でも、販売所では置けないって言われたよ?」
「あそこは正規品しか売れないからな。となると、あとは路上販売だな。よし、俺に任せておけ!」
「でも、勝手に作った物を売って良いの?販売所の人が怒りそうだし……」
作った回復薬は、販売所に売りに行くと決まっている筈だ。
ヌェイリブさんにもそう言われたし、勝手に売ってしまって良いのだろうか。
「別に個別で売っても問題ないんだぜ。販売所に作り手が持っていくのは、例え売れなかったとしても、持っていった分は全て買い取ってくれるからだ。チョロチョロ売るより、効率が良いだろ?」
「そうなんだ!」
「ああ。ただし、路上販売も楽じゃない。皆んな偽物を警戒して、正規店からじゃないと買わないからな」
「そっか。でも、やれるだけやってみたい!お願い、ロッチア。手伝って!」
「おう!任せとけ」
絶望しかなかったサナの顔に、笑顔が戻った。
思い立ったロッチアは、早速行動に移した。
先ずは、路上販売許可証と、小さな荷車を手に入れる。そして、何枚かの木の板とペンキを購入して来た。
家に戻って来たロッチアは、木の板にペンキでサラサラッと文字を書いて行く。
しかしサナには、その文字が読めなかった。
「なんて書いてあるの?」
「回復薬売ってます。高レベルの効能、低価格。でも不味い!」
「ええ!そんなこと書いてある薬を、買ってくれる人なんているの?」
「いる!下級層の奴は、なるべくお金を節約したい奴らばかりだ。不味かろうが値段が安いなら、こっちを買う奴は絶対にいる。あとは値段をいくらにするかだな」
「うん……」
回復薬を作るには、原価で百七十リェンかかる。
回復薬の買い取り金額は、Bランクで八百リェンでAランクが千四百リェン。
販売所は、これに自分達の手取り分をプラスする。
大体二百リェンから五百リェン、多い所では千リェンをプラスして、販売しているらしい。
サナが作った今ある回復薬はAとBなので、リピーターが買いに来てくれるのは、二週間と一週間に一度だけになる。
家の家賃と、井戸とトイレの使用料、食事費等の生活費に、国に納める税金と、広場の使用料と、薬草や瓶等の仕事に使う用品。
ちょっと考えただけでも、これだけの支出がある。
あまり安すぎると、今度は生活が出来なくなってしまうので、加減が難しい。
取り敢えず、Aランクは千二百リェン、Bランクは六百リェンで売ってみる事にした。
何枚かの看板に文字を書き終わった頃には、日が暮れてしまっていた。
ロッチアは一旦家に帰ったが、また明日になったら仕事を休んで手伝いに来てくれる。
本当に売れるのかどうか心配だけど、昨日までのような、心が押し潰されてしまうかの様な不安は無い。
サナは、看板に可愛い花の絵を描いたりしながら、長い夜を過ごした。
(明日は、薬が売れますように!)
窓の外に見える星空に向かって、祈りを捧げた。




