第51話 命がけの商談③
営業に来たはずの俺は、謎のバトル展開に巻き込まれていた。
そして、等々力が転生者で、作田が転生者あるいは転移者ということがわかった。
ド派手な衣装の司会者が場を仕切っている。
「さぁて、今回の対戦方式は…コレだ!」
巨大モニターが点灯し、文字を映し出す。
「魂を燃やせ!肉体強化バトル」
…は?
「よし。コレならば勝てるな!」等々力はポキポキと指を鳴らした。
「あの、課長…」
「俺が出る。任せてくれ」
「は、はぁ…」
「第1試合!国府津事務機VS清光商会!代表者はどうぞ前へ!」
司会者の大げさな動きはどんどんエスカレートしていく。
等々力がリングに登った。
相手の選手?はヒョロヒョロの男だ。殴り合いなら勝てる…だろう。
「いや、そうじゃなくて!なんなんですかコレェ!」
「清光の新人さん?」
俺の横に、スーツ姿の中年男性が立っていた。紳士然とした落ち着きのある男だった。
「あ、いえ…新人ではないんです、けど…この場は初めてです」
「なるほどね…」紳士はふっと微笑んだ。
「肉体強化はね…天衣社がこのイベントを始める前から分かっていた、転生者の持つ力の一つだ。そろそろ始まるから、彼らをごらん」紳士はリングを指差した。
「さあ、肉体強化バトルはご存知の通り、肉体強化の力を使って肉弾戦を行う本気の格闘戦だ!労災は出ないから怪我する前にギブアップ!では…試合開始!」
司会者がそう言うと、等々力と相手の男は大きく息を吸い込んだ。
ヒョロヒョロだった男が、等々力と同じ…いや、それ以上の肉体へと変貌していく!
「えぇ…?アリかよ…」つい口に出してしまった。
「お嬢さんは魔法の世界のご出身かな?」
「あ、いえ…科学文明的な…?」
この世界です、とは言えずごまかした。
「ふむ…では分かりづらいだろう。あれはな、魂をエンジンにして肉体強化をする術だ。外法と呼ばれるものに似ているな」
おい女神!ガバガバじゃないか!魔法が使えないから大丈夫って言っておいてコレだよ!魔法の無い世界でも結局、なんでもありじゃないか!
「…お嬢さん、すごいしかめ面をしてるが…大丈夫かね…」
「あ、いえ…」
大丈夫じゃないよ!何もかもが!なんだよこの展開!
「ま、そんなわけで彼らはその術を使って肉体強化し、戦うのだが…君の上司は少し強化が足りていない様に見えるな…」
リングを見ると、相手の異様なムキムキさ加減に比べて等々力のサイズは変わらない様に見える。たしか、この世界では外法を使うと魂を使い過ぎると喜多嶋が言っていた。魂を温存しているのだろうか。
「ウォアアアアアアア!」筋肉モンスターと化した相手が等々力に迫る!
そして、そのまま等々力の前で倒れた。
「え?」
「試合終了!清光商会の勝利です!」
会場がザワつく。勝負は一瞬で片付いた。
「これは驚いた…」
解説紳士、もったいぶらないで言え。
「君の上司は力ではなくスピードを強化していた様だ。おそらく彼は仙人が存在する世界からの転生者だ」
「仙人…」
えーと…魔導師、騎士、外法師、それに加えて仙人…!?
もはや異世界モノの見本市だ。
そのうち陰陽師とスペースヒーローと吸血鬼が出て来るな。
「終わったよ」等々力が戻って来た。
「課長、仙人だったんですか…?」
「ああ。そうだ。俺は仙人の住む世界にいて、仙術を使っていた。今の術は魂の力をほんの少ししか使わないから便利なんだ」等々力はさわやかな笑顔を見せる。
もう勘弁してくれ…転移者が仙人だったら絶対捕まらないじゃないか…ナターリャのやつ…帰ったら色々聞き出してやる!
「さぁ!圧倒的強さを見せた大企業、清光商会!次の試合も大企業だ!第2試合開始!」
「田所…!?」試合が始まった瞬間、等々力は絶句した。




