13.黒の砦の秘密
一息ついた私達は、ダイニングに置いたテーブルに向かい合わせで座った。
「簡単にだが、この街の説明をしておく」
真剣な表情をしたロッチアは、何も知らない私に、この砦の事を教えてくれた。
この砦は黒の砦、別名、死の砦と呼ばれている場所なのだそうだ。
百年ほど前に、突如として見つかった奇病。
その身の内に邪を取り込んでしまった人間が、現れるようになった。
その人の皮膚には黒色の蔓の様な模様が現れ、それは徐々に色と大きさを増して、全身に広がっていく。
その蔓の模様は、宿主の死期が迫って来ると、今度は蕾の模様が現れる。その蕾が花開いたと同時に、その宿主を確実に死へと誘うらしい。
有効的な治療方法は見つかっておらず、またその原因や感染ルート等も全く分かっていない。
人々はそれを邪紋と呼び、感染るのではないかと恐怖心を持つようになった。
そして様々な場所に、邪紋者を隔離する場所を作った。
その一つがこの黒の砦だ。
元々この地を治めていた王族自体が邪紋を発症した為、国ごと隔離されてしまったのだとか。
この世界では、邪紋者は区別の為に、必ず黒い服を着用しなれければならないと決まっている。
「ちょっと待って!それじゃあ、この砦にいる人は全員、邪紋者って事?ロッチアも、マノアさんもって事?」
「ああ……」
返事を返したロッチアは、シャツのボタンを外して、脱いで見せた。
騎士としてとても鍛えられているガッチリとした体。でもその左側の脇腹には、黒色の蔓の模様があった。
「これが邪紋だ。人によって進行速度は違う。俺は赤ん坊の頃から出ていたが、未だこの程度の広がりで済んでいる。体に現れてからどれくらいで死ぬのかは、人によってマチマチだ」
私は息を呑んだ。
健康優良児にしか見えないロッチアが、いつ死ぬか分からない病気にかかっている。
ロッチアだけじゃない。
マノアさんもヌェイリブさんも、この街にいる人全員そうなんだ。
「正直、邪紋が感染る病気なのかどうかは分からない。でもお前は、まだ邪紋が出ていないんだろ?だから、まあ……注意しろよ」
「……うん」
何をどう注意すれば良いのか。
それはロッチアにも分からない事のようだ。
判決が出た時、室内にかなりの響めきが上がったり、迎えに来たロッチア達に、あの城の兵士達が近づきたがらなかったのは、邪紋の所為だった様だ。
「あのさ……。ヌェイリブさんの事なんだけどさ……」
「うん」
「急いで家を出ろみたいな事を言ったけど、怒らないでやって欲しい。あの人はあの人なりに苦しんでの事だったんだ」
そう告げたロッチアは、自分の過去を話してくれた。
ロッチアを産んだばかりのお母さんに邪紋が現れ、二日後にロッチアに邪紋が現れた。
時を同じくして、旦那さんと親友だったヌェイリブさんに邪紋が現れた。
ヌェイリブさんとロッチア達を黒の砦に送りについて来た旦那さんだったが、旅の途中で邪紋が現れてしまい、結局三人は黒の砦で一緒に住む事になった。
ヌェイリブさんは、ここで知り合ったマノアさんと結婚し、五人で仲良く生活をしていたそうだ。
しかし、その五年後。
一番最後に症状が出た筈のロッチアのお父さんが、一番に亡くなった。
もしかしたら、健康だった親友に自分がうつしてしまったのではないかと、ヌェイリブさんはずっと罪の意識に苛まれているらしい。
その後、ロッチアのお母さんが二年後に亡くなり、ロッチアはヌェイリブさんの家の養子になったのだとか。
邪紋が無いサナが、彼の家にいる事への恐怖。
過去のトラウマの影響だった。
「とは言っても、理由はそれだけじゃないんだ。サナは十八歳で成人している。だから……」
ロッチアが説明を続けようとしたその時、街に大きな鐘の音が鳴り響いた。
「またか……」
ロッチアのため息混じりの低い声に、私は不安顔を向ける。
「どうしたの?」
「説明するより、見た方が早い」
そう言うとロッチアは立ち上がって、私を外へと連れ出した。




