第19話 転移者がいる!①
「戻りましたァ!」
勢いよく扉が開き、若い男が入ってきた。
「お疲れ」
等々力は男に声をかけた。3課の社員のようだ。男は俺の顔を見ながら近づいてくる。そして営業スマイルになった。
「いらっしゃいませ。等々力の部下の栗田と申します」
栗田は俺に名刺を差し出した。
「栗田。お客様じゃない。東雲だ」
「…え!?しのぶさんッスか!?」
いきなり態度が砕けた。
「はい…」
「めっちゃ可愛いじゃないっスか!なんだったんスかあの顔?特殊メイク!?」
待て待て!しのぶは営業のクセにどんな化粧をしてたんだよ!
「そ、そんなにひどかったの…?私…」聞いてみたい。
「ひどいっつーか別人っスよ!てか、記憶喪失ってマジだったんスね!えーと…ほら!」
栗田が差し出したスマホの画面には、長い髪を縦に巻き、風でも起こせそうなまつ毛、バキバキにコントラストを出した鼻筋、真っ赤な口紅…だが、それでも美人に見える女が写っていた。ただ、営業向けではないな…。ちなみにワイシャツの胸元からは谷間が見え、スカートは極端に短かった。
「これは…なかなか…」なかなかヤバい。なんでこんな感じだったんだよしのぶ。
「いや、マジで今の方がいいっス!でも服装は前の方が…」俺もこれが自分じゃなきゃそう思う。こんなエロいお姉さんが職場にいたら頑張れる気がする。
「栗田!」等々力が栗田を一喝する。
「あ、はい。すいません」
栗田は即座に俺に謝った。なんだか俺も怒られた気分になる。
「すまんな東雲。ハラスメントの研修を受けたばかりなのにコレだ。気をつけろ栗田」
「はい、すんません…あ、改めまして俺、栗田源蔵って言います!しのぶさんとは同期の仲です!2コ下です!ちなみにしのぶさんには源ちゃんって呼ばれてました!思い出しました?」
「いえ、全く…渋い名前ですね」
「よく言われるっス!」元気が有り余ってるな。
「ああ、田野島とサクさんもそろそろ戻るから改めてミーティング…というか東雲への自己紹介をしてもらわなきゃな。栗田、3課の上期事業計画を人数分、印刷しておいてくれるか」
タノシマとサクさんという人が居て、梅木さん…って人は研修だったな。それで全員か。小さな部署の様だ。
「うっス」
栗田は自分のデスクに向かった。
「さて、2人が戻る前に提案書を仕上げてしまうか。社内サーバに…」
俺は等々力のレクチャーを受け、提案書を作った。ほとんど完成済みの物に多少手を加えるだけの簡単な作業。
しかし内容はお粗末で、こんなものでモノが売れるのだろうかと不安になる。今度、手直ししておこう…さて、次は…
「戻りましたぁ」
アニメキャラクターの様なふわふわした声と喋り方の女と、総白髪の男性が入ってきた。
「お疲れ」等々力が答える。
「…ん?あんたは…喫煙所でむせてた姉ちゃんじゃないか。東雲だったのか」白髪の男性が俺に声をかける。俺がしのぶだとわかったらしい。
「えっ?そ、そうでしたか?」俺はとぼけた。
「え?しのぶさん!?えー!?私、前の方がいいと思いますぅ」女はヘラヘラしているが、目が笑っていない。
「たのまりちゃん、マジで言ってんの!?今の方がいいじゃん!」栗田が否定する。タノマリと呼ばれているらしい。
「皆、いっぺんに話すな。東雲は記憶喪失で大変なんだ。ミーティングルームで1人ずつ、改めて自己紹介だ」等々力がまとめた。
皆、ミーティングルームに移動していった。
そういえば女神フォンを見ていなかった。俺は女神フォンの表示を見た。
「転移者が近くにいます」




