19杯目 ちょっとした贅沢と本格的な宅飲みへの決意
「魚は生で食べちゃいけないのにゃ」
「これまでいろいろと美味しかったでござるが、生で食べるのは危険すぎるでござるよ」
「生で食べると体調を崩すことがあるわ。下手したら死んでしまう人もいるのよ」
ちょっとした贅沢気分でマグロの握り寿司を2貫ずつ出してみたらゴロンニャとリンコとグリンナからこんな反応が返ってきた。
何でも美味しいと食べてくれてるけど、安全面でこんなに警戒するとはね。
異世界は調理の技術だけじゃなくて知識も足りないのかな。
とはいっても自分がちゃんと知ってるわけじゃなくて、魚屋さんが生で食べて良いと判断してくれてるのに従ってるだけなんだけどさ。
そういう意味では日本って素晴らしい環境だよね。
贅沢気分を味わいたかったのには理由があるんだ。
日帰りで異世界に行ったことで、日本と異世界を結ぶ不思議な空間がまたレベルアップしたんだって。
これまで空間の中にある自分の部屋には日本から何でも持ち込めるようになってた。みたい。
みたいというのは世の中に存在するものをすべて持ち込んだわけじゃないからね。
だけど自分の部屋から飲み部屋へは酒と料理以外は座布団、ちゃぶ台、布団しか持ち込めてなかったんだ。自分の部屋が出来てからは飲み部屋に布団を敷くことは無くなったけどね。
それがもう少し増えたみたいで、それについてはこれから少しずつ試していくつもり。
他にも異世界から3人が来られる1日の時間が2時間半から3時間に増えたり、小部屋と廊下ができたり、1日の金額設定が変わったりしたんだ。
廊下は異世界からの扉と飲み部屋の間にできた。小部屋はその廊下に繋がっている。
このスペースには異世界からの物を少しは持ち込めるようになったんだって。
日本からみたいに少しずつ持ち込める種類を増やしていくんだって。
飲み部屋には持ち込めないので、もちろん日本にも異世界のものを持っていくことはできない。
ただ、将来3人がこの空間に住むことになったときに困らないように、異世界の物を少しずつ持ち込めるようにしていかなきゃいけないからね。
3人と住む。それを考えるだけでちょっと顔が緩んじゃうなあ。
そして1日の金額。これまでは異世界で1人あたり2万円分の現地のお金をサクラミの指定する方法で支払うと、自分の手元の神様ペイに2000円が入金されるというぼったくり・・・・・・いやいやこの不思議な空間のことを考えたらぼったくりなんて言っちゃいけないけど、それなりに金額差があった。
今回は向こうで1万円分を入れると、こっちには3000円が入金されるようになったみたい。
2万円も支払ってもらってて少しだけうしろめたさがあったんだよね。1万円でもまだ申し訳ない気がするけど。
そして入金されるのが1人3000円、3人で9000円になった。これは大きい。
みんなお酒をだいぶ飲むから酒代で1日に4000~5000円くらいはかかってたからね。それでも物足りなそうにしてたけどさ。
これからは飲み過ぎることも考えて多めにお酒を買ったとしても、1日に3000円くらいは料理に使えちゃうことになる。異世界の3人と女神のサクラミと自分の5人の分が十分にまかなえちゃうぞ。
と思ったけど、そこまで余裕があるわけじゃなかったみたい。
『3人が住むためにお布団が必要ではないですかー』
サクラミの言う通り。ゴロンニャも自分の布団を気に入ってたみたいだし、日本で買ったのを使いたいよね。
『他にも人が増えたらちゃぶ台では小さいですし、冷蔵庫も大きくしないと足りないかもしれませんよー』
「そうなのにゃ。ビールは冷えてるのが美味しいのにゃ」
そうだねえ。もし宅飲みする人数が増えたときのことを考えると、冷蔵庫の容量が足りなくなるだろうね。
飲み部屋に持ち込めるものが増えるなら、ホットプレートとかガスコンロを買ったりするのも良いねな。調理器具もいろいろと試してみようかな。
うーん。そうなるとお金がまだまだ足りないよね。
自分も長く雇ってもらえそうなバイト先を探さなきゃ・・・・・・
『ダメですよー。タクノミさんには他にもやってもらうことがありますからー』
え?他にも?
