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第74話 巨悪の影②

 挿絵(By みてみん)

女湯◯◯◯◯事件。

津島は気絶した加藤先輩のポケットから、透明な液体の入った小瓶を取り出した。


「桃源郷の媚薬だ…」


「これが、ですか…?」


無色透明のその液体は、水の様にしか見えない。


「そうだ。無味無臭。何に混ぜても気付かれないのが特徴だ。で、この男の勤め先は?」


「えーと…あ!松本電機です!ここちゃ…枡田さんが探っていた、媚薬の出所です!」


「…なるほど。しかしエルヴィンといい、この男を操った者といい…悪人どもは大企業がお好きと見える。東雲さんも清光商会だろう?気をつけたまえ」


「はぁ…」

女神フォンがあれば、最低限転移者だけは判断がつくが…どう気をつければ良いものか。


津島は、俺がまやかしの外法にかかっていた時にも飲ませた薬を加藤先輩に飲ませた。

すると、何度か咳き込んだ後、加藤先輩は正気になって目を覚ましたので、拘束を解いた。


敵は用心深く、加藤先輩には操られる前の記憶は無く、代わりに操られていた間の自分の行動のみを覚えていた。警察への対策だろう。


「あの…俺、あなたが…後輩が性転換した姿だって教えられて…なぜかそれを信じ込んでて…襲う様に言われてたみたいで…でも、ほんとはそんな事するつもりなんて…」


「君は洗脳されていたんだよ。大丈夫、罪には問わん」津島が加藤先輩をなだめる。


「…ありがとうございます…俺、その、洗脳されてたこと、本当に…何も覚えて…ないんです…」


加藤先輩は半分寝ている様なふわふわとした喋り方をしている。


「あの、信じられないかもしれないんですけど…加藤先輩。俺が本当に忍です」


「…マジで!?」加藤先輩は急に目覚めた。


「はい」


「えっ?嘘…?忍?ほんとに?じゃ、じゃあ…忍の初恋の人は!?」


「雪島葵先輩」


「…じゃあ葵ちゃんが書いてた小説のタイトルは!?」


「『青の世界より』です」


「…いや、まだだ!忍がアンタに色々教えたのかも知れん!忍と俺しか知らない、しかも恥ずかしくてアンタみたいな美人に教えられないはずの、あの事件の事は知らないだろう!」


「うっ…」

嫌な話を言わせようとするなぁ…だが仕方ない!


「…どうなんだ…?」


「…お、女湯チン出し事件…」


「マジか…」加藤先輩は愕然としている。


「信じてもらえました?」


「ああ…忍、おまえどうしちゃったんだよ…」


「話せば長くなります。今度ゆっくり話しましょう。俺たちは加藤先輩が知っている事を知りたいんです」



加藤先輩から聞いた話によると、松本電機では今、空前の社内恋愛ブームが巻き起こっているらしい。年齢、性別、パートナーの有無すら関係なく恋愛しており、異様な状況になっているとの事。


愛妻家の加藤先輩は不倫や浮気など考えるはずもなく、妙に魅力的な女子社員達からの誘惑にも耐えていた。


そこへ、セキュリティ管理部門から身に覚えの無い件で呼び出しがあり、気づけば今の状態になっていたそうだ。


「その部署の人間で間違いないな…」津島は眉間にしわを寄せる。


「ええ。でもなんで俺を?」


「やはり東雲さん、狙いは君の身体に溜まっている魔力だろう。媚薬は…分からん。別件かもしれん」


魔力…エルヴィンも、それが狙いだった。


何が起きているのか、確かめなければならない。


「なぁ、忍。よくわかんないけど…また誰かのためにそんな姿になったんじゃないか?」


加藤先輩は心配そうな顔を俺に向けた。


たしかに、俺はこどもを助けて死に、今の姿になった。俺にしてはいい死に様だったと思う。


「いえ…成り行きです」


「…あれから連絡がつかなくて心配してたんだぞ…」


加藤先輩は俺の両肩に手を置いて俯いた。床に、涙が落ちる。


「先輩…」


「忍…お前さ…」

涙目のまま顔を上げた先輩は、ひどく、深刻な顔をしていた。

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