『これから異世界に行く機会が少しずつ増えると思いますよー』
ああ。異世界には行きたいよね。
でもこの間みたいに日帰りとかだろうし、次に行く時までに何日も間が空くだろうし。
「ダメなのにゃー。タクちゃんは美味しいものを探してくるのにゃー」
「そうでござる。タクノミ殿の用意する料理こそが大事でござる」
「ワタシたちの世界に来ることも多くなるでしょうからね。タクノミはワタシたちの後方支援をお願いしたいわ」
そうなの?
みんなのお金で酒と料理を用意する。そんな生活かあ。
良いのかな?
『これはタクノミさんにしかできないことなんですよー』
そうか。異世界人と宅飲みするなんて自分だけだもんね。
それを望まれてるんだら、とりあえずはそれでやってみますか。
そんなわけで、初めて異世界に行ったり、これから宅飲みをメインに生活していくことを決めたり、異世界から少しずつ物が持ち込めるようになったりいろいろとおめでたいことがあったんだ。
これからの支出が多そうだとはいえ、少しは贅沢気分を味わいたいじゃない。
ということでマグロの寿司。
回転寿司屋のキャンペーンで立派そうな中トロが1貫100円っていうからさ。
一人2貫ずつテイクアウトしてきたの。さすがにつまみすべてを寿司にするような贅沢はまだできないからね。気持ちだよ、気持ち。
でも3人とも美味しいかどうか以前に食べ物として認識してくれないんだよなあ。
そんな空気を変えてくれたのがサクラミだった。美味しいものを食べたときのいつもの早口食リポ。
『全く生臭くないです。むしろ魚の旨味がぶわわわわわっと広がります。そしてこの米とも凄く合います。ただの米ではなくて少し酸味と甘みがあって、それがしっかりと魚の旨味と合わさります。そこにこの醤油です。抜群の相性です。口の中で美味しさが集結したと思ったら、ほろほろとすべてが優しくほどけていきますよー。2つしか無いのが残念過ぎますー。食べないのでしたらぜひいただきたいですよー』
それを聞いた3人とも寿司の乗った皿を自分の身体へ引き寄せて取られないようにしてるよ。
表情まで同じ。眉間にしわが寄ってるのに目は輝いてるんだよねー。食べるのまで同時にパクッ。
「美味しいのにゃ美味しいのにゃ美味しいのにゃ。これは贅沢な味がするのにゃ」
「心の底から喜びを感じる味でござるよ。凄く口に合うでござる」
「こんなに生の魚が美味しいなんて驚きだわ。この小さな1つが料理として完成されているわね」
そうだよね。美味しいよね。贅沢をした気分になるよね。
「やっぱりタクノミに後方支援して欲しいわ」
「そんな難しそうなこと自分にはできないんじゃ」
「もうできてるわ。くつろげる空間、美味しい料理とお酒。それだけで十分よ。今回だってワタシたちでは魚を生で食べるなんて絶対に思いつかなかったわ」
「自分の世界で当たり前だっただけだよ。安全に食べられるように調理してるから、グリンナたちの世界ではやらないほうが良いよ」
「それが凄いのよ。ワタシたちでは思いもつかないことをタクノミはやっているのよ」
うーん。日本の食糧事情がありがたいだけなんだけどね。
でもまあ、それが役に立ってるというのならしっかりとやっていきますか。
これからの自分は宅飲み中心の生活だ!
お金は神様ペイだけを頼りにする。美味いもんを用意するだけじゃなくて飲み部屋を充実させつつ、異世界にも少しずつ足を運んでいくぞ。
そのためにはこれから必要になるものと金額を考えなきゃね。
『そうですよー。ここに住む人も増えますからねー』
え?増えるってどういうこと?
たまに宅飲みする人が増えたりするんじゃなくて住む人?
『彼女たちのパーティーは5人ですからねー。あと2人いますよー』
え?そうなの?
「そうなのにゃ。今は5人なのにゃ。2人はまだソロで活動してるのにゃ」
「半年前までは7人でござったよ。2人抜けて5人になったでござる」
「パーティーの構成が変わることもあって、ソロ活動をしながら新体制にしてるところなのよ」
いろいろと情報が出てきて頭が追い付かないよ。
